今回は、BASE株式会社でBASE BANK事業のプロダクトマネージャー(以下、PM)兼 事業責任者を務める柳川 慶太さん(@gimupop)に仕事内容やキャリア、マイルールなどのお話を伺いました。
柳川さんはSIer企業のITエンジニアからキャリアスタートし、インターネット広告配信システムを開発する企業を経て、BASEに入社しました。
BASEにはエンジニアとして入社後、資金調達サービス「YELL BANK(エールバンク)」の立ち上げに1人目エンジニアとして関わり、リリース後にPMの業務を兼ねるようになり、BASEグループが取り組む金融事業であるBASE BANKの事業責任者になりました。
エンジニア職からPM、ひいては事業責任者にキャリア形成していきたい方にとって参考になるマインドセットやTipsが満載となっています。
目次
BASE株式会社でプロダクトマネジャーを担当
── まずはご自身の仕事について教えてください。
柳川:BASE株式会社という会社で働いています。BASEはECサイトを簡単に作れるサービスが一番有名です。現在、私はその会社で新規事業として展開している金融プロダクトの事業責任者を務めています。厳密に言うと、PMではなく事業責任者というポジションですが、PMとしての役割も兼ねて仕事をしています。
役割的には、計画の立案から採用や育成から最終的な数字責任までを負っています。なので、非常に幅広い業務に関与しています。
── ご担当されているプロダクトについて詳しくお伺いしてもよろしいですか?
柳川:私が担当しているのは、BASEグループが取り組む金融事業全体です。具体的には資金調達サービス「YELL BANK」や売上が即時に使える「BASEカード」などがあります。。これは、私たちがサービスを提供しているユーザー、特に個人や小規模のチームが抱えるキャッシュフローやお金に関する課題を解決することを目的としています。
BASEグループのミッションには”Payment to the People, Power to the People.”というものがあります。皆さんには、BASEというとネットショップ作成サービス「BASE(ベイス)」のイメージが強いかもしれませんが、我々は決済や金融の簡易化を通じてあらゆる人々をエンパワーするという考えのもとで、決済・金融事業を展開し力を入れています。
私たちが目指しているのは、個人や小規模チームがやりたいことを、これまでの慣例や資本的な制約によって阻まれることなく実現できるようにすることです。そういった思いから、ターゲットを個人やスモールチームに絞り、彼らが抱えるお金に関する課題をサポートするプロダクトを作っています。
例えば、これまで事業のために資金調達をしたことがない方々にとって、金融は怖いもの、リスクのあるものと感じられることが多いですが、私たちのプロダクトでは、そういった考えを払拭し、資金調達が実現したいことを支える味方であることを提示しています。そうしたアプローチでプロダクトを展開しているのが「YELL BANK」なんです。
具体的にどのようなプロダクトを作っているかをもう少し詳しくお話ししますと、例えば「YELL BANK」の仕組みは少し複雑なのですが、基本的にはECサイトを利用されている方々の過去の売上実績や行動履歴といったデータを活用しています。
このデータを使うことで、加盟店さんが短期間でどれくらいの売上を上げるかを予測できるようになり、その予測に基づいて資金(将来の売上)を事前に提供することができます。ポイントは、我々がショップ運営のデータを元に資金提供額を決定するため、ショップ側は資金調達の申し込みをしているという感覚ではなく、「この金額が使えますが、利用しますか?」と提案される形です。これにより、資金調達に関する迷いや手間をできるだけ省いた体験を提供しています。
さらに、私たちは決済の仕組みも把握しているので、例えば銀行からの融資の場合、毎月決まった日に返済をしなければならないところ、我々のサービスでは、予測された売上から自動的に回収します。そのため、もし予測どおりに売上が立たなかった場合は、回収を待つという柔軟な対応が可能です。こうすることで、リスクをできる限り下げ、ショップ側が安心して資金を利用できる体験を提供することを目指しています。
実際の体験としては、ショップ側から見ると「いくら使えます」と表示され、それをクリックするだけで資金調達が完了し、通常通りのショップ運営から売上が発生するたびに自動的に回収されるという非常にシンプルなプロセスになっています。裏側は複雑ですが、ショップの皆さんにとっては使いやすいプロダクトになっていると思います。
── 事業責任者とPMを兼任している経緯についても教えていただけますでしょうか?
柳川:私たちはWebサービスを作っている会社で、どうしても不確実性が高い環境で仕事をしています。もちろん、ユーザーヒアリングをしたり、需要を探ったりすることはしますが、それも注文の確約があるわけではなく、基本的には作ったものを使ってもらえるかどうか、そしてその結果として事業が成り立つかどうか、プロダクトが成り立つかどうかが決まります。そうしたビジネスモデルの中では、ビジネスモデルそのものとプロダクトの両方を同時並行で見直していく必要があります。
そのため、プロダクトと事業の両方に責任を持つ人間が陣頭指揮を取った方が、全体のPDCAサイクルをより効率的に回すことができ、結果として現在のような体制になっています。
── かなり大変だと思いますが、今後事業規模や組織が拡大する中で、いずれは役割を分けるという展望も考えられるのでしょうか?
柳川:人を分けるというよりも、どちらかというと事業を分ける方が自然だと考えています。現在、BASE BANKの事業部には「YELL BANK」を含むいくつかのプロダクトがありますが、例えば他にも「BASEカード」というプロダクトがあり、直近では「YELL BANK」をグループ内のPAYが提供するB2Bのオンライン決済サービス「PAY.JP」向けに提供するなど、事業が複数同時に立ち上がっています。
そのため、今後はそれぞれの事業に対して事業責任者を立てていく方向で組織を整えていくビジョンを持っています。それにより、各事業に専任のリーダーが配置され、より効率的に事業を推進できる体制を目指しています。
「インターネットが人々をエンパワーメントする」のビジョンが反映されたBASEのプロダクト
── プロダクトのビジョンとしてどのようなものを掲げられているのか、またどのような状態を目指しているのか教えていただけますか?
柳川:プロダクトビジョンに関しては、基本的に「インターネットが人々をエンパワーメントする」という考え方を基軸にしています。その中でも、個人やスモールチームがチャレンジする際に直面するリスクを、できる限り我々が先にリスクテークしようという考え方を持っています。
例えば、我々のEC事業でも、商品が売れたタイミングでショップさんから手数料をいただくという形をとっており、売れるまでは手数料をいただきません。同様に、「YELL BANK」というプロダクトでも、我々が将来の売上を予測して資金を提供し、その売上の回収に時間がかかる部分のリスクは我々が負います。これにより、未知のことに対する恐怖やリスクをできるだけ取り除きたいという考え方を反映させています。
こうした考え方を様々な事業領域で具現化しているのが、我々のプロダクトの特徴です。異なるプロダクトが複数ありますが、それぞれがこのビジョンを実現するための手段となっており、どのプロダクトにも一貫したビジョンが反映されていると考えています。
── 考え方が非常に面白くてユニークですね。特に、インターネットが人々をエンパワーメントするという部分についてお話を伺いながら考えていましたが、BASEさんが売上予測を行うことでリスクを引き受けるというスタンスが非常にユニークです。予測が外れた場合でも返済のタイミングを調整するなど、非常に柔軟な対応をしている点が特に興味深いです。
柳川:実際にそれをビジネスとして成立させるのは大変な部分があります。ですので、私が事業責任者としてプロダクトマネジメントを兼務しているというのも、その背景があります。
── 柳川さんご自身の価値観やキャリアビジョンと、先ほどお伺いした内容がどのようにつながっているのかについても教えていただけますでしょうか
柳川:私は昔から「やりたくないことはやらない、やりたいことをやる」という気持ちが根底にあります。そうすることで、結果として一番効率が良くなると思っていて、それぞれがやりたいことをやりたいようにできる世の中が、良い世の中になるのではないかと考えています。
BASEグループ全体が目指しているのは、まさにそうした世の中の実現です。個人がやりたいことをエンパワーメントしていくことを目指している会社なので、そのビジョンが自分の考えと一致している点が、とても心地よく感じられます。
また、インターネットにはポジティブな側面とネガティブな側面の両方があると思いますが、私は特にそのポジティブな側面に強く惹かれていますし信じています。インターネットを活用して個人の可能性を広げていくことに純粋な魅力を感じており、それを自分自身も実践していきたいという思いがあります。この点が、私のキャリアビジョンや個人的な思いと非常に深く結びついています。
世の中は、少しずつですが、個人がやりたいことを自由にできる方向に向かっていると感じています。その流れを少しでも加速させたいという思いが、私の中には常にあります。
── 私もインターネットのポジティブな側面について、実体験から共感できる部分が多くあります。それが柳川さんの価値観と、BASEグループやプロダクトが目指す方向性に繋がっていると感じました。
柳川:私はには方法論とか理論だけで終わらせたくないという思いが強くあります。実際に何かを行った結果として物事が動いたり、何かが実現しないと意味がないと感じてしまうんです。キャリアビジョンについても、「こういうことをやればこういうスキルが身につき、次はこれができるようになる」というような、定義されたキャリアにはあまりなじみがありません。
それよりも、自分が世の中に対してどういうインパクトを与えられるか、そのために何をやってきたか、何を成し遂げたかという部分を重視しています。そうなってくると、やはり自分の思いとやっていることが一致する会社でなければ、うまくいかないと感じます。振り返ってみると、そういう点で私は運が良かったなと感じます。
資金調達を始めとした「金融サービスが怖い」のハードルを変えていきたい
── 現在、柳川さんが向き合われているプロダクトの課題は何でしょうか?また、それをどのように解決しようとされているのか教えていただけますでしょうか?
柳川:一番の課題は、まだまだ資金調達や金融サービスが誤解されているというか、怖がられている部分があることです。多くの人が「自分には関係のないものだ」と思っているところがハードルとなっています。私は、このハードルを変えていきたいと思っています。お金や資金調達は、自分がやりたいことを実現するための味方であり、道具だという感覚をもっと多くの人に持ってもらいたいです。
これを実現するためにどうするかですが、基本的には実体験しかないと思っています。ECや金融のハードルを下げるために、「これがいいですよ」と口で言うだけでは限界があると感じています。それよりも、実際にやってみて、「意外と簡単だった」という経験を積み重ねていくことで、意識や考え方が変わっていくのだと思います。
そのためには、どうしたら「とりあえず一度使ってみよう」と思ってもらえるかを日々模索しています。情報提供で理解を深めることも大事かもしれませんし、体験を磨き、できるだけ簡単にすることも重要です。これらを組み合わせながら、課題の解決に取り組んでいる状況ですね。
── 具体的な施策や実際にどのようなことをされているのか、お聞かせいただけることはありますか?
柳川:実際にやっていることは本当に地道でシンプルなものです。まず、既に使ってくれているユーザーと、まだ使っていないユーザーをデータから分析し、その違いが何なのかを探ります。そして、データでは分からない部分については、ユーザーヒアリングを行って直接フィードバックを得ています。その結果をもとにプロダクトを調整し、再度その効果を確認するということを繰り返し行っています。
また、情報発信の部分でも、地道な取り組みを続けています。私たちには「BASE U」というオウンドメディアがあり、そこでプロダクトの利用事例や関連情報を発信しています。こうしたコンテンツを積み重ねることで、ユーザーに対して情報を提供し、理解を深めてもらうことを目指しています。本当に、一歩一歩、日々の改善を積み重ねているという感じですね。
── ユーザーのデータを見ながらヒアリングを行い、その結果プロダクトを変更したことで、より多くのユーザーに使ってもらえるようになった具体的な事例があれば教えていただけますか?
柳川:具体的な事例として挙げられるのは、資金調達のタイミングに関する機能改善です。以前は、一度の資金調達が完全に終わらないと次の調達ができない仕組みになっていました。しかし、売上が上がらないと回収が進まないという我々のサービスの特性上、「回収がまだ残っているために今すぐ資金を使えない」というユーザーの声がありました。
そこで、次回の調達を前倒ししてすぐに利用できるようにする機能を追加しました。例えば、100万円の資金調達枠があって、回収される金額がまだ1万円残っている場合、その1万円を次回に繰り越し、99万円をすぐに利用できるようにするという形です。この変更によって、資金を利用できるタイミングに柔軟性が生まれ、ユーザーに非常に好評で、利用が増えました。
ITエンジニアからPM兼事業責任者になるキャリアパス
── キャリアについてお伺いしたいのですが、どのようにしてPMになり、現在に至るのか、ファーストキャリアから教えていただけますか?
柳川:私のキャリアは、SIerのエンジニア職からスタートしました。受託開発を行うSIerで、たまたまですがクレジットカード関連など、金融に近いプロダクトを担当していました。そこで、保守運用や追加機能開発などの業務に従事していました。
次の会社では、インターネット広告を配信するシステムを開発する企業でエンジニアとして働きました。このシステムは、広告をネットワークに繋ぎ込む仕組みを作るもので、こちらでもエンジニアとして経験を積みました。
そして三社目が現在のBASE株式会社です。BASEには2017年に入社し、もう7年ほどになります。最初はエンジニアとして入社し、最初の1年間はネットショップ作成サービス「BASE」に新しい決済手段を追加する開発を担当していました。
その後、ちょうどBASE BANK事業部が立ち上がるタイミングで、1人目のエンジニアを募集していたので、ぜひやりたいと手を挙げ、1人目のエンジニアとして「YELL BANK」の開発を担当しました。
プロダクトがリリースされ、グロースフェーズに入った際に、プロダクトマネジメントにも興味があったので、エンジニアとPMを兼務する形で担当しました。次第にプロダクトマネジメントの仕事の比重が増えていき、さらに事業が成長するにつれて、数字の責任も担うようになりました。
例えば、人を採用する際には、プロダクトの数字をどれだけ伸ばす必要があるかという計画を立てるようになり、自然と事業全体の責任者としての仕事も増えていきました。このような流れで、現在のキャリアに至っています。
── 転職の理由についてもお伺いしてもよろしいでしょうか?最初の二社を移られた理由など、明確な理由があったのでしょうか?
柳川:転職の理由は明確にあります。自分の性格上の問題もあるかもしれませんが、私は「言われたことをやる」というのがあまり得意ではなくて、「そもそもこれってこうした方がいいんじゃないか」とか、「何でそれをやるの」とか考える傾向が強いんです。自分が物事を変えられる環境にいないと、口だけの厄介で面倒なやつになってしまうのです。そのため、受託開発構造的に活躍するのが難しいと感じました。これが最初のSIerを辞めた理由です。
その後、自社でプロダクトを作る会社が自分に合っていると思い、二社目に転職しました。しかし、二社目の会社ではプロダクトの源泉が営業にあり、広告案件を取ってくることがコアとなっていました。つまり、顧客の要望が最優先で、その要望を実現するために動くという点では、結局SIer時代と変わらない構造だと感じました。
そこで、自社開発や受託開発という軸だけでは自分のやりたいことはできないと気づきました。プロダクトを育てることで事業を成長させていく会社でないと、自分の求める働き方はできないと感じ、三社目のBASEでやっとしっくりくる会社が見つかったという感じです。言い訳したくないという思いが強くあり、自分なりに言い訳しなくて良い環境を選んだという感じです。
── PMから事業責任者という役割に至るまでにはかなりの隔たりがあるように感じます。どのような経緯で事業責任者になられたのですか?
柳川:自分の中では連続性があったと感じています。少しずつ自分の担当範囲を広げていった結果、事業責任者になったという形です。コアには「ユーザーに価値を届けたい」という思いがありました。そのため、ユーザーに価値を届けるために何が必要かを逆算していくと、事業として収益を上げ、それを再投資してさらに収益を上げるサイクルが必要だと気づきました。このサイクルに深く関わらなければ、プロダクトを大きくすることはできないし、ユーザーに価値を提供し続けることも難しいと感じたのです。
自分が事業責任者になれたのは、ある意味で良いタイミングと状況に恵まれたからだと思います。最初はエンジニアとして事業を立ち上げ、その後、どうやって事業を成長させるかを考える機会がありました。BASE BANKはBASEの新規事業として、EC事業に続く形で初めての本格的な取り組みだったので、明確なフレームワークがなかったんです。そのため、一から考えて行動する必要がありました。
もし、ビジネス担当、プロダクト担当、エンジニア担当がそれぞれ明確に分かれていて、自分の役割が限られていたとしたら、ここまでの影響力を持つことは難しかったかもしれません。しかし、新規事業として少ないリソースで始まったプロジェクトだったからこそ、次に何をするかという決断に関わることができ、それが今の自分に繋がっていると感じます。
── 当時の事業立ち上げ時の責任者はどのような方が担っていたのですか?
柳川:基本的には、事業の最終的な責任はCEOが担っていました。事業はCEO直下のプロジェクトとして進んでいたので、最初はCEOが事業オーナーとして全てを見ていたんです。ただ、ずっとその役割を担うわけにもいかないので、徐々に私がその役割を引き継ぐ形になりました。任せてもらえるように徐々に実績を積んでいきました。
── 柳川さんが1人目のエンジニアとして参画した時点では、CEOが事業オーナーであり、プロダクトマネジメントも担っていたということでしょうか?
柳川:この事業自体が社長の中では、最終的なビジョンの一部として描かれていたと思います。それを具体化していくのが私たちの役割でした。最初は事業の担当者がもう一人いましたが、オーナーはCEOで、、エンジニアは私ともう1人の、他にはスポットでデザイナーが関わるという小規模なチームでした。
しかし、その事業担当者がリリース直後に退職してしまい、事業のポジションが空席になったんです。そこで私に機会が巡ってきたという形です。
機会が巡ってきた形ですが、その過程では大変なことも多かったです。CEO直下で動くプロジェクトの中で、事業の立ち上げの責任を負うまでのプロセスは、やはり紆余曲折がありました。
── 「これは本当に大変だった」というエピソードがあればお聞かせいただけますか?
柳川:やはり新規事業の立ち上げでは、誰も答えが分からない状況で進めていかなければならないことが一番大変でした。自分で決断して進めていきたいという気持ちはありましたが、経験が少なかったので、それを実行に移すのは簡単ではありませんでした。
特に最初の頃は、自分が下した決断が正しいかどうか、自分でも確信が持てないことが多かったですし、周りの人たちも「本当に大丈夫かな?」と不安を感じていたと思います。これを乗り越えるためには、毎回決断を積み重ねることで周りからの信頼を得る必要がありました。
最初のうちは、一つ一つの決断に対して周りの信頼を得ることが特に大変でした。勢いがつけば物事は進めやすくなりますが、その最初の勢いをつけるまでが本当に苦労しました。
ITエンジニアの経験で培われた「Product Execution」から広がったスキル
出典:https://www.ravi-mehta.com/product-manager-skills/
── 大きく4つの領域について、それぞれのスキル保有状況をご回答いただいています。特にお得意な領域や強みのある項目はどれでしょうか?
柳川:やはり、エンジニアとしての経験がベースにあるので、要件定義やデリバリー、つまりファーストプロダクトを出すために重要な部分に強みがあります。特に、プロダクトの優先度をどのように研ぎ澄ませていくかといった部分は、自分の得意分野だと思っています。得意というよりも、長くやってきた部分という感覚ですね。
最近は目標設定やビジョン、ロードマップの策定、ステークホルダーとのコミュニケーションやリーダーシップといった部分もメインでやっていますが、やはり基礎として自分がエンジニアだったからこそ、「これならプロダクトにできる」という感覚があり、その感覚が他のスキルを育ててくれたという感じがします。
── それ以外のProduct StrategyとInfluencing Peopleの領域で、スキル開発に繋がったご経験や機会があれば教えていただけますか?
柳川:基本的には、やりながらスキルを身につけてきたという感覚が強いです。例えば、事業計画に関しては、とにかくまずは引いてみるところから始まりました。事業が始まった後、タイミングを見て「事業計画を引いてみてよ」と言われたことがあったのですが、特にフォーマットやガイドラインがあるわけでもない中で、KPIを分解して事業計画を立てる作業を繰り返してきました。
その結果、プロダクトの開発サイクルと事業の成長サイクルがしっかりと結びついていく感覚を得ることができました。これは何か特別なことをしたというよりも、繰り返し行ってきた経験が大きかったと思います。
また、ビジョンやロードマップの策定に関しても、同様に繰り返し経験を積むことで強みとして育っていったと感じています。
特にリーダーシップの面では、採用活動が大きな経験になりました。採用は、カジュアル面談も含めて「何のためにこの事業をやるのか」を説明し、問われ続ける仕事だと思っています。これまでに数えきれないほどの面接を繰り返してきましたが、現在のメンバーも含めて、ほとんど全ての面接に自分が関わっています。
このプロセスを繰り返すことで、「何のためにこの事業をやるのか」「誰とこの事業をやるのか」という点が自然と研ぎ澄まされていった感覚があります。考えて言葉にし、その結果として相手が反応してくれて、「一緒に仕事をしたい」と思ってくれる。その経験が自信に繋がりますし、それを実現しなければという思いも強くなります。そういった繰り返しの中で、自分のリーダーシップも鍛えられてきたと感じます。
マイルールは「前提を疑う」「異なる職種間で起きる時間軸の差を埋める」
── PMとして働く上で、行動指針や大切にされているマイルールはありますでしょうか?
柳川:私が一番大切にしているのは、「前提を疑う」ということです。世の中には”Elephant in the room”という表現がありますが、それに近い考え方です。プロダクトを引っ張っていく立場として、ある意味では空気を読まない姿勢が重要だと考えています。前提が間違っていると気づいたら、できるだけ早い段階でそれを見直し、必要であれば大胆に方向転換することが、結果的に全員のためになると信じています。
また、もう一つ気をつけているのは、異なる職種やポジションの間で目的が同じであるはずなのに、言っていることがちぐはぐになり、衝突が起きることがあるという点です。これは、各職種やポジションが物事を考える時間軸に差があることが原因だと感じています。同じことを話していても、実現までの時間軸が違うことで、認識がズレてしまうんです。
私はいろいろな職種を経験してきたので、その時間軸の差を埋めるような提案ができると考えています。これが、私の行動指針の一つになっています。
── 例えば、どの職種が短期視点で、どの職種がそうではないのか、そのあたりはどう感じていますか?
柳川:基本的に、現場に近ければ近いほど短期的な目線になることが多いと思います。例えば、2週間でスプリントのサイクルを回そうというようなケースでは、改善の速度を速めるためにあえて短期的な時間軸で動くことが求められます。これは全く悪いことではなく、むしろ必要なことだと思っています。
一方で、事業設計や経営の観点になると、どうしても長期的な時間軸で考えることが求められます。例えば、3カ年計画や中長期の計画の中で、この一歩がどう位置づけられるのかを考え、それを逆算して行動に移すということが多くなります。このように、職種やポジションによって時間軸に差が出るのは当然ですが、その差をどう埋めていくかが重要だと感じています。
── 現場の方とのコミュニケーションを取る際に、工夫されていることや意識していることがあれば教えていただけますか?
柳川:最も重要だと思っているのは、前後関係や文脈をしっかりと伝えることです。今、プロダクトや会社が目指している方向性はこうで、その中で何年後に達成したい目標があり、そのために今やっている仕事がどう繋がっているのかをしっかりと説明することが大切です。このように、目の前のタスクが全体のどこに位置しているのかを明確に伝えることで、コミュニケーションがスムーズになります。
たとえ一時的に意見が対立しても、しっかりと全体の文脈を説明すれば、「今はこれをやるべきではない」という結論に至ることもあります。経営や事業責任者が決めたことが常に正しいわけではなく、現場の視点で見ると、今このタイミングでやっておくべきことがある場合もあります。たとえば、リファクタリングのような例が分かりやすいですね。
しかし、その現場の視点を、経営や事業責任者に伝える際には、適切に翻訳する必要があります。現場は現場で上に期待を抱いていることが多いですが、その差分を埋めるために、正しいことを正しい形で伝えるスキルが重要です。「あなたが言っていることは正しいけど、その正しさを伝えるためにはこの切り口が必要だ。」というフィードバックをしっかり行うことが大切です。
いいチームを作るためには「期待していることを伝える」「個人の目標と会社の方向性をリンクさせる」
── いいチームを作るために何か工夫されていることはありますでしょうか?
柳川:各メンバーに対して期待をしっかり伝えることを意識しています。例えば、「何をやって欲しくて採用しました」とか、「このポジションで何を期待しているか」を細かく、短いスパンで伝えることを大切にしています。これを日々の1on1やコミュニケーションで行うことで、メンバーが自分の役割をしっかり理解しやすくなります。
また、事業責任者やPMとして、全てを把握しているように見られがちですが、実際には不確実なことが多いです。そこで、分からないことは「分からない」と正直に伝えたり、決断の信頼度が50%ぐらいであることなどをしっかり共有するようにしています。これにより、メンバーが意見を出しやすくなり、相互のコミュニケーションが活発になります。
さらに、会社のミッションや目指す方向性と、各メンバーのやりたいことや得意なことを丁寧に結びつけることも大切だと考えています。個々人の目標やスキルと会社の目指す方向をリンクさせることは、リーダーの役割だと思っています。これをすることで、メンバーが自分の日々の仕事を「自分事」として捉え、会社の成長に貢献できるようになります。
最後に、よく言われることですが、事業の成長が一番の特効薬だと思います。スタートアップ界隈でよく言われることですが、事業が成長している間は、自分たちのやっていることが正しいと感じられるので、チーム全体が前向きになります。逆に、成長が止まると厳しい時期が訪れます。だからこそ、事業をいかに成長させるかを常に大事にしています。
「深く顧客理解」をすることで質の高い企画を生み出す
── 質の高い企画や課題に対する筋の良い打ち手を生み出すために、何か工夫されていることはありますでしょうか?
柳川:基本的には顧客理解が最も重要だと思っています。ただ、顧客理解というのも、単にユーザーが言ったことをそのまま形にするわけではなく、私たちはプロダクトを作るプロとして、ユーザーが抱えている課題を根本的に解決するための方法を自分たちで考えなければなりません。つまり、顧客の声を理解しつつ、それを解決するための方法を深く考えることが大切です。
また、そのためには最速でやれる方法を見つけ、実際に行動に移すことが重要だと思っています。考えていても分からないことは多く、やってみた結果から学ぶことが多いというのが私の経験です。やる前は不安でも、ボールを持ちすぎることなく、とにかく出して反応を見て、次に進めるという姿勢を大切にしています。
さらに、最速で実行するというアプローチと少し矛盾するかもしれませんが、長期的な視点も非常に重要だと考えています。一つ一つの打ち手を現場でPDCAを回しながら進めるのはもちろんですが、同時にプロダクトが将来的にどうあるべきかを見据えたビジョンも持つことが大事です。
そのためには、事業責任者としての視点が必要だと思っています。例えば、今取り組んでいる課題に投入しているリソースや時間軸が適切かどうかをコントロールできないと、いくら長期的に考えたいと思っていても、実現が難しくなります。数字に責任を持つことで、そうした時間軸やリソースのコントロールが可能になるという利点があると感じています。
責任を持つことで「文句は言わせないぞ」という気持ちがあります。「文句を言わせないぞ」というのは一種の暗示で実際に横柄に振る舞うわけではありません。責任を持つという設定に自分自身が入り込むことで既存のやり方を打ち破る発想や打ち手が生まれるのだと思います。責任を負うことで、より深く考え、強い意思決定ができると感じています。
── 事業開発や顧客開拓をBizDevが担うような企業やプロダクトチームもあると思いますが、柳川さんが担当する事業の組織ではそのような役割分担はないのでしょうか?
柳川:現時点ではグループ内の顧客に対してサービスを提供しているという仕組み上、PMが一貫して担うのが効率的という判断をしています。しかし今後の事業の展開を考えるとBizDev専門の役割も必要だと考えており、現在積極採用しています。
柳川さんからのおすすめ本
── PM向けのおすすめの本をご紹介いただけますか?
柳川:おすすめの本を4冊ご紹介します。ただ、私はあまりPM向けのハウツー本は読まないようにしています。どちらかというと、もう少し普遍的な引き出しを広げるために本を読んでいます。歴史や宗教、哲学などから学ぶことが多いと感じています。
『なぜ国家は衰退するのか』
これは歴史系の本で、貧しい国と豊かな国の違いは何なのかを、さまざまな歴史学者がいろんな角度から考察している本です。この本では、政治や経済上の制度の差がその違いを生んでいるのではないかという視点から議論されています。この内容は組織の文化づくりにも通じる部分があり、非常におすすめです。
『貨幣論』これは日本人の著者が書かれている本で、「お金とは何か?」という普段はあまり深く考えないテーマを掘り下げています。私たちが扱っているプロダクトがキャッシュフローや金融関連ということもあり、このテーマはとても興味深いです。実は大学生の時に読んだ本なのですが、電子マネーが普及している現代でも「なぜ紙幣に価値があるのか?」という問いは非常に重要だと感じています。
お金の価値は、人々がそれを信じているからこそ成り立つものであり、その信頼が金融やレバレッジの基盤となっています。そうした観点から、お金の本質について考えることは、現在の仕事にも直接つながるため、非常におすすめです。
『みんなでアジャイル』
こちらは比較的馴染みのあるタイトルかもしれませんが、非常に良い本だと思っています。この本は、アジャイルやスクラムの具体的なプラクティスについて書かれているだけでなく、「なぜアジャイルをやるべきなのか?」という普遍的な問いに答えてくれます。最終的には「自分たちで何をすべきか考えるべきだ」というメッセージがあり、アジャイルの本質を捉えた一冊だと感じています。
今お話しした他の本と並べても違和感がないほど、基礎的でありながら深い内容を持つ本だと思います。ぜひ読んでみてください。
『すべては1人から始まる――ビッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力』
ソース原理(人のあらゆる活動において「特別な役割を担う1人」がいるという考え方)を紹介している本です。現状理解と組織作りの参考にしています。
最後に
柳川さんのお話はいかがでしたか?
柳川さんがキャリアを選択される際、たまたまとおっしゃいましたが、その背後にはしっかりとした価値観や考え方があり、それに基づいて「どこでやりたいことを実現できるか」を探し続けた結果、今のBASEグループにたどり着かれたのだと感じました。
最初のSIerでの受託開発から、事業会社への転職、そして営業やクライアントの声に左右される開発の中で、違和感を抱き、今のBASEで自身の価値観やキャリアビジョンに合致するフィールドを見つけた。そのプロセスがとても印象的でした。また、BASEグループのビジョンやプロダクトビジョンと、柳川さんご自身の価値観が接続していることも、非常に共感できました。
キャリアのお話からは、事業が立ち上がり、リリース後に事業開発のポジションが空席になった中で、柳川さんが事業の責任を負い、計画を作り、プロダクトをグロースさせる必要性に駆られてチャレンジしてきた姿が伺えました。その過程でスキルを磨きながら、ロールにこだわらずにユーザーへの価値提供を追求する姿勢が非常に印象的でした。
このようなタフな状況を乗り越えた結果、今の柳川さんがいらっしゃるのだと感じ、非常に学びのあるインタビューとなりました。お話を伺うことで、個人的にも多くのことを学ばせていただきました。
柳川さん、本日は本当にありがとうございました。このインタビューが、聴いている方々にも勇気や参考になることを提供できると信じています。今回はこれで以上となります。ありがとうございました。
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