未踏スーパークリエータで三菱地所出身、不動産Tech創業に飛び込みPdMとして奮闘中

エスティ中村さん

今回は、株式会社エスティのPdMである中村さん@nakamura_masano)にお話を伺いました。

中村さんは、学生時代にIPAの未踏プロジェクトに採択されスーパークリエータに認定された後に、三菱地所に入社し約1年で不動産Techスタートアップの立ち上げに参画され、現在に至ります。

キャリアの歩み方がとてもユニークで、大多数の人は選択しないけど結果的に賢い選択をされていると関心させられます。スタートアップの日常が垣間見えるエピソードも多く、組織もプロダクトも急速に成長していく中で体系化や個人のスタンスの変化が求められている中村さんのお話は参考になる方も多いのではないでしょうか?

この記事は100人100色のプロダクトマネージャーのリアルを知るためのインタビュー記事「PdM Voice」の連載第13回目の記事です。

不動産Techで不動産オーナー向けプロダクトのPdM

Q. まずはご自身の仕事について教えてください。

不動産Techの会社である株式会社エスティで「estie pro」のプロダクトマネージャーをしています。
不動産Techの中では住宅系が多いのですが、不動産と言ってもビルや商業施設や物流倉庫など様々種類があります。その中でもestieはオフィスビルをメインで扱っている会社です。
オフィスビルの賃料など詳細情報は一般的に公開されておらず、不動産のプロであってもあまり知ることができない状況がありました。
「estie pro」は、不動産のプロ向けにオフィスビル情報を提供するためのプロダクトです。

現在は、大手企業向けにサービスを展開しており、不動産オーナー様がメインのお客さんとなっています。

弊社には「estie」というプロダクトもありますが、こちらはオフィスを借りたいテナント企業さんと不動産仲介会社を繋ぐプラットフォームとなっています。

Q. 競合となる企業やプロダクトは存在するのでしょうか?

伝統的な不動産事業者がオフラインで情報交換をしているという意味では、その商慣習自体が最も強い競合と言えるかもしれません。ただ、「estie pro」のようなウェブで大規模に非公開データを提供するサービスという観点では、目立った競合は少ない状況となります。
というのも、住宅であればほとんどの人が賃貸を経験していて家賃や諸費用をイメージしやすいと思いますが、オフィスは本当に業界の人しか分からない特性がありスタートアップ でも扱う企業がいないというのが現状です。

estieは、三菱地所出身の創業者が起業しているので、ドメイン知識がかなり深く業界内でのコネクションなどもあるため、競合の参入障壁にもなっていると考えられます。

海外には不動産のプロフェッショナル向けのデータサービスが存在します。米国にCoStarというサービスがあるのですが、まだ日本向けにはサービスを提供していないです。

【キャリア】戦略的に三菱地所に入社して、約1年でエスティ創業のチャンスに飛び込む

Q. どのようなキャリアパスでPdMになったのでしょう?

大学院までは情報物理が専門であり、コードをバリバリ書いていました。その一環としてIPAの未踏プロジェクトに採択され、そこではチーフクリエータ(今思い返せば小さいPdMのような役割)として要件詰めやコードをバリバリ書き、「スーパークリエータ」の称号を獲得することができました。
未踏の経験より、「自分の思想をモノに落とし込んでつくりきる」ことが自分の得意でかつやりたいことであると自覚し、働く上でも活かしたいと考えていました。
初めは起業も考えたのですが、そもそもの自分の思想を固めるには何かしらのドメイン知識が必要だと思い、まだまだ介入余地のありそうな不動産業界に飛び込もうと決め、新卒で三菱地所に入りました

三菱地所に入社して1年くらい経った頃にエスティ創業者(当時は会社の先輩)の平井さんから「学生時代に未踏プロジェクトやっていたらしいね。不動産Techを作ろうと考えているんだけど興味ない?」と声をかけてもらいました
まだ1年程度でそこまで不動産のドメイン知識は深くはなかったのですが、ドメイン知識をベースにIT(自分のスキル)で解決していくことは、まさしく自分がやりたかったことだったので、エスティに飛び込んでみました。

入社当初はプロダクトのもとを探すためにコードをひたすら書くことがメインの業務でした。
半年経ったくらいでこういうプロダクトが行けるんじゃないか!ということが見えてきたのですが、そのタイミングで社内で「プロダクトマネージャーという役割が必要そうだ」という話題がでました。
そんな中で、一定ドメイン知識がありコードもかける人物として僕がいたので、プロダクトマネージャーを志願しPdMキャリアがスタートしました。

Q. ドメイン知識を得る領域として不動産デベロッパーを選んだ理由を教えてください。

そもそも未踏プロジェクトや研究室の同期もいないところに行こうという考えはベースにあったかもしれません。

また、スタートアップの創業者の経歴を見た時に商社や外資コンサルが多いと感じ、そこの領域は既にやっている人がいると思いました。
一方で、不動産デベロッパー出身で起業したという人は全然おらず、不動産領域、特にオフィス関連の事業を行っているスタートアップ は無いと思い、まだまだ参入の余地があるのではないかと考えました。

とは言え、社会に出ていない学生の考えなのでその考えが正しいのかどうかも分からなかったですし、理系だったので周囲の友人はほとんど就活をしない状況から1社だけ選考を受けようと受けた「三菱地所」に運良く内定をいただけたので、勢いとミーハー心で不動産デベロッパーを選んだ側面もあります。

【ミッション】市場規模を拡大し、ユーザーに利益を還元できるプロダクトをつくること

Q. 今の会社でのPdMのミッションを教えてください。

不動産のオフィス賃貸の市場規模を拡大し、ユーザーに利益を還元できるプロダクトをつくることです。
そのために業界理解や顧客理解に努めています。

オフィスビルオーナーとしては利益を上げるために「なるべく早く貸したい」「賃料を上げたい」というニーズがあり、そのために他の会社の動向を把握することをかなり気にしています

渋谷で5万円/坪の物件を保有しているとして近隣の物件が4万円/坪台だった場合、賃料を下げるのか、他よりも高い価値があることをアピールするのかの対応を行う必要がありますが、募集賃料はググっても出てこないように非公開情報であることが多く、そもそも把握することが大変です。
また、現状は不動産仲介会社に情報が集まっておりヒアリングすることで情報収集することができるのですが、人づての情報であることが多く厳密な金額が把握できている訳ではありません

そこの課題に対して、我々は仲介会社に聞かなくても正確な賃料がネットで確認できるという価値を提供し、オーナーさんの「なるべく早く貸したい」「賃料を上げたい」を実現するためのアクションに繋がるのではないかという仮説のもとプロダクトづくりをしています。

プロダクトづくりを行う上では、賃料など不動産のデータという側面と、いかに扱いやすくするかというUI側面で様々な検証を行っている状況となります。

【業務】プロダクト仕様策定から新規営業まで

Q. プロダクトマネジメントトライアングルを元に、具体的な業務範囲を教えてください。

ビジネス領域がメインで、導入いただいているお客様との定例の場で要望を伺いながらおっしゃっていることの先に何があるのかを考えてプロダクトに落とすことや、新規営業にも行ったりしています。

また、つい最近まで「estie pro」に関わっているフルタイムのメンバーは私のみで、業務委託でデザイナーとエンジニアに入ってもらっている状況なので、プロジェクトマネジメントはとても重要で社内外調整やプロダクト仕様策定と合わせてやっています。
ちなみに、デザイン領域については完全に任せていますが、コードは自分でも書くこともあります。

ビジネス領域に重きを置いているのは、ドメイン知識がとても重要な業界であるため、不動産業界での業務経験を最大限活かしたい理由があるからです。

現状、マーケティングやデータ分析はまだあまり手をつけられていない状況です。
マーケティングはまだ手をつけるフェーズではない判断をしておりますが、データ分析はありがたいことに最近導入者数が増えてきており社内のデータ分析チームと連携しながら注力していく予定をしています。

Q. 新規営業までご自身でされるのはどのよう理由なのでしょうか?

社内に営業の人間が少ないこともありますが、営業の業務委託は難しいことと、デベロッパーへの営業はデベロッパー出身者が行った方が話を聞いてもらいやすいことがあります。また、お客さんの声を直接聞くことは大事だと思うので楽しんでやっています。

Q. ビジネスディベロップメントの範囲としてビジネスモデルや商品開発にも携わられているのでしょうか?

重要な後戻りできない事項は社長や経営陣が決定しますが、私もプロダクト側の人間としてアイディア出しをするような形で携わっています

【得意領域】質の良いISSUEを見つけることが得意だが、体系化が課題

Q. プロダクトマネジメントを行う上で得意なことは何ですか?

質の良いISSUEを見つけることは得意です。言語化できていないので勘のような状態ですが、この機能が必要だとか、この売り方が良いのではないかと言う提案が運よく当たってきていて、チームからも信頼を得ていました。

しかし、今後のチームのフェーズや個人の成長としても、このままではスタートアップに求められる成長スピードには追いつかないと感じており、集団の中で合意形成しながら意思決定を進めることや僕の意思決定の判断基準やISSUEの見つけ方を体系化して僕以外の人がやっても同じようにプロダクトを成長させられるようにしなければいけないと考えています。やはり一人のアウトプットには限界があるので、チームでいかにアウトプットを最大化できるかが重要であると考えています。

【企画のしかた】Why/Whatをチームに持ち込み、みんなで話し合って Howを決める

Q. どのようにプロダクト開発の企画をしていますか?

2週間サイクルのスクラム開発でプロダクト開発をしているのですが、議事録や様々な資料を読み込みながら頭の中で課題を洗い出していき、整理した上で次の内容をドキュメントにまとめて言語化します。

  • 解決したいユーザーの課題
  • 解決したい自社の課題
  • なぜそのような課題が生まれているのか
  • 現状どうなっているのか

それをスクラムMTGに持ち込んで、解決方法やアプローチ、実装方法、デザインなどをみんなで話し合って決めます。

2週間で取り組む課題は多くて2つで、各課題に紐づくISSUEをMTGの中で洗い出して(10個くらい)開発していくイメージです。

【マイルール】『即レス』と『怒らない』でコミュニケーションを円滑に

Q. 行動指針や大切にしているマイルールはありますか?

『即レス』を徹底しています。

背景としては、チームメンバーは業務委託で関わってくれていて日中は作業できない方が多いので、僕が夜の返信を怠ると作業が遅れてしまうことになります。
1年間PdMをやってきて、ビジネスだろうが開発だろうが何事に置いてもコミュニケーションが最も重要であると感じています。
「これ申し訳ないから聞けないな」といったことや「大した問題じゃなかったのに放置しちゃった」といったことでことで大きな問題に発展することを今まで経験したり聞いたりしていたため、そういったことが無いようにコミュニケーションを円滑にすることを行動指針として置いています。

また、『怒らない』ということも意識しています。

前も聞かれたなと思うことがあった時に「前も言ったよね」とか「ここに書いてあるよ」と言ってしまうのではなく、「丁寧に回答する」ようにしています。
「前も言ったよね」という返答してしまうと、それがネックになってこの人に聞きにくくなってしまうので、もったいないと思います。

Q. 他にコミュニケーションで大切にされていることはありますか?

開発チームにビジネスの状況を伝えることも大事にしています。

ただslackに流すだけではなく、定例の場などで口頭で伝えるようにしています。
例えば、「A社に導入いただけることになり、これによっていくら売り上げが上がります」ということを具体的に伝えます
自分が書いているコードがうん十万円、うん百万円になっているという意識を持つことで、もっと良いコードを書こうという心持ちになってくれて、バグが減ったり、エンジニア側から意見が出たり、ユーザーを理解しようとする質問が出たりと良いことが多いです。

Q. とても良い取り組みだと思いますが、何かきっかけがあったのですか?

きっかけは申込書をもらった時に私はめちゃくちゃ嬉しくて「うおーーーーー!」とテンションが上がっていたのですが、エンジニアに話した時に「ああ、そうすか。やりましたね。」と温度差があり寂しかったことがありました。
たしかに一緒に営業に行っている訳ではないですし、ちゃんと説明している訳でもないので、そういう気持ちになれないのもそりゃそうだと思い、一緒に喜びたいという気持ちでこの取り組みを行っています。
結果として今では売上が上がるたびに打ち上げを行い、同じ温度感で喜び合っています!

【チームづくり】コミュニケーション直後はGitHubのコミットが増える

Q. 業務上関わる人たちといいチームをつくるために取り組まれていることはありますか?

やはりコミュニケーションを大事にしています。

1on1後や打ち上げ後はGiHubのコミットがめちゃくちゃ飛んでくるというのがあり、コミュニケーション後はモチベーションが上がるというのを実体験から感じています。
業務委託の方が多かったり、リモート環境の中だからこそ、余計にそのような機会の重要性は増していると感じています。

その中で、エンジニア一人ひとり学生だったり会社員だったりとバックグラウンドが異なるので、その人ごとにアプローチのしかたを変えるようにしています。
例えば、学生なら研究室の相談に乗ったり、年上の方なら教えてくださいのスタンスで接するなど、エンジニアとして扱うのではなく人として接して友達になるというアプローチをとっています。その方が私も楽しいので。

Q. 1on1を行う上で工夫されていることはありますか?

1on1をあえて定例化しないというのは工夫している点かもしれません。

定例は定期的にやるべきものだと思うので、例えば月次でユーザーの行動ログをモニタリングすると言ったようなことは定例でやるべきだと思いますが、通常の会議やMTGは必要な時にやるべきであると考えております。
1on1においては、期待するアウトプットが出ている方とは1on1を週1で行う必要はなく、作業に集中してもらった方が良いですし、なかなかアウトプットが出ていない方とは週2回行ったりしています。

【悩み】体制拡大を見据えて感情コントロールが課題

Q. PdMに関する悩みはありますか?

自分に対してですが、感情をコントロールすることに課題を感じています。

社内でのやり取りの中で、経営層との距離がかなり近いこともあり自分の意見を通すために駄々をこねることや、メンバーから「ちょっと厳しいです。」と言われても、「(スタートアップ だし)いける!いける!」と押し通してしまうことが多く、もっといいやり方はあるんだろうなと感じています。
また、これから人を増やしていった時に、今のやり方でグロースするかというとしないやり方だと思っています。

リクルートとか大企業でPdMをしている人の話とか聞いてみたいですね。

【オススメの本】「起業の科学」で経営視点を持つ

Q. かけだしPdMに向けて「まずはこの本を読むべし」というオススメの本はありますか?

①起業の科学

私自身、自分でプロダクト作って起業したいと考えていて資金調達を試みたこともありました。よくプロダクトマネージャーは「ミニCEO」と言われますが私は賛成派で、当時資金調達しようとした時にかなり色々なことを考えたのですが、その経験は今に活きていると感じます。経営の観点からプロダクトマネジメントを考えることは参考になるのではないかと思うのど読んでみるといいかもです。

②HIGH OUTPUT MANAGEMENT(ハイアウトプット マネジメント)

最近の課題図書で、まさしく個からチームへの転換期の壁にぶち当たっているPdMの方におすすめです。チームのアウトプットの重要性とその最大化について学ぶことが多く、読んでおいて損はない本です。

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採用について

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展示会出展について

12/2(水)~12/4(金)東京ビックサイトにて開催される「第一回不動産テックEXPO」に出展します。

ご興味がある方はぜひご連絡くださいませ。
https://www.prop-tech.jp/ja-jp.html

最後に

中村さん@nakamura_masano)のお話はいかがでしたか?

IPA未踏スーパークリエータの経歴をもって三菱地所に入社されるという意思決定の裏側にある起業を見据えた戦略的思考にはとても関心させられました。
また、メンバーが生産性高く働けるためにコミュニケーションを非常に大切にされているお話やコミュニケーション後はエンジニアのGitHubのコミット量が増えるといったようなエピソードは参考になったのではないでしょうか?

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