今回は、株式会社サイバーエージェントでAmebaマンガのプロダクト責任者を務める加納謙吾さん(@kano_3126)に仕事内容やキャリア、マイルールなどを伺った。
加納さんは、2016年にサイバーエージェント新卒入社。同年、株式会社AbemaTVへ出向し、ABEMAの新機能開発などプロダクト全般のグロース施策の推進を行った後、2021年1月より、Amebaマンガのプロダクト責任者に就任。
「エンジニアやデザイナーなどが持つクリエイティビティを最大限発揮できるようにし、それを成果と結びつけることがPMとしての天職である」という発言にその人間性が凝縮されているように感じた。『成果を出すための課題設定』と『成果を最大化するためのチーム作り』が得意なPMから学べることは多いのではないだろうか?
この記事は100人100色のプロダクトマネージャーのリアルを知るためのインタビュー記事「PdM Voice」の連載第23回目の記事である
目次
ABEMAの開発ディレクションを経てAmebaマンガのプロダクト責任者へ
Q. これまでのキャリアを教えてください。
大学2年生の頃に、サイバーエージェントグループ企業の株式会社マクアケでアルバイトし始めたのですが、始めはデバッカーをやらせてもらいながら、少しずつ開発ディレクションの経験を積ませてもらいました。Makuakeの裏側の管理画面やtoC向けのUX部分の開発ディレクションに携わる中で、プロダクトを開発していくことの魅力に気付いていきました。
実は就活を始めた当初は、広告業界を志望していたのですが、Makuakeで働く経験を通して、モノづくりにコミットしてモノ自体の価値を高めていくことで自然発生的にモノが広まっていく世の中を創りたいと思うようになりました。そのため、サイバーエージェントへ入社するにあたって、ABEMAでプロダクトづくりに携わりたいと希望を伝えました。
株式会社AbemaTVへ出向し、ABEMAの新機能開発を含めたユーザーのアクティベーション向上に向けたグロース施策を担当していました。AbemaTVでは、複数人のPMやディレクターがいるのですが、それぞれの担当領域を持ってコミットする体制です。
ABEMAという新しい事業モデルに携われることや好きだった動画の事業ドメインに没頭できたことは非常に有意義でしたが、約5年間が経過した頃に今後のキャリアに不安を感じるようになりました。
というのも、ABEMAは事業規模に対応する形で大きな組織で運営されており、各職種のプロフェッショナルが所属しているのですが、その中で自分は社内の調整や取りまとめをして合意形成→プロジェクトを推進する役割が多かったです。もちろんこれは大事な経験であり、今でも役立っている一つのスキルなのですが、「自分一人では何もできない。市場に出たときに語れる強みがあるのだろうか?」という不安が募りました。
そのため、あまり環境が整っておらず、これからドンドン成長させて行かないといけないドメインやサービス、自分がやらないと事が前に進まないような過酷な環境下に身を置き、改めてプロダクトマネージャーとしての地盤固めと視座を高めるために、Amebaマンガへの異動希望を出しました。
Amebaマンガにはプロダクト責任者として異動しまして、プロダクト全体を見つつ、メインミッションとしては新規ユーザー獲得及び継続率向上のためにプロダクト中心に戦略を立てて戦術を実行している状態となります。
Q. 実際にAmebaマンガに携わるようになって成長を実感できるポイントはありますか。
プロダクト責任者という肩書きを名乗っていますが、プロダクト単体だけではなく、サービス全体を俯瞰して物事を考えています。
プロダクトはあくまで器であり、コンテンツも含めた全体のユーザー体験をより良くするために、コンテンツやクリエイティブも含め、一貫した体験を提供できるよう、良い意味で「プロダクトにこだわりすぎない」よう、多角的に考えています。
ABEMAの時は”What”の部分から考えることに注力していたのですが、Amebaマンガに来て、そもそも”Why”の部分から考えられるようになったことや事業全体視野で語れること、大方針から考えてそれを推し進められる経験ができていることは成長ポイントだと思います。
”Why”から”What”、”How”を一連の流れで全てにコミットできる状態には少しずつ近づけていると感じており、それが自身の幹の部分になるのではないかと感じています。
ミッションは、新規ユーザーの獲得と継続率向上(KPIの考え方あり)
Q. 所属組織におけるPdMのミッションを教えてください。
抽象度高く表現すると、経営戦略とプロダクトを結びつけることがミッションとなりますが、現在の具体的なミッションは、『新規ユーザーの獲得と継続率の向上をもってAmebaマンガのユーザー規模を拡大すること』です。
Amebaマンガでは電子書籍の売上がKGIとなり、それを達成するためにユーザー規模を拡大し、ARPPU(課金しているユーザー1人当たりの平均購入額)を全体の売上に結びつけていくことに取り組んでいます。
ユーザー規模の拡大という意味では、既存ユーザーと新規ユーザーの2種類が存在しますが、現在は新規ユーザーの獲得が課題となっている経緯から、新規ユーザーの獲得からの新たな継続化を重視した取り組みを行なっています。
そのため、「新規ユーザーの継続率」というのが最も重要な指標になるのですが、それをKPIツリーをもとに分解すると、先行指標として新規ユーザーがAmebaマンガを初めて購入する割合を示す「購入率」があります。
またさらに分解していくと、そもそもAmebaマンガは会員登録しないと利用できないため「会員登録突破率」や、その手前に、そもそもAmebaマンガに来訪してくる「経路別の来訪数」というものがあります。
これらを主要なKPIとして定め、そこから細分化して分かれているユーザーのサービス内の行動フロー(ここを突破したら、ここの数値が上がるはず)に基づき、計測可能な目標として設定して、プロダクトチーム内で追いかけています。
その中でも、特に課題として取り組んでいるのは次の2点です。
- 会員登録のメリットを感じてもらい、納得できる形で登録フローに進んでもらうこと
- 新規でご購入いただいたユーザーにAmebaマンガの便益を伝え、サービスを長く使ってもらうこと
Q. このKPIの構造やどこに課題があって注力するのかという目線合わせはかなり重要だと思いますが、どのような思いで実施されているのでしょうか?
これまで多くのエンジニアやデザイナーと一緒に働いてきましたが、『プロダクトのメンバーと経営層の目線がどうしても合わない』という課題感が常にありました。
そのため、メンバーに「これを目指すべきだよね」ということをわかりやすく伝えていくことがPdMとしての重要な役割の1つだと捉えています。
抽象的なことを具体的でわかりやすく、だけどエンジニアやデザイナーの考え方を狭めないような伝え方を意識しています。
特に気をつけているのは、経営メンバーで議論した抽象度の高い内容を、具体化しすぎないというのがポイントです。具体化しすぎると「これをやってね」というトップダウンの指示になりがちで、エンジニアやデザイナーのクリエイティビティを十分に発揮できなくなると考えています。そのため、抽象的な内容を、「課題」「お題」「方針」といったものに置き換えることで、メンバーが想像力やアイディア力を発揮できる「余白」を残すよう意識しています。
Q. プロダクトマネジメントトライアングルを元に、具体的な業務範囲を教えてください。
基本的に濃淡はありますが全領域にまたがる業務を行なっています。
その中でもより強い領域が、開発者とビジネスを繋ぐ領域で、プロジェクトマネジメントやプロダクト仕様を意思決定していくような業務が該当します。
次いで、開発者と顧客を繋ぐ領域で、その次に、ビジネスと顧客を繋ぐ領域という順位になります。
PdMの主な業務として、プロジェクトマネジメントやプロダクトとしてのロードマップ作成に多くの時間を割いています。(開発者とビジネスを繋ぐ領域)
また、フェーズによっては、プロダクト、ひいてはサービスの戦略を策定する段階から関わることもあり、どこを狙いにいくのかを検討する上で、どういったハードルがあるのかを把握したり実現の難易度を見定めたりするために、自分でクエリを実行してデータ分析を行なってチャンスポイントを発見したり課題を特定したりと取り組んでいます。(開発者と顧客を繋ぐ領域)
顧客とビジネスを繋ぐ領域については、話し合いの場に参加しながら、プロダクトの戦略との連動を取ることを意識したり、マーケティングやビジネス方針を汲み取って戦術に落とし込むような観点で取り組んでいます。
メンバーのクリエイティビティを引き出し、成果を最大化する
Q. プロダクトマネジメントにおける得意分野はありますか?
ピープルマネジメントが得意だと自負しています。
自分自身はテクニカルなスキルはそれほど持ち合わせておらず、クリエイティビティも乏しいと思っています。
逆に、エンジニアやデザイナー、その他マーケティングに関わる人など、特異なスキルや僕では考えられないアイデアを持っており、多角的な情報をインプットされていてクリエイティビティ溢れる方が周囲にはたくさんいると考えています。
成果を最大化するための道標を立て、メンバーのスキルや価値観、思考を最大限活かしてアウトプットするのが得意だと思っています。
当社のDevelopers Blog内の記事にも記載しているので、ご興味ある方はご覧ください!
CyberAgent|Developers Blog「成果最大化に向けたグロースチームの作り方」
Q. 素敵な考え方だと思いますが、その考えの背景にどのような思いがあるのでしょうか?
自分がプログラミングやデザイン制作のスキルが無いからこそ、そのスキルを持つエンジニアやデザイナーなどクリエイティビティを持っている人に最大限リスペクトを持って接しています。また、そういう人たちから出るアウトプットが世の中を変えていくと思っています。
ただ、様々な理由により自身のアイディアやクリエイティブティを最大限発揮し切れていない方もまだまだいらっしゃると思っています。
そのような人たちをちゃんと成果に結びつけてあげられる仕事がPMとしては天職だと思っています。
Q. 現在、挑戦されていることはありますか?
個人としては事業レベルでビジョンやあるべき姿を描き、その状態に持っていくための戦略作りをひたすらしています。自分一人だけではなく事業責任者の力も借りながら、思考レベルと視座を高める訓練をしています。
スキル開発のアプローチとしては、事業責任者との1on1の中で自身の考えを壁打ちする形で泥臭くやっています。
その方の考え方をインプットする事が手っ取り早く、効果的なHowだと考えて取り組んでいます。
マイルールは、他者への想像力を持って仕事をすること
Q. 大切にしているマイルールはありますか?
『他者への想像力を持って仕事をすること』
サイバーエージェント社内でよく使われている言葉なのですが、PMやディレクターは人とコミュニケーションをすることがメインの仕事だと思っており、関わる相手のことを最大限慮って仕事をすることを最も心掛けています。
また、前述した通り、周囲のメンバーのクリエイティビティを最大化することで成果を最大化することに取り組んでいるため、その人たちのモチベーションが下がってしまうとか、動きづらくなってしまうことを極力排除したいと思っています。
僕の性格もあると思うのですが、「あのシーンではこう表現しておけば良かった」と言葉の一つ一つに対して、寝る前に振り返って反省することがあります。(言葉の語尾レベルでも)
Q. 他者を理解しようとするにあたって、リモートでのやりづらさはありませんか?
一般的にはあるんだと思いますが、僕はリモートになってもあまりやりづらさを感じていません。
性格的に気にしいで、人の顔色を伺う性質から敏感になっているのかもしれませんが、オンラインMTGでの声色やチャットでの返信速度などで変化を感じ取って、個別にDMを送って様子を聞くようにしています。
※これは加納さんの特殊能力ですね!リモート環境下でのチームマネジメントに有効なスキルと思われる(by PMノート運営)
Q. 他者を理解するために、プロダクトチーム内で何か工夫や取り組みをされていますか?
雑談コミュニケーションを通して、腹を割れている状態を作り、個人間の関係構築を行うことを意識しています。
そもそも、腹を割って話ができない人とはいい仕事はできないと思っており、例えば、「好きな人ができた」くらいのことを打ち明けられる関係性を築けている状態が理想だと思っています。なお、友達感覚でなあなあに仕事をするわけではなく、本音をぶつけあえる状態を意図しています。
お互い腹割って話ができない状態で仕事を進めることはストレスでしかなく、誰も幸せにならないと思っています。
Q. 加納さんがそのように歩み寄っても、壁を作ろうとするメンバーもいませんか?
いますが、壊します。
ビジネス上の関係ではなく、人と人とのコミュニケーションとして接することを意識します。
仕事に寄ったコミュニケーションをすると、自分の領域を守ることや自分の領域に閉じこもろうとする人も多くいると思うので、意識的に対ヒトとしてのコミュニケーションを意識します。
加納流、いいチームと質の高い企画の作り方
Q. いいチームをつくるために取り組まれていることはありますか?
『目的を揃え、目指すべきところを明確にする』
目指すべきところを掲げ、分解していった時にあなたたち(エンジニア・デザイナー)が成果を出すポイントや、あなたたちに任せたい領域はここであるということを、分かりやすく枠組みを作ることが大事だと思っています。
事業としてのあるべき形は、僕が事業責任者やビジネスメンバーと連携して決めますが、そこから逆算していった時のプロダクトとして目指すべきところってどういう状態なんだっけ?という部分から、プロダクトメンバーを巻き込んで一緒に決めるようにしています。
Q. 質の高い企画をするために意識していることはありますか?
①どれだけ質の高い仮説が立てられるか
企画のプロセスとしては、KPIを分解して狙いを定め、チームにお題を出してアイディアを具体化していくということですが、
定性観点ではユーザーインタビューを実施してペインを集めるようにしており、定量観点では各導線やユーザー行動の数値を見て、「〇〇から××への線が細くなっているが、ここから導き出せる仮説は何だろう?」と仮説を出すようにしています。
②一つずつ、チームみんなで納得して作っていくこと
仮設出しにおいて、チームのクリエイティビティを活用するために、元データを用意した上でチームみんなでのディスカッションを実施するようにしています。
仮説の精度を上げられることもありますが、仮説に対して全員で腹落ちできる状態を作ることができます。その結果、その次のHowを作る段階ではコミットしやすくなり、「なぜ、これやるんだっけ?」という手戻りがなくなります。
おすすめの本は『すべての仕事は10分で終わる』
Q. PdM向けのオススメの本を教えてください。
かけだしPM向けに、LINE元CEOの森川亮さんの『すべての仕事は10分で終わる』がおすすめです。
この本は社会人になりたての頃に読み始めました。
かけだしの頃は常に仕事に追われていることが多いと思うが、重要なのは死ぬ気で働くのではなく賢く働くことが大事であるということ。何も考えずに手だけ動かす仕事と、自分のアイディアやクリエイティビティを駆使して何かを創造する仕事の大きく2つに分類されるが、その後者により時間を割けるように賢く働きましょう、ということが書かれています。
タスクの分解方法だったり、どのように一本の仕事を区切るか、仕事を溜めないためのルールなど、賢く働くためのHowがたくさん書かれており、若手の頃に読んでおいて良かったと改めて思います。
本のタイトルにもなっているどんな仕事も10分のタスクに切り分けることが大事であるという点は今でも実践しています。
例えば、『〇〇の資料を作る』というタスクはかなり抽象的であり、『資料の構成を考える』など、10分で終わるタスクに分解することが重要です。
この点の本質は、10分に切り分ければ、やる気が生まれてすぐ実行できるようになるという点にあります。
相談乗ります|成果の出せるチーム作りとPDCAの回し方
Q. かけだしPMやこれからPMを目指されたい方のどんな相談に乗っていただけますか?
成果最大化に向けたプロダクトメンバーとのコミュニケーションや、開発組織としてどのようにPDCAを回していくかについて、悩みや課題を抱えている方のお力になることができます!
- チームメンバーが成果に執着している状態をいかに作るか
- 自分だけが熱を持って取り組んでいるが、チームにそれが伝わらず一人でから回ってしまっている状態の方
- 施策や開発進行の全てで自分がボトルネックになってしまっており、PDCAがうまく回せていない状態の改善方法
最後に
加納さんのお話はいかがでしたか?
感想や得られた気付き、気になったフレーズがありましたら、「#PMノート」を付けてツイートしてみてください〜!
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