「ナラティブの溝に橋をかける」技術から人につなげる圧倒的ビジュアライズ

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YAMAP土岐さんメイン画像

今回は、株式会社YAMAPでPdMをされている土岐さんにお話を伺いました。

土岐さんは音楽雑誌の編集からSIerのプログラマに転職し、その後株式会社アプレッソ・セゾン情報システムズでエンジニアリングマネージャーを経て、現在はYAMAPのPdMをされています。

ストーリーで語ることを大切にされている土岐さんですが、そのための独自のビジュアライズや工夫は必見です。是非ご覧ください!

この記事は100人100色のプロダクトマネージャー(PdM)のリアルを知るためのインタビュー記事「PdM Voice」の連載第8回目の記事です。
(文章:竹村 淳(@juntakemura_pdm))

登山アプリYAMAPのPdM

Q.まずはご自身のお仕事について教えてください

登山アプリ・プラットフォームを作っているYAMAPでPdMをしています。

YAMAPは登山記録、登山関係のECなど、登山に関する様々なサービスを展開していますが、はじめは山の中で現在地が把握できるGPSアプリとしてスタートしました。

GPS機能を使うと、位置情報の記録がログとしてためることができるため、登山記録の機能が追加され、次にその登山記録に対し写真を追加したりコメントをつけたり、というソーシャル・プラットフォームとして成長してきました。

現在では、登山保険を提供したりECを運用したりと登山全般に支えるサービス・プラットフォームなりつつあります。

現在このジャンルでは国内ではダウンロード数No.1のアプリです。

Q.どのようなキャリアパスでPdMになったのでしょう?

最初のキャリアはITと関係無い仕事で、音楽機材雑誌の編集部を3年ほど経験しました。

ちょうどその頃mixiが流行ったりYoutubeが普及し出したりしていた時期で、インターネットで世界が変わっていっているのを感じました。「これはプログラムができると世界の裏側が分かるのでは」と興味を持ち始めたのがIT業界に進むきっかけです。

スクールでプログラミングを学んだりしつつ、25歳の頃にプログラマに転職を決意しました。

プログラマとして、最初はSIerに所属し色々な現場でプログラミングをしていました。

何年かキャリアを積んだ後、自社プロダクトの開発に関わりたいと思い、株式会社アプレッソに転職しました。

アプレッソではB2BのパッケージソフトウェアであるDataSpiderの開発に携わっていました。

ここでプロダクトマネジメントに携わるきっかけにもなる、新製品の提案〜開発を行うことになります。

当時、四半期に一度エンジニアが成果を発表するような場があったのですが、その場で携わっていた製品に関連する新製品のプロトタイプ作成やプレゼンも行って提案したところ、採用されて開発をすることになりました。

新製品の開発のほとんどを担当したのですが、このときに開発以外のお金の流れやミッションなど、プロダクトマネジメント的なことも行うようになりました。

これがPdMのスタートだと思います。

その後、エンジニアリングマネージャーになり、PdM的な業務も一時期兼任していましたが、メインはエンジニアのマネジメントを行うようになりました。

その後、吸収合併によりセゾン情報システムズに転籍することになり、関わるプロダクトや人の規模が大きくなり、面白さもある反面、プロセスの多さなどに不自由さも感じるようになりました。よりダイナミックな製品開発に関わりたいと思うようになりました。

その頃子供が生まれたこともあり、地元である福岡に移住を考え始めました。

そんな中で、福岡に拠点のあるYAMAPとご縁があった形です。
私自身、登山に30歳くらいからはまっており、すごく良い縁だったなと思います。
雑誌編集のライティングのスキルが生きたり、趣味の登山の知識を活かした提案をしていたりと、今は人生の総合格闘技として泥臭くPdMをやっている感じです。

Q.プログラマからPdMになっていったのですね。そのきっかけとなる新製品提案のお話についてもう少し詳しく教えてください!

当時、クラウドの市場が成長しており、クラウドとオンプレミスの連携が今後重要になってくるなと感じていました。その中で、オンプレミスからクラウドへのデータ連携は比較的簡単にできるのですが、クラウドからオンプレミスへのデータ連携にハードルがあるなと思い、それを実現するツールを提案しました。

また、一緒に働いていたエンジニアで「こういうのを作ってみました」と提案をする人が多くいたこともきっかけとしてあります。周囲の人達が色々提案しているところを見ると、「負けてられないぞ」と思って頑張りましたね(笑)

四半期に一度自分の成果を発表する場があったのも大きかったです。実際、私のアイデアもそこで生まれたものでした。

Q.エンジニアが新しい機能を提案し合う…とても良い文化ですね!その文化はどのようにできていったのでしょう?

もともと四半期に一度自分の成果を発表する場という下地はありました。

その中で、せっかくやるなら面白いものを持って行こうという文化が少しずつできてきたような形ですね。

また、私がエンジニアリングマネージャーになってからは、週に一度「何でもいいから動くものを作って持ち寄り発表する」という場を作りました。

その場では、遊びでも仕事でもなんでもいいから持ち寄ったものを、みんなでワイワイやりながら発表しあっていました。

強制し過ぎず、入り口を作ってあげるということは良いきっかけになると思いますね。

【ミッション】Whatの責任者・開発を軸に役割を担う

Q.今の会社でのPdMのミッション・役割はなんでしょう?

一言でいうと、製品における「何を開発するか」「どういう優先順位で行うか」というWhatの責任者です。

ただ「What」はWhy, When Howなど他の要素により成立すると思っています。

経営者など色々なステークホルダーと話しながらWhyを浮き彫りにして、Whatを決め、Howをエンジニアと明らかにして、Whenを導き出す。

それを刻々と変わる状況に合わせてメンテしていくという活動が中心ですね。

Whyを考えるのはいろいろなインプットから考える必要があります。最も大きいのは実際の登山者、そしてユーザーですね。CEOなど経営層からのからのインプットや、エンジニアが何をしたいのか、というところも大事にしていますね。登山好きの人も多いので、一登山者の意見としても重要です。

また、最近のコロナの情勢などもあり、YAMAPとして何をするべきか、というミッションに近い部分も大事になってきています。

このような状況だからこそ、単純な費用対効果だけでなく、YAMAPとしてやるべきことは何なのかを考えていますね。

Q.プロダクトマネジメントトライアングルに置き換えるとどの領域を担当することが多いでしょう?

土岐さん_PdMトライアングル

開発者と顧客、開発者とビジネスの間の部分を中心に行っています。

プロダクトを成長させるための開発計画を立てるのが主な業務です。ユーザーに良い製品を提供するためのあらゆる活動と、それをビジネスに繋げるための活動を行っています。

マネタイズやマーケティングなど、ビジネスと顧客の間は、各ビジネスの責任者と一緒に作っている形ですね。

細かい部分では、プロジェクトマネジメントは、プロジェクトリーダーに行ってもらっています。プロジェクトごとにエンジニアから1人プロジェクトリーダーを務めてもらう形です。

リソース獲得はプロジェクトリーダーやエンジニアリング・マネージャーを兼ねているCTOと調整することが多いですね。

またデザインはCXOが横断的に統括しており、連携しながら進めています。

【体制】PdM2名体制のメリット

Q.社内の体制についても教えてください。

PdMは2名体制です。

2人の間で明確に役割分担を設けているわけではなく、頻繁に会話しながら適宜プロジェクトアサインを行っています。

2名体制ということで、窓口が2つあるという点は少し複雑になっているかもしれません。

ただ、1人が休んだりしてもプロジェクトが回るなど、冗長化ができていることは良い点ですし、同じ立場で壁打ちできる相談相手がいることは助かっています。

また、エンジニアはプロジェクト単位でアサインをするのですが、毎回アサインが大変なところは悩みどころですね。

今はコンポーネント単位でエンジニアチームが分かれているのですが、フィーチャー単位で分けることも検討していたり…その辺りは私たちに合う方法を模索しています。

Q.2名体制だと意思決定が大変な部分はありませんか?

今のところはないですね。

意見が異なることはもちろんあるのですが、その場合は徹底的に話し合うので、納得しないまま進めるということはありません。信頼関係があるので、問題になることはなく、業務を進める上で良い点の方が大きいと思います。

【実績・行動指針】技術から人につなげるためのビジュアライズ

Q.PdMとしての自慢できる実績はありますか?

プロダクトバックログの導入や、社内の情報共有、フローの整備を行いました。

また積極的にファシリテーションを買って出て、MTGの改善なども行っています。

まだまだ整備されていないところはありますが、少しずつ改善できてきていると感じています。

また、「技術から人につなげていく」という点は私の得意領域で、色々工夫した取り組みをしています。

技術をどう理解してどう活用するかは人や立場によって異なります。コミュニケーションを取りながら、共にストーリーを作っていく作業は重要だと思っています。

これは「ナラティブの溝に橋をかける」という作業で、私が大切にしていることです。

「ナラティブの溝に橋をかける」にはストーリーで語ることが非常に重要です。そしてストーリーで語る際に役立つのはビジュアライズです。

例えばOKRや各施策をこの図のようにするとストーリーとして伝わりやすくなります。

ミッションがあり、それを達成させるために必要な活動があり、そこに今の特有な外部状況が絡み、それを受けてObjective・Key Result・プロジェクト…とブレイクダウンした図です。

こうすると、人に説明するときにもストーリーとして語れますし、どこかに抜け漏れがあったときにも気が付きやすくなります。

仕事での会話は「人」ではなく「役割」に向けて話しがちですが、意識して固有の「人」に話をすることをこだわっています。そこには手を抜かないことが大事だと思います。

Q.すごくわかりやすい図ですね。この辺りは行動指針ともつながりますか?

そうですね。ロジックとエモーションの両方を持って、ストーリーを語ることは大切にしています。静的な結論だけを語らず、必ずストーリーで語ることです。

ロジックだけでも駄目、エモーションだけでも駄目で、双方あったときにようやく伝わると考えています。

例えばOKRでも、OKRそのものを伝えるのではなく、なぜそのObjectになったのか、なぜそのKey Resultが導き出されたのか、というストーリーや、ミッションからのつながりなどを含んだ会話にならなければならないと思います。特にPdMとしては「誰かがやりたいと言ったから」ではなく自分の言葉で完璧に語れる必要があると思っています。

先ほどの図はそういう意味で非常に有効ですね。

また、ビジュアルという文脈では、社内共有の時も遊びごころのあるビジュアルを付けるようにしています。

↓このように中吊り広告風にしたり

↓このように雑誌の表紙風にしたり。

社内の情報共有を単純な文章で行うのではなく、このようにビジュアルで共有すると圧倒的に読んでもらえますね。外部のリリースと同じくらい社内共有は大事にしているので、こういった工夫をして覚えてもらえるようにしています。

さらに、こういった社内共有を仕組み化すると形骸化するという罠に気をつけています。コミュニケーションはあえて仕組み化せずに重心を乗せる余地を作っておくことにより、情報量が大きく変わりますね。

Q.社内共有でここまでするのはすごいですね…!こういった工夫の根本になっている考え方はあるのでしょうか?

PdMは基本的にサーヴァントリーダー・裏方だと考えています。

エンジニアやセールスなど、前線に立って作っている人が称賛されるべきで、そのために正しいものを正しくつくれるための基盤をしっかりと作るのが役割だと思いますね。

これまで紹介したような工夫も、この基盤を作る活動の一環です。ぜひ前線に立ってプロダクトを成長させていっている皆がガンガン賞賛されてほしいです! その裏でニヤニヤしていたいです(笑)

【挑戦】toCのスピードとファクト管理

Q.今、挑戦していることはありますか?

今までtoBのプロダクトを作ってきたので、自分にとって今toCのプロダクトに携わっていること自体挑戦ですね。

ようやくtoCのプロダクトのコンテキストに運動神経が追いついてきたという感じがあります。

toCプロダクトに携わるにあたっては、仮説検証サイクルの早さにこだわっています。特に状況が激しく変わる中で、その状況に対応しながら正しいものを作っていくためにサイクルを極限まで早く回したいと思っています。その点では、昨年からできたデータ分析チームがいることにより、サイクルがかなり早くなりました。

もう一つ、早いサイクルと矛盾する部分もあるのですが、きちんとファクトを管理したいとも思っています。

ファクトが一人歩きして、ファクトと意見が混じったまま進むことも多くあったりするので、製品ファクトブックを作って安定した基盤を作りたいと思っています。

また、コロナの影響で働き方やコミュニケーションの作法が変わっていると感じてるので、リモートや非同期の環境でのプロダクト開発の方法論を確立することもチャレンジしていきたいです。

コミュニケーションでは、あまりもじもじせずにすぐ話せるようにしたいですね。リモートだと人に気を使い過ぎてすぐにコミュニケーションが取れないこともあるため、そこの敷居を下げたいです。

オフィスの中で声が聞こえてくることで成り立っていたコミュニケーションがなくなってくるので、先ほどのような情報共有の方法にも工夫をする必要があるなと感じています。

【将来】PdM・登山者としてのスキルアップ

Q.5年後、どうなっていたいですか?

まずはPdMとしてのスキルを伸ばしていきたいですね。

YAMAPの中での技術的な部分や、特にデザインの良い悪いを言語化できていないと感じているため、スキルを伸ばしてビジネスにつなげ、PdMとして自分なりの方法論を確立したいです。

その上で自分なりに考えてプロダクトを作っていきたいと思っていて、YAMAPがビジネスとして成熟できるような一手を自分で考え、実行までやり切ることができたらいいなと思っています。

また、登山者・クライマーとしてのスキルを高めたいですね!
クライミングはやり続けないと難しいのですが、なかなか時間が割けない期間もあったので…。
人生を通してクライミングのスキルアップも一つの目標です。

少し余談になりますが、クライミングってボルダリングなどのように落ちても死なない程度の高さで で多く失敗しながら学ぶことで、全体の技術が上がっていったという歴史があるんですよね。

人類学上、このようにバッジサイズを小さくしてフィードバックループを回すことは重要なんだなと思います。

このあたりはクライミングの発展の歴史ととプロダクト開発の発展は似ているところがあって、面白いなあと思っています。

【悩み】いかにしてプロアクティブな行動に時間を作れるか

Q.PdMとしての悩み、困りごとはありますか?

PdMの皆さん同じかと思いますが、時間が足りないことが悩みです。

私にとって時間が足りない要因は、「ビジネス・フォー・パンクス」の中で語られているリアクティブな行動に時間が取られていることだと考えています。

プロアクティブな行動:緊急ではないが重要なこと、にしっかりと時間を取れるようにしたいですね。

IT業界の人に登山はおすすめ!登山の際にはYAMAPを!

YAMAPアプリを是非使ってみてください!

YAMAPを使うことで安心安全に山に行けるようになります。山に行く際にはぜひ利用してください!

みまもり機能という、家族に現在地を伝える機能もあります。

山の中で自然に触れると、非日常に触れ、世界が立体的に見えてきます。癒しの効果も目に見えて出てくるため、特にIT業界の人におすすめです。

普段山に行かないという人も、是非一度YAMAPと一緒に山に行ってみてください。

【他のPdMに聞いてみたい】PdMをやっていて良かったことは?

Q.他のPdMに聞いてみたいことはありますか?

PdMをやっていて良かったと感じるところを聞いてみたいです。

ちなみに自分の中では、大きい意味でプログラミングと似ているなと思っており、プログラムだけではなく人も含めて動く仕組みを作っていく楽しさがありますね。

「時を告げるのではなく、時計をつくる」を意識していますね。

03 – 第2章 時を告げるのではなく、時計をつくる

他にもプログラミングと似ている部分はあると思っていて、例えば「モデル化すること」ですね。

エンジニアもプログラミングの中でモデル化をしているのですが、PdMも抽象度の高い部分でモデル化の作業をしていたりします。

モデル化する事で削ぎ落とす事実もあるため部分的には間違っている部分もあるのですが、それによって思考が進むため役立つものなんですよね。

先ほどのビジュアライズの話にも通じるのですが、大づかみでも良いので一度モデル化することによって、コミュニケーションが一気に進み、チーム思考が前に進むことは多く経験してきました。恐れず面倒くさがらずに、モデル化し続けることはやり続けたいと思っています。そのためにも、さまざまな学習も必要だと思います。

この辺り共感してくださる方がいたら是非お話してみたいです。

最後に

土岐さんのお話はいかがでしたか?

ストーリーで語ることの重要性は私も日々痛感しており、共感できる方も多かったのではないでしょうか。

ビジュアライズもとても面白い工夫だったので、是非参考にしたいですね!

また、落ち着いたタイミングで山登りにも是非チャレンジしてみてください!

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