今回は、株式会社マネーフォワードのプロダクトマネージャーである辻さん(@shuhei_sfc)にお話を伺いました。
辻さんは学生時代から認知症の研究に取り組まれており、マネーフォワード入社後も社会課題の解決のために認知症と金融行動の変化などを研究され、社内で特許につながる発明の発明者、発明発掘の模範となったメンバーに送られる賞に選ばれるような成果を残されました。その後、研究が一区切りついたことをきっかけに、プロダクトマネージャーに転身され、顧客の課題解決を目指してB2Bの新規プロダクトを担当されています。
コロナ禍でのいいチームづくりやチームがいい仕事をできるようにサポートするためのマイルールなど、参考になること間違いなしです!
この記事は100人100色のプロダクトマネージャーのリアルを知るためのインタビュー記事「PdM Voice」の連載第15回目の記事です。
このインタビュー記事は、音声で聞くこともできます!(β版)
目次
マネーフォワードでB2B新規プロダクトのPdM
Q. まずはご自身の仕事について教えてください。
株式会社マネーフォワードで、「マネーフォワード クラウド人事管理」というB2Bの新規プロダクトのプロダクトマネージャーをしています。
IR資料にも公開されているのですが、今年のリリースを予定しています。
人事労務領域の人事管理というカテゴリに属しているサービスで、従業員情報とか人事異動の情報を一元管理するようなプロダクトです。
例えば、従業員の方が入社や退職に伴って自身の情報を申請することや、組織改編や人事異動などの手続きの情報を収集して、マネーフォワードの他のプロダクトに連携することによって、人事労務業務を一元管理して効率化できるようなプロダクトを作っています。
Q. ドメイン知識はプロダクトマネージャーを担当する前からあったのでしょうか?
学生時代のインターン時代は「マネーフォワード クラウド給与」のエンジニアをしており、給与計算業務のドメイン知識は少し身に付いた状態ではありましたが、「マネーフォワード クラウド人事管理」のプロダクトマネージャーを担当するにあたってはアサインされてから身に付けました。
Q. 新卒2年目でプロダクトマネージャーへ抜擢されたことは社内でも珍しいことだと思いますが、他にどのようなキャリアの方がいらっしゃいますか?
たしかにこのキャリアでプロダクトマネージャーを担当している方は少ないかもしれないですね。
人事労務領域の他のプロダクトマネージャーの方は、30代半ばと新卒3年目が担当しています。
また、バックグラウンドは様々で、前職で給与計算システムを開発されていたエンジニアやセールス出身、カスタマーサポート出身のメンバーがいます。
Q. 様々なバックグラウンドの方がいらっしゃる中で、どんな選定基準でプロダクトマネージャーが選ばれていると思いますか?
社内に「User Focus」というマネーフォワードが社会に約束する行動指針(Value)がありまして、「いかに、ユーザを見つめ続け、本質的な課題を理解し、ユーザの期待値を超えたプロダクトを出せるか」が大切にされています。
僕も開発をしている時に、営業同行をして実際にプロダクトを使っているところを見せてもらったりするなどしましたが、「ユーザー視点をいかに持てているか」が重視されていると思います。
ミッションは「User Focus」で常にユーザーと向き合う
Q. 今の会社でのPdMのミッションを教えてください。
一言でいうと、「User Focus」です。
「いかなる制約があっても、常にユーザーを見続けて、本質的な課題を理解して、ユーザーの想像を超えたソリューションを提供します。」というのが、User Focusの解説になりますが、まさにその通りだなと思っています。
1にユーザー、2にユーザー、3にユーザー、じゃないですけど(笑)、常にユーザーと向き合いながらやっていくことが、PdMの1番大事なところだと考えていて、ユーザー目線でチームをサポートすることが求められていることだと思っています。
Q. 実際、どんな風にユーザーに向き合われているのでしょうか?
ユーザーの解像度を上げることを大事にしていて、実際にヒアリングに行ったり、カスタマーサクセスやセールスメンバーとコミュニケーションしながら解像度を上げていったりしています。解像度がどれだけ高いのかというのは、プロダクトにも反映してくると考えています。
新規プロダクトのリリースに向けて、開発チームをはじめセールス・マーケ組織を巻き込む
Q. プロダクトマネジメントトライアングルを元に、具体的な業務範囲を教えてください。
冒頭で申し上げた通り、新規プロダクトをリリースに向けて開発を進めているフェーズとなるため、プロダクト仕様の策定や採用などの社内外調整、セールスとの調整などのプロジェクトマネジメント、デザイナーと連携してラフデザインのブラッシュアップなどは行っていますが、パートナーシップやビジネスディベロップメント、データ分析、カスタマサポートはまだ行っていません。
最近、プロダクト目線でマーケチームと会話を始めており、資料作成のサポートをしています。
Q. プロジェクトマネジメントの対象にエンジニアの開発進捗管理などは含まれていないのでしょうか?
仕様書を書いてエンジニアに説明することは私が行っていますが、スクラム開発を採用しており、エンジニアの開発進捗管理などはスクラムマスターが担っている状態となります。
スクラムマスターに、1スプリントでどのくらいのストーリーポイントを消化できたかなどを共有してもらい、リソース調整が必要であるとか、スコープを変更する必要があるとか、リリーススケジュールを変更する必要があるといった感じで、私が意思決定するようにしています。
Q. マーケチームの資料作成をサポートされているというお話がありましたが、目的とどのような資料を作成されているのか概要を教えていただけますでしょうか?
プロダクトを出すにあたって、ポジショニングとメッセージなどを整理して、社内に伝えて浸透させていく目的で準備しています。
「そもそも誰が使うんでしたっけ?」「競合と何が違うんでしたっけ?」「このプロダクトを使えば、何ができるんでしたっけ?」などの質問に対して答える資料を作成しています。合わせて、社内の勉強会を開いていたりします。
得意なことは「多角的な意思決定」と「課題発見してやり切ること」
Q. プロダクトマネジメントを行う上で得意なことは何ですか?
1つ目は、多角的に考えて意思決定することです。
色々なメンバーの意見や考えを聞いて、頭の中で展開して、メリット・デメリットを考えて最適解を導く力や、それを丁寧にコミュニケーションして周囲の同意を得るといったところが優れていると、上司にフィードバックいただきました。
僕も日頃から色々な判断軸を持ってメリット・デメリットを考えるように意識しているので、自分でも得意だったりするのかな、と思います。
2つ目は、課題発見して、何としても取り組むことです。
マネーフォワードで入社3ヶ月程度で特許の出願をしたことがあったのですが、それが社内の「INVENTION AWARDS」という賞に選ばれました。
第1回ということもあり、2012年に創業して以来、特許につながる発明の発明者、発明発掘の模範となったメンバーに送られる賞なので、自分の自信につながりました。
この特許に関しても、自分の得意な「社会課題の発見」が活かせたのではないかと思っています。
認知症の課題に取り組んだのですが、認知症という課題を、「これは病なのだろうか」という自分の問いから考えて、初めは病理観点で認知症という課題を捉えていたのですが、そこから当時、自分の研究分野だった自然言語処理など言語と結びつけたり、金融行動と紐付けたりし、様々な観点で社会課題の解決に取り組みました。
課題を発見して、そこにどんな手段でもアプローチしながら取り組むことが、自分の強みなのではないかと思います。
チームがいい仕事をし続けられるようにサポートするためのマイルール
Q. 行動指針や大切にしているマイルールはありますか?
行動指針としては、「User Focus」が絶対的なものとなっています。
迷った時は常にユーザーに立ち返るようにしています。
マイルールとして、「細くあれこれ指示しない」ようにしています。
自分が思う優れたPdMというのは、優秀なエンジニアやデザイナーが最高の仕事ができるようにサポートすることがメインだと思っています。
よく、優秀なエンジニアとそうではないエンジニアの生産性には10倍の開きがあると言われますが、PdMも同じで、チームの生産性が10倍くらい変わるんだろうなと思っていて、僕は10倍×10倍でチームが100倍の生産性を出すことを目指しているので、チームがいい仕事をし続けられるようにサポートすることを大事にしています。
Q. 「チームを牽引する」といった表現もできるかと思いますが、「サポート」の表現に込められた思いや意図はありますでしょうか?
なぜ、「牽引する」と使わないかと言うと、僕の実体験が影響しています。
PdMになった当初に、周囲の方に対して、「なぜこれが分からないんだろう?」「なぜこれが伝わらないんだろう?」と思ったことがあり、すぐにはどうすれば良いか分かりませんでした。
悩んだ末に、能力がないからできないのではなくて、単純に必要な要素を伝えられてなかったり、会話できてないだけかもしれないな、と考えるようになりました。また、できないんじゃなくて、できるように自分がサポートしていない自分が悪いんだと自責になった瞬間がありました。その瞬間に、サポートと言うワードが腑に落ちた、といった感じです。
コロナ禍でもいいチームを作るために取り組んだ2つのこと
Q. 業務上関わる人たちといいチームをつくるために取り組まれていることはありますか?
フェーズによって色々やっていたりしますが、常にいいチームや組織がどういうものかをチームで議論するようにしています。
PdMになって3ヶ月くらいでコロナ禍の状況となってしまったのですが、フルリモートでのオンラインに移行する前に、チームに対して2点だけ意識してやっていきたいと伝えました。
1点目は、目標をチームで明確化していて、なぜやるのか、何をやっているのか、ということをチーム全体で分かっている状況を作ることです。
なぜこのプロダクトをやるのかというミッションをチームに浸透させることに取り組みました。耳にタコができるまで伝えることや、チームで議論するなどして、「ミッションから判断してこの機能本当にやるべきなんだっけ?」とチームから発言が出るレベルまで浸透を図りました。
2点目は、お互いの相互理解や心理的安全性があって、初めてチームとして効果的な連携やパフォーマンスが高い状態が生まれると思うので、そこを高い状態にすることです。
自分たちだけでやるのではなく、人事を巻き込んで取り組みました。FFS理論(Five Factors & Stress)という個性を科学で理解する理論を活用して、メンバーそれぞれのタイプを診断し、このタイプの人はこのような考え方をしているとか、このタイプの人とはどういうコミュニケーションをすべきであるとか、こんな前提や思い込みがあったりするんだよね、といったようなことをみんなで勉強しました。また、オンラインでみんなでランチを食べたり、新卒のメンバーとは1on1を意図的に増やすなどもしました。
Q. なぜこの2つの点を実行しようと思われたのでしょうか?
元々、研究所では研究タスクに1人で取り組むことが多かったので、チームを機能させていくということが理解できていませんでした。PdMとして働くことになった際に、本屋へ行きチームの理論に関する本を10冊くらい買ってきて、一通り読んで理解した上で、ソフトウェアの開発を前提に今のフェーズで必要なことを判断しました。
また人事の方にも相談を行い、この2点をまず押さえられれば、チームのリモート環境を乗り越えられるのではないかと思い決定しました。
要求・要件・仕様の紐付きを意識ながら樹形図で整理して企画
Q. 企画はどのようなプロセスで実施されてますでしょうか?
要求、要件、仕様の3段階で捉えていますが、それぞれ以下の通り定義しています。
要求:ユーザーが何をしたいか。
要件:ユーザ要求を実現するための条件が、「要件」に該当。
仕様:要件を満たすための詳細な条件として、「仕様」を整理。リソースとの兼ね合いで「仕様」を決定。
顧客へのヒアリングやユーザーストーリーマッピング、カスタマージャーニマップなどでの整理を行い、要求や要件を洗い出すプロセスをとっていますが、現在担当しているプロダクトにおいては、10社以上の企業へヒアリングをして要求、要件を整理しています。
また、そこから仕様を作るのですが、最近は樹形図で整理することが多いです。要求、要件に紐付く形で仕様を洗い出すことができ、論理展開の飛躍などを未然に防ぐことができることから重宝しています。
その後、デザイナーにラフなデザインを作ってもらい、テックリードや設計できるエンジニアに共有して、実装を考慮した方針を調整しながら、それに基いてラフデザインを修正するような流れです。
最終的には、開発メンバー全体に共有して様々な観点でフィードバックをもらい、画面をフィックスします。
そこで新しくコンポーネントが出てきた場合は、デザイナーに本番用のデザインを制作してもらい、開発に進むこととなります。
共通点は課題解決、認知症の研究からPdMに転向というキャリア
Q. どのようなキャリアパスでPdMになったのでしょう?
大学2年生から1年間くらいインターンで「マネーフォワード クラウド給与」のサーバーサイドエンジニアとして開発を行っていました。
その後、マネーフォワードを一度離れ、認知症の研究を大学でやり始めました。
自分がなんとかできないかと思い研究をしていたのですが、マネーフォワードでその研究を応用してできるのではないかということになり、
新卒で「マネーフォワード Fintech 研究所」に入り、認知症と金融行動の変化を研究していました。
データ分析やサーバーサイドの実証実験、顧客ヒアリング、ドメイン知識のインプットなど様々なことをやりました。
その研究がひと段落つきまして、「マネーフォワード クラウド人事管理」のプロダクトマネージャーにアサインされました。
Q. プロダクトマネージャーへ転向してみて、心境はいかがでしょうか?
自分の中でも研究からB2Bのプロダクトマネージャーへの転身にあたって、「どうなるのかな」「上手くいかないんじゃないか。」という不安はありました。
ただ、実際にやってみると、顧客の課題や社会課題をヒアリングし勉強して、自分の中に落とし込んで向き合っていくと楽しくなってきています。
Q. 辻さんの中で社会や顧客などの課題を解決していくことが働くモチベーションの源泉になっているのだと思いますが、現在担当されているプロダクトが向き合う課題は何でしょうか?
2点あります。
1点目は、まだまだ労務領域では、紙での手作業が多く、労務担当者や従業員の方が煩雑な作業で困っているという点です。
2点目は、既にプロダクトを利用している企業でも、入社や人事異動の度にそれら複数のプロダクトに従業員・組織図情報を更新する必要があるという点です。これらは煩雑な作業であり、更新する上で人的ミスが発生しやすいというペインがあります。
上記2点をシステムで解決できないかと考えています。
PdMをやりながら2つのことに挑戦
Q. 今、挑戦していることはありますか?
①グローバルチームにしていきたい
チームにベトナムのエンジニアの方が複数名いるのですが、開発のコミュニケーションがどうしたら伝わるのか?など試行錯誤しており、グローバルでチームを作れるようになることに挑戦しています。
②PdMを育成したい
GoogleやFacebookなどのアソシエイトプロダクトマネージャー制度を参考にして、やりたいと思っています。
弊社でも新規プロダクトが次々と出ている状況ですが、なかなかPdMの採用は難しい状況にあるので、若手社員のPdM育成に貢献出来ないか検討しています。
4冊のオススメの本、特にジョブ理論は必読書
Q. かけだしPdMに向けて「まずはこの本を読むべし」というオススメの本はありますか?
必読書からですが、「INSPIRED」と「ジョブ理論」です。
本を配るくらい、まず読んで欲しいと思っています。
ジョブ理論は特にお気に入りで、チームメンバーにも自分の本を貸して読んでもらいました。
顧客が何を解決したくてここに来ているのか、ジョブは何かということは実務の中で意識しています。
その他にも2冊あり、
1冊目は、「いい戦略、悪い戦略」です。
普段、あまり戦略に関する本を読まないのですが、弊社の執行役員からオススメされて読んでみたのですが、戦略の考え方について勉強になりました。
本当にその戦略は正しいのだろうか?と自問するきっかけを与えてくれた本です。
YAMAP土岐さんがプロダクトマネージャーカンファレンスでこの本を読んで意思決定していると紹介されていた本ですが、読み物としても面白いです。
かけだしPdMへ「若手でも関係ない、自分の思いを持ってプロダクトを進めることが大事!」
Q. この記事を読んでいるかけだしPdMへ一言お願いします!
世の中には色んなPdMがいますが、自分の思想や考えをフルに活かしてPdMの道を進むべきだと思います!
若手でも関係ないと思うので、自分の思いを持ってプロダクトを進めていくことが大事です。
日本でPdMが発展していくことにワクワクしていますが、今後も色んな若手のPdMが出てきて、日本のプロダクトが良くなってくると、面白い世界になるんだろうなと思っています。
最後に
辻さんのお話はいかがでしたか?
インタビューしていて、新卒2年目とは全く思えないほどの視座の高さ、視野の広さに驚きの連続でした。
認知症の研究をされていた頃からPdMとなった現在においても、発見した課題をなんとしても解決しようと、学びながら新しい挑戦を行っていく姿に刺激を与えられた方も多いのではないでしょうか?
また、チームへの向き合い方で「チームを牽引する」ではなく、チームがいい仕事をし続けられるように「サポートする」という表現をあえて使用されていた点は、辻さんの人となりが分かる素敵なお話でした。
どのような言葉を使って表現するか、ということは大事ですね。
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