DX推進組織を立ち上げ、思い付きからのプロダクト開発に挑むNTT東日本のPdM

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NTT下條さんアイキャッチ

今回は、NTT東日本 デジタルデザイン部の担当課長であり、人の作業を効率化するプロダクト『マイバトラー』のプロダクトマネージャーをされている下條 裕之さん@Joe__com)に、仕事内容やキャリア、マイルールなどを伺った。

下條さんは新卒でNTT東日本に入社し法人営業部でのSE職からキャリアをスタートされ、スマートホーム分野の研究開発・商用サービス化を牽引されるなど様々なご経験をされた後に、2019年にDX推進組織を立ち上げられ、現在はデジタル技術戦略や人材育成、『マイバトラー』などのプロダクトマネージャーなどを担当されている。

自分たちが本当に欲しいと思えるものを作ることを大事にしながら、あえて従来のやり方と異なる「ビジョン思考」を用いてプロダクト開発に挑戦されたストーリーや、サンクコストに引っ張られずに勇気を持って原点に立ち戻ることを実践されている点、及川卓也さんの言葉もご紹介いただきながら語っていただいたプロダクト愛の大切さなど、大企業でプロダクトマネジメントに取り組む方にとっても気付きの多い内容である。

この記事は100人100色のプロダクトマネージャーのリアルを知るためのインタビュー記事「PdM Voice」の連載第21回目の記事である

DX推進組織の担当課長であり、人の作業を効率化するプロダクトのPdM

Q. まずはご自身の仕事について教えてください。

NTT東日本のデジタルデザイン部という2019年に新しくできた組織の担当課長として働いています。
NTT東日本と言えば、ネットワークや電話のイメージが強いと思いますが、デジタルデザイン部は、AIやIoT、DX(デジタルトランスフォーメーション)などを推進するための組織です。
デジタル(AIやIoT、DXなど)をやっているという認知度を上げていくために、『D3-ディーキューブ-』(https://www.d3.ntt-east.co.jp/)というオウンドメディアを立ち上げ、運営しています。

また、我々の組織では社外のお客様のDXを推進することをミッションとしているのですが、昨今のニューノーマルな働き方が求められている状況を捉えて、「人が業務を行う上で付随する作業の効率化を行うこと」に着目をし、あなたの執事『マイバトラー』(https://journal.ntt.co.jp/article/13665)というプロダクトを作っています。

メイン業務のデジタル化ではなく、面倒臭いことを代わりにやってくれるあなたの執事をコンセプトとしていることから『マイバトラー』という名前を付けました。
マイバトラーには複数の機能が存在するのですが、各機能は『〇〇バト』と命名しており、その名前から鳩のキャラクター『バト君』を採用しています。(組織のメンバーがバト君をデザインしてくれました。)

一例になりますが、コロナ禍においても、会社の代表番号にかかってくる電話応対のために出社しなければならない人がいると思いますが、その作業を無くしたいと考えました。
(ちなみに、コロナ禍で我々の組織はほぼリモートワークに移行していたのですが、周りの部署から電話が鳴っていてうるさいと指摘されたことがあったのですが、そのためだけに出社したくないという思いから、この機能の開発を決めた、という裏話もあります。)

このケースの場合は、会社の代表番号にかかってくる電話の応答をIVR(Interactive Voice Response)で自動応答し、AIで解析し、テキストデータを指定先へメールで自動で送信するという、電話のAI(人工知能)自動応答機能『テルバト』を作りました。

他にも、複数人でのMTGを行うような時に日程調整やZOOMリンクの発行などを自動化してくれるバト(機能)やメンバーの勤怠管理を効率化してくれるバト(機能)なども存在します。

Q. 人の作業の効率化に着目された経緯を教えてください。

弊社における従来のプロダクト開発は、キッチリカッチリやって絶対に成功するものしか世の中に出さないという一般イメージがあると思いますが、デジタルの取り組みを推進していることを対外的に発信し固定観念を壊すことも求められているため、従来のやり方ではいけないと考えておりました。
また、デジタルデザイン部をつくった時に、弊社の副社長から「今までのことは気にするな。自由な発想でやって欲しい」と心強い言葉をいただきました。

そのような背景から、従来の思考方法では新しいものは生まれないと考えて、『ビジョン思考』を取り入れることにしました。
『ビジョン思考』とは、一言で表現すると「思い付きから始めよう」という思考法です。
有名な事例としては、iPhoneやAirbnbの誕生がビジョン思考と言われています。

「自分たちが仕事する上で何に困っているか?」について、自組織内でディスカッションを行なったことがあったですが、「俺は仕事したくないんだよな。」と言うメンバーがいました。
(従来の考え方であれば、すぐに否定されてもおかしくないような発言でしたが、)そのメンバーに「仕事は全て嫌いなのか?」と問いかけてみたり、他のメンバー含めて会話する中で見えてきたことがありました。
それは、「クリエイティブな楽しい仕事はやりたい(が、作業はやりたくない)」とみんな思っているということです。

ここから、人のやっている作業を無くす(効率化する)ことはみんな求めているのではないか?と思い、マイバトラーの着想を得ました。

Q. マイバトラーに関する今後の計画などを教えてください。

そもそも自分たちが欲しいものを作っているので、まずは自分たちで使ってみるところから始めました。
次に、社内への展開を進め、3種類のバト(機能)の社内展開が済んでいますが、「これが欲しかったんだよ」という声をもらっており、良い滑り出しとなっています。

今後について、我々のミッションはお客様のDX推進であるため、お客様への展開も進めていきたいと考えています。
従来、弊社はニーズ思考でのプロダクト開発が多かったのですが、シーズ思考で進めているこのプロダクトをサービス化まで到達させることは弊社にとってもとても意義のあることだと考えています。

Q. プロダクトマネージャーとして誇らしい実績を語ってください。

『マイバトラー』を生み出せたこと、また、そのプロセスに誇りを持っています。

そのプロセスとは、着実にマーケティングして、ニーズ調査を行なってからプロダクト開発を行うのではなく、思い付きから始めて(ビジョン思考を用いて)、立ち戻る決断もしながらプロダクトマネジメントを実践し、社内でプロダクトの利用が開始されるまでに至ったことです。

今振り返っても、プロダクトマネージャー次第で結果は変わっていたと感じる局面が多かったので、私が担当したからこそ現在の結果があると自負しています。

ニーズ思考から抜け出し、シーズ思考でのプロダクト開発に挑戦

Q. 所属組織におけるPdMのミッションを教えてください。

シーズ思考で自分たちで生み出したプロダクトを商用化まで持っていくことが我々のミッションです。

弊社では新しいビジネスが立ち上がって子会社が設立されることがよくあるのですが、その際のシステム開発を行うことも我々の組織の業務として行なっています。
そのような場合には要求を元にしたニーズ思考でプロダクト開発を行うことが多いのですが、それだけでは頭打ちになることから、シーズ思考でのプロダクト開発を行うことが必要だと考えています。

一般的には当たり前に感じる方も多いと思いますが、良い意味でも悪い意味でも、組織ごとに責務が細分化されていることから、そのような広域な責務を持っている者はほとんどいない状態なのです。そのため、我々の組織でそれを実現したいと考えています。

Q. プロダクトマネジメントトライアングルを元に、具体的な業務範囲を教えてください。

自組織において内製化を推進していることもあり、開発とビジネスを繋ぐ領域の仕様策定や社内外調整、プロジェクトマネジメントなどはメインとしてやっています。
顧客と開発を繋ぐ領域のデザイン(ロゴやUIなど)やターゲット選定のためのデータ分析、技術サポートなども同じく。

ビジネスと顧客を繋ぐ領域については、これから商用化を目指していく状況なので、一部パートナーシップなどは水面下で進めている状況はありますが、マーケティングやビジネスディベロップメントなどこれからといった状況です。

Q. プロダクトマネージャーの前に、組織の課長職でいらっしゃると思うのですが、どこまでご自身で手を動かされているのでしょうか?

少し前までは、メンバーが少なかったことや私が最もプロダクト開発経験が長いこともあってかなり手を動かしていました。

しかし、最近は新しいメンバーにご入社いただいたこともあって、各領域におけるマネジメントは行なっていますが、実務についてはチームメンバーに任せています。

例えば、私がプロジェクトマネジメントを担い、プロダクト仕様やデザインについての方針を決めて、詳細な仕様策定やデザイン制作はメンバーに行なってもらっています。

Q. 『マイバトラー』シリーズにおいて、プロダクトの方針策定は下條さんが行われたのでしょうか?

私が中心となって推進しましたが、方針や重要な意思決定にはメンバーを巻き込んでチームで行ないました。

そもそも、チームで仕事をする上で、役割(PdMとPjM)や役職(課長とメンバー)などの違いにおいて、どっちが偉いということはないと考えており、この考え方を大事にしています。

方針を立てなきゃいけないミッションを持っているのが課長であるだけで、誰かがと言うよりはチームとして上手くいくためには、何が最適なのかを考えて行うようにしています。

キャリアを通して大事にしてきたことが、実はプロダクトマネジメントだった

Q. どのようなキャリアパスでPdMになったのでしょうか?

新卒でNTT東日本に2006年入社し、初めは法人営業部でSEを経験しました。
2009年から研究開発センタというR&Dの組織に移り、スマートホーム分野の研究開発から商用サービス化までを牽引しました。
世界で初めてルーターにアプリを搭載する技術を商用化したのですが、世界中から注目され、ドイツの通信キャリアとの共同研究などを行いました。

2019年に、上司と共にデジタルデザイン部を立ち上げ、現在はAI/IoTを始めとしたデジタル技術戦略や人材育成、『マイバトラー』などのプロダクトマネージャーとして従事しています。

社内では課長職であり、プロダクトマネージャーというロールは存在しないのですが、プロダクトマネジメントの概念を知った時に、「今まで自分がプロジェクトやシステム開発を行う上で大切にしていたことは、プロダクトマネジメントだったのか」と気付き、そこからプロダクトマネージャーと自称するようになり、自組織のメンバーに対してもプロダクトマネジメントを大切にしようと伝えるようにしています。

Q. プロダクトマネジメントに出会われたきっかけは何だったのでしょうか?

NTTコミュニケーションズの技術顧問である及川卓也さんが出版された『プロダクトマネジメントのすべて』を読んだことがきっかけでした。

それまで、自分はプロジェクトマネージャー(PjM)だと自己認知していたのですが、いつも周りのPjMとのギャップを感じていました。
そのため、自分が大事にしていることがプロダクトマネジメントだったと気付いた時にとてもスッキリしたことを覚えています。

スマートホーム分野のR&Dを行なっていた頃も、業務として求められている訳ではありませんでしたが、お客様の声を聞きたいとお願いしてヒアリングさせてもらったり、お客様がどうしたら使いやすいのか?というUXなどを考え改善していたので、振り返るとその頃からプロダクトマネジメントを実践していたのだと思います。

Q. 周囲のPjMとギャップがあったその行動の原点はどこにあるのでしょうか?

入社当時から「自分が欲しくないものを作ったってしょうがないじゃないか」と思っており、そのマインドによるものだと思います。
法人営業をしていた頃も「お客様から言われたものをそのまま作るなんて、意味ないじゃないか」と思って先輩に意見し、先輩からは「やれるもんならやってみろ」と文句を言われ、結局上手くいかずに悔しい思いをしたなんてこともありました。

少し話は逸れますが、先日、及川卓也さんがNTTグループ社員向けに講演してくださったのですが、その中でこのような言葉を熱く語られていました。

「なぜこんなに自分たちのプロダクトをバカにするのか?」
「なぜ自分の会社はダメだと言うのか?」

私は、前述の通り、自分が本当に欲しいと思うものを作るように努めており、現在はそれを実現できていて、自分たちがやっていることは最高だと思えているからこそ、及川さんの言葉に共感する部分がありました。
改めて自分たちのプロダクトや会社を誇りに思うことを大事にし、メンバーや社内に伝えていく必要があると感じました。

下條さんが大切にする4つのマイルール

Q. 大切にしているマイルールはありますか?

大きく4つあります。

1つ目は、最も大事にしていることなのですが、楽しく働くことです。
明日もみんなで仕事したくなるような雰囲気作りやモチベーション高く働けることを何よりも優先しています。
極端かもしれませんが、チームで雑談を2時間してもいい、と思っています。

2つ目は、役割に固執した縦割りの仕事の進め方をしないことです。
経験則から良いプロダクトには繋がらないことを実感しているので、お互いの領域に対して意見し合うことなど、縦割りではなく横に染み出して繋がり合って仕事をすることを大事にしています。

3つ目は、一度決めたことであっても間違っている、もしくは世の中的に違うと気付いた時点で原点に立ち戻ることです。
「決めたことなのだからこのまま行こう」という声もあったりするのですが、今までかけたコストや時間がムダになったとしても、本当にお客様や自分が欲しいと思えるものでないと意味がないと私は考えています。

4つ目は、自分の作っているプロダクトが最高であると信じて疑わないことです。
前述の通り、自分が欲しくないものを作ってもしょうがないという考えでプロダクト開発に取り組んでおり、自分たちが作っているプロダクトのことを純粋に好きだと思えていることが大事だと思っています。

Q. 「原点に立ち戻る」の難易度は高いと思いますが、過去どのようなご経験がありますか?

『マイバトラー』も詳細化を行うに連れて、段々と現実的なアイディアにまとまってしまい、「もともと何をやりたかったんだっけ?」と立ち戻る経験をしました。

現在は「コロナ禍におけるニューノーマルな働き方が求められている状況であることを捉えて、人が業務を行う上で付随している作業の効率化を行う」と掲げていますが、実は、構想としてはコロナ禍の状況になる前の2019年頃から開始していました。
原点に立ち戻りながら本質を求めて探求する我々の営みと世の中の状況の変化とが交わったことで、現在のプロダクトの形を見出すことができたと考えています。

プロダクトマネージャーには、戻す勇気が必要だと思います。

いいチームに最も大事なのは人間関係である

Q. いいチームをつくるために取り組まれていることはありますか?

マイルールの1つ目とも繋がるのですが、最も大事なのは人間関係だと思っています。
雑談や相談がしやすいような雰囲気作りや、率先してムダ話をするようにしています。

毎週月曜日は週末の出来事などをメンバーに話をするようにしていて、例えば、週明けには「PMノートのインタビューを受けたんだけど、私が喋りすぎて15分押しちゃったんだよね。」とメンバーに話をすると思います。笑

また、新しく入ってきたメンバーと既存メンバーとの関係性作りも大事にしていて、会議が早く終わった時に、残り時間をあえて雑談時間にしてしまい、新しいメンバーと関係性が薄いメンバーのコミュニケーションを促したりしています。

社内3万8000人のユーザーの声で企画の質を上げる

Q. 質の高い企画をするために意識していることはありますか?

前述の通り、従来のやり方ではなく、ビジョン思考を採用して思い付きから始めたということは今回工夫した点です。

その他には、『マイバトラー』は人の作業の効率化に着目しているので、「自分たちが本当に欲しいかどうか」が企画の質を高める上で大きな要因となっていると考え、ユーザーの声を重視しました。

将来的にはお客様向けに提供していきたいと考えており、その前のPoC(概念実証)の位置付けで社内への提供に向けて進めてきましたが、社内にユーザーとなり得る3万8000人のプロパー社員がいることを強みとして捉え、この人たちが欲しいことは何かということを大事にしてヒアリングを行ないました。

自分たちの周りにたくさんのユーザーがいるという状態だったので、事務作業の多い方やハイレイヤーのマネジメント職、その他様々な属性の方に対してユーザーヒアリングをしっかりやったことで、企画の質が高まったと考えています。
今回の取り組み中で改めて、ユーザーの声がとても重要であることを実感しました。

NewsPicsの取材でも話をしているので、ご興味ある方はご覧ください。
https://newspicks.com/news/5682085/body/

おすすめの本は『プロダクトマネジメントのすべて』

Q. PdM向けのオススメの本を教えてください。

プロダクトマネジメントのすべて

教科書や辞書みたいなものとだと思っていて、プロダクトマネジメントを体系的に学ぶために最適な本だと思います。
メンバーにオススメして読んでもらっており、私自身も業務の中で立ち止まって考える際に頼りにしています。

最後に

下條さんのお話はいかがでしたか?
感想や得られた気付き、気になったフレーズがありましたら、「#PMノート」を付けてツイートしてみてください〜!

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