PMのプロを目指すenechain PMから学ぶ!転職後にすぐに成果を出すための方法

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今回は、国内最大のエネルギーの卸取引マーケットプレイスを運営するスタートアップ株式会社enechainでプロダクトマネージャー(以下、PM)を務める大橋 奎哉さん(@ohashi555)に仕事内容やキャリア、マイルールなどを伺った。

大橋さんは、新卒でグリー株式会社に入社し(今で言う)PM職としてキャリアをスタートし、子会社での新規事業立ち上げを経験された後に、メルカリ、エブリー、メルペイでのPMを歴任され、アペルザではCPOを担われて、現在に至る。

『どんなものでもいいプロダクトに仕上げられるPM』を理想像とする考え方や、データ分析による緻密なロジックと、ビジョン・ロードマップによる面白さやワクワクの創出と言う両利きに至ったスキル開発の経緯などは、視野が広がると思うので、ぜひ一度読んでみて欲しい。また、6社経験する中で実践してきた転職後にすぐに成果を出すための方法『信頼獲得のために組織で欠けているピースを見つけて埋める』や顧客に対してのアウトカムに執着するチームを作るための工夫なども、参考になること間違いなし!

この記事は100人100色のプロダクトマネージャーのリアルを知るためのインタビュー記事「PdM Voice」の連載第31回目の記事である。

次なる電力取引のスタンダードを作ることを志向するプロダクトマネージャー

PMノート マツバラ(以下、PMノート):まずはご自身の仕事について教えてください。

大橋:株式会社enechainで、プロダクトマネージャー 兼 プロダクトマネジメントデスクのマネージャーをしております。
enechainは、2019年に設立した国内最大のエネルギーの卸取引マーケットプレイスを運営するスタートアップです。

『電力自由化』という言葉は、皆さんご存知かと思いますが、2016年に電力の小売全面自由化というのが行われました。それまでは大きな電力会社しか販売できなかったのですが、新規参入した電力会社『新電力』からも電気を購入することが可能になりました。それによって、700を超えるようなプレイヤーが市場に参入し、新電力に乗り換えた方も多いと思うのですが、独自の付加価値や価格競争などが発生しました。

しかし、昨今の社会情勢の影響で、電力を作るための燃料が高騰し、新電力のプレイヤーは逆ザヤの状況、つまり電力を売れば売るほど赤字が広がるような状況になってしまっており、もともと700社程度の参入がありましたが、撤退が相次いでいるような状況です。

というのも、電力市場にはそのような大きなペインが存在するのですが、ヘッジ可能なマーケットが日本には存在しませんでした。例えば、株であれば、簡単にシステムで売り買いできると思いますが、電力ではそうはいきません。

そこで、電力でもそのような仕組みが必要であるということから、我々が新電力と発電会社との卸取引のマッチング(ブローキング業務)に初めて取り組んでいます。

プロダクトについては、『eSquare』という、あらゆる企業が、さまざまなエネルギー商品を売り買いできるオンライントレーディングプラットフォームがメインのプロダクトになります。
取引がどんどん成立する世界観はこれからなのですが、誰でも情報にアクセスできるプラットフォームができたと言うようなフェーズです。
Webだけではなく、ネイティブアプリも最近提供し始めるなどしており、レガシーな電力業界に対して、次のスタンダードを作ることに挑戦しています。

また、附随サービスとして、世界中のマーケット価格を分析しやすい形で視覚化し、タイムリーに提供する『eCompass』も提供しています。
その他に、『eScan』という小売業者様向けのリスク管理用ツールであるETRM(Energy Trading and Risk Management)をSaaSで提供することも開始予定であったり、『eClear』という与信リスクを低減する保険商品も提供しています。
意欲的に新規プロダクトやサービスを提供しながら、次なる電力取引のスタンダードを作るべく、プロダクトとビジネスが一体となって進めています。

PMノート:ご自身でもPMを担当しながら、プロダクトマネジメントデスクのマネージャーを担うことはかなり大変だと思いますが、どのようにバランスを取られていますか?

大橋:マネジメントだけしているより、自身もPMとして手を動かすことを大事にしています。これは前職のアペルザにおいても、PMが複数人いる状態で私はCPOを担っていましたが、同様でした。

PMとして成長したいという気持ちもありますが、プロダクトやユーザーのことを考える時間を取り続けないと、ベストプラクティスの吸収もできなくなり、PMメンバーをうまく導けないと考えています。

そもそも、enechainのPMはみんな優秀なので、細かくマネジメントする必要もなく、プロジェクトの進捗共有を受けて、ブロッカーがあれば解決を考えたりするといった感じです。また、会社全体のプロダクトマネジメントが向上するためにベースを整えることや、PRDの書き方やリリーススケジュールの管理方法など全社の見通しやクオリティが上がるような仕事も行なっています。

どんなものでもいいプロダクトに仕上げられるPMを目指し、多様な経験をしてきたキャリア

PMノート:続いて、これまでのキャリアについて教えてください。

大橋:
1社目(新卒入社):グリー株式会社

2013年に新卒でグリー株式会社に入社しました。
就活時には、IT業界で企画の仕事をしたいと思い、IT企業の(当時で言う)プロデューサーやディレクター職ばかりを受けており、グリーにもディレクター職として採用されました。

そのため、私はキャリアの最初から(今で言う)PMの仕事をやっています。

初めに、ソーシャルゲームの部署に配属され、国内の自社タイトルのディレクターを担当しました。
2年目からゲーム全体を担当するプロデューサーになり、その後、複数タイトルの担当や新規立ち上げなどを経験し、3年目頃に複数のソーシャルゲームのタイトルを統括するシニアプロデューサーになりました。

4年目頃に転機がありまして、ソーシャルゲームも結構やったし、もともとITのサービスで身近な人のギャップを埋めたいと言う思いがあったので、一度転職しようと思ったことがありました。
退職の相談を上司にしたところ、当時、子会社で新規事業立ち上げを数多く行なっていた時代だったため、「子会社でゲーム以外の領域の新規事業立ち上げをやってみないか?」と提案をいただき、その機会を受けることにしました。

その結果、その子会社で、取締役副社長としてプロダクト領域を管掌することになり、フィットネスのサブスクリプションモデルで、月額1万円で全国2000以上あるフィットネススタジオに通い放題というプロダクトを約1年担当しました。

そこで初めてプロダクトを作る以外の仕事をたくさん見たり、管理させてもらい、例えば、営業と一緒になって売上を作っていく大変さ(ゲームの場合は営業がいない)など、様々な職の人と一緒に一つのサービスを通じて社会に貢献していくことが体験できました。その経験を通して、プロダクトに軸足を置きつつ事業を作ることに対して、自分の至らなさや未熟さを痛感しました。

結果的に、その事業は閉じることになってしまい、まだまだプロダクトマネジメントを軸にして自分自身が成長していかないと事業に貢献できないと思ったため、転職を決意して、メルカリにオファーをいただき、入社することにしました。

2社目:株式会社メルカリ

メルカリでは、初めにUSのメルカリ立ち上げを担当していました。当時、US本国でもプロダクトを作っていたし、日本からUSのプロダクトを作るチームもあり、良い方を残すという方針で二拠点でそれぞれのサービスで作っていました。
私は日本でUSのプロダクトを作るチームに所属していたため、日本から二週間ほどサンフランシスコに行き、個人宅にお邪魔するなどユーザーインタビューをたくさんして示唆を得て、日本に帰ってこの課題を解決するためにどうしようかと向き合って開発をして、再び調査に行く、というようなサイクルを繰り返しをしていました。

今まで、これほどユーザーに向き合ってプロダクトを作る経験が無かったので、すごく新鮮でしたし、当時の日本において、ユーザー調査やUT含めてメルカリほどイテレーションを回していた企業は少ないと思うので、先進的な経験が積めたと思います。

最終的に、会社の意思決定としては、US本国でプロダクトを作るということになり、日本からUSのプロダクトを作ろうとしていたメンバーは、全員JPのメルカリにアサインされました。
その後、JPのグロースチームという、メルカリのGMV(Gross Merchandise Value:流通総額)の責任を一手に担い、CRMやIn-App Marketing、購買に近いところのカゴ落ちの改善、プッシュ通知運用、キャンペーン運用などを行うPM部隊で、プロダクトオーナーを担当していました。

3社目:株式会社エブリー

その後、DELISH KITCHEN(デリッシュキッチン)を作っている株式会社エブリーという会社に、グリー時代の上司の誘いで入社しました。

約1年間アプリディレクターを担当し、Amazon連携のようなアライアンス系の開発やアプリ内ポイントの実装、有料プランの新機能(食材から料理の栄養素・カロリー計算)などPRになるような大きな機能開発を任せてもらいました。

担当していた案件がひと段落したタイミングに、改めてPMとしての知見を磨く方向でさらに方成長したい思いが強くなり、運良くメルカリに戻ってこないかという話がありました。

4社目:株式会社メルカリ/株式会社メルペイ

メルペイの立ち上げが始まったタイミングで、出向してメルペイの立ち上げに参画しました。
加盟店側のプロダクトを作っていて、加盟店管理画面という売上管理や引き出し管理などを行うツールと、QRコードを読み取る決済端末用アプリのPOを担当していました。

金融系の大きなサービスということで、半年〜1年くらいかけて世に出せるという足が長い開発サイクルでした。これまで短い開発サイクルの会社にいたことがほとんどで、数値分析してすぐ実装して試すような環境にいたのですが、初めて足の長いプロダクト開発のPMを担いました。
そのようなプロダクトにおいては、プロジェクトマネジメント要素が強く求められると思うのですが、自分にとってチャレンジングな機会で、全然うまくいかなかったり、開発メンバーと衝突することもありました。今振り返ると、プロジェクトマネジメントのスキルを伸ばすことができたいい経験だったと思います。

メルペイのリリース後に、再びメルカリJPのグロースチームにアサインされ、ほとんどの大型キャンペーン施策をほぼ一人で回していましたが、メルカリ自体も大きくなっていたことから仕事の細分化が進み、さらに広い範囲でProduct開発をとらえていきたいという思いがが湧き、区切りをつけることにしました。

今まではITの会社にいたので、私のような存在は珍しくなかったですが、自分の経験をより還元できたり、業界を前進させることに貢献したいと思い、IT化が遅れている業界の情報収集を行っていました。

その流れで、製造業向けのバーティカルSaaSを運営しようとしていた株式会社アペルザのお話を伺い、製造業はかなりアナログであるものの、日本の基幹産業であるため、ここに自分の経験を還元できたら面白いと思って入社を決めました。

5社目:株式会社アペルザ

アペルザでは、一人目PMとして入社し、メルカリ時代に経験したユーザー中心のプロダクト開発や、データ分析による数値改善のプロダクト開発、ロードマップ作成など、これまでアペルザになかったケイパビリティを広げる努力をして、より良いプロダクトをお客さんに届けられるように取り組んできました。

そして、一年経つか経たないかぐらいのタイミングで、CPOとしてやって欲しいと任されました。
そこから約一年半は開発組織全体の組成やマネジメント、新規事業など、経営の一角として事業をいかにプロダクトの力を使って伸ばせるかというところに注力しました。
経営自体はグリーの子会社時代を含めれば、二回目の経験だったのですが、当時より営業のことやマーケティング、本職のプロダクト開発を広い範囲で考えることができたと思っていて、自分がいたことの価値は残せたと思います。

その後、製造業の変化のスピードと自身の時間軸のギャップを感じるようになり、また自分自身で事業を興してみたいという気持ちも大きくなってきており、代表とも相談して退職させていただくことになりました。

6社目:株式会社enechain

enechainへの入社は、グリーの同期である須藤がCTOをしており、誘われたことがきっかけです。
自分で起業やフリーランスのPMとして働くことも検討し、行動を開始していたのですが、enechainに関する話を聞いて、会社の可能性や市場の大きさ、未来に無くてはならない存在であると強く感じました。

私は、プロダクトでどう事業をアクセルするかっていうところに、より意識が向いているのかなと思いますが、過去の経験からビジネス的な観点も分かった上で事業が目指す方向を理解できており、プロダクトの現場の難しさも分かるため、経営層のビジョンを具現化していくことにおいて私の存在価値が発揮できるのではないかと思っています。そういうところを今また必死にやっている状況です。

PMノート:事業ドメインやtoC/toB、フェーズなど様々なご経験をされてきたと思いますが、そのあたりへのこだわりは特にないでしょうか?

大橋:いい意味であまり無いのかもしれないですね。
PMにも複数パターンが存在すると思っていて、本当に自分が共感できるものや自分がそのユーザーになれたり、その当事者のことがありありとイメージできないと、プロダクトが作れないと考えるPMもいると思います。
しかし、私はどんな業界のどんな人のペインでもあっても、憑依と言うとちょっと大袈裟かもしれませんが、彼らのことをめちゃめちゃ知って、どんなプロダクトでもいいプロダクトに仕上げられるPMの方が、価値が高いと考えており、私はそういう状態を目指しています。
デリッシュキッチンは主婦の方がターゲットなので、自分は全然ターゲットじゃないですし、アペルザにおいては製造業の人間でもなく、現職のenechainにおいては電力業界の人間でもないですが、その時々の相対している業界や人に対して最適なプロダクトを出せるようになりたいと考えています。

そういう意味で、こだわりはあえてあまり持たないようにしています。
ただし、社会に与えるインパクトの大きさや、社会が自分が思ういい方向に少しでも変わるとか、自分の子供たちの世代に繋がるソーシャルグッドな観点は意識しているかもしれません。

結果的に、toC/toB、メディア、SEO、マーケ寄りのこと、Web/ネイティブアプリ、短い開発サイクル/期間の長いプロダクト開発、海外/国内、IT業界/レガシーな業界など、様々なプロダクトを作ってきたことは、意外と強みなのかなと思ったりします。

とにかく迷わないUXの提供をリードすることがミッション

PMノート:所属組織におけるPMのミッションは何でしょうか?

大橋:これまで世の中に無かったものであり、ITがそこまで浸透している訳ではない業界のユーザーが使うサービスを作っているため、とにかく迷わないUXの提供をリードすることがPMのミッションだと思います。
また、ビジネス担当が強くてしっかりしてる会社なので、ビジネスの要望をしっかりと深掘りして、彼らの業界の解像度やお客様と接する中で得た知見をダイレクトにプロダクトにいい形で反映できるようにすることが重要な役割だと思います。

PMノート:プロダクトマネジメントトライアングルを元に、具体的な業務範囲を教えてください。

大橋:BusinessとDevelopers を繋ぐ領域のプロダクトロードマップ、ビジネスビジョン、プロジェクトマネジメント、UsersとDevelopersを繋ぐ領域のユーザーリサーチ、デザインの要素が強いと思います。

特に、ビジネスビジョンに注力しているのですが、電力のトレーディングはものすごく複雑な領域で、ビジネスを理解してないとプロダクト仕様に落とせないので、社内のドメインスペシャリストからたくさんインプットしています。
その後にお客様に向き合うという順序で考えています。

と言うのも、現在はビジネスのアイディアやドメインスペシャリストの知見を具現化するフェーズで、お客様の声をもとにグロースハックするようなフェーズにはまだ至っていないからです。

PMノート:PMとして得意な領域について教えてください。

大橋:画面設計は得意です。
PMを長くやっていると、世の中の様々なUXの引き出しや現在のスタンダード、こうなると気持ち悪いという感覚などが高まってくると思いますが、それらを活かしながらやっています。

現在、フルタイムのデザイナーはいないので、PMがFigmaでワイヤーを作成するのですが、これまでビジネス側の意図をうまく汲み取り切れなくて開発に手間取るとか、プロダクトがうまく開発に進めないということがありました。
そういうところに私が入り、意図を汲み取りながらビジネスの要求をすぐにワイヤーで形にして、ここはこうじゃないとか会話しながら、画面設計に落とすところをスピーディーに進めていました。
ビジネスとエンジニアを、今までよりも上手く繋げられるようになったことから、意外とそこには価値があるということに気づきました。

12PMコンピテンシーから見えてきた、大橋さんの強みとスキル開発の取り組み

PMノート:続いて、12PMコンピテンシーを用いて、大橋さんのスキルや強みについて掘り下げていきたいと思います。このフレームワークに基づいて大橋さんには事前に自己評価いただいたところ、Product Strategyが最も高い結果となりましたが、どのようにスキル開発してきたか教えてください。

大橋:まずは、最初のキャリアがとても良かったと思います。
ソーシャルゲームは、緻密なロジックと、面白さやワクワク、焦るなどの感覚を突き合わせる難しい企画だと考えています。

というのも、データは何でも取れますし、課金は確率の設定などで課金率や金額が変わってくることから、かなりデータ分析をするので、ロジックが大事ではあるのは当然なのですが、
やはりゲームなので面白くてハマってくれないと、結局課金してくれないのです。
加えて、社内のエンジニアもゲーム好きが多かったので、『この企画、ただの金儲けじゃん』と思われてしまうと、乗り気で開発してくれません。

そのため、面白さと緻密なロジックが同居するような高度なビジョンを毎週のように部署やチームで語る経験をしていました。
その経験を通して、ビジョンを描くことや、人に関心を持ってもらうためのストーリーテリングのスキルを磨くことができたのだと思います。

その後のキャリアやアペルザでCPOになった時もその経験は活きており、ただ機能の羅列をロードマップで描いても全然面白くないので、『この機能やこのような体験が実現したら、お客様はこんな風に業務が楽になる。お客様の仕事が変わると、社会に対してこう返ってくる。』というような、プロダクトを作る立場の人々にとっても肌触りのある顧客や社会の変化に繋げて語ることを行なっていました。

また、グリー子会社での取締役副社長やアペルザでのCPOを経験をしたことで、プロダクトのKPIだけでは語れない会社のコストや売上の伸長、TAM(Total Addressable Market、ある事業が獲得できる可能性のある全体の市場規模)など、マーケットと対峙してビジネスを前に進めていくために必要な観点も身に付いたと思います。

PMノート:他の領域において、意識的にスキル開発されたところはありますでしょうか?

大橋:データ領域が該当します。
メルカリは当たり前のようにみんなが自分でデータを取得し、例えばCSの人でもSQLを書くので、PMで書けないなんて恥ずかしいというレベルでした。
実は、メルカリ入社当時にSQLを書けなかったのですが、急いでキャッチアップした結果がその後に活きています。

メルカリにおいては当たり前でしたが、世の中的にはそうではなかったため、その後に転職したエブリーやメルペイ、アペルザにおいてアドバンテージになり、データに基づく企画立案が得意でした。

また、UXデザインは現在も継続中で学んでいるところですが、普段の生活で様々なサービスに触れる中で不快に思うとか、気持ちがいいとか、そういう経験の積み重ねが自分のUXデザインの力を作ると考えています。
そのため、そのような感情が動いた瞬間を大事にするようにしています。

具体的には、『なぜ、これは不快に感じるのだろう?』『なぜ、こんなに使いづらいのだろう?』という感情を忘れてしまうのではなく、深掘りして『自分だったらこうする』を考えるようにしています。
奥さんと出かけている時にそのような出来事に遭遇した際には、自身の考えを伝えながら、奥さんはどう思うかを聞くようにしています。奥さんは私よりも普通の人の感覚に近いと思うので、良いインプットになっています。

PMノート:UXデザインに関して、そのような考え方になったきっかけはありますでしょうか?

大橋:象徴的なエピソードがあります。
メルカリで働いていた時の話なのですが、強い個性を持ったデザイナーの方がいて、当時PMがワイヤーフレームなどを作成して持っていくと、冗談半分なのですが、「素人がワイヤー書いてくるんじゃねーよ」「お前ら、港区感覚でプロダクト作ってんじゃねーよ」と言われました。
メルカリは、例えば、地方に住んでいて、家の周りに最先端のファッションが手に入る商業施設がなく、お小遣いを貯めて、月に1回の特別なイベントとして都心部に行って買い物をするといったユーザーがたくさんいます。
何を言いたいかというと、そういう人たちがいることを忘れて、我々のようにITサービスに日常的に触れ、恩恵にあずかって生きている人たちの感覚で作ってしまうと受け入れられないのです。
ユーザーの体験というのは、そういう細かい普段の思考や生活の中から知見を得ていくものだと痛感しました。

PMノート:12PMコンピテンシーで見ると全体的に自己評価が高い状態ですが、課題や伸ばそうとされている部分はありますでしょうか?

大橋:自分のスキルによってアウトプットを出すことは、それなりに自信があるのですが、自分にとっての課題だと思うのは、プロダクトチームの結果としてのアウトプットを再現性ある状態で高めることです。

どんどん品質が高まることや、みんなのスキルアップやモチベーションが上がることでチームのアウトプットを高めるようなことにすごく興味があり、まだまだ影響力が出せていないと感じています。
ポイントとして、自分が背中で見せることはできますが、そうではなくて、方法論やマネジメント手法の適用、モチベーション管理をすることで、たくましいプロダクト開発チームが出来上がるようなチームづくりと、リーダーシップの発揮が必要だと感じています。

ビジネスとプロダクトがお互いに背中を任せられる存在になることが課題

PMノート:現在、向き合っているプロダクト課題は何ですか?また、どのように解決しようとしていますか?

大橋:eSquareでやり取りされている電力というのは、全ての電力流通量から考えるとほんの数パーセントしかなく、マーケットプレイスとしては最大とはいえ、まだまだ影響力は小さい状況です。

電力が市場に出てきて流動性が上がらなければ、私たちのビジネスは加速していかないので、その電力が出にくい理由をプロダクトの力だけではなくビジネスと一体となって課題解決することに取り組んでいます。

プロダクトは、様々な注文方法や取引方法に対応することでお客様が市場に品を出すことをためらうような理由をどんどんなくして行く必要があります。
それを作った暁には、ビジネス側で成果にコミットしてどんどん流動性を上げていく取り組みをしないといけないです。

そのため、ビジネスとプロダクトがお互いに背中を任せられる存在でいなければいけないのですが、今はビジネスがどんどん先に進んでいて、開発チームがまだ結果でお返しできてないタイミングです。チームの組成や先ほど述べた私の課題にも繋がるのですが、チームとしてさらに向上していいアウトプットを出し続けければならないし、お客様のニーズのかゆいところに手が届くというか、フィットする形でプロダクトを提供することが大事だと考えています。
かなりドメイン知識がいるので、とても大変に感じながら取り組んでいるのですが、幸いにも社内には百戦錬磨の猛者たちがいるので、インストールをたくさんして、自己満足ではないお客様にとって良いアウトプットが出せるようにしたいと思っています。

一方で、自社の努力だけで一気に上手くいくというものではない側面もあり、電力の流動性は自由化の進展と共に増えていくものでもあります。例えば昨年、大手電力各社の内外無差別をよりしっかりと監視するという行政方針が打ち出され、これを受けて北海道電力様が2023年度の年間物の卸標準メニューでの電力卸販売に卸マーケットプレイスを利用することを決めました。旧一般電気事業者の年間物がオープンなマーケットに出てくるわけですから、マーケットにおける電力の流動性にとても大きな影響を及ぼしますが、これは政策や行政方針の後押しです。

その他、意外なところでメリットになったりすることもあり、デジタルで取引ログが残っていることも、公平性の観点から大事だったりするので、信頼できるシステムを提供し続けることは電力の業界でビジネスをやる上ではすごく大事なのです。
人々の生活のインフラなので、そこで人々に不審がられることをしてはいけないし、そこの意識はこれまでの事業ドメイン・所属企業のどこよりも意識しています。

そのような信頼構築や、彼らが市場に電力を出せない理由をどんどん解消していくことなど、電力の自動取引の未来に向かってできることは全部やっています。

マイルールは、信頼獲得のために組織で欠けているピースを見つけて埋めること

PMノート:大切にしているマイルールを教えてください。

大橋:自分に言い聞かせている側面もありますが、転職を結構しており、すぐに成果を出すというか、すぐにみんなから信頼を得られるように行動するようにしています。

転職して新しい会社で働き始める上で、自分はこうだからとか、前職ではこうやってましたという考え方を押し付けることは、ちょっと微妙だと考えています。というのも、現職では何らかの過去の経緯があったりしてその形になっている場合もあり、その背景を知らずに言うだけでは相手としては気持ちが良いものではないからです。
その上で、私はどうしているかというと、「その組織で欠けているピースは何か?」をすぐに見つけることを自分に課しています。
その組織において、本来はやるべきだけど、欠けているピースが絶対あると思っており、そこに必要なピースを演じきる、行動で見せることが最初は大事です。

どこの組織でも程度の差はあれど、「この人は何ができるのだろうか?」と、期待をしながら値踏みをする感じで見てるわけです。
そのタイミングに、「やりたいとは思っていたが、忙しく進められていなかったことを、新しく入ってきた〇〇さんが進めてくれた」とか、「〇〇さんが新しいやり方を実践されていたけど、こうやってやってもいいんだ」など、いい意味でのサプライズを起こすことが大事だと思っています。

結構ゼネラルに自分自身がスキルを身に着けていなければ、欠けているピースを埋めることはできないので、これまでの経験がすごく大事だと思うのですが、今のスキルが追いついてないとしても背伸びして頑張ることが重要だと思います。
そうすると、自分の幅も広がるし、社内でここの領域はこの人という存在にすぐになれます。

PMノート:何かこの考え方に至る原体験があったのでしょうか?

大橋:グリーに新卒入社し、大きな企業で同期がたくさんいる状態だったので、その中で目立って、どんどんいい仕事を任せてもらいたい、同期よりも早く成果を出したいと思っていました。

そのため、同期の中に埋もれないように、グリーの新卒に求められているけど足りない部分を演じようと思ったのです。

そもそも仕事の中での自分は、プライベートの自分とは線を引いており、プライベートの自分はこんなに積極的ではありません。
しかし、プライベートでのそういうのは関係ないので、足りないピースや求められている役割を演じることを重視しました。

その結果、グリーで約130人も同期がいたのですが、最優秀新人に選ばれることができました。
その経験を通じて、この振る舞い方は間違ってないんだと確信することができました。

その後、他の会社に転職してからも、同じようにやっていたら最初の信頼が掴めて、みんなと話しやすくなり、さらにいい仕事ができるようになるという好循環がどの会社でも作れました。

最初はかなり頑張らないといけないし、普段の自分じゃない自分を演じる必要があるので、すごいストレスなのですが、そこを乗り越えると自分が動きやすい環境が作れるのでマイルールとしています。

PMノート:『いい意味でのサプライズを起こすことが大事』というお話がありましたが、過去にどのようなことをされたのでしょうか?

大橋:アペルザ時代の話ですが、お客様に話を聞きに行くことやアンケートを取ることなどが欠けているピースだと思ったので、やるようにしていました。

これまでの組織の常識にはなかったのですが、メルカリでは当たり前のように行っていました。
また、お客様も聞かれて悪い気はしないはずだし、答えることでロイヤリティーが図れるし、自分の意見が反映されたら嬉しいじゃないですか。

「お客様にお話聞いちゃいますね」という感じで、どんどんやっていったところ、今までにないようなフィードバックが会社にたくさん降ってくるようになり、「そういうことってやっていいんですね、大橋さん」と言われました。

別の組織では当然のようにやっていたり、浸透している考え方が、ある組織ではそこが欠けているピースで、やってみたら目からうろこみたいなことはあると思うので、探してみることをオススメします。

顧客に対してのアウトカムに執着するチームを作るための工夫

PMノート:いいチームを作るために工夫されていることはありますか?

大橋:いいチームというのは、メンバーが自立しており、この人達なら背中を任せられると思えて、みんなが顧客に対してのアウトカムに執着しているチームだと思います。

そのようなチームを作るためには、顧客がどうなったらこのペインが解決して、解決するとどう喜ぶのかを、みんなでイメージできることがすごく大事です。
一丁目一番地として、そこの共通認識を持つためには、やはりPMが率先してディープダイブして顧客のことを知り、上手くエモーショナルに開発メンバーに伝えることが重要だと考えています。
WHYがみんなで共有されていると、WHYを解決するためのHOWは、みんなからたくさんの意見が出る状態になるはずです。

そのために、開発メンバーも顧客の解像度が高くないと無理だと思うので、初めはPMが解像度を上げることが必要なのですが、徐々にエンジニアやデザイナーなど全体がお客様のことを知っている状態を作っていくようにしています。

極端に言うと、PMの存在感が薄れて、開発チームが自主的に意思決定できるくらいの顧客解像度を持つことができているチームを目指せると良いかもしれません。

PMノート:何か参考になりそうな、具体的な取り組みがあれば教えてください。

大橋:enechainでやっていることは、ブローカーというお客様と相対して取引を仲介しており、トレーディングの知識がすごく豊富な人達がいるのですが、ブローカーインターンと言って、2日間ほど彼らの隣に座ってブローキングをずっと見て、お客様がどんな会話をして、どんな感情になったから、こういうビットやオファーが出てきたといったことを理解する機会を作っています。
私がまず入ってやったことでもあるのですが、エンジニアにも広がっていたりします。

また、アペルザの時は、お客様のもとに行って、こんな業務をしてました、というレポートを作って社内に共有しました。
例えば、『ファックスの前に立って今送信しましたと連絡をしていた』など、こんな業務をこういう手法でしていて非効率だったという臨場感のある内容を伝えていました。

いい企画を作るには、サクセスメトリクスの設定がポイント

PMノート:質の高い企画や課題に対して筋のいい打ち手を生み出すために、意識して取り組まれていることはありますか?

大橋:みんながそういう企画ができるようにPRDにも落としてることでもあるのですが、結局、アウトカムを意識できるかどうかだと思うのです。
この施策によって、お客様がどういう状態にならなきゃいけないのかということが、首尾一貫して書かれているPRDは質が良く、つまり企画の質がいいと考えています。

そのため、今お客様がどんな状況に置かれていて、これができるとお客様はどういう状態になるのか、そのような状態になるということはどのKPIがどう変化するのか、ということがPRDの上位に位置付けられており、特にサクセスメトリクスがちゃんと定義できるているかで、ほとんど企画が決まっていると言っても過言ではありません。

PRDをズラズラ書いていると、「そもそもの目的なんだっけ?」と目的を見失ったり、「これ違うことを解決しに行ってないか?」という感じになることがあると思うのですが、最初に誰もが納得するサクセスメトリクスを設定できると、企画や施策の内容はブレないと思います。
さらに、施策の成果をどのKPIで測るのか詳細に特定できており、それが上がれば良いのか、下がれば良いのか、今の基準と比較してどの程度であれば良いのかまでイメージできているかということが、いい企画を作るために必須の思考だと思います。

PMノート:サクセスメトリクスの重要性に気づいたきっかけは何でしょうか?

大橋:グリーのソーシャルゲームの運用で学びました。
ソーシャルゲームは取れない数字は基本無くて、毎日、毎週のようにイベントが続くため、再現性をストックし、それを用いる必要があります。
施策をやった後に、「この数字とれません・・・」みたいなことを言う人もいると思うのですが、それでは意味がないので、意識して取り組んだことで癖が付いたという経緯があります。

分析して、こういうモチベーション・心理状態の時に、このようなイベントが起これば、人はこうなるからアイテムを購入したり新しいカードを手に入れたくなってしまうというこを、汎用化させる、つまり、抽象度を上げて自分のストックにすることが大事だと思います。
ストックできたら、次回はガワを変えて同じような心理状況になるシチュエーションを違うイベントで作れば、失敗の可能性がすごく減るのです。

ソーシャルゲームはその連続なのですが、施策を打った後のユーザー行動の変化を肌身で体感することでしか自分の知識や経験にはならないので、サクセスメトリクスを定義して分析をすることの大事さはそこで学びました。成功の要因でも、失敗の要因でもどちらでも問題ありません。
それを知ってから、企画の失敗確率が大幅に減りました。

大橋さんからのおすすめの本

PMノート:プロダクトマネージャーにおすすめの本がありましたらご紹介お願いします!

大橋:教えてもらって、自分の基礎になった本ではあるのですが、『UXリサーチの道具箱』という本です。

メルカリに入った当時、ユーザー調査についてほとんど知らなかったのですが、先輩がこの本いいよと教えてくれてました。
この本を見て、その通りにちゃんと準備して実施すると、UXリサーチができましたし、現在の私の基礎知識はここから得たものです。

ご自身の組織でUXリサーチを導入したいとか、やりたいけど方法がわからないという方は、この本に載っていることを愚直に実行すれば良い調査になるのではないかと思います。

相談乗ります|PMの悩みに対する壁打ち相手

PMノート:かけだしPMやこれからPMを目指されたい方のどんな相談に乗っていただけますか?

大橋:メディア、ゲーム、SaaS、ECなどジャンル問わず、toB/Cの垣根なくPM一筋でキャリアを積んできました。PMの悩みに対しての壁打ち相手になれると思います。

また、その他に以下のような内容についても相談に乗ることができます!

  • 施策優先度の決め方
  • 社内外のステークホルダーの巻き込み方
  • 失敗/成功を自らの血肉に変える方法

大橋さんへのオンライン相談のお申し込みはこちら

最後に

大橋さんのお話はいかがでしたか?
感想や得られた気付き、気になったフレーズがありましたら、「#PMノート」を付けてツイートしてみてください〜!

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