今回は、外資系IT企業でアナリストの仕事をしながら、複業でSaaSのプロダクトマネージャーをされている渡邉 侑さん(@tasuku_w)にお話を伺いました。
渡邉さんはリクルートで営業・新規事業立ち上げを経験した後、DeNAを経て外資系IT企業に入社されました。
また、サイドプロジェクトとして自らの役割を「ビジネスオーガナイザー」と位置付け、整理をすることを軸にしたプロダクトマネージャーを担っています。
カオスな状況を整理するのが大好きだと語る渡邉さんらしく、様々な角度で整理・言語化されたお話が伺えました。特に今回はプロダクトマネージャーに限らず、様々な職種の方にも役立つ内容となりましたので、是非ご覧ください!
この記事は100人100色のプロダクトマネージャー(PdM)のリアルを知るためのインタビュー記事「PdM Voice」の連載第5回目の記事です。
(文章:竹村 淳(@juntakemura_pdm))
目次
〜仕事について〜 本業でアナリスト+複業でプロダクトマネージャー
Q.まずは渡邉さんのお仕事について教えてください。
メインの仕事は「アナリスト」というジョブタイトルで、会社の売上分析などを通じて営業の方々の目標数値を決める仕事をしています。
トップダウン・ボトムアップ・機械学習での予測数値の3つを元に、ファイナンスボードが判断する材料を提供するといった仕事です。
Q.なるほど。プロダクトマネージャーはサイドプロジェクトでされているのですか?
今はそうですね。
外部でのお仕事として、主に新規プロダクトのプロダクトマネージャーをリモートで担当しています。直近だと、既にある複数のSaaSをまとめるようなプロダクトを作っています。そこではリソース・タイムラインの交渉からできるので、より一層やりがいもありますね。
Q.具体的にはどんな役割をされていますか?
プロダクトオーナーが描いた青写真をプロダクトとして何とかする役割です。
業務としては
・市場のトップラインを見積る
・ワイヤを引く
・決済システムのベンダーとの仕様調整
・要件定義・ディレクション
など幅広くやっていますね。
Q.本業がありながら、複業でその量の仕事はすごいですね…。
もちろん量は多いのですが、クリティカルなところを必ず抑えられるように意識していますね。
例えば、無駄な会議やコミュニケーションロスを発生させないために、ドキュメントなどの準備をしっかり行った上で、一度の会議で99%決めきるなど。
会議やコミュニケーションの質を上げることにこだわっています。
また、「複業だから」といったような線引きをあまりせず、必要だと思ったことはやるようにしていますね。
〜これまでの経歴〜 得意な整理力を生かし「ビジネスオーガナイザー」に
Q.どのような経緯で今の仕事をするようになったのでしょう?
新卒でリクルートに入社しました。
初めはホットペッパーの営業をしていたのですが、極度に型化が進んだ組織の中での営業活動がいまいち面白くなくなってしまい、更なる成長機会を求めるようになりました。
1年ほど営業を経験した後に、当時のマネージャーに相談したところ、運良くショプリエという新規プロダクトの立ち上げに携わることになりました。
立ち上げ当初はサービスに携わる人が3人だったため、申込書のテンプレート作成からSQLを書いてのデータ抽出まで、何でも屋として動いていました。最終的にはプロダクトに関わる人は70人ほどに増えたのですが、その過程で気がついたらロールがプロダクトマネージャー的になっていたという形です。
リクルートには4年半ほど在籍し、その後DeNAに入社しました。
リクルートは今でも大好きな会社なのですが、ビジネスモデルも相まってユーザーよりクライアントを重視する傾向があり、それにもどかしさを感じたことがきっかけでした。ユーザーに反響のある機能を作っても、「クライアントに説明ができないから」という理由でNGになることもあり…そんな中で「不格好経営」(DeNA南場氏著)を読み、DeNAという会社がユーザーを大切にする精神に感銘を受けたのです。
そのような経緯でDeNAに入社し、キュレーションメディア事業部の何でも屋担当として入社したのですが…ご存知の騒動が少しずつ起き始めたタイミングでした。当時は、クライアントへ謝罪周りなどもしていましたね(苦笑)
その後、事業部が閉鎖することになり、私はオートモーティブ(自動運転)の事業にアサインされました。ここでは、地方の路線バスを自動運転にリプレイスするということを目指していました。ところが、山間地域ではGPSの精度が劇的に落ちる課題がありました。それでは交通事故につながってしまうので自動運転としては成り立たないわけです。
それを受けて要素技術レイヤーから要件定義をし直すなどの動きをしましたが、実現するには数年かかってしまうという結論になり、もどかしい状況でした。
一方でその頃、ストレスフルな日常が大きな悩みの種でした。その頃からマイクロマネジメントされたくないと感じており、マネージャーが物理的に離れている外資系の会社で働きたいと考えるようになりました。
そんな中で今の会社とご縁があったという経緯です。
Q.なかなか波乱万丈ですね(笑)サイドプロジェクトはどのように始められたのでしょう?
サイドプロジェクトは、リクルート在籍時から行なっています。
何でも屋として、シード期のベンチャー企業等を複数お手伝いさせて頂いてました。ビジネス周りはあまり線を引かず何でもやっていたので、当時ある社長さんが僕のことを「レンタルCOO」と呼んでくださっていました。
他にも幾つか新規事業に携わらせて頂く過程で、ジョブディスクリプションにプロダクトマネージャーと書くことが多かったのですが、そのうち「プロダクトマネージャーとは何か?」ということに疑問を持つようになったのです。
プロダクトマネージャーというと、
・会社によって役割が違いすぎる
・常駐できる人を求めている
ということがあるのですが、「自分は本当にプロダクトマネージャーなのだろうか?」」というアイデンティティクライシスに陥ったのです。
そこで自分なりに思考を整理した結果、プロダクトマネージャー=「プロダクトをなんとかする人」という結論に達しました。「manage = 何とかする」という意味からの考えです。
人事だろうと経理だろうと世の中の仕事は、拡大解釈すると全てプロダクトマネージャーだと言えると思うんですよね。
そういう意味で、PdMはジョブタイトルでは無く、プロダクトを何とかするというマインドセットだと考えています。
PdMに限らず、開発メンバーからバックオフィスまで、どんな職種の人でも、職務領域を線引きするのではなく、領域を染み出してプロダクトを何とかしていくマインドセットが必要になるんじゃないかなと。それが組織に浸透すると、組織全体はすごく強くなるんじゃないかなと思います。
その中で、プロダクトマネージャーは最もコミットメント(=覚悟)が求められる、最強のジェネラリストだと言えます。
ただ、最強のジェネラリストといってもかなりふわっとしていて何ができる人なのか上手く伝わらないので、もっと特徴的な名前をつけたかった。
前述の通り、以前は「レンタルCOO」と銘打っていたのですが、それも胡散臭く感じる人がいるかなと思い(笑)
プロダクトを何とかするために、自分の強みを生かして何ができるか。
そんなことを考えた時に、カオスな状況を整理(organize)することが得意だったので、「ビジネスオーガナイザー」と名乗り始めました。
Q.ビジネスオーガナイザー。非常にユニークですね。整理が得意なのはいつからなのでしょう?
整理が好きなのは新卒の営業時代からですね。
営業の提案も自分なりに整理をして、「コア提案」と「フリンジ提案」の2つがあると提唱していました。
・コア提案:商材そのものを売る提案
・フリンジ提案:コア提案を売るためのボディーブローのような提案
例えば、ホットペッパーに掲載してもらうのはコア提案なのですが、そもそも接客やお店の雰囲気などの下地がしっかりしていないと意味がない。お店に新しいお客さんを連れて来るのは広告の仕事ですが、そのお客さんをリピートさせるのは90%以上お店の力です。
その下地を作るためにお店の内装を改造したり、シェフと二人三脚でメニュー開発したり、接客マニュアルを刷新したりする、といったことがフリンジ提案にあたります。
フリンジ提案をすることで中長期的にオーナーの信頼を獲得し、最終的にコア提案が売れるんですよね。
この方法を実践して営業時代の最後の方はほぼインバウンドで受注していました。
「#9_僕が勝手に考えるセールスの極意」というタイトルでnoteにも書いているので、ぜひ読んでみてください。
Q.すごいですね…今の仕事で整理力が役立っている部分はありますか?
整理という文脈では、ドキュメントの整理や、KGIからのKPI分解なども得意ですね。
KGIが売上だとすると、顧客数×単価に分解できて、さらにそれぞれを分解すると…と落とし込み、具体的なKPIにしていき、レバレッジポイントを見極めにいくと思いますが、意外とできる人が少ないと感じています。
私はこういう整理も好きで自然とできるので、そういう意味では貢献できていると思います。
Q.整理が好きになった原体験はありますか?
濱口秀司さんが「イノベーションは構造化したものを壊さないと生まれない」ということを言っていて、それが強く刺さっています。
例えば、桃太郎を新しい物語にするには、「桃以外のものから生まれてくる」など、直感的に一部分を変えるのではダメなんですよね。
桃太郎というヒーロー物語を構造化して、バイアスブレークする必要があります。
例えばですが、
・チーム戦である
・勧善懲悪である
という2軸を考えたとします。
次に、その軸の対極を考えて構造化してみるわけですね。
・チーム戦↔︎個人戦
・勧善懲悪↔︎グレーなパーソナリティ(鬼側の気持ちも分かる)
つまり、「チーム戦 x 勧善懲悪」な桃太郎は対角線上にあたる
「個人戦 × グレーなパーソナリティ」
という軸で物語を書くとバイアスを破壊した新桃太郎ができるという話です。
つまり、一度構造化した上でその構造を壊すというプロセスが必要なんですよね。
これまで、無意識なりにも様々な事象をを構造化していたことが評価されたような気がして嬉しく感じ、より構造化を意識するようになりました。
〜PdMとしての動き方〜 ユーザーを軸に必要なことはすべてやる
Q.少しPdMとしての動き方も教えてください。プロダクトマネジメントトライアングルではどのあたりを担当することが多いですか?
まず、私の考えとして「ユーザーを大切にしたい」ということがベースにあります。
自分の携わっているプロダクトを、自分がユーザーだったら使いたいかということを重視しますね。
ですので、ユーザーに軸足を置いた動き方をすることが多いです。
ただし、その時必要なことになったことは全てやるというスタンスなので、そういう意味では幅広くやっています。
例えば、リクルートの新規事業立ち上げの時は、自分の携帯をサポートの問い合わせ先に設定しておいたため、休日でも50件くらい電話がかかってくるなど…笑
採用関連の仕事もやっていましたし、ワイヤやプロトタイプを作ったりもします。
Q.サイドプロジェクトではPdM2名体制とお聞きしましたが、どのように役割分担されているのでしょう?
もう一人のPdMと、お互いの得意なところをやるように役割分担をしています。
その方には開発担当との調整を中心にやっていただいており、私はビジネス周りの整理や、全体最適を中心に行っています。
〜大切にしていること〜 10個以上のマイルール、すべてはプロダクトを前に進めるために
Q.大切にしていること、マイルールなどがあれば教えてください。
細かいものも含めると10個以上あるのですが…大きくは3点ありますね。
死んでもHands-On
とにかく自分が手を動かすことにことだわります。
周りの人が動きやすくするのがプロダクトマネージャーの仕事だとすると、そのための準備は超重要だと思っていますので。
準備のために自分がしっかり手をかけるようにしています。
Radical Transparency
「徹底した透明性」という意味です。
サンフランシスコの「EVERLANE」というアパレルブランドがあるのですが、服の製造工程やデザイナー・パタンナー、輸送費、利益など、全ての価格構造を消費者に開示して価格を提示しているのです。
消費者からしたら納得感をもって買えますよね。
プロダクトやプロジェクトも同じような要素があって、全員が納得して動きやすい環境を作ることが大事だと思います。
その中で情報の透明性は重要です。
透明性を確保するために、私は必要なドキュメントは必ず共有して見られる状態にしますし、どのドキュメントがどこにあるのかがわかるようなディレクトリ構成にもこだわります。チャットに投げっぱなしの資料も必ず共有フォルダに残すようにしますね。
また、本当に機密性が高い情報以外は、基本的にオープンにします。
開発内部の資料も、隠す必要がないので共有フォルダに入れています。
その資料を見て役に立つかどうかは別として、オープンになっていることで全員の安心感につながると思います。
Fact Driven / Data Driven
ファクトやそれを形成するための正しいデータを大事にしています。
納得感のある意思決定のために、不可欠ですね。
Q.いずれもプロダクトを進めるには重要な内容ですね…!それ以外に大事にされていることも教えてください!
光速を意識する
レスポンスの早さにはこだわっています。
素直でいいやつでいる
例えば、何かアイデアをもらった時でも、絶対に否定しない。
必ず「これいいですね!」というリアクションをする。
本当に実行するかどうかは、改めて持ち帰って検討して回答するのですが、一発目のリアクションで素直な反応をしていると、自然とアイデアやアドバイスが集まってくるんですよね。
自分が準備できていないことをやる
これは元YahooCEOのマリッサ・メイヤーさんの言葉で
「Do something you are not ready to do.」
というものです。
線引きをしないということとも近いのですが、準備できていないことでもいつでもやるというマインドは持つようにしています。
その他のマイルール
他にも…
・人がやらない方向で考える
・失敗は買ってでもする
・10Xから考える
・積極的に謝罪する
・社内に仮想敵を作らない
・メンバーのアクションには必ず反応する
などなど…
また、私自身がリモートで働いているからこそ、はじめの信頼を獲得するところはしっかり準備をして行うようにしていますね。
初めの数回は対面での打ち合わせを重視したり、小さな確認アジェンダでもチームのコンディションに拠っては敢えてMTGをしたり。
Q.たくさんありますが、どれも非常に重要な内容ですね…!一方で、これらをすべて実践するのはなかなか大変だと思いますが、どのように実践しているのでしょう?
はじめは意識してやっていますが、徐々に自然とできるようになってきますね。
これらの取り組みはすべて、プロダクトが前に進むために必要だと思っています。
プロダクトを何とかするために必要なことは何でもやる、という考え方ですね。
Q.なるほど。「何でもやる」というワードが何度か登場していますが、その源泉になっているものはあるのでしょうか?
好奇心が強くて、わからないことをわかるようになりたいという思考なんですよね。
だから、何でもやってみたくなる。
そして、やってみた結果の小さい成功体験も大きいと思います。
例えば定例会議前の資料更新のリマインダーをGoogleAppsScriptで作る、みたいなことも今はネット上に7割くらいできているものがあったりします。
それを参考に自分で作ってみると、「お、やってみたらできるじゃん」という成功体験になるわけですよね。
これを積み重ねていくと、知識習得や深掘りの入り口になったりするので、大事だなと思っています。
また、悩む暇があったら手を動かすのが行動力につながっているかもしれません。
悩みって、個別の問題が脳のキャパシティを超えた時に漠然とした不安に昇華した状態なのですが、それを解消するには、書き出すのが一番です。
私も悩み始めそうになったときはすぐに問題を書き出すようにしています。
そうすると行動が明確になり自然と行動するようになっていきますね。
〜数年後の目標〜 常にできることを増やし続ける
Q.5年後などの目標はありますか?
数年後に自分も世の中もどうなっているかわからないので、あまりしっかりと決めていることはないです。
むしろ、自分が日々ボトムアップ的にできることが増える状態が幸福感が高いですね。
できることが増えた結果、変化する時代に対応できる状態でいることが一番だと考えています。
〜人生に役立つ思考法を展開するpodcastを運営中〜
「Tasukuの Today’sライフハック」| 毎週水曜更新
このチャンネルでは、「カオスを整理する」ビジネスオーガーナイザーとして活動する渡邉侑がビジネスからライフスタイルまで、様々なテーマを整理し、人生に役立つ思考法を展開していきます。
〜最後に〜
渡邉さんのお話はいかがでしたか?
私もPdMとして仕事をする中で特に以下の3点は非常にためになり、共感もできる部分でした。
・プロダクトを何とかするために、職務領域に線引きをせず、必要なことは何でもする。
・クリティカルな部分を抑えるように意識する。
・徹底的に透明性にこだわる。
他にも、渡邉さんのマイルールやそれぞれの構造化されたお話は、PdMに限らず様々な職種の方に役立つ内容だったのではないかと思います。
渡邉さんにオンライン相談できます!
PMノートでは、先輩PMにオンライン相談ができます。
もちろん、渡邉さんにもご相談可能です!
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