TVerでテレビ業界の社会的価値と向き合うPMから学ぶ!自己効力感の高いチームを作るためのヒント

今回は、株式会社TVerでTVerのプロダクトマネージャーと、プロダクトマネジメント組織の部長補佐を勤めている松岡 綾乃さん(@y_a_j_i)に仕事内容やキャリア、マイルールなどを伺った。

松岡さんは、新卒で株式会社MIXIの開発ディレクター・プロダクトオーナーとして多くの新規事業やプロダクト立ち上げを経験。その後ご結婚を機に退職し、フリーランスを経験したのち、スタートアップ企業の取締役に就任したご経験もあります。

今回は、TVerのサービスが秘めている社会的意義の大きさや、どんな形で課題解決に取り組んでいるのかについて語っていただきました。また、過去の経験をもとに自己効力感の高いチームを作るための考え方についても解説いただいています。フリーランス、スタートアップ、大手サービスそれぞれを経験された松岡さんのキャリアもとても参考になりますので、ぜひ最後までご覧ください。

TVerにおけるプロダクトマネジメント組織の部長補佐

── まずはご自身の仕事について教えてください。

松岡:テレビでよく「見逃し配信はTVerで」「(ライブの)続きはTVerで」という形でよくご紹介いただいているTVerに、2024年の1月に入社したばかりです。現在プロダクトマネージャーをやらせていただいております。

── TVerのプロダクトマネジメント組織における松岡さんの役割や、体制についても教えていただけますでしょうか?

松岡:現在、TVerのプロダクトマネジメント組織には20人以上のメンバーがおり、私はそのプロダクトマネジメント部の部長補佐という役割に就いています。

もともとTVerは開発組織を内製化しておらず、外部のベンダーさんの協力で開発を進めていました。そのため、プロダクトマネジメントとしての機能も最近定義されたばかりと聞いています。

現在のプロダクトマネジメント組織も、全員がプロダクトマネジメント業務を担っているわけではありません。技術領域にも深く踏み込んだ形で外部ベンダーや3rd partyと向き合わなければいけなかったり、リアルタイムの配信システムを技術・運用共に管理しなければいけなかったり…。ときには複雑な入稿システムをメンテナンスするなど、開発や配信の領域で高い専門性を持つ様々なメンバーがTVerを支えるのに必要な異なる役割を担いながら、全体で20人ほどの組織となっています。

今後、開発組織を内製化していく方向性になっていく中で、プロダクトマネジメントの重要性はさらに増していくと考えています。現在は、戦略的に事業寄りの施策検討ができるプロダクトマネジャーを増やすこと、開発プロセスの内製化適応を進めることを重要なミッションとして取り組んでいます。私自身、組織の方向性が変わっていく面白いタイミングだな、という点を魅力に感じ、入社しました。

── 松岡さんが入社される前はどのような形でプロダクトマネジメント領域の役割を担っていたのか、教えていただけますか?

松岡:立ち上げ当初頃からずっとプロダクト開発を率いてきていた方がいらっしゃいまして、その方が事業メリットやユーザーメリットに対してプロダクトの方向性を定め、施策を推進する役割を長らくお一人で担ってきました。ただ、その方がプロダクトマネージャーと名乗り始めたのは最近のことだと聞いています。

現在、その方は別の役割として異動されましたが、その方が一人でやっていたことを組織としてチームで再現できるようにすることが私が受け取ったバトンだと思っています。

TVerを通してテレビという概念・体験を再現することで、さまざまな課題を解決していくことがミッション

── TVerのプロダクトビジョンを教えていただけますでしょうか?

松岡: ご存知の方も多いかもしれませんが、TVerはそれ自体が主幹事業であり、1プロダクトのサービスとなっています。時にNetflixやU-NEXTといったSVOD、いわゆるサブスクで有料課金しコンテンツを視聴できるサービスと並べられることがあるんですが、事業構造自体がそれらとは大きく異なります。TVerは在京、在阪の民放五局ずつと広告代理店四社の出資によって成り立っています。コンテンツは全局から提供され、無料で配信されています。このような制約条件の中でプロダクトを作り上げている中で、TVerのプロダクトビジョンにおける第一段階は、テレビという「概念」や「体験」を再現することだと考えています。

テレビというデバイスを通した視聴者数は減少傾向にあります。一方で、スマートフォンを通して見逃し配信やリアルタイム配信を視聴してもらうことで、まだまだ視聴者数を増やすことが可能であると思いますし、これらが各局からのTVerに対する期待値となっていると思います。「テレビという体験を再現する」という意味だと、ただテレビコンテンツが見られるということにとどまらず、深夜でもすぐに面白いコンテンツが見られる、地震など有事の際に正確な速報が得られる、みんなで一緒にドラマの最終話をリアルタイム視聴する、などの体験そのものをTVerで再現することが重要であると考えています。

また、将来的にはTVerだからこそ得られる体験や、TVerだからこそ視聴できるコンテンツを提供するところまで踏み込んでいきたいと思っています。実際、各局横断した視聴データはまさに夢の情報なんです。今までは番組単位で取得したアノニマス的なデータを各局ごとに閉じて分析していました。ですが、TVerを通してユーザー軸でどんな人がどんな番組を各局横断してみているのかという分析までできるようになったんです。これはサービスとしてもとても大きなことですし、コンテンツそのものに対して及ぼす影響も大きいのではと思っています。これらのデータをもとに、定量的な情報を基にしたキャスティングもできるようになるでしょう。また、テレビだと一話、二話で「惹き」を作らないとその後見てもらえなくなったり、CM前にも「惹き」を作らないとチャンネルを変えられてしまったり、といった放送だからこその縛りがありました。ですが、TVerの見逃し配信により、彼らの事業におけるKPI(配信PV)が注視されているという状況においては、全話配信し終わった後でも後から追視聴も可能なため、一話、二話で惹きを無理に作らず徐々に盛り上がる丁寧な作り方もできるといった、TVerが生まれたことによってコンテンツのあり方さえも変えてしまった部分があると思います。

── テレビという体験をTVerで再現するというビジョンは、既に実現できている部分もあると感じるのですが、まだ道半ばな部分があるのでしょうか?

松岡:そうですね、まだまだ道半ばだと感じています。コンテンツの提供量という意味でも、全てのコンテンツを配信できているわけではありません。また、テレビの体験というのはデバイスの特性にも依存しており、テレビをつけたらすぐにコンテンツが視聴できるというアクセシビリティの高さ、ユーザビリティの高さが重要です。

現在のTVerでは、最新話の配信ルールや配信期間が設けられているなど、他のSVODサービス(NetflixやU-NEXT)と比較すると、サービス設計の複雑性が高いです。同じコンテンツが提供されている場合、当然ユーザビリティの良いサービスが選ばれますので、TVerもユーザビリティの向上が重要となってきます。ユーザビリティへの投資に対する経済合理性って常にプロダクトマネジメントにおいて議論される領域だと思うんですが、TVerにおいてはそこは明確にユーザビリティの良さが競合優位性に繋がる部分、逆を言えば競合に負ける弱みになってしまうポイントだと思っているので、ユーザビリティを高めていかなければいけないというのがあります。

さらに、TVerの視聴数が伸びているのは、各局がTVerに対して期待値をあげていただき、提供コンテンツが増えた結果です。今後もこの期待に応えるために、より多くのコンテンツを提供していく必要があります。

一方で、テレビと違ってスマートフォンやコネクテッドTVのUIでは、ユーザーが見たいコンテンツを選ぶUIなので、提供されるコンテンツが多くなればなるほどユーザーに気づいてもらえなくなる可能性があります。テレビの再現を目指す中で、デバイスや配信の仕組みの制約条件の違いを考慮しながら、ユーザーが見たいコンテンツを気軽に見られる仕組みと、各局の配信メリットとのバランスを取ることが重要だと思いますし、まだまだ大きな課題として残っていると感じています。

── プロダクトとしてのビジョンと、松岡さん個人のビジョンや価値観がどのように繋がっているのか教えていただけますか?

松岡:自分自身のビジョンとプロダクトビジョンが一致したことが、入社の大きな理由ですね。私は現在35歳なのですが、この年代ってスキル、経験や体力を掛け合わせて考えたときに一番働ききれる時期だと思っています。転職を考える中では、このタイミングで一番ミッションのインパクトが大きい場所に行きたいと思いました。プロダクトとしての社会的意義の大きさと、自分自身が貢献できる余地の掛け算で、自分自身が取り組めるミッションのインパクトが大きいかどうか考えていましたね。自分のベースの考え方として、プロダクトの社会貢献度はキャリア全体で常に大切にしてきました。ただ、自己貢献度を重視するようになったのはこの年齢になってからだと思います。それまでは、学習機会やキャリアの成長、実績を作りやすいかなどの要素も見ていました。今では、これまでの経験を活かしてどれだけ貢献できるかに重きを置いているので、年齢が大きく影響しているんじゃないかと思っています。

TVerはエンターテインメントのイメージが強いですが、実はテレビというインフラとしての意義があります。今までは多くの方がテレビを視聴することで各局の予算が潤い、良いコンテンツが生まれたり、正確かつ即時性の高い報道ができたりする大きな機能を維持できていました。ですが、今後視聴者数が減少すれば、多様な放送局による報道機能の維持が難しくなってくる可能性があるんです。TVerを通して視聴数を維持・増加させることで報道機能を維持できる意義があると考えています。

また、私は構造的に損している人の課題をプロダクトによって解決していくことが好きでプロダクトマネジメントをやっているんです。TVerはテレビというデバイスでは解決できなかった制約を多数解消しているプロダクトだと思っています。例えば、見逃し配信は時間の制約を解消し、子供がいる家庭でもゴールデンタイムの番組を後で見ることができるようになりました。さらに、エリアの制約も解消されました。地方にいても首都圏の番組を視聴できますし、首都圏にいても地方のローカル番組を視聴できます。私自身、田舎出身なので子供の頃ポケモンのアニメが見れなかったんです(笑)自分自身も制約を経験していたこともあり、これが解決できているのは大きいと思っています。

そして、自分としてはここが大きな価値だと思っているのですが、金銭的な制約の解消もできると思っています。有料のサブスクのコンテンツはとても魅力的なものばかりだと感じるんですが、一方で課金しているかどうかで友人同士のコニュニケーションに差が発生することもあります。例えば、以前は小学校のクラスで「昨日の水10の番組見た?」といった、クラス全員が番組を視聴できる前提のコミュニケーションがあったかと思います。もし今後テレビという体験がなくなると、こういった日本らしい平等な交流がなくなってしまうかもしれないと考えると、TVerの重要性は高いのではないかと思っています。

こういったさまざまな課題を解決して、人々にエンターテインメントやコンテンツを提供することに魅力を感じていることが自分自身のモチベーションになっていますね。

ユーザビリティとコンテンツマッチングの改善に取り組む

── 現在、松岡さんが向き合われているTVer全体や個別のプロダクトの課題について教えていただけますか?また、それをどのように解決しようとしているのかもお伺いできますか?

松岡:先ほどプロダクトビジョンの話の中で触れましたが、ユーザビリティの課題が大きいと感じています。ビジネススキームの複雑さを踏まえ、ユーザーに対する提供サービスを磨くことが課題の一つです。

もう一点は、コンテンツのマッチングの問題です。より多くのコンテンツを提供していただいているので、それを見たいユーザーにリーチさせ、より多くの番組に出会えるようにすることがもう一つの課題です。

ユーザビリティの向上に関しては、ユーザー中心設計のアプローチで丁寧にプロダクトを磨いていくしかないと思っています。私のファーストキャリアは株式会社MIXIなんですが、TVerはmixi以来の大規模なtoCサービスだなと思っています。SNSもTVerもプロダクトの仕組みが複雑で、ユーザーの学習を前提としてUI・UXを設計する必要があるため、柔軟なユーザーインタビューの体制や仕組みづくり、デザインプロセスの改善などを地道に進めていくしかないと思っています。最近、初めて内製のデザイナーが入社し、開発プロセスを大きく変えている最中です。ユーザーをきちんと捉えた分析を反映させていくことを進めている段階です。

コンテンツマッチングに関しては、パーソナライズとレコメンドロジックを磨くことがベースになっていくと思っています。現在、4,000万MUB(Monthly Unique Browsers)の規模になっている中で、ユーザー数やコンテンツ数が増えれば増えるほど、学習できるデータが多くなっていくので、それらを活用して地道に磨いていければと思っています。

また、内部的な課題になりますが、各局のデータの持ち方が異なる中で、データの正規化や運用体制の効率化も課題だと思っています。

── インハウスのデザイナーが最近で初めて入ったという話には驚きました。大規模サービスなのに、基本的には外注してプロダクトを作っていたのですね。デザイナーの採用やチーム作りにも松岡さんが関与されているのですか?

松岡:そうですね。この1〜2年間で段階的に内製化が進んでおり、私が入社した時点ではエンジニアに関してはほとんど内製チームになっていましたが、プロダクトマネジメントとデザインの領域が最後の機能だったという感じですね。今は体制変更の過渡期にあり、変化が激しい環境なので自己貢献度という観点から魅力的に感じた部分だったので、楽しみながら向き合っています。

デザイナー含めた採用やチーム作りにも関与しています。絶賛大募集中ですので、興味がある方はぜひご連絡ください!

プロダクト開発の内製化を進め、会社全体でプロダクト改善に取り組んでいく

──現在、松岡さんが向き合われているTVerのプロダクトマネジメントトライアングルの業務領域や役割分担についてお伺いしてもよろしいですか?

出典:The Product Management Triangle

松岡:現在は、トライアングルの中心部分に集中して取り組んでいます。具体的には、プロダクトの戦略の策定、指標の策定、ロードマップの策定などです。そこから、周辺領域であるプロダクトの仕様、デザイン、データ分析にも少しずつ染み出している状況です。

ただ、TVerの組織ではマーケティング、パートナーシップ、ビジネスディベロップメントなどの機能がそれぞれ独立して存在しているため、それらの方々と連携しながら業務を進めています。私が所属する部門では、テクニカルな部分を担当する方々が多く、エンジニア的な役割を担う方もいます。そのため、開発寄りの領域との連携が最近多くなっています。

──プロダクトの戦略やロードマップを作成する際のプロセスについて、どのような関わり方をしているのか教えていただけますか?

松岡:TVerでは、経営企画室と連携して全社の指標の定義や測定を行っています。事業サイドやコンテンツ部門とディスカッションし、事業課題やフォーカスすべき点を決定した上で、プロダクトチームとしての戦略やKPIを策定します。

戦略策定の際には、定量データを活用します。プロダクトチームで仮説を立て、データ分析チームと連携してデータを取得し、仮説を検証します。その結果、メインのKPIを定め、チーム人数に応じて細かい指標に分解し、具体的な施策を四半期ごとにブッキングして進めています。

TVerはマトリクス組織になっており、テクニカルな領域を担当する方々も多いです。システムが複雑で、VODやリアルタイム配信、ライブ配信など、様々な配信システムを運用しています。デバイスもスマートフォンだけでなくコネクテッドTVなど多岐にわたります。

そのため、全員がKPIを達成するためのミッションだけで回るわけではなく、開発プロセスを成立させるための目標設定も重要だと考えています。ドメインごとの専門領域の目標とプロダクト指標を縦横軸でマトリクス化し、連携しています。

「社会的貢献へのインパクトの大きさ」を軸に、多くのプロダクト立ち上げ経験を活かしキャリア開発

── これまでのキャリアについて教えてください。

SNSの社会的意義に魅力を感じ、大手SNSサービスの開発ディレクターを経験

松岡:まず、2011年に新卒で株式会社MIXIに入社しました。当時はSNSのmixiが全盛期でした。実は中高大と映像制作をやっていて、NHK高校放送コンテスト(チームで作成したドラマなどの映像作品で競い合うコンテスト)で全国優勝を経験しました。その経験からテレビ局に入りたいと思い、大学も関連する学科に入学し、引き続き映像制作をしていたのですが、就職活動の時にインターネット業界の面白さに惹かれ、特にSNSの社会的意義に共感してMIXIを選びました。MIXIでは、最初は開発ディレクターとしてコミュニケーション機能の改善を担当しました。当時はプロダクトマネージャーという職種は存在せず、開発ディレクターが非技術者の新卒職種としてあったんです。

後に会社の方針として、プロダクトオーナーとして新規事業や新規プロダクトの立ち上げに関わることができる人材を増やすためのインプットとして当時最新のノウハウであったスクラム開発や人間中心設計を学ばせていただきました。そこからは、プロダクトオーナーとして多くの新規事業や新規プロダクトの立ち上げに関わらせていただきました。退職する直前には現在MIXIの取締役ファウンダー上級執行役員である笠原さんと一緒に「みてね」のコンセプトメイキングや組織立ち上げから関わり、とても貴重な経験だったと思っています。

── 新規事業の立ち上げを経験されていた時期には、どのくらいのプロダクト立ち上げを担当されていたのですか?その数のプロダクトに立ち上げの打席が回ってきたのは何か理由があるのでしょうか?

松岡:数えたことはないのですが、ネイティブアプリで3つ、Webサービスで2つくらいですね。「みてね」機能も含めると、合計5〜6プロダクトになります。

当時の経営方針として、MIXIという会社に複数プロダクトにチャレンジできるスキルを持つ人材開発やマインドの浸透を目指していたため、私だけに限らず多くの打席に立つ機会をいただいていました。もちろん、成功せずクローズしたプロダクトもありますが、打席に立てたこと自体が貴重な経験でしたね。

結婚を機に会社を立ち上げフリーランスとして活動

松岡:結婚を機に一度退職し、2〜3年ほどフリーランスとして活動しました。当時、MIXIで一緒に働いていたエンジニアとデザイナーと共に会社を立ち上げ、スタートアップの開発支援や大手企業の新規事業室のユーザー調査のサポート業務などを行いました。

医療系メディアの取締役として領域を大きく広げ開発から採用まで経験

松岡:フリーランス時代に受注いただいていた株式会社メディカルノートという医療系スタートアップ企業と関わり始め、エンジニア採用やプロダクトグロースを担当しました。メディカルノートが組織としても大きくなるにつれ、医療の信頼性の高い情報をしっかり発信しているというサービスの社会的意義に共感し、業務委託の一員ではなく正社員としてしっかり中に入って貢献したいと思い入社しました。

メディカルノートでは、業務委託のときから開発組織の立ち上げをやっていたこともあり、開発領域の執行役員という役割をいただいていました。そこから、メディアとしてプロダクトだけではなくコンテンツそのものの、磨き込みについても染み出していく必要が出てきたため、開発とコンテンツの両方を担当しました。さらに、開発とコンテンツ領域の人材が会社内の割合として大きかったため、徐々に人事領域もカバーするようになりました。最終的には取締役に就任し、先ほど会話していたプロダクトマネジメントトライアングルでいう全ての領域を担うような状況でした。今とは対照的な環境ですね。

── その時期に自身で作った会社を大きくしようという方向性と、メディカルノートにジョインするという方向性の葛藤はありませんでしたか?

松岡:その頃、一緒に会社をやっていたメンバーが体調を崩していたこともあり、ほぼ一人でPMをしていた状況でした。また、その瞬間は自分自身が社会に対して挑戦したい課題やビジョンがなかったので、それを見つけるためにも様々な案件に触れて経験を積むフェーズだと感じたんです。フリーランスとしての活動も面白かったですし、その結果として出会ったメディカルノートに社会的意義を感じてジョインしたという形だったので、あまり迷いはありませんでした。

フリーランスって大きな可能性を秘めている反面、経験を食い潰す感覚があったのでもともと2〜3年が限界かと思っていたんです。業務委託の契約って、その時点で自分にできることで貢献できるからお仕事をもらえるんですよね。「できるかわかんないですけどチャレンジしてみます!」といった契約は絶対しないはずで。ですので、「今自分にできないことにチャレンジしないとやばい」という感覚を持っていたというのもあります。フリーランスとして自分自身の会社やサービスを運営するのであれば、それ以上に成長する機会がありますので、年数関係なくチャレンジするべきだと思いますが、業務委託としての参画であれば、期限を設けて向き合うのが良いのではないかと思いました。

プロダクトマネジメントと再度向き合いたいと感じTVerに入社

松岡:会社のフェーズとしてプロダクトからのアプローチに対する経営的な優先度を見直したタイミングと、そろそろまたプロダクトマネジメントがやりたいなという気持ち、2つの理由から転職を考えました。35歳というタイミングでスキルや経験を活かし、インパクトの大きいプロダクトに関わりたいと思ったため、プロダクトの社会貢献度と自己貢献度の掛け合わせで、TVerを選びました。

UXデザイン領域が強み。自分で学びながら手を動かすことでスキルを磨き、重要性を理解。

── 続いて、松岡さんに事前にお答えいただいた12PMコンピテンシーに基づいて、これまでにどのようなスキル開発を行ってきたのかお伺いしたいと思います。あえて得意分野を挙げるとしたらどの領域でしょうか?

松岡:バランス的にはProduct ExecutionとProduct Strategyが強みだと思っています。その中でもUXデザインの部分、特にVoCとUXデザインに関連する部分が強みですかね。

やはりここはMIXIでの新規事業や新規プロダクトの立ち上げの推進経験が大きかったと思います。当時、mixiでは提供した機能でユーザーが炎上したり、機能改修によってユーザーが離脱したりする失敗体験があったんです。その反省から、当時ではかなり早い段階でUXチームが設立されました。最初は少人数でしたが、mixiのユーザーを対象にしたアンケートやユーザーインタビューが行われ、1年ほどかけて社内のプロセスとして定着していきました。その結果、ユーザーインタビューやアンケートの有効性が認識され、プロダクトマネージャーからのニーズが大きく高まったんですね。当時はリソース不足だったため、プロダクトマネージャー自身がデータ分析やユーザーインタビューを行う必要があったんです。私自身も調査設計から調査の実施までを経験しました。

こういった考え方って、概念を知らないと必要性をなかなか感じられないものなのですが、一度必要性を理解すると「ないと絶対無理!」となることもあって、組織における優先度も大きく異なるものだと思っています。私自身はユーザーインタビューやアンケートを活用し

良いプロダクトを作れたという成功体験があったので、その後のキャリアにおいても開発プロセスに組み込むことを大切にしています。社内受託のようなUXチームではなく、プロダクトマネージャー自身が仮説を持って染み出していくような環境が大切だと思いますね。自分自身も学びながら関与できた環境がありラッキーだったなと思っています。

TVerでもユーザー調査の重要性をインストールしていければと思っています。特に、ユーザー単体の声をそのまま反映することと、きちんと分析と仮説検証を行うことの違いを丁寧にインプットしていきたいなと思っています。

マイルールは「明るく、強くいる」こと

── 大切にしているマイルールを教えてください。

松岡:とにかく「明るく強くいること」を大切にしています。今までの経験で、後悔や良くない意思決定をした時は、大抵卑屈になったり、不安になったりして感情が弱くなった結果でした。だからこそ、自己肯定感を強く持ち、ポジティブな姿勢を保つことでいい結果を生み出すことができるんじゃないかと思っています。

プロダクトマネージャーの仕事は基本的にコミュニケーションが中心であり、いかにエンパワーできるかが大切だと思うんです。プロダクト開発は多大な予算がかかるものですが、その中で「こんなにお金をかけて無駄なことになっていたらどうしよう」とか「リリースしたことで逆にユーザーに迷惑をかけたらどうしよう」という不安を抱えることがあると思います。それによって生まれる「負」をいかに解消し、みんなをエンパワーするために、明るく振る舞うことが一番大事なところだと思っています。プロダクトマネージャーが暗く不安そうだと周りも不安になってしまうと思うので、多少空気を読めないと思われるくらい、元気で明るく振る舞うことが大事だなと思いますね。

フィードバッグを様々な方法で行い、一人ひとりの自己効力感を高めることがいいチーム作りのコツ

── いいチームを作るために工夫されていることはありますか?

松岡:いいチームとは何かを考えた時、自己効力感を全員が持っている状態がいいチームだと思います。自己肯定感ではなく、自己効力感ですね。チーム全体のアウトカムが良い状態でなければ、自己効力感は生まれないという前提としてまずはあります。その上で、誰か一人がパワーをかけていてアウトカムが生まれていたり、外部要因によって何もしなくても勝手に数字が伸びていったりする環境だといいチームは作れないと思っています。数字は伸びているけど、いいチームではなくなっていくという状況も往々にしてあると思うんですね。私は、全員が自分の役割や行動によってチームに貢献できている、チームとしてアウトカムができていると感じることが一番いいチームだと思っています。

組織としてのチームにおいては、チームとしてのゴールやビジョン、KPIが共有されていることが前提であり、個人として何を期待されているのかが明確であるべきだと思います。その上で、フィードバックをしっかりと行うことですね。良いフィードバックも悪いフィードバックもしっかり伝え、成長実感を持ってもらうことが大切だと思います。

私が意識している工夫として、第三者からのフィードバックを伝えることがあります。自分が直接伝えるよりも、第三者からの評価を伝えることで信憑性が増すんです。例えば、「⚪︎⚪︎さんが褒めていたよ!」といった形で伝えることで、評価が伝わりやすくなると思います。

また、私が好きなTVerの文化なのですが、Slackで「ナイスプレイ」というスタンプがあり、メンバー間で押し合っているんです。押された本人が嬉しいのはもちろん、周りも評価される行動や発言を理解できるので、価値観の醸成にもつながると思います。フィードバックを伝えることと、伝えやすくする環境作り、両軸が大切だと思いますね。

プロダクトチームの場合、役割が明確に分かれているため、ユーザーフィードバックや顧客からのフィードバックをオープンに届けることで、チームの施策によってどのような効果があったのかを共有し、自己効力感を持ってもらうことが大切だと思います。

いい企画を生み出すために、コストを惜しまない

── 質の高い企画や課題に対して筋のいい打ち手を生み出すために、意識して取り組まれていることはありますか?

松岡:これもフィードバックの話になってしまいますが、「最初に出てくるアイデアは未成熟な状態である」という前提で、様々な人がフィードバックできる環境を作ることを大切にしています。

私が好きなピクサーの本があるんですが、ピクサーには「良いプロダクトを作るには、良いプロダクトを作れる組織を作ることが優先」という社是があるそうです。昔、ピクサー内で大ヒットを出した監督に対して誰も意見を言えなくなり、結果として微妙な映画が世に出てしまったという失敗体験がありました。それ以来、どんなに名作を作った監督でも、最初に出してくるラフはひどいものが出てくる前提で、新人でも立場関係なく全員がフィードバックをするというルールを設けているそうです。私はこの話にすごく共感しまして。

プロダクトマネージャーが自信を持っていて影響力が強まれば、周囲もその意見に従うようになると思います。ですが人はどんなに成果を挙げている人でも間違うものなので、最初のアウトプットは未完成である前提で、全員がフィードバックを言える環境を作ることが重要なことだと思っています。

TVerにおいてはこういった概念の導入段階なので、もっともっと発言できる環境を作らないといけないと思っているところですね。環境作りの方法としては、地道に泥臭くやるしかない部分だと思います。何度も繰り返し、フィードバックをしてほしいこととその理由を伝え続ける必要があると思います。自分自身も誰かの共有に対して、リアクションを早く、多めにすることを意識しています。最初のアウトプットが未完成ではあるものの、最初の叩きを作った人が偉いとも思っているので、最初にアウトプットを出してくれたことに感謝と礼を伝え、その上で気になる点を伝える。それによって改善されたことをきちんとフィードバックする。この地道な努力がカルチャーを育てると信じています。

松岡さんからのおすすめの本

── プロダクトマネージャーにおすすめの本がありましたらご紹介お願いします!

松岡:まずは先ほどお話ししたピクサーの本ですね。タイトルは「ピクサー流 創造するちから 小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法」です。この本は、ピクサーの映画も1つのプロダクトだと捉えたときに、ピクサーがどのようにして創造力を引き出し、プロダクトを作る組織を作り上げたかについて多くの事例が載っています。自分が実際に観た映画を例にして学べるので、リアリティをもって理解できる点が素晴らしいですね。

他には、少しベタですが去年や一昨年に話題になった「BUILD: 真に価値あるものをつくる型破りなガイドブック」や「プロダクトマネージャーのしごと」もおすすめです。どちらの本も、コミュニケーションと覚悟について書かれていると思っています。プロダクトマネージャーとしての強さ、明るさの重要性を再認識させてくれる内容で、どんな困難があっても周りを巻き込みながら向き合い続ける覚悟を持つことの重要性を教えてくれます。ティップス系の本もたくさんありますが、自分が何度も読み返して良いと感じるのはこの3冊ですね。

最後に

松岡さんのお話はいかがでしたか?

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