100人の壁を越えた組織に存在するしがらみを解くことを得意とするグロービス PMから学ぶ!活躍するフィールドの見つけ方

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今回は、グロービスでプロダクトマネージャー(以下、PM)を務める久津 佑介さん(@Nunerm)に仕事内容やキャリア、マイルールなどを伺った。

久津さんは、新卒で凸版印刷に入社し、社内SEやインフラエンジニアを経験した後に、リクルートで様々なプロジェクト経験を積み、CAMPFIREで新規事業のPMを担い、現在に至る。

超大企業、メガベンチャー、ベンチャーで働いたからこそ、100人の壁を越えた組織に存在するしがらみを解くことが自身の価値発揮ポイントであると気付き、現在はグロービスでtoB/toC × 国内/海外の4つ領域を担当するDirector of Productとして活躍されているストーリーは参考になるはず。
また、プロダクト組織を強く、プロダクトを良くすることに取り組んだことで培われたInfluencing Peopleスキルや、ビジョン・ロードマップ策定において合理性重視のリクルートとは対照的でエモーション重視なCAMPFIRE(新規事業)での失敗体験も一読の価値あり!

この記事は100人100色のプロダクトマネージャーのリアルを知るためのインタビュー記事「PdM Voice」の連載第35回目の記事である。

グロービスでtoB/toC × 国内/海外の4つ領域を担当するDirector of Product

PMノート マツバラ(以下、PMノート):まずはご自身の仕事について教えてください。

久津:株式会社グロービスのデジタルプラットフォーム部門でPMをしています。
グロービスは創業して30年ほど経ちますが、もともと大学院や法人研修のような非デジタル商材を扱っているところに、2016年に新規事業の位置付けでデジタルプラットフォームが立ち上がりました。

担当するプロダクトはいくつかありますが、メインは最もユーザーが多い『グロービス学び放題』と海外向け英語版の『GLOBIS Unlimited』の2つになります。
どちらもビジネススキルを中心とした学習コンテンツを提供する動画サービスで、ユーザーとしてtoCもtoBも両方になるため、toB/toC × 国内/海外の4つの領域を見ています。

少し前までは、toBの国内/海外における長期戦略を担当していたのですが、事業状況の変化に合わせて、やりやすいように領域の切り方や体制を変えることになり、私はDirector of Productとして全体を見ることになりました。

この変化によって、スクラムにおけるPOの役割は担わなくなり、全体の整合性を取ったり、フォーカスポイントを決めてそれに対して組織を動かすことなど、全体を俯瞰して広くマネジメントする方向にシフトしています。

PMノート:toBの国内/海外における長期戦略を担当していた頃は、どのようなポジションだったのですか?

久津:Scrum@Scaleを採用しており、チーフプロダクトオーナー(CPO)に担っていました。

簡単に説明すると、それぞれスクラムをやっているPOがいて、そのPO間でスクラムみたいな感じでやっていく中の最終意思決定者みたいなポジションです。

しかし、PO間でのスクラムサイクルが上手く機能せず、見直した方が良い判断を行い、今回の変更に至りました。

超大企業、メガベンチャー、ベンチャーで働いたからこそ見えた自分の価値発揮ポイント

PMノート:続いて、これまでのキャリアについて教えてください。

久津:

1社目(新卒入社):凸版印刷株式会社

最初は、凸版印刷株式会社の社内SE職としてエンジニアからキャリアをスタートしました。

余談ですが、大学の専攻は生物学で、営業職志望で就活をした結果、縁あって凸版印刷に内定をいただきました。本当は営業職として入社したのですが、入社後に社内システム部門で働いてくれと言われ、たまたまエンジニアになることになりました。

一からJAVAを勉強し、案件を受注してから工場に商品情報を流して、生産ライン管理して、納品したら売上を管理して会計処理するというような製造業の一連の業務プロセスを対象とした社内システムの開発を行っていました。たまに、上流の要件定義もやったりしていました。

その後、プライベートクラウドの基盤を作って運用する業務なども経験し、5〜6年後に株式会社リクルートテクノロジーズ(現 株式会社リクルート)に転職をしました。

社内SEはあまり外の世界に触れる機会が少なかったため、井の中の蛙というか、このままだとまずいという感覚がちょっとずつ出てきて、当時の上司に相談したら「若いうちから外も見て自分の市場価値を考えた方がいいよ」と言ってくれました。重ねて、インフラチームにいたのでベンダーさんと仕事をする機会が多く、たまたま同い年のエンジニアの方がいたのですが、彼が凄まじく優秀で「こんなにも違うのか」と衝撃を受けました。そこから外部の勉強会やイベントに参加したり、これまで読んだことないビジネス書を読んだりし始め、少しずつ視野が広がった結果もっと厳しい環境に行きたいと思うようになりました。

その時に思いついた会社が、リクルートでした。

順調に選考が進んでいったのは良かったのですが、元々はエンジニアで選考を受けるつもりだったはずが、途中でプロジェクトマネジメント部門の募集であることに気付きました。厳しい環境に身を置きたいという目的だったため、「まあ、いいか」とそのまま内定をいただけたので、入社を決めました。

2社目:株式会社リクルートテクノロジーズ(現 株式会社リクルート)

入社後は、プロジェクトマネジメントもしっかり学び、最初は小さいプロジェクトを担当し、少しずつステップアップさせてもらい、最終的にはリクナビなど主要サービスの大規模プロジェクトを担当しました。他に、一年だけ提携しているPontaを運営するロイヤリティ マーケティングに出向し、ポイントアプリのリニューアルなども行いました。

様々なプロジェクトを経験させてもらい、かなり刺激を受け、現在もベースとなるスキルや考え方を身に付けることができました。

また、少しずつプロダクトマネジメントに近いところに触れる機会が増えてきて、ある程度決まったゴールに対してどう組み立てるかが主戦場であるプロジェクトマネジメントに対して、まだ決まっていない状態からゴール設定をどうするかに向き合うところもやってみたい気持ちが出てきました。

さらに、リクルートあるあるか分からないですが、4〜5年いると、全然快適なのですが、周りが優秀だからうまくいってるだけなんじゃないか、会社にお金があるからなんとかできているのではないか、リクルートを離れた時に同じ成功ができるのだろうか、と少し不安が出てきました。

それを確かめるために、ベンチャーに行ってみたいと思い、キャンプファイヤーに転職しました。

3社目:株式会社CAMPFIRE

CAMPFIREでは、入社した後に新規事業が立ち上がる予定があり、そのローンチ後のグロースを担うということで入社しました。

入社後に状況を確認したところ、結構問題もあったため急ピッチで仕上げながらも、金融系のプロダクトだったので、あまり適当に作れないということでしっかりセキュリティなどの要件を確認し立ち上げから参画しました。

ちなみに、社内新規事業で、メインのCAMPFIREとは別のサービスだったので、営業からコンプラも含めて十人ぐらいしかいない状態でした。そのため、もうPMとか言ってる場合じゃないぐらいの守備範囲でやってました。例えば、SNS運用やデジタル広告の設定、社内オペレーションの問い合わせ、ネットワーク関連、採用、金融庁への説明用資料の作成など、新規事業を立ち上げるために何でもやりました。

そんな形でアグレッシブに働きながら一年半ぐらい経った頃に、会社の方針や事業の状況を踏まえ、事業のためにも自分のためにもそうすべきだと考え、転職を決意しました。
と言うのも、会社から求められる役割は、プロダクトをグロースするところよりも、何でもやることへの期待が強くなっていました。また、事業状況を踏まえると、人員を増やして体制拡大していくことが見込めない状況だったため、自分が持っているバリューやスキルが発揮できず、双方にとってもったいないと感じました。

4社目:株式会社グロービス

次に、現職の株式会社グロービスに入社しました。

グロービスを選んだ理由ですが、私のキャリアは、超大企業から始まって、メガベンチャーに行き、次にもっとベンチャーに行ってと、色んなタイプの企業を見てきたのですが、ベンチャーでは自分の強みがそんなに発揮できないことが分かりました。

自分が得意なのは、ややこしい事象を紐解くとか、意図せず生まれてしまっている対立構造やサイロ化した組織を解きほぐしながらプロダクトや組織を前に進めていくことだと再認識しました。
さらに、それが得意な人は世の中にあまり多くない感覚があったので、そうであれば、もう少し大きな組織に行った方が価値発揮できるのではないかと考えました。

と言うことで、メガまではいかずベンチャーでもなく、100〜300人規模の5〜6年目くらいの組織にフォーカスを絞って検討しました。
また、元々教育ドメインには強い興味があったこともグロービスを選んだ大きな理由の一つです。リクルートに転職する時のきっかけが、学習によって視野が広がったことです。この自分の人生のターニングポイントとなった「学習」を価値として届けるプロダクトに携わりたいと思い、グロービスに決めました。

グロービスでは社会人向けに様々な形で学習機会を提供していますが、『グロービス学び放題』はまだまだ課題だらけです。グロービス経営大学院は30年近く運営されてきて、国内ではかなり実績のあるビジネススクールだと思いますが、そのナレッジや蓄積されたデータをまだまだ活かしきれてないと思っています。
この状態が本当にもったいないなと感じています。これはシンプルに社会的損失と思っているので、まずはこのプロダクトのポテンシャルを社会に解放させることをやりたいと思っています。

ミッションは、Why・Whatを決めてしっかり伝えること

PMノート:所属組織におけるPMのミッションは何でしょうか?

久津:グロービスで特に求められるミッションは、ややこしい背景から「何をするか」を決めること、そしてそれをステークホルダーやチームメンバーにしっかり伝えることです。

先ほど、toB/toC × 国内/海外の4つの領域があると言いましたが、さらにグロービスの既存事業である大学院や法人研修とも若干関係があるため、広い視野で意思決定をする必要があります。
例えば、大学院の方だと、『グロービス学び放題』で基本を勉強していただいて、さらに応用を学びたい方には大学院に進んでいただく、というフローがあります。法人研修についても、基本は動画での研修提供を行いながら、リアルの研修も提供するというハイブリッドなサービス提供をするケースがあります。このように様々な事業との関わりが存在するのです。

そのため、ステークホルダーがかなりたくさんいて、優先順位をどうやって決めるべきなのかが論点になることが多いのですが、だからこそ、『何をするのか、それはなぜなのか、どういう効果を見立てているのか』をエンジニアやデザイナーに対してももちろん、ステークホルダーに対してもしっかり説明することが重要になります。

なお、やり方に関しては、得意不得意があると思うので、リサーチが得意であれば、しっかりユーザーの声をもとに判断するとか、分析が得意であれば、データをもとに判断するとか、PMのロールとして「これができなきゃいけない」ということは決めていません。
成果もPM個人がすごいから成果が大きく出る、というような単純な図式でもないので、チームでOKRを作って、チームで成果を出すことを意識しています。

PMノート:お伺いできる範囲で、KGI・KPIの指標を教えていただけますか?

久津:明確に決められているところと決められてないところがありまして、まず決められてるところは、例えばエンドユーザーが学習する画面やアプリに関しては、アクティブ率をKPIに設定しています。
皆さんもご経験があると思いますが、学習というのは油断するとすぐサボってしまいます。ネットフリックスが競合と思うくらい可処分時間をいかに学習に費やしてもらうかが肝なので、習慣を示す指標が重要です。

一方で、法人領域で人事が使う管理画面(従業員の進捗確認や課題を出す機能など)はかなり難しいです。
どのKPIを伸ばすと事業の売上に繋がるという構造が、まだあまり科学できていません。
例えば、人事の方がよく管理画面を見ていると良いのかというとそうではなく、従業員の方が学んでいなかったら意味がないのです。また、従業員の方のトータル学習時間が多ければ良いのかというと、法人の利用目的にも様々なタイプがあるので単純ではなく、必要なコースをピンポイントで学習して欲しい顧客も存在します。

とはいえ羅針盤が無い状態も困るので、ひとまず仮置きしながら並行してデータサイエンスチームと色々と分析をして、プロダクトの指標と事業成果の因果関係を見極めることに取り組んでいます。

PMノート:プロダクトマネジメントトライアングルを元に、具体的な業務範囲を教えてください。

久津:私は、主にビジネスと開発者を繋ぐ領域に重きを置いており、ビジネスの大きな方向性に対して、開発者に向けてどうそれを優先順位付けて、チーム編成や採用計画と繋げるのかというところに取り組んでいます。なるべく個別のプロジェクトマネジメントはやらないようにしており、抽象レイヤーの業務を担当している状態です。

また、ビジネスと顧客を繋ぐ領域については、アライアンスのような話や一部の顧客と先行して新たな研修を開発するような動きをBizDev担当と一緒に取り組んだりしています。

なお、顧客と開発者を繋ぐ領域(デザインやデータ分析、カスタマー/技術サポート)について、以前はハンズオンでやっていましたが、現在は任せている状態です。

PMノート:これまでのインタビュー実績などから、久津さんのような業務範囲のPMの方は珍しいと感じました。久津さんはPM界隈に顔が広いと思いますが、他社のPMの方で同じような業務範囲で働かれている方はいらっしゃいますでしょうか?

久津:それぞれ多少の差はあると思いますが、スタートアップにおけるCPOのロールの方は近いのではないかと思います。例えば、Rettyの元VPoPの野口さんは近い動き方をされていました。また、先日『プロダクトマネージャーのハードシングス』をテーマにしたイベントで、Shippioの森さんが、「方向性を変えるために短期集中で一旦現場に降りる」といった話をされており、近い印象を受けました。
私も、どうしても人が足りないなどで大変な状況のところに短期集中で入ったり、新しいことを進める上でチームビルディングをする時に同じく入ったりしています。

得意な領域は、100人の壁を越えた組織に存在するしがらみを解くこと

PMノート:PMとして得意な領域について教えてください。

久津:しがらみを解くみたいなところかなと思います。

やることが決まっている事業・プロダクトのフェーズや、大きく勝ち筋が決まっている事業ドメイン・プロダクトってあると思いますが、そこではいかに数字を効率よく上げていくのか、勝ち筋を磨き込んでいくのかに取り組むことになると思いますが、これまであまり経験がないこともあり、私じゃなくて良いと考えています。

一方で、私が経験してきたところは、大体ややこしくて、人数の多いところばかりでした。
0-1とかではなくて、ある程度プロダクトがグロースしてきて、100人の壁を越えたあたりのフェーズで、組織やプロダクトのカニバリが起こり始めたとか、うまく歯車噛み合っていない状況が発生し出したという状況の方がフィットします。
そのような状況において、いかに前を向かせて全員のパフォーマンスを出せる状態にするかというところが過去振り返った時に得意なことだと思います。

PMノート:なかなかハードな領域だと思いますが、どのような思いで取り組まれているのでしょうか?

久津:だいたい、みんなやりたくないと思います。
めっちゃ楽しいわけじゃないですし、人間関係の面倒臭い部分に向き合うなど辛いこともあるのですが、これができるようになったら超強いなと思っています。

そもそも絡まっている事象は好きで絡まってしまっているわけではないので、これを適切に解きほぐしてチームや組織が前向きになって、その結果プロダクトの価値が高まりユーザーの課題を解決できたら素晴らしいことだなと思いながら日々頑張っております。
今後、気が変わったり、もう人間関係嫌だ、となる可能性もありますが、今のところそう思ってます。

PMノート:様々な組織規模やフェーズの企業で働いた経験があるからこそ、自己認識を深くされて、戦うフィールドを適切に選択されているように感じました。

久津:ちなみに、そろそろプロジェクトマネージャーと名乗るのをやめようか、どうしようかと考えてます。

『プロダクトマネジメントのすべて』など、様々な書籍が出版されて、世の中的にプロダクトマネージャーの役割について、ある程度共通認識を持ち始めたと思うのですが、私がやっているところは実はあんまり重ならないのですよね。

ちょっと前までは、UXデザイナーやデータサイエンティストなどもロールとして存在していなかった時代(ディレクターみたいな職種に全て包含されていた?)があり、最近はどんどん細分化されてきていると感じています。PMも、PMMやPMOなどに細分化されてきていますが、漏れなく全て定義するのは絶対無理で、隙間が出てくると思うのです。

その上で、私は多分、隙間が得意なのだと思います。
そうなると、完全に合致するロール名は無く、PMと名乗ることによって逆に動きづらくなるくらいなら、あえてPMと名乗る必要もないのではないかという考えです。

プロダクト組織を強く、プロダクトを良くすることに取り組んだことで培われたInfluencing Peopleスキル

PMノート:続いて、12PMコンピテンシーを用いて、久津さんのスキルや強みについて掘り下げていきたいと思います。このフレームワークに基づいて久津さんには事前に自己評価いただいたところ、Influencing Peopleが最も高い結果となりましたが、強みはここでしょうか?

久津:そうですね。グロービスにおいては、この強みを発揮して取り組んでいます。
望んで伸ばしたわけではないのですが、組織として結果的にここで躓くことも多いので、プロダクト組織を強くすることやプロダクトを良くするために取り組んできたら、できるようになってきました。

これまで様々なタイプの組織を経験していることが大きいと思いますが、それぞれの組織で全部価値観が違いました。
凸版印刷は、100年以上続いていて階層が多い組織でしたが、リクルートに転職すると、組織構造も全く違い、マインドセットも違いました。さらに、スタートアップのCAMPFIREはもっと違いました。
他の観点では、リクルートは、めちゃめちゃロジカルな世界で、基本的に全て数字で語るのですが、CAMPFIREは、エモーションで動く人が多いなどの違いがあり、ステイクホルダーとのコミュニケーション・リレーションシップの動き方や、リーダーシップの取り方なども異なりました。

その経験からも、どの環境でも有効な銀の弾丸は無いなと思っています。
環境に合わせてどう変えるかという柔軟さが大事だと思っていて、そういう意味で多様な環境に身を置いたことは財産になっています。

なお、PMはここで悩むことが多いと思うのですが、ご多分に漏れず、色んな衝突とハートブレイクを繰り返しながらここまで来ています。
その時に、書籍でコミュニケーションや心理的な分野、マインドセットなどもインプットするようにしていました。(最終的に仏教まで行き着きました。)

PMノート:Product Strategyのビジョン・ロードマップや戦略理解も自己評価高い領域だと思いますが、どのようにスキル開発されてきたのでしょうか?

久津:まずは戦略理解について、この領域は、リクルート時代から関わるようになりましたが、リクルートの時はどちらかと言うと戦略を考えるのは機能会社所属の私ではなく、リクルートキャリアやリクルートライフスタイルといった事業会社所属のMPと呼ばれるメンバーでした。
リクルートを辞めてから気づいたのですが、その戦略のクオリティがめっちゃ高かったです。そこで、お手本を見られたのは大きかったと思います。

その後、CAMPFIREへ入社し、新規事業の責任者みたいなポジションとなり、今度は自分が作る側になったら全然できないと言う経験をしました。
現在、グロービスにおいて、プロダクト戦略の責任者になっています。事業戦略は経営陣や事業責任者から出てくるのですが、先ほども申した通り、弊社は複雑な変数が多く、「何のためにやってるんだっけ?」「どういう狙いだっけ?」みたいなことを深掘りしないと、正しく経営者の期待と現場を繋げないので、ここはかなり意識しながらやっています。

一方で、自分が理解しただけでは不足しており、結局、ビジョン・ロードマップに言語化してアウトプットすることがセットじゃないと意味がないと思います。

この点も、リクルートがうまかったので、自分の中のお手本になっているのですが、CAMPFIREで痛い目を見ています。
それは、リクルートスタイルでやっても上手くいかないという失敗体験でした。

先ほども少し触れましたが、リクルートは数字ベースでかなり合理性を重視して戦略を決めるのですが、CAMPFIREにおける新規事業では、合理性に疑問符がつくというか、やはりデータもないからこそ、ロジックよりもエモーションで動く部分もかなり多く、人が動かないといった感じでした。
私の経験則では、「絶対正論じゃん」と思うのですが、そういうことではないのですよね。個人個人の解釈による部分で。
そのような失敗をしたことも大きな経験だったと思います。

現状でも完璧なアウトプットを出せる自信があるかというとそこまでではないですが、引き出しを増やさなきゃいけないと考えています。
先日読んだ書籍『急成長を導くマネージャーの型』の中で、同じことを言っても人によって刺さるポイントが異なるという話が書いてありました。『社会軸:◯な社会を実現する』『市場軸:◯市場でNo. 1になる』『自社軸:◯ができるチームになる』の3軸で言い換えをすることが重要であるということです。これはまさにそうだなと思いました。

課題は、市場の変化を捉えて先手で仕掛ける&ビジョンの実現を科学する

PMノート:現在、向き合っているプロダクト課題は何ですか?また、どのように解決しようとされていますか?

久津:国内の市場では『リスキリング』がトレンドになっていますが、実際に競争の激化やニーズの拡大といった市場の変化が起こっていると感じます。
この変化に対して、現状では何とか食らいついているという感覚なのですが、より先手で仕掛けられるようになる必要があります。そのために、リサーチや分析を強化しDiscoveryに特化したチームを立ち上げたりしています。

また、我々のミッションは、「学ぶ楽しさを広げ、新たな一歩を後押しする」です。ユーザーの学習をしっかりチャレンジ(=新たな一歩)に繋げるところまで実現したいと考えています。

とは言え、現状では、その新しい一歩を踏み出しているかどうか、また、そのきっかけは我々の学びなのかどうかというのはわかりません。これはかなり難易度の高い挑戦だとは思いますが、どういうソリューションを提供したらしっかりニーズに合った学習ができて、かつそれを新しい一歩に繋げられるのかを科学していくことにチャレンジしていきたいと考えています。

マイルールは、極端にならない

PMノート:大切にしているマイルールを教えてください。

久津:『極端にならない』ことは常に意識しています。

例えば、プロダクトの戦略を考える時に、ユーザーの声やステークホルダーの意見、定量的なデータ、定性的なデータ、マーケットトレンドなど色んな情報源があり、それらをもとに判断すると思うのですが、PMは一つを極端に信じちゃダメだと思います。

これはプロダクトの戦略や優先度だけでなく、全てに応用できると思っており、組織やプロジェクト体制を考える時も、PMだけがやりやすい状態を作っても意味はないので、エンジニアやデザイナー、ステークホルダーも考慮して設計します。

つまり、何かに偏るのではなく、バランスを考える必要があるということなのですが、だからと言って、全部の意見を反映する最大公約数的な考え方では逆に中途半端になってしまいます。
一度全て見た上で取捨選択をすることが大事で、目に付きやすいものだけを意識することとは全然意味が違うので、気を付けるようにしています。

PMノート:その考え方や視座で物事を捉えることは容易なことではないと思いますが、配下のメンバーやジュニアなPMにその必要性を理解して動いてもらうことは難しくないですか?

久津:めっちゃあります。
個々の情報源だけで意思決定できる状態が間違いなく楽ですし、情報源を広げたからといって成果が向上するかというとそうでもなかったりするので、難しい問題です。

しかし、私の立場からすると、各PMやPOに対しては、限定的な情報源だけでもある程度良い意思決定ができる環境を作ってあげなきゃと思っています。

要するに、自分の担当範囲が曖昧な状態だったり他チームの影響を受けやすい環境のままだと、スクラムチームとしてもすごいやりづらいと思います。
チームで決めた内容に対して、「ちょっと待って、あっちのチームの状況を考慮してもう一回見直して」なんて状況になると、めちゃめちゃオーバーヘッドが発生してしまいます。

ここは組織デザイン、あるいは、ミッションデザインだと思うのですが、0%は無理だとしても20%ぐらいの依存度に抑えて、ここだけ確認すればあとは決めていいよという状態を作ったらやりやすいと思います。

そのため、全てのPMが『極端にならない』を意識する必要はないと思います。
ただし、ある程度組織が大きくなってきたり、プロダクトの複雑性が増えてきた時に、全体を見る役割を担うPMにおいては、大事なことなのではないかと思います。

いいチームの秘訣は、Whyの腹落ちとチームのサブカルチャーを意識

PMノート:いいチームを作るために工夫されていることはありますか?

久津:しっかりビジョンを言語化して浸透させることや、情報の非対称性を無くして、メンバーもなぜやるのかを腹落ちできる状態を作るようにしています。

また、最近気をつけないといけないと思っていることは、チームごとのサブカルチャーを見極めることです。全てのチームの前提として組織文化がありますが、ある程度自立したチームになると、チームごとの価値観が少しずつ変わってサブカルチャーが生まれてくると思います。このサブカルチャーをしっかり活かせる目標設定やメッセージングを心がけています。

例えば、「ユーザーの声をすぐ反映してリリースすることが価値創出に繋がるんだ!」というサブカルチャーがあるチームに対して、これと全然文脈の違う「プロダクトアウトなリリースをしよう」みたいな目標やメッセージを発信してもうまくいかないと思うので、整合性を取るように気を付けています。

いい企画を作るために、今、それを考えて分かるのかどうかを重視する

PMノート:質の高い企画や課題に対して筋のいい打ち手を生み出すために、意識して取り組まれていることはありますか?

久津:「今、それを考えて分かるのか」を見極めるようにしています。
例えば、ウォーターフォールのようにめちゃめちゃ事前にリサーチして、考えてリリースするというやり方と、逆にもう考えてもわからないから、とりあえずリリースしてリアクションを見ながら考えようという両極端のアプローチが仮にあったとして、これは本当にシチュエーションによって、どちらが最適か変わると思っています。

最近気になるのは、アジャイルやスクラムが主流になっている中で、経験主義的にとりあえずリリースしてから考えましょう、リアクションを見ながら次の方針決めましょうというのは全然ありだと思うのですが、とりあえずやって、ちょっと違うなとなった場合、修正するのにやっぱり時間がかかるじゃないですか。

最初に少しリサーチしてちょっと考えるというプロセスを入れたら、もっと早くいいところにたどり着ける可能性があるのに、アジャイルが一番みたいな感じで盲信してしまうと良くないと思います。
今、我々が置かれている状況や、プロダクトが置かれている状況において、どういうアプローチをすると一番確率が高そうかをしっかり考えることは工夫してます。

久津さんからのおすすめの本

PMノート:プロダクトマネージャーにおすすめの本がありましたらご紹介お願いします!

久津:他の方と被らなさそうなものを3冊選んでみました。

1冊目は、プロダクトマネジメントに関係ないのですが、ユーザーインタビューなどユーザーの声を聞くときに参考になると思っている本で『途上国の人々との話し方』という本です。
ボランティアで発展途上国で暮らす人々に様々な支援をすると思いますが、その時に「何が無くて困っていますか?」とか「何をして欲しいですか?」と聞くと、大体本質とは関係ない回答が返ってくるそうです。
フォードの社長が当時の人々に「何が欲しいか?」と聞くと、「より速い馬」と答えたという話と一緒で、ユーザーは自分が今何が欲しいかなんて分からないということです。

また、発展途上国においてよくある例として、「井戸が欲しい」と言われて作ってあげると、みんな働かなくなってその村が滅びるみたいなことがあるらしいです。
ユーザーの求める答えを用意してあげちゃうと逆効果の可能性があることや、発展途上国と日本では価値観が違い、コンテキストがずれていることを踏まえて、どのように言えば、本質的に求めるものにたどり着けるかみたいなことが書かれているので参考になります。
ちなみに、SmartHRの安達さんもtwitterでおすすめしていました。

2冊目は、組織系の話で、『サイロエフェクト』という本です。
組織がサイロ化する、つまり、チーム同士が全然コミュニケーションを取らないとか、現場で何やっているか分からないといったことがあると思うのですが、なぜそのようなことが起こるのかを色々と分析したものです。

そこで分かったのはサイロ化は、別に悪いことではなく、なるべくしてなっているのであるということ。横を気にしなくて良い状態の方が、効率的で最も集中しやすくパフォーマンスが出るので、そっちに向かうことは自然なことです。その状態をほったらかすからダメなのであるというように、サイロ化に対するバランスの考え方などが面白いです。

3冊目は結構有名な本ですが、『嫌われる勇気』です。
ストレスフルなPMの皆さんにおすすめします。

アドラー心理学の本で、チームメンバーやステークホルダーなど、色んな人とコミュニケーションする中で、「なんであの人は分かってくれないのだろうか」と思うことってあると思うのですが、分からないのは当たり前だということを理解させてくれる本です。

相手がどう思うかはコントロールできないのだから、最善を尽くしたら悩むこと自体がムダである。その結果嫌われたとしてもあなたは最善を尽くしたのだから、いちいちその人のことを考えることはやめて、次の打ち手を考えなさいといったような感じで、結構勇気づけられる内容です。

最後に

久津さんのお話はいかがでしたか?
感想や得られた気付き、気になったフレーズがありましたら、「#PMノート」を付けてツイートしてみてください〜!

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