今回は、PIVOT株式会社でPM(プロダクトマネージャー)を務める、蜂須賀大貴さん(@PassionateHachi)に仕事内容やキャリア、マイルールなどを伺った。
蜂須賀さんは、番組映像制作を手掛ける株式会社IMAGICAでITエンジニアとしてキャリアをスタートさせた。後にPMとしてキャリアチェンジし、社内のチームビルディングのみならず社外のコミュニティ活動も精力的に行なってきた。その後はフリーランス、株式会社サイカでPM経験を積み、2022年10月にPIVOT株式会社へジョインした。
メディア業界に対する深いドメイン知識を有し、自らもコミュニティやメディアを通じた発信を得意とする一方で、人を敬い、様々なプロダクトや知識に触れることを絶えず継続することを通じて、ユーザーエンゲージメントを高めようとする姿勢がとても印象的である。
この記事は100人100色のプロダクトマネージャーのリアルを知るためのインタビュー記事「PdM Voice」の連載第32回目の記事である。
目次
ビジネス映像メディア”PIVOT”のPM
PMノート マツバラ(以下、PMノート):まずはご自身の仕事について教えてください。
蜂須賀:PIVOTというビジネス映像メディアのプロダクトマネージャーをしています。当社はNewsPickの編集長を務めていた佐々木が代表を務めており、2021年に会社を創業、2022年3月にiOS版アプリを、12月にはWeb版をリリースし、公式YouTubeチャンネルは約23万人(2023年1月現在)がチャンネル登録しております。
開発組織は、僕が第1号PMとして参画し、エンジニアとデザイナーは外部パートナー企業で構成されています。
社内外コミュニティへの積極参加やフリーランス経験などを経て様々なプロダクトについて知る
PMノート:続いて、これまでのキャリアについて教えてください。
IMAGICA時代
蜂須賀:映像メディア業界の就職を志し、2012年、株式会社IMAGICA(現・株式会社IMAGICA Lab.)に新卒入社しました。開発や機材メンテを担当する15人程度の部署に配属され、全く無知だったITエンジニア職としてのキャリアをスタートさせました。
初めはAWSなどを扱ってクラウド基盤の構築に携わっていましたが、一緒に担当していた先輩が転職したのがきっかけで、PjM(プロジェクトマネージャー)を担当するようになりました。
それから様々なプロジェクトに関わることで、営業と同行してセールスエンジニアのような活動をすることになったのですが、お客様の課題を伺うことで「こういうサービスを作ってみたらどうか?」「サービスをこう改善したらどうか?」などの発想が浮かび上がるようになりました。そして、こうした考えを提案するようになったことで、新規事業開発部門の技術担当になりました。これがプロダクトマネジメントに関わるきっかけとなりました。
当時はPMというロールが社内に居なかったので、仕事内容について本などの情報をもとに理解を深め、がむしゃらに実践するようにしました。
やがてチームは30名程の規模に拡大し、エンジニアリングも内製化が進み、アジャイル開発手法を取り入れるようになりました。その頃から、社外のアジャイルコミュニティーに参加してLTや登壇を行うようになり、アジャイルに関する書籍の寄稿を勧められる機会もありました。
『FA宣言』とフリーランスへの転身
蜂須賀:このように社外への情報発信が増えるにつれ、他社からのヘッドハンティングやスカウトも受けるようになりました。ちょうどチームも成熟して、やり切った感も出ていたので、ここで一度自分のキャリアについて立ち止まって考えるようになったのです。
実はプライベートでYouTubeチャンネルを持ち、noteも更新していたのですが、転職を決意した僕はYouTubeとnoteで「FA宣言します!」と発信しました。
そうすると40〜50社からお声掛けを頂き、魅力的なお話なども伺えたのですが、たくさんの選択肢から1つに絞ることができず、これらを並行できる働き方を考えた末、フリーランスとして活動することを決意しました。
フリーランス時代は、社員4〜5名といった企業でのプロダクトマネジメントや、IMAGICA時代のお客様であるテレビ局など、大小問わず経験しました。
様々なステージの組織、プロダクトを見ることができた一方、ジレンマもありました。業務委託のPMということで会社の数字をなかなか教えてもらえなかったり、契約が短期で終了する可能性がある業務委託の人間に対してプロダクトの中長期的な計画を任せることに不安を抱えていた経営層の方も少なからず居ました。その結果、PMというよりもアジャイルコーチや社内のPMの教育の仕事が増えていきました。
こうして改めて、自分のやりたいことは、人材の教育ではなく、プロダクトと向き合い、世に送り出すということ、そして、長年携わってきたメディアという領域への思いを強く募らせました。
サイカへの転職〜現在
蜂須賀:そんな中で出会ったのがデータサイエンスを武器にしたマーケティング事業会社、株式会社サイカです。僕はサイカのジャイアントキリングなマインドに強く共感を抱いたのと同時に、「これはフルタイムで働かないとミッションにコミットできない」と思い、正社員として転職することにしました。
サイカではメルカリでVPoEを務めていた方とも仕事することができ、これまでの中で一番上手く回っている開発組織を見ることができました。
しかし、経営方針や事業の方向性の大きな変革とともに、自分のチームやプロダクトにも大きな選択が必要となり、改めて自分の今後を見つめ直すことにしました。そして、元々自分がユーザーとして使っていたPIVOTでPMを募集していることを知り、2022年10月に入社しました。
PMノート:ありがとうございます。フリーランスでPMをやってみてどのようなことを学びましたか?また、フリーランスに向いている人の特徴などあれば教えてください。
蜂須賀:フリーランスでは6〜7社程仕事しましたが、様々なステージの企業を見ることができたのは大きな経験でした。同時期に多種多様なプロダクトに関わることで、多角的にプロダクトマネジメントを経験することができたのはフリーランスならではと思いました。
どのような人に向いているかというと、クライアントの相性に依存する部分はありますが、フリーランスで働く場合、フルタイム以外の方法での参画やチャットを多用することもあって、非同期なコミュニケーションが多くなります。そこで情報のキャッチアップ欠如や認識相違を起こさない取り組みができる方は向いていると思います。
PMノート:そしてサイカでは、他のPMとチームで取り組むことにも携わっていらっしゃいますが、苦労されたことはありますか?
蜂須賀:IMAGICAでもエンジニアチームのピープルマネジメントは経験しましたが、PMがチームで働くという観点では、誰がどこまでの権限を持つかを定義することが大切であり、正解がない問いだなと感じます。
ミッションはユーザーの心を動かすプロダクトを作ること
PMノート:所属組織におけるPMのミッションは何でしょうか?
蜂須賀:入社して2週間目に『ユーザーの心を動かすプロダクトを作る』というミッションを策定しました。
弊社は『日本をピボット(方向転換)する』というミッションを掲げています。我々は、コンテンツを通して、「明日も頑張ろう!」「一歩踏み出す勇気を持とう」というモチベーションを提供したい、という価値観を大切にしており、究極のKGIは『ユーザーの行動変容』だと考えています。
そのためには『ユーザーの心を動かす』ことが必要で、具体的なアクションとしては、すぐにシェアしたくなるような体験のデザインを心がけたいと思い、このようなプロダクト組織のミッションを掲げることにしました。
PMノート:どのようなKPIを重点的に見ているのでしょうか?
蜂須賀:最も重視しているのは、ID数です。PIVOTでは、YouTubeのチャンネル登録者数とアプリのユーザー登録数の合計値をID数としています。
YouTubeだけでも100万人の方にチャンネル登録をしていただけるポテンシャルは持っていると思っており、そこで初めて認知フェーズが達成できると考えています。
PMノート:これまでのキャリアと比べ、このプロダクトにコミットしたいという気持ちの強さに変化はありましたか?
蜂須賀:そうですね。入社当初に、CPOを目標としてデータに基づいて意思決定でき、アウトカムとしてここまでの利益率を達成したい、という考えをはじめに提示しました。また、スタートアップならではの一体感をものすごく感じる環境にも満足しており、これまでの経験を踏まえて頑張っていきたい気持ちは強く持っています。
PMノート:具体的な業務内容を、プロダクトマネジメント・トライアングルに照らし合わせて教えてください。
蜂須賀:現在は1人PMなので、パートナーシップやBizDevのように他部署と協業している領域を含めると、ほぼ全て何でもやっている状況ですが、僕のこだわりとしてマーケティングとデータ分析に比重を置いて取り組んでいます。
IMAGICA時代、世の中でここまで流行る前に音声の文字起こしサービスを展開したいたのですが、マーケティング観点での失敗が多くあり、で世の中に知られずプロダクトのグロースが進まなかったという経緯から、マーケティングとプロダクトの融合を目指すようになりました。
今後CPOを目指すにあたって、CPOというポジションをになっている方は日本にはまだ少ない印象がありますが、少なくとも、プロダクトマネジメント・トライアングルのどこを重視するかはプロダクトの置かれているステージや環境によって変遷し続けていくものという認識を持っています。ですから、CPOにとってプロダクトマネジメント・トライアングルの全領域を網羅的に見渡せるようになることは重要であり、CPOの大きな魅力だと考えています。
PMノート:PMとして得意な領域は何でしょうか?
蜂須賀:メディア業界(TV、映画、CM、配信)について、一通りのワークフローや様々な媒体に携わってきたこともあって、業界ドメイン知識の豊富さは強みだと自負しています。
知識のインプットと実務経験によってスキル開発を行ってきた蜂須賀さんの12PMコンピテンシー
PMノート:続いて、『12PMコンピテンシー』を用いて、蜂須賀さんのスキルや強みについて掘り下げていきたいと思います。全体的に高いスコアリングとなっていますが、特に強みと捉えている分野はどこでしょうか?
蜂須賀:アジャイル開発の経験を通して、要件定義やデリバリーで成果を出すことについては自信があります。その経験値が上がっていくにつれて、Product StrategyやInfluencing Peopleのスキルを高められたと思います。Product Strategyについてはサイカ時代に学ばせていただきましたし、Influencing Peopleについてはそれ以前にいたIMAGICAが大企業ということもあって身についたスキルだと感じています。
PMノート:スキル開発をするために座学などで学んだ経験はありますか?
蜂須賀:本はめちゃくちゃ読んでいるという自負があります。本で知識をインプットし、それを試す場として実務で経験を積むというスキル開発をしてきたように思います。分量としては、多い時でプロダクトマネジメント関連書を週1冊読んでいた時期もあり、そこから派生してアジャイルやマーケティングなど、その時必要な本をピックアップして読んでいます。
PMノート:一方、UXデザインについては課題と捉えている感じでしょうか?
蜂須賀:そうですね。これまで、UXリサーチや仮説検証など、UXを検討する局面は経験してきたのですが、それに基づいてUXデザインに落とし込むというのは難しいなと感じています。そのスキルはあるに越したことはないのですが、周囲の優秀なデザイナーとうまく協業を進めていく方が良いものが作れると感じています。
課題は『データドリブンな意思決定』の浸透
PMノート:現在、向き合っているプロダクト課題は何ですか?また、どのように解決しようとしていますか?
蜂須賀:メディア業界という経験をもとにした意思決定の世界にデータドリブンな意思決定のあり方を浸透させていくことが、プロダクトだけではなく、会社、ひいては業界全体の課題解決に向かうと捉えています。
従来からTVでも視聴率という指標はありますが、現代においては、多くの視聴方法の1つの手段に対する指標でしかないにもかかわらず、その一つの武器に頼った意思決定が行われ、番組制作といったクリエイティブな領域はデータよりも感覚に基づいた意思決定が多いことに問題意識を抱いています。年齢性別といったデモグラフィックデータを超えたレコメンドやコンテンツ制作を実現できている企業は国内においてはまだ存在していないといっても過言ではないと感じています。そのため、我々のプロダクトとしては、ユーザー最適な体験がどのようなものであるか定義することが必要であり、それに向けて、コンテンツ制作メンバーと僕らで一緒にデータを見ながら意思決定する習慣づけに取り組んでいます。
関わる人全てに尊敬の念を持つことがマイルール
PMノート:大切にしているマイルールを教えてください。
蜂須賀:前職であるサイカの行動指針の1つに掲げられていた”Respect & Encourage”という言葉に感銘を受け、関わる人全てに尊敬の念を持っていたいという気持ちを大切にしています。
いろんな経験を通して、成長し、注目を浴びるようになると、人は気持ちが大きくなりがちなので、そうならないよう自分への戒めとしてしています。
PMノート:良いチーム作りのために工夫していることはありますか?
蜂須賀:お互い尊敬しあえる関係性を良いチームと捉え、その構築を目指しています。
尊敬できる相手かどうかを見極めるのに、『仕事ができるかどうか』という尺度があると思いますが、決して仕事ができないから尊敬できないとは思っていません。仕事ができないというのはあくまでそのフェーズの業務が苦手という、その人の人間性ではなく事との相性に問題があるに過ぎないと捉えています。そのため、その人の人間性を尊重し、その人を好きになろうという気持ちで話す心がけを大切にしています。
アンテナを高く張りめぐらすことがいい企画の秘訣
PMノート:質の高い企画や課題に対して筋のいい打ち手を生み出すために、意識して取り組まれていることはありますか?
蜂須賀:キャッチアップするためのアンテナを立てることを大切にしています。
先人たちが導いてきたものに触れるために本を読み、最新情報のインプットのためにニュースを見る。そしていろんなプロダクトに触れる、といったこれらの取り組みで、いろんな引き出しを持つことができます。筋の良い打ち手というのは時代や自分達の置かれたステージによって変わってくるものですから、いろんな引き出しを持つということは様々な状況に対応するために有効だと考えています。
もちろん、仮説構築にも力を入れており、主にユーザーインタビューと定量データをソースとした定性・定量分析を日頃行っているだけでなく、PIVOTの場合だと、Twitterのハッシュタグ”#PIVOT”でエゴサーチが出来るので、それも結構実践しています。そして、TwitterでPIVOTに対する要望を呟いているユーザーに、「ありがとうございます。ぜひ検討させて頂きます!」といったレスを送ることで、自ら発信することと、それを実現した後に、ユーザーのエンゲージメントを高め、ファン作りにも役立っていると感じています。
蜂須賀さんからのおすすめの本
PMノート:プロダクトマネージャーにおすすめの本がありましたらご紹介お願いします!
蜂須賀:『アイデアの作り方』という本は、普段読書に馴染みのない方でも1時間あれば読めるおすすめの本です。
よく0→1と呼ばれているものは、実はピュアな0から生み出されているものではなく、既存のアイデアを組み替えたものである、ということがこの本に書かれています。
現在、BtoCプロダクトのPMを務める上で、ファンとのエンゲージメントを高めることに力を入れておりますが、この本を読んで、エンゲージメントが非常に高い異業種のBtoCプロダクトをベンチマークとするようになり、そこから得られた気づきや学びを組み替えて自分達のプロダクトに反映していきたいと考えるようになりました。
その他にも、様々なインプットを得るために書籍を活用しており、その経験に基づいてプロダクトマネージャーのための『読書地図』というものを寄稿させて頂きましたので、ご参考になれば幸いです!
「プロダクトマネージャーこそ、戦略的に読書せよ!」──最短で成果を出すための読書地図
相談乗ります|PMの悩みに対する壁打ち相手
PMノート:かけだしPMやこれからPMを目指されたい方のどんな相談に乗っていただけますか?
蜂須賀:メディア事業における新規事業の立ち上げ、プロダクトマネジメント全般、メディア独自の注意点などお話しできます。組織マネジメントやアジャイル開発についても専門範囲です。
また、その他に以下のような内容についても相談に乗ることができます!
- 壁打ち相手となり、考えの整理をお手伝いします
- メディア企業以外でも、複数の社外PMのメンター経験から、キャリアに関しての相談に乗ることができます
- ロードマップや優先順位づけのヒントになるような事例を提供できます
最後に
蜂須賀さんのお話はいかがでしたか?
感想や得られた気付き、気になったフレーズがありましたら、「#PMノート」を付けてツイートしてみてください〜!
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