コミュニティマネージャー経験のPMから学ぶ!利用者がワクワクするプロダクトを作るヒント

今回は、GMOペパボ株式会社でプロダクトマネージャー(以下、PM)を務める牧山 ミルテさん(@_mmakiyama)に仕事内容やキャリア、マイルールなどのお話を伺いました。

牧山さんはスタートアップのWebディレクターからキャリアをスタートし、Radiotalkのコミュニティマネージャーを経験された後、GMOペパボでPMを担われています。現在はオリジナルグッズ作成販売サービス『SUZURI』のさらなる成長を推進するために新サービス『タクラミ』の改善に注力されており、その流れで事業管理やピープルマネジメントにも仕事の幅を広げられています。

今回はYoutuberや芸能人も利用する『SUZURI』や『タクラミ』の課題感や今後のビジョンを語っていただきました。牧山さんの仕事観や人生観を通じて語っていただいており、心の底からプロダクトに向き合えることの重要性を再認識できる内容となっています。また、Influencing Peopleスキルが高く、視座の使い分けや普段から意識して取り組んでいることなどは多くのPMが学べる内容となっています。

GMOペパボ株式会社でプロダクトマネージャーを担当

── まずはご自身の仕事について教えてください。

牧山:GMOペパボ株式会社で『SUZURI』のプロダクトマネージャーを務めております。『SUZURI』は画像をアップロードするだけで簡単にオリジナルグッズの作成と販売ができるサービスです。サービスの利用者(クリエイター)は基本的にはイラストレーターの方が多いんですけれども、最近ではYoutuberやお笑い芸人など、様々な方が利用されています。現在、クリエイターさんは約80万人以上いらっしゃいます。もともとはグッズ販売のサービスでしたが、昨年からデジタルコンテンツの販売をスタートしました。今年7月からは有料で個人依頼ができる『タクラミ』という機能をリリースし、グッズ販売を超えた新たな機能を提供しています。これにより、従来のグッズ販売の枠を超えて、クリエイターの方々のためのプラットフォームを目指しています。

── 先日、Xでも『タクラミ』がリリースされたという投稿を拝見しましたが、大変盛り上がっているようですね。まずはリリースおめでとうございます。初期の状況としてはいかがでしょうか?

牧山:ありがとうございます。今、本当に多くの方々からご好評をいただいております。『タクラミ』はコミッションという文化を実現するための機能です。この文化は主に海外で始まり、個人に対して有償でイラストなどを依頼するというものです。近年、日本でもSNSの普及に伴い、次第にスタンダードになってきました。

ただ、個人依頼をするためのプラットフォームは日本ではまだ少なく、多くの方がDMでのやり取りに頼っていました。このような背景から、様々な課題がある領域であると認識していますが、『タクラミ』のリリースにより、これらの課題を解決し、クリエイターの方々に大変喜んでいただいております。

── 今後の成長がとても楽しみです。実は私たちもユーザーとして『SUZURI』を使わせていただいており、Granty PMのロゴを使ったTシャツを作りました。とても便利に、自分たちが愛着が持てるモノを作ることができ、本当に素晴らしいプロダクトだと感じています。

牧山:ありがとうございます。そう言っていただけると本当に嬉しいです。イラストレーターの方以外でも、自分のために欲しいものを作るという用途で利用してくださる方がたくさんいらっしゃいます。今のようなコメントをいただけるのは本当に嬉しいです。

プロダクトを通じて、好奇心をくすぐる体験を作り出したい

── プロダクトのビジョンとしてどのようなものを掲げられているのか、またどのような状態を目指しているのか教えていただけますか?

牧山:『SUZURI』のプロダクトビジョンは、「好奇心をくすぐる体験を作り出す」ということを掲げています。

『SUZURI』は、どんなイラストでも、どんなものでも自由に作れる創作の場です。先程、Tシャツを作ったときの、「どんなTシャツを作ろうかな?」「こういうの可愛いかもしれないな」といった、想像力や遊び心が『SUZURI』を通じて伝わっているのではないかと思っています。

私たちは、人々の遊び心を、Tシャツやデジタルコンテンツなど様々な形に乗せて生み出したいと考えています。そのためには、「何かやってみたい」と思っていただける場でありたいと思っています。このように、「好奇心をくすぐる体験を作り出す」というビジョンを掲げて進めています。

── 素敵なビジョンですね。先日、3Dアバターを無償でダウンロードできるという投稿を見ましたが、こういった取り組みもビジョンと密接に関わっていそうですね。

牧山:『SUZURI』ではプロダクトビジョンに加えて、「遊び心」「出会い」「トライ」「拡張」という4つのキーワードを大事にしています。

『SUZURI』は、元々グッズ作成に関して、多くのハードルを下げてきました。普通、Tシャツを作りたいと思ったときに、工場での生産や諸々の準備が必要ですが、『SUZURI』なら画像をアップロードするだけで自分のアパレルショップを持つことができます。デジタルコンテンツについても同様で、直近では画像をアップロードするだけで、簡単に誰でも3Dモデルの缶バッジやTシャツを作れる機能をリリースしました。

3Dモデルを自作しようとすると、スペックの高いPCや複雑なツールが必要で、普通の人がすぐに作れるものではありません。しかし、『SUZURI』なら画像をアップロードするだけで、誰でもスマホ片手で3Dモデルを作成できます。このリリースによって、人々の能力やイメージを拡張する手助けになっていると思います。

── 価値観が体現されていると社外から見ても感じます。キャラクターの名前を失念しましたが、あのキャラクターが随所で楽しげな雰囲気を作り出していて、プロダクトビジョンの内容がデザインやキャラクターを通じて、世界観として体現されているのを感じます。。

牧山:「忍者スリスリくん」ですね。共感していただけて嬉しいです。

── 今伺った内容を踏まえて、牧山さん自身の価値観やキャリアビジョンが、プロダクトビジョンや会社の目指す方向性とどのように繋がっているか教えていただけますか?

牧山:私の個人的な価値観についてお話しすると、子供の頃から「自分が手伝ったり介在することで誰かの人生に新たな選択肢が生まれること」に大きな喜びを感じていました。これまで関わってきたサービスも、何かのハードルを下げたり、本来の価値に気付かれていなかった才能が開花するようなものが多かったです。そうしたサービスに関わることが、自分の価値観とマッチし、楽しさを感じていました。

『SUZURI』についても、もともとはイラストレーターでもアパレルショップをやっていたわけでもない方が、素敵なTシャツを作り、結果として人気の作家さんになるといったことが生まれるサービスに携われていることが、私にとって大きな生きがいであり、喜びを感じる点です。今後もグッズだけに留まらず、そういった才能を生み出していけるようにしたいと考えています。

この価値観やビジョンが『SUZURI』のプロダクトビジョンと繋がっており、「好奇心をくすぐる体験を作り出す」という目標と一致しています。これからも、より多くの人々に新たな選択肢や可能性を提供していきたいと思っています。

また、会社のミッションである「人類のアウトプットを増やす」とも繋がっています。社内ではこのミッションを「JOF(ジェイオーエフ)」と略して呼んでいるのですが、このミッションに沿って、GMOペパボでは『SUZURI』以外にも様々なサービスを展開しています。

例えば、ハンドメイドマーケットの「minne(ミンネ)」や、古くからインターネットを利用している方なら一度は聞いたことがある「ロリポップ!」といったサービスがあります。これらのサービスは、すべて何かのハードルを下げてきたものです。

「ロリポップ!」では、サーバーを立てるのが大変で費用がかかるところを、安価で誰でもできるようにしました。「minne」も、ハンドメイド作品を売るのが難しかったところを、サービスを通じてマッチングすることで解決しています。また、ECサービスの「カラーミーショップ」も同様の取り組みをしています。

すべてのサービスが「人類のアウトプットを増やす」ためのものであり、『SUZURI』もその延長線上にあります。私たちは、より多くの人がアウトプットを増やせるように、これからも努力を続けていきます。

── 先ほどのお話と牧山さんの個人的な価値観がとても繋がっていると感じました。『SUZURI』のビジョンや取り組みを含め、プロダクトに対する情熱が溢れているなと感じます。

牧山:「サービスが好き」「楽しんで仕事をしていそう」とよく言われますが、そう言われること自体が、私の軸が他の方にも伝わっているのかなと感じています。私自身、心から楽しんで取り組んでいますし、この一貫性が『SUZURI』を通して多くの方に伝わることを願っています。

── 素敵ですね。小さい頃から、誰かの人生の選択肢を増やすことに生きがいや喜びを感じるというお話がありましたが、何か原体験のようなものはありますか?

牧山:原体験といえば、中学校の時のことです。中学一年生になったとき、私はクラス委員長のような役割をよく担っていました。ある日、アメリカから帰国した転校生がクラスに来たんですが、彼女は日本の環境に馴染めず、不登校気味でした。せっかく転校してきてくれたのに、学校生活を楽しんでほしいという気持ちがあって、定期的に彼の家を訪ねて、一緒に遊んだり話を聞いたりしていました。

すると、その転校生は私と仲良くなり、少しずつ学校に来るようになりました。自分が少しでも彼の力になれたと感じたとき、すごく喜びを感じました。この経験から、誰かが困っているときには助けたいと思うようになりました。自分に何かできることがあって、それが障壁を取り除くことになるなら、とても嬉しいと感じるようになりました。

また、大学生の時にドイツ語の先生としてアルバイトをしていたことも影響しています。1対1で生徒さんにドイツ語を教える体験を通じて、その生徒さんたちがドイツで夢を叶える姿を見て、より多くの人を支援し、幸せにしたいという気持ちが加速しました。この思いが今のキャリアに繋がっているのだと思います。

『タクラミ』によって課題解決を図る

── 現在、牧山さんが向き合われているプロダクトの課題は何でしょうか?また、それをどのように解決しようとされているのか教えていただけますでしょうか?

牧山:今、私がメインで関わっているのは『タクラミ』というコミッション機能です。これは、個人のクリエイターに有償で依頼する文化を実現するための機能です。しかし、SNSの普及により、誰でも簡単にイラストレーターさんに連絡ができるようになり、「似顔絵を描いてほしい」といった依頼がDMで来ることがあります。しかし、それが無償前提だったり、相場観が合っていなかったり、受けたとしてもやり取りのコストがかかる問題があります。

また、支払い方法に関しても、「銀行口座に振り込んでください」といった場合、本当に振り込まれるのか不安があり、詐欺などのトラブルもあります。コミッションを装って連絡し、イラストを描いたのに振り込まれないケースもあります。

そこで、こういったトラブルや不安を解消し、安心してコミッションができる場を作りたいと考え、この機能をリリースしました。具体的には、やり取りのコストを減らし、安心して取引ができる仕組みを整えることに注力しています。

── その課題を解決するためにどのように対応しましたか?

牧山:課題を解決するために、いくつかの工夫をしました。

1.やり取りのコストを削減
やり取りのコストを削減するために、一往復で完結する仕組みを導入しました。このアイデアは、すでに別のサービスで成功している例を参考にしています。多くのユーザーは「この人に描いてもらいたい」という気持ちで連絡を取ってくるため、細かい修正や打ち合わせは必要ありません。そのため、やり取りをシンプルにすることで、スムーズな体験を提供しています。

2.支払いとリクエストのセット化
支払い面での不安を解消するために、応募者が支払いとリクエストをセットで送信する仕組みにしました。これにより、クリエイターは支払いが確保された状態でリクエスト内容を確認でき、安心して作業に取り掛かれます。クリエイターは内容を確認し、納品するだけで完了します。これにより、トラブルのリスクを減らし、プロセスを簡素化しています。

3.個人情報の管理
似顔絵の場合、顔写真の送信や、物を郵送する際の住所情報など、個人情報の取り扱いに抵抗を感じる方が多いです。これを解決するため、『SUZURI』上で個人情報を安全に管理できるようにしました。こうした工夫により、安心して利用できるプラットフォームを提供しています。

これらの取り組みにより、コミッションを安心して利用できる環境を整えています。

── 『タクラミ』をリリースされて、先ほどおっしゃった課題はプロダクトの機能や提供価値によって解決され始めていますね。今後、より価値を大きくするために、プロダクトを進化させる際の次の課題について教えていただけますか?

牧山:いくつかの課題がすでに見えてきています。

1.データ納品物のグッズ化
現在、納品物は主にデータですが、似顔絵やその他のイラストをグッズ化したいというニーズがあります。例えば、Tシャツにしたり、マグカップにプリントしたいという要望があるのです。しかし、現状ではスムーズにできていないのが課題です。『SUZURI』のメリットである受注生産と在庫を持たない発送体制を活かし、『タクラミ』のデータ納品の仕組みと連携させたいと考えています。

2.海外ユーザーの対応
クリエイターの中には海外にファンを持つ方が多くいらっしゃいます。『SUZURI』は基本的に国内対応ですが、海外のファンにも利用してもらえるようにしたいと考えています。現時点では『タクラミ』を使っている海外ユーザーは少ないですが、『SUZURI』全体としては一定数の海外ユーザーが存在します。この層に対しても価値を提供できるようにしたいです。

これらの課題に取り組むことで、プロダクトの価値をさらに高め、多様なユーザーに対応できるようにしていきたいと思っています。

── クリエイターの方にファンがついている前提でリクエストが来ると話されましたが、ファンを作る側の課題感はないのでしょうか?

牧山:ファンを作ることにも大きな課題があります。『SUZURI』には80万人以上のクリエイターがいますが、全員が売れているわけではなく、まだまだ発展途上です。『タクラミ』はミニマムでリリースしたため、俯瞰して見たり一覧表示する機能が不足しています。そのため、人気クリエイターにはすぐにリクエストが集まりますが、これからファンを増やしたいクリエイターには応募者との接点が少ないという課題があります。この点については、今後の検討課題としています。

『タクラミ』だけでマッチングする必要はないとも考えています。例えば、『SUZURI』のグッズを通じて興味を持ってもらい、『タクラミ』に応募してもらう形で、既存のグッズやデジタルコンテンツの事業と連携できればと思います。また、『SUZURI』が他のサービスやプラットフォームと連携することで、グッズ化のニーズやデザインができない方とクリエイターをマッチングする仕組みを考えています。

特に最近では、配信者の方が多く、彼らとクリエイターをうまくマッチさせることで、さらに新しい価値を提供できると考えています。『タクラミ』については、イラストを描けない人と描ける人のマッチングだけでなく、描いてもらったものをグッズ化し、さらにそれを通じてファンを増やす流れを作りたいと思っています。様々なニーズを嚙み合わせ、『タクラミ』と連鎖が発生するような仕組みを目指しています。

全方向に責任を持ちつつ、『タクラミ』の数年後を創る

出典:The Product Management Triangle

── プロダクトマネジメントトライアングルを基に、牧山さんが担当されている業務範囲や役割分担について教えてください。また、特に重点的に取り組まれている領域はどこですか?

牧山:もともとは開発プロジェクトマネジメントや、データ分析、カスタマーサポート、顧客開発といった領域を主に担当していました。しかし、直近ではほとんどの領域を担当するようになっています。

現在、私が責任者を務めるチームは、デザイナー1名、エンジニア1名、ディレクター1名といった構成で動いています。そのため、実質的に私が全ての領域をカバーする形で業務を行っています。これにより、プロジェクトの進行管理から顧客対応、デザインや開発のディレクションまで、幅広く対応しています。特に、プロジェクトの進行と顧客のフィードバックを重視し、プロダクトの成長に注力しています。

── ビジネスディベロップメントの具体的な業務について、日々どのようなことを行っているのか教えていただけますか?

牧山:ビジネスディベロップメントについては、事業責任者の部長と連携しながら、『タクラミ』の機能を1年後、3年後、5年後にどう成長させるかを日々話し合っています。

具体的には、ターゲットをどのように広げていくかを考えています。『タクラミ』は主にスキルシェア市場に属していますが、この市場でどのポジションを取るのかを検討しています。競合と比較してどこに差分があるのか、『SUZURI』の強みと弱みを分析し、既存事業を活かしながら、どのように『タクラミ』を競合に対して差別化するか、または並んでいける形に成長させるかを日々話し合い、計画しています。

このように、事業の戦略を練り、具体的な施策を検討し実行することが主な業務です。市場動向を把握しつつ、『SUZURI』の価値を高めるために、どのように新たなユーザーを獲得していくかを常に考えています。

── 事業責任者の方が牧山さんの上司にあたるかと思いますが、『タクラミ』の事業におけるPL管理はどのようにされていますか?

牧山:現時点では、『タクラミ』自体がまだ今年の予算会議に組み込まれている段階なので、私がPL管理を全面的に行っているわけではありません。ただ、今年から少しずつ始めており、来年から本格的にPL管理を担当する予定です。

── プロダクトのディスカバリーやデリバリーのプロセスにおいて、特徴的なものや工夫している取り組みがあれば教えていただけますか?

牧山:特にこだわっていることとしては、「いかに最速最高で出すか」を意識しています。『タクラミ』は『SUZURI』には全くなかった新しい概念の機能だったため、リリースまでに時間がかかりました。しかし、MVP(Minimum Viable Product)を最小限の形で出すことを重視しました。

要件を決める際には、何がコアの体験や価値なのかを常にチームで話し合っています。そのために、ユーザーであるクリエイターの声を直接聞くことが重要だと考えています。実際に足を運んでヒアリングを行い、聞いたことを単に記録するだけでなく、そこからインサイトを抽出し、整理しています。その結果、どこが一番コアな部分かを見極め、職種に関係なくチーム全体で話し合っています。

このプロセスにより、PMが全ての要件を決めるのではなく、チーム全員が同じ視座で議論できる状態を作ることを意識しました。少数精鋭のチームだからこそ、動機を常に共有しながら進めていくことが大切だと考えています。

コミュニティマネージャーからPMになるキャリアパス

── キャリアについてお伺いしたいのですが、どのようにしてPMになり、現在に至るのか、ファーストキャリアから教えていただけますか?

牧山:私のファーストキャリアは、スタートアップのWebディレクターから始まりました。学生時代にドイツ語の先生のアルバイトをしていたことがありましたが、それを提供していた習い事のマッチングサービスに共感し、そのまま入社しました。

スタートアップだったため、ディレクターとして何でも担当し、カスタマーサポートやユーザーとのやり取りを行っていました。その後、Webディレクターとして転職し、機能や仕様の開発を進める業務に携わりました。

その後、コミュニティマネージャー職を経験しました。ラジオトークという音声配信プラットフォームでは、配信者であるトーカーの熱量を上げるためにコミュニティを作り、彼らの活動を支援する役割を担いました。ユーザーからの要望や意見をサービスに反映することが多くなり、自分がPMとして活動する方が効果的だと感じ、PMとしてのキャリアをスタートしました。

当時は小さなチームで、PM1人、エンジニア各1人(ウェブ、iOS、Android)と社長という構成でした。小規模なチームでスムーズにコミュニケーションが取れていましたが、大人数のチームでも同じスキルを発揮できるのかを考え、転職を決意しました。それが現在の会社に至る経緯です。

── GMOペパボに入ってからはどのような経験をされましたか?

牧山:GMOペパボに入社してから、開発チームは約25人ほどの規模でした。その中でプロダクトマネジメントを行うPMとして業務を始めました。当初はプロダクトチーム内にPMが不在で、施策の優先順位や基準が明確でない状態で、とにかく出せるものをどんどん出していくという状況でした。

そこで最初に取り組んだのが、事業に沿った優先度をつけられるようにすることです。そして、その判断基準を明確にし、毎回の判断コストを下げるために、誰でもタスクの優先順位を判断しやすい体制を作ることでした。このような環境を整えることが最初の大きな仕事でした。

その後、ここ2年ほどで『SUZURI』は新規事業をどんどん展開する流れになり、昨年からデジタルコンテンツを含めた新しい事業の立ち上げからリリースまでを担当するようになりました。これが現在の業務に繋がっています。

── キャリアの変遷がとても興味深いですね。コミュニティマネージャーを経験したのは珍しいキャリアパスだと感じました。コミュニティマネージャーを目指して転職したわけではなかったんですよね?

牧山:おっしゃる通りです。ラジオトークで成長のために何が必要か考えたときに、コミュニティを作ることが重要だとなり、コミュニティマネージャーを担当しました。その後、サービスに落とし込むためにPMが必要だと感じて、ジョブチェンジしました。基本的にその時に必要なことをやるというスタンスでした。

現在、PMと対外的には言っていますが、社内のポジションとしては『SUZURI』事業部のサブマネージャーです。PMの役割を担いながらも、事業の管理やピープルマネジメントも行う立場に今年から変わっています。

これも、『タクラミ』を成功させるために、PMにとどまらず、ボードメンバーと話す機会を増やす必要があると感じたからです。その視点で判断し、進めるために、マネージャーポジションに移りたいと相談して今に至ります。結局、必要なことを必要な時にやっているという感じです。

── PMありきではなく、必要なポジションに自分を合わせることで、ミッションやビジョンの実現をサポートするという考え方が素晴らしいですね。マネージャーポジションへの移行もその一環だと感じました。

牧山:そうですね。よく、「これになるためにはどうしたらいいですか?」といった質問をいただくことがありますが、特定のポジションを目的にすると、自分の業務範囲ややることを区切ってしまうことがあります。その時にやるべきことをやるという考え方は、自分の中で大事にしています。

現在のディレクターポジションにおいては、総合職のような役割で、マネジメントが主な業務です。特にディレクターというポジションの定義が広いため、PMとしてではなく、チーム全体を見渡す役割を担っています。

エンジニアもマネジメント対象に含まれますが、エンジニアリングスキルの評価は専門職の上長が担当しています。それ以外の部分で、チームをサポートし、業務を進める形です。最終的には、プロダクトの成長を促すために必要な役割を果たすことが重要だと思っています。

── マトリックスの組織で、事業部とエンジニアリングが横断しているのですね。牧山さんの視点から見ると、必要なことをやっているだけということですが、プロダクトマネジメント、ピープルマネジメント、事業責任を一体で担うのは大変なことだと思います。

牧山:今年からPM専任から外れたので、自分の中でも働き方を見直しています。今までのやり方では破綻してしまうので、どのように分担するか、次のPM候補をどう育てるかを考えています。

これまではプロダクトに集中し、事業課題をどう解決するかを見ていました。しかし、マネジメントやボードメンバーの役割では、会社や事業の方針をどう実現するかが求められます。プロダクトや事業全体を見て進める必要があります。まだ完璧にはできていませんが、視座は大きく変わりました。

PMとして専門性を追求するか、私のように必要なポジションに適応していくかは人それぞれです。この記事を読んでくださっている方にとって、キャリアを考える上で参考になれば嬉しいです。

視座を使い分け、全体を推進する「Influencing People」スキル

── 大きく4つの領域について、それぞれのスキル保有状況をご回答いただいています。この中で、特に強みと感じる項目はどこでしょうか?また、その強みをどのようにスキル開発されたのかをお伺いしたいです。

牧山:特に強みとして感じるのは、「Influencing People」の領域ですね。

私のスキルは特定の分野に突出しているわけではなく、全体的にバランスを保っていると感じています。しかし、その中でも人を動かす力は強みだと感じています。スキル開発については、具体的な研修や特別な経験というよりは、日々のコミュニケーションを大事にしてきたことが大きいです。

上層部との関係においても、常に自分の考えだけで動くのではなく、多様な視座を持つことが重要だと考えています。PMは様々なステークホルダーと対話し、その中で最適な選択を見つける役割です。解像度が低いままでは、単に指示を受けるだけになってしまいます。

そこで私は、視座を高めるために、意識的に上層部と話す機会を作りました。経営陣が参加する会議には積極的に出席し、うちの部長とも定期的に話すようにしています。このようなコミュニケーションを通じて、異なる視点を理解し、今何をすべきかを考える力を養ってきました。

例えば、自分の視点ではこうすべきだと感じても、上層部の視点から見た全体像を理解することで、今すべきことが見えてきます。このような経験が、Influencing Peopleのスキルに直結していると感じています。

── 視座を使い分けたり、経営陣の視点に立って考えることを意識されているのですね。その意識はどのように得られたのですか?

牧山:経営陣の視点を意識的に取り入れることは重要だと考えています。事業の方向性や経営方針は常に一定ではなく、急に変わることもあります。そういった変化に対応するためには、普段から情報を収集し、視座を合わせておく必要があります。

急な変更があったときに、PMが動揺したり、聞いていないといった反応をするのは良くないと思っています。PMの発言や考え方はチームに影響を与えるため、安定した姿勢を保つことが大切です。

そういった状況を避けるためにも、常に変化に柔軟である必要があります。普段から意識的に視座を高め、情報を取り入れることで、変化に対応できるようにしています。この姿勢が、チーム全体の安定と成長に繋がると考えています。

── UXデザインのみ5という評価にギャップを感じるものの、他のスキルは全体的に高いレベルを実現されています。スキル開発やキャリアを歩む上での考え方について教えていただけますか?

牧山:キャリアの歩み方については、特にかっこいいことは言えないのですが、とにかく自分よりスキルの高い人と話しまくることを心がけてきました。ずっと同じチームや環境で働いていると、やり方がガラパゴス化してしまうリスクがあります。

常に自分のやっていることを疑い、他のところはどうしているのかを意識しています。外部との交流にも積極的に参加し、機会があればこうしたインタビューやディスカッションの場に参加するようにしています。こうした場で改めて自分の考えを言語化し直したり、新たに調べ直すことで学び直す機会を作っています。

実際に話してみると、「自分ができていると思ったことができていなかった」「他の環境から見たら視座が違った」などの気づきが多くあります。そうした悔しさや恥ずかしさを感じたことを反省材料にし、スキル向上に活かそうとしています。

このように、常に自分を磨き続ける姿勢でキャリアを進めてきました。そうした積み重ねが、現在のスキルレベルの向上に繋がっていると思います。

── チャレンジを通して内省し、PDCA(Plan-Do-Check-Act)を高頻度で回している印象を受けます。

牧山:本当にその通りです。自分の身の丈に合っていないこともありますが、一旦やってみることを恐れず、愚直に実行しています。要件定義やカスタマーインサイトの部分については、特に自分がto CのPMをしていることもあり、実際に自分がユーザーになる機会が多いです。

自社サービスはもちろん、他社のサービスを使う際にも、違和感を感じたり、良かった・悪かったと思ったことをなぜそう感じたのかを言語化する癖をつけています。そして、その言語化を基に、運営の立場から「なぜこのUIにしたのか」「なぜこの機能を追加したのか」といった仮説を立てて、ユーザー視点と運営視点を行ったり来たりしています。

── ユーザー視点と運営視点を行ったり来たりするのは面白いですね。日常で使うものに対して「なぜだろう」と考え、両方の視点を行き来するのはユニークです。

牧山:大きな改変があったとき、ユーザー視点だと「使いにくくなった」と感じることもありますが、その気持ちを大事にしつつ、なぜこのツールがこうした変更をしたのかを考え、逆張りするような思考をしています。これは自分のプロダクトマネジメントに役立っています。

マイルールは「自分がとにかく一番動くこと」「どんな時でも絶対に機嫌を良くすること」「自分自身がプロダクトのファンになること」

── PMとして働く上で、行動指針や大切にされているマイルールはありますでしょうか?

牧山:私が大切にしているマイルールは以下の3つです。

1.自分がとにかく一番動くこと

PMとして、自分の熱量が非常に重要だと考えています。PM自身が一番の熱量を持っていないと、他のメンバーにその熱が伝わらないと感じています。ただ100%の熱量を持つだけでは伝わらず、120%や140%といった高いレベルでの熱量が必要だと思っています。そうすることで、チーム内の熱を高め、一体感を醸成することができます。

私自身、ディレクター出身で技術的な開発は得意ではありません。そのため、開発が必要な場合はエンジニアに依頼することになります。しかし、何もしていない人が「これをさっとやってください」と依頼するのは、相手にとっても良い印象を与えないと思います。

だからこそ、自分ができない部分がある分、他のところで率先して動く姿を見せることを意識しています。自分が動くことで、チームの士気を高め、プロジェクトを成功に導くことができると信じています。このような姿勢を持ち、日々の業務に取り組んでいます。

2.どんな時でも絶対に機嫌を良くすること

PMは、職種や職位、年次に関係なく、様々な人から声をかけられる立場だと思っています。そんな時に、「話しかけにくいな」と思われたり、「機嫌が悪い時があるから今は話しかけない方がいいかもしれない」と思われてしまうのは、PMとして非常に損失だと考えています。

例えば、顧客要望についても、営業のメンバーやカスタマーサクセスのメンバーが持ってきてくれた声を、嫌な感じで返してしまうと、もう伝えてくれなくなってしまう可能性があります。そういうことを防ぐためにも、どんなに忙しい時でも声をかけられた際には、絶対に機嫌を良くすることを意識しています。

このように、コミュニケーションを円滑にし、チームメンバーや関係者から信頼されるPMであり続けることを心がけています。

3.自分自身がプロダクトのファンになること

これは冒頭でも少し話しましたが、私はto CのサービスのPMをしているため、自分が好きになれないサービスを手掛けることは難しいと考えています。これは熱量にも関係してきますが、自分が好きでないサービスを、ユーザーが好きになることはないだろうと思っています。

そのため、自分のサービスの良さを自信を持って言えるようにするために、まず自分が一番プロダクトの良いところも悪いところも理解している必要があると考えています。どんなサービスに携わったとしても、自分がプロダクトのファンであることを徹底しています。

いいチームを作るためには「コミュニケーション」「自己開示」

── いいチームを作るために何か工夫されていることはありますでしょうか?

牧山:私にとっての良いチームとは、職種に関係なく、同じゴールに向かって同じ温度感で走れることだと考えています。そのためには、心理的安全性が高く、優しさではなくゴールに対して必要なことを、良いことも悪いこともお互いに言い合える関係が必要です。

それを醸成するために、私は以下のことを工夫しています。

1.コミュニケーションを増やす
どんな時もコミュニケーションを増やすようにしています。朝一番に自分から話しかけたり、メンバーと積極的に会話することで、信頼関係を築いています。

2.自己開示をする

自己開示を積極的に行うようにしています。自分がどんな人間であるか、仕事以外のことも含めて開示することで、メンバーに私の思考回路を理解してもらうことを目指しています。自己開示を通じて、他のメンバーの気持ちや価値観も理解しやすくなると考えています。

このように、コミュニケーションと自己開示を通じて、信頼関係を築き、良いチームを作ることを心がけています。お互いに本音で話し合える環境を作ることで、チームとしての力を最大限に引き出せると信じています。

「とにかく話を聞く」ことで質の高い企画を生み出す

── 質の高い企画や課題に対する筋の良い打ち手を生み出すために、何か工夫されていることはありますでしょうか?

牧山:本当に月並みな回答になるかもしれませんが、まずは「とにかく話を聞く」ことです。ただし、話を聞きっぱなしでは意味がないので、それをいかに資産化できるかが重要だと思っています。

『タクラミ』などの機能をリリースする際も、ターゲットユーザーに何度も話を聞きましたが、そこで得たインサイトや理解したことを資産として落とし込みます。これはペルソナなどの形で表現することもありますが、形に落とし込んだ上で、高い精度の仮説を次のインタビューで確認していくことを繰り返しました。

これによってどんどん精度を上げることができ、機能リリースにあたって非常に役立ちました。結果的に、資産化されたインサイトは何度も利用できるものであり、他の仮説を考える際にも活用できるため、初めは時間がかかっても非常に有効だと感じました。

質の高い企画を作るために、インサイトをしっかりと資産化し、それを元にした仮説検証を続けることが重要です。こうしたプロセスを通じて、次のステップに繋がる筋の良い一歩を踏み出すことができると思っています。

牧山さんからのおすすめ本

── PM向けのおすすめの本をご紹介いただけますか?

牧山:おすすめしたいのは、名著でもありますが『エンジニアリング組織論への招待』です。私はこの本が大好きで、定期的に読み返しています。

この本の概要としては、エンジニアリングにおける課題を解決する思考の整理方法や、メンタリングなどの対人関係の話が多く含まれています。最初は「エンジニアリング」というタイトルに少し敬遠していましたが、実際に読んでみると職種に関係なく、特にチームビルディングやマネジメントに関わる人にとって非常に刺さる内容だと思いました。

特に私がこの本に救われたのは、新規事業であるデジタルコンテンツと『タクラミ』を進める際でした。新規事業は不確実性が高く、何が正解かもわからない中で市場に進出し、プロダクトに落とし込むために考えました。その中で不確実性に悩むことが多かったのですが、この本では不確実性を受け止める方法や向き合い方が書かれています。

その内容に非常に心が楽になり、全てのPMに読んでほしいと思っています。これをお聞きのPMの皆様にぜひ読んでいただければと思います。おすすめです!

最後に

牧山さんのお話はいかがでしたか?

お話を伺う中で、牧山さんの個人的な価値観として、小さな頃から「自分が介在することで誰かの人生の選択肢が増える、前進する」といった価値観を大事にされていると感じました。この価値観が、GMOペパボさんの「人類のアウトプットを増やす」というミッションや、牧山さんが掲げる『SUZURI』における「好奇心をくすぐる体験を作り出す」といったプロダクトビジョンに密接に繋がっているのだと思います。

だからこそ、牧山さんが楽しまれている状態が外から見ていても伝わってきました。プロダクトへの愛に溢れていることも非常に伝わってきて、その一貫性があるからこそ、プロダクト愛や生きがいとしてプロダクトに向き合う時間が重要だと改めて実感させられました。

新規事業の『タクラミ』に取り組まれる中で、これまではプロダクトマネジメントに特化されていたと伺いましたが、今年からはピープルマネジメントや事業開発的な役割にも取り組まれているとのことです。キャリアの中で、スタートアップのウェブディレクターから始まり、コミュニティマネージャーを経てPMになられたことが印象的でした。それは、コミュニティマネージャーになりたい、PMになりたいということではなく、事業やサービスを成長させるために必要な役割を担ってきたからだと思います。

行動指針として、自分が一番熱量を持ちながら周囲を巻き込んで動いていくこと、必要なロールを取っていくこと、視座を高めてステークホルダーを巻き込みながら前進するために必要なことをされていることが、実践に繋がっているのだと感じました。チャレンジし学びを得てPDCを回す姿勢が根底にあるからこそ、実践できているのだと思います。

インタビューを通じて、多くの学びを得ることができました。牧山さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。

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