上場直後のタイミーCPOから学ぶ!本質的な課題改善に繋がる組織・仕組み作りのヒント

今回は、株式会社タイミーでCPOとプロダクト本部の組織長を担う山口 徹さん(@zigorou)に仕事内容やキャリア、マイルールなどを伺いました。

山口さんは、エンジニアからキャリアをスタートしモバゲーのプラットフォーム立ち上げや任天堂との共同開発経験を経たのち、スタートアップ企業のCTO・CPOを経験。その後タイミーに執行役員VPoTとして入社後、2023年10月に執行役員CPOに就任されています。

今回は、タイミーの複雑なビジネスモデルの中でプロダクトマネージャーとして働く魅力や、採用時求められるスキル、長らく開発スキルを磨いてきた山口さんがプロダクトマネジメント領域に踏み込むきっかけとなったエピソードなどについて語っていただきました。

さらに、より的確にプロダクト改善をしていくために必要な組織・仕組みの作り方についても詳しく解説いただいています。ぜひ最後までご覧ください。

タイミーのCPOとプロダクト本部の組織長を兼任。プロダクト戦略の構築から実行までのチェックインを行う

── まずはご自身の仕事内容について教えてください。

山口:株式会社タイミーにて執行役員としてCPOを務めています。タイミーはスポットワークという、「働きたい時間」と「働いてほしい時間」をマッチングするプラットフォームです。具体的には、スキマ時間を利用して働きたいワーカーと、スポットで人手を必要としている店舗や事業所をマッチングし、就業完了までの一連のプロセスをサポートするサービスを展開しています。

役割としてはCPOとして、具体的に何か機能開発のプロダクトマネジメントをやるというよりも、タイミーというプロダクト全体の戦略立案と、その戦略に基づく各戦術の優先順位の決定から実行までのチェックを行うところが主になります。

──  山口さんが直接関わる組織や体制はどのようになっているのでしょうか?また、山口さんは組織に対してどのように関わっているのかについても教えてください。

山口:タイミーのプロダクト本部は大きく分けると、プロダクトマネジメント部とデータアナリティクス部、二つの部門に分かれています。プロダクトマネジメント部にはプロダクトマネージャーとデザイナーが所属しています。データアナリティクス部にはプロダクトのアナリストとマーケティングやビジネスに関するアナリストが所属しています。そのため、すべてがプロダクトを中心とした設計にはなっていません。

また、エンジニアリング本部が隣にあるのですが、実際のプロダクト開発はマトリックス組織になっているため横軸でチームは存在します。私が主に気にしているのはその横軸のチームの階層を中心としたプロダクト戦略を見ている感じです。ケースバイケースでプロダクトチームに首を突っ込むことも稀にありますが、普段は全体の戦略の整合性や、戦略に何か追加したり除外するなどの基準をすり合わせたり、マーケティングやビジネス戦略との整合を図ったりしています。

── 現在、タイミーには何名くらいのプロダクトマネージャーが在籍しているのでしょうか?

山口:現在、タイミーには12〜13名のプロダクトマネージャーが在籍しています。それぞれが「スクワッド」と呼ばれる最小のスクラムチームにアサインされています。ですので、プロダクトマネージャーの人数とチーム数はほぼ同じと考えて良いと思います。(実際にはそれ以上のチーム数がありますが、大まかにはこのような構成です。)

スクワッドにおける担当領域の決め方としては、最近切り替えを行いはじめた段階です。

前提として、タイミーは企業様や店舗様が求人を出すまでのプロセスと、掲載開始してからワーカーとマッチングするまでのプロセスで、全く異なるプロダクトと捉えることができます。そのため、チームもこれらのプロセスごと二つに分かれ、それぞれが見るべきKPIも異なるという経緯から、それに基づいて分隊というスクワッドを複数設けていたのが従来までの体制でした。

しかし、最近はこうした体制の作り方を変えようとしています。現状、タイミーのプロダクト組織ではバックログ的にプロダクトイニシアチブ(いわゆるビルドトラップ本に出てくる戦略的意図とプロダクトイニシアチブの分け方)を列挙し、データベース化しているのですが、そのプロダクトイニシアチブに対して、優先順位をつけた上で上から順に各スクワッドごとに分配していく、その上でスクワッドは基本的には得意不得意とか、あるいは専門性があるなどを基準に、ラウンドロビン的にアサインしていくような仕組みに切り替えているところです。まだ過去の継続で同じ領域をずっと担当しているスクワッドもあるんですが、今後は一部を除き領域で担当を分けずどこでも、誰でも受け持つ体制に変えていこうと思っています。

── スクワッドの分け方を変更しようと考えたきっかけは何だったのでしょうか?

山口:一番のきっかけはプロダクトイニシアチブに対して、どのスクワッドが担当するか毎回悩んでいたことです。タイミーのプロダクトは、先ほどお話しした通り二つの異なるプロダクトに分かれているように見えるのですが、実際にはチームやシステム、ビジネスが明確に分離されているわけではないんです。業務の境界線が曖昧な箇所もあるので、どのチームにアサインすべきか分からないという問題があったんです。そこで、いちいち悩むくらいならもうまとめちゃえばいいんじゃないかくらいのシンプルな考えからこのような判断に至りました。現状はまだトライしている段階ですね。プロダクトマネージャーの力量の差もありますし、課題の難易度によってもチームの組み替えを行うこともあります。

働くことの多様性を広めるとともに、労働不足という社会問題にも寄与していく

── タイミーのプロダクトビジョンを教えていただけますでしょうか?

山口:これがですね、今はまだないんです。コーポレートとしてのミッションやビジョンはもちろん存在しますが、プロダクトのビジョンについては、これから作り上げていかなければならないと考えています。

コーポレートのミッションやビジョンは抽象度が高いものであるのに対し、プロダクトビジョンはそれよりも解像度が高く、プロダクトが目指す近未来のゴールが表現されているうえで、どうありたいかという気持ちも乗っているものだと考えています。ややもすると、プロダクト戦略ってかなりビジネス的なアウトプットに引っ張られる傾向がありますが、それと対立構造にあるものがプロダクトビジョンであるべきだと思うんです。ビジネスの目線に引っ張られてしまうと、本来目指していたゴールから遠ざかってしまい、顧客中心から遠のいてしまう懸念があると思います。そういった懸念を潰すためにもプロダクトビジョンを常に意識すべき存在として置いておく重要なものだと考えているので、いずれは作ろうと考えています。

── 現時点で考えているプロダクトビジョンの構想はあるのでしょうか?

山口:タイミーは、働く人々に寄り添うことを特に重視しています。もちろん、雇用主である事業者様も重要な存在ですが、それ以上に、働くきっかけや機会を提供したり、働くことを通じた学んだことを活かしてキャリアアップしたりできるような世の中を目指したいと考えています。また、これらの取り組みを通して労働不足という社会的な課題に貢献するためには、プロダクトとしてどうありたいかという気持ちが強いので、メッセージを込めるのであれば、こういった方向性になるのではと思っています。また、最近、「はたらくに”彩り”を。」というタグラインを制定したので、そことも関連付けたいと思っています。

── 素敵なプロダクトビジョンになりそうですね。タイミーの社会貢献性の高さに魅力を感じて入社を希望する方も多いのでは?

山口:そうですね。実際、タイミーの社員は、社会貢献性に共感している人が非常に多いです。プロダクトを通じて社会に貢献したいという思いを持っているメンバーが集まっています。成果を発表する場でも、真剣に社会貢献に取り組んでいるなあと感じるリアクションをするんですよね。そのうえで「こうしたい」といった積極的な意見が多く出されています。ビジョン共感度みたいなところは非常に高い会社だと思いますね。

── タイミーのプロダクトビジョン構想と山口さんご自身のキャリアビジョンや価値観はどのように繋がっていくイメージをお持ちでしょうか?

山口:自分自身もパラレルワークをしているので、働くことの多様性の重要さを自分でも感じているんです。働くことは単なる収入を得る手段ではなく、学びや出会いを通じて人生を豊かにするものだと思います。一つのキャリアを進むのも良いですが、世の中の指向としてパラレルワークが広まる方向に向かっていると思います。政府統計によると、この10年でパラレルキャリアに対する世間の意向は倍増しています。自分の価値観としてもこの考え方には共感しています。

自分のキャリアとしては、将来的にはもっと多くの社会的に面白い事業に関わっていきたいと思っています。現在、副業で技術顧問的なことをしていて、技術に囚われずプロダクトや経営の話もする機会があります。その中で、やっぱり困っているスタートアップ企業が沢山あるんですよね。知らないがゆえに解決できていない問題が多くあるんです。最終的には、それらの解決サポートをしていく方向にキャリアを進めたいと思っています。

こういった個人の価値観やキャリアビジョンに照らし合わせると、タイミーのミッションビジョンには共感するところがありますし、もっと広げていきたいなと思っています。今のタイミーはアルバイトの文脈で展開していますが、例えば、医療職種などの高度な専門性を要求されるような職種に展開するようなことも当然考えられる未来だと思いますし、具体的にそういった構想が固まっているわけではないんですが、できたらいいなと思っています。

プロダクト全体を見据えたプロセス改善とデータ分析を活用した戦略づくりに取り組む

── タイミーのプロダクトに関して、具体的な課題やそれに対する解決策があれば教えていただけますか?

山口:プロダクトイニシアチブに対するプロセスの構築が課題の一つだと思っています。これまでのプロセスは、戦略的意図とイニシアティブをデータベース化してきましたが、その前段階のオポチュニティ(機会)をもっと表現したいと考えています。

海外の書籍「Continuous Discovery Habits」では、オポチュニティ・ソリューションツリー(OST)が紹介されています。オポチュニティをペインとゲインの集合体として捉え、いわゆるイニシアチブの種をきちんとストックする仕組みを作っていきたいと思っています。

プロダクト組織全体のプロセスについて思いを馳せたことある人共通の課題なんじゃないかなと思うんですが、プロダクトに対する要望その要望を取捨選択する段階において、イニシアチブやバックログなどに書いて開発アイテムにしていく一連のプロセスの構築を曲がりなりにも作るんでしょうが、会社ごとにやっぱり課題があるんじゃないかなと思うんです。ものすごくきれいに回せている会社ってあまりないと思うんですよね。

例えばバックログにざっくりとした抽象的な課題だけが書かれている状況って正直ノイズになると思うんですね。ある程度分離しておく必要があると思いますし、そういったオポチュニティが重なって初めて具体的に検討するような仕組みにした方がいいと思うんです。オポチュニティを別のラインで管理し、構造的に理解した方が良いと思っていますし、全然関係ないオポチュニティをより上位の課題にするならと仮説を持ってより根源的なオポチュニティにするみたいなこともやったほういいと思っていますね。そういった仕組みを作っていくことが課題の一つだと思っています。

さらに、プロダクト全体を見据えたノーススターメトリック(企業がビジネスを成長させるために業績を測り事業の正しい方向を示す指標)の構築もしたいと思っています。プロダクトのアウトカムを定量的に表現することってみんな悩んでると思うんです。自分たちで自らの価値提案を定量的に評価するんだったら表現できるかもしれないですが、それが最終的にビジネス的にどういう意味を持つかみたいなところまで表現するのは皆さん難儀してるんじゃないかなと思うんですね。

要はビジネス上の売上を月次でトラッキングするKPIのように分解し、それの何らかに対して因果関係を証明した上でプロダクトが何らかの変化を起こした時に変えられるようなプロダクトのKPIとの因果関係を見出し、プロダクトとしてはそれを追いかける仕組みを構築できたら良いなと思っています。施策ごとのKPIはあるのですが、プロダクト全体を通じてプロダクトが直接変化を起こすことができるいい感じのKPIは存在しないという状況なので、そろそろ検討したいと思っています。近々ワークショップを実施する予定です。

── タイミーのプロダクトにおけるKPIは、プロジェクトや担当領域によってどのように異なりますか?

山口:KPIやKGIはプロジェクトや担当する領域によって変わります。例えば「たくさんの求人募集がある」というKPIがあったときに、私たちは求人募集の数自体を直接コントロールすることはできません。我々が追うべきKPIは、その求人募集につながるユーザーのプロダクト上でのアクションや利用時間、ボリュームといった要素になると思っています。「きっとあるんだろうな」みたいなところを狙って、施策を打つものの因果が証明されているわけではないし、バラバラしているし、という感じなので難しいなと思いますね。とはいえかなり上位のレベルでは表現できるんじゃないかなと思っていますね。

── 表現する際は、ワーカー側と事業者側で分けて考えていくんでしょうか?

山口: 分けて考えているところもあるし、分けて考えられないところもあります。タイミーはツーサイドマーケットなだけあってかなり複雑なんですよね。この複雑なビジネスモデルの中でプロダクトを考えているとトレードオフ問題みたいなのが高頻度で起こるんです。ここがタイミーでプロダクトマネジメントをやるうえでの面白いところだと思いますね。

あとは、データ分析に基づいたプロダクト戦略や、プロダクトに留まらず営業の戦術的な領域、マーケティングの攻め方などを組み立てられるような準備をしていて、実は結構科学が進んできています。リテンションライフサイクルを定義して、プロダクトがどう使われているのかをちゃんと知る。その上でプロダクトの改善もするし、なんだったらリテンションサイクルをもとに営業やカスタマーサクセスへアクションを促す施策まで繋げていこうという取り組みも始めていたりします。

── リテンションライフサイクルについてもう少し詳しく教えていただけますか?

山口:リテンションライフサイクルはAmplitude(計測ツール)を展開する企業の電子ペーパー「Mastering Retention」に書かれているです。プロダクトアナリティクスにおいて、ユーザーのリテンションをしっかり分析することは基本中の基本なので、やっている会社は結構やっていると思います。やっぱり自分たちのプロダクトがPMF(プロダクトマーケットフィット)しているかどうかを判断するためにもリテンションの計測はしたほうがいいと思います。リテンションカーブが緩やかに収束していくような形になっていれば、一定定着していると評価できますし、もちろん成長しつつ定着もしている状態が両方とも担保されるなら、定量的にPMFと言えるような状態と評価できます。

リテンションライフサイクルはユーザーの状態をプロダクトでの行動に見立てます。例えばECサイトなら購入することをプロダクトにおける「利用」と定義して、初めての購入と継続購入といった形で考えていきます。

開発者・ビジネス領域を中心に、デザイン・データ・マーケ領域にも介入していく

──山口さんのタイミーにおける業務領域について、プロダクトマネジメントトライアングルに基づいてお伺いしてもよろしいですか?

出典:The Product Management Triangle

山口:CPOの業務範囲をプロダクトマネジメントトライアングルベースでお話しするのが少し難しいのですが、しいていうならでお話しできればと!(笑)

顧客・開発者の領域については、デザインとデータ分析は、自分の管掌範囲に入っています。カスタマー/テクニカルサポートは部門が別なので、基本的には社内におけるパートナーシップという感じです。右のプロダクト仕様や社内外調整、リソース確保プロジェクトマネージメントは大なり小なり関わっていて、ここが一番重たいと思います。マーケティング領域で言うと、プロダクトマーケターの部門もマーケティング所属でマーケ本部にあるので、そことは協力関係でやっている状態です。いわゆるビジネス上のパートナーシップやビジネスディベロップメントはあんまりタッチしていないですね。たまに担当部門から助言を求められるぐらいの関与の仕方です。

── タイミーでスポットワークを通じてバッジを獲得し、正社員登用につながるような機能が生まれたと思うのですが、こういったアイデアはビジネスディベロップメントの組織から生まれるのでしょうか?

山口:タイミーキャリアプラスのことですね。これは社内のアイディエーションから生まれた機能です。ビジネスディベロップメントはどちらかというと社外とのアライアンス業務が要素として強い印象があります。社内から生まれてくる何かとはちょっと違うのかなと思いますね。ただ、今後はビジネスディベロップメントによって新しい取り組みが行われることはあると思います。そういった時には当然アドバイスを求められれば答えるし、主体的に関わるケースもあると思いますね。

エンジニアからスタートし、モバゲーの立ち上げ経験などをきっかけにプロダクトマネジメント領域へ

── これまでのキャリアについて教えてください。

山口:ファーストキャリアはWeb制作会社にてWebプログラマーとして働く所からスタートしました。そして、株式会社ガイアックスでソフトエンジニアとマネージャーを経て、サイボウズ・ラボ株式会社でR&Dエンジニアを経験しました。

その後は、株式会社ディー・エヌ・エーに約12年間勤務していました。入社直後はいわゆる「ソシャゲバブル」の始まりぐらいの時で、ソシャゲバブルの火付け役となった、モバゲーにプラットフォームの立ち上げから開発責任者として携わっていました。バックエンドのソフトウェアエンジニアから始まり、徐々にシステムを俯瞰的に見て設計するところにキャリアを踏み入れて行きました。そこから視点が俯瞰的になってきて、ゲームのディベロッパーさんとのやり取りなどアライアンスみたいなことをやるようになりました。ビジネスデザインが伝わるようなゲームプラットフォームを作り、実際に自分が事業責任者兼開発責任者みたいな立場だった時もありまして、お客さんのところに出向いて営業に近いことをやる機会もあり、段々とプロダクトマネジメントチックになってきました。また、キャリアの後半あたりでは任天堂株式会社と業務提携した際の立ち上げも担当しました。そこでは企画立案からシステム設計までを一貫して担当し、だいぶプロダクトマネージャーチックな業務範囲になってきたんです。その時期に同僚からプロダクトマネジメントっていう概念があることを聞き、意識するようになりました。でもまさかCPOになるとは思っていなかったですね。

その後はベルフェイス株式会社に取締役CTOとして入社し、プロダクトマネジメントが根付いていない状況を改善するため、CPOも兼務していました。プロダクトマネジメントの重要性を学びつつ、約2年間改革を推進しました。この経験がタイミーでのCPOとしての役割に繋がっています。実はずっとエンジニアリング畑にいたのでIndividual Contributor(IC:管理責任を持たない専門職)としてのプロダクトマネージャーは1度もやったことがありませんでした。

そして、約1年前にタイミーに入社し、技術系の執行役員を担当していました。前職でCPOの経験があったこともあり、フォーメーションの最適化を考えたときに必要性を感じ、昨年の10月にCPOに就任しました。

── エンジニアになったきっかけについて教えていただけますか?

山口:当時、大学を中退してプラプラしていた時期があり、このままではまずいと思ったところで、理系だからと独学でプログラミングを学びました。いくつか面接を受けたら一社受かったのでアルバイトとして入社しました。

こういった過去の経験もタイミーがやろうとしていることに共通している点があるなあと思っていますね。いろんな機会があったからこそ今があると思っていますし、そういった機会をタイミーからワーカーさんに提供できればと思っています。

── 山口さんのキャリアにおけるターニングポイントがあればお聞かせいただけますか?

山口:ターニングポイントはいくつかあるんですが、特に大きなきっかけは任天堂と一緒にお仕事をしたことだと思います。任天堂は顧客目線が強くてプロ意識も高い会社だと思っています。全社一丸となって楽しさを追求する姿勢や、コンテンツに対するリスペクトを大事にしている社風を感じながら一緒に仕事できたのは大きかったと思います。今では当たり前かもしれないですが、顧客や築いてきたブランドを大事にする姿勢、品質に対するこだわりに関しても非常に学ぶ点が多かったので自分のものづくりに対する考え方が大きく変わりました。

前職のベルフェイスでの経験もターニングポイントだったと思います。初めてスタートアップに意図的に入社し、メガベンチャーとスタートアップの常識のギャップを体感しました。事業的にも苦しいところからスタートしたので、乗り越える中でスタートアップの面白さに気づくことができました。プロダクトマネジメントについても、より深く知るきっかけにもなったし、企業の経営についてしっかり考える機会を作ることもできたので、実地で非常に学べたなと思います。

── メガベンチャーとスタートアップのギャップというのは具体的にどんなところで感じましたか?

山口:メガベンチャー基準で見たら、企業としてできていて当然なこと、あるいは、できてないなんて想像していないようなことが、スタートアップでは全方位的にできていないんですね。ですので嫌な言い方をしてしまうと、油断しているとどこから弾が飛んでくるのか、あるいはどこで足を引っ張られるかわかんないような感じなんです。全方位的に組織力を高める努力をしない限り、こういった状態は続くので、全社目線を持ってプロセスを組んだり、細かいところのチューニングを自ら行う必要がありました。

前職での立場としてはCTO、CPOだったんですが、事実上のCOOなんじゃないかと冗談で言われる程全体感を意識していましたね。業務範囲は広くなりますが、背に腹は変えられないという気持ちで自分のためにやっていました。大変ではありましたが、大変だからこそ課題だし、課題だから解決したほうがいいし、課題はセクションがあるようでないんですよね。「セクションごとに課題解決しましょう」みたいな悠長なこと言ってたら組織力の差で一向に解決されない問題が残り続けると思うんですが、スタートアップの強みはセクショナリズムの排除だと思うので、いろんなところに手を出しやすかったんだと思います。解決すれば、セクションの壁を越えて上がっていくので、とてもやりがいがありましたね。

開発経験を活かしつつ、CPOとして組織にフィットした戦略立案や目標管理を行う

出典:https://www.ravi-mehta.com/product-manager-skills/

── 山口さんに事前にお答えいただいた12PMコンピテンシーに基づいて、これまでにどのようなスキル開発を行ってきたのかお伺いできますか?

山口:先ほども軽く触れたんですが、私はこれまでIC型のプロダクトマネジメントを経験したことがなく、主にエンジニアリング畑でキャリアを積んできました。そのため、Product Executionの要件定義についてはアーキテクチャをやっていたこともあって非常に高い解像度で対応できると思います。開発責任者の経験もあるので、デリバリー責任のスキルもあるかと。パートナーシップを組んでの開発も多く経験してきたので、QAにおけるビジネス品質の担保についても強いと思います。ただ、「デリバリー」の文脈において、顧客に価値をデリバリーするところまでを含んでる場合は、相対的には経験は浅いかもしれません。CPOになってから強く意識するようになった領域です。

Customer InsightのスキルはCPOのキャリアを歩み始めてから初めて意識し始めたところが多いかなと思っています。データをどう活用していくか、特にプロダクトに関わるデータをどう見ていくかは実地で学んできたと思っていますね。データ分析の専門性はないですが、アナリストと協力しながらまたは手法を学び、その手法がどういったアウトプットをなすものなのかは理解できるようになったので、領域の深い形でデータ分析に携われるようになったと思います。VoCに関しても、プロダクト全体のVoCをどう扱っていくかはCPOなのでとても気にしていますし、VoCから得られたインサイトを統合して戦略的にどう生かすかみたいなところは日常的にやっている領域ですね。UXデザインのところは全然専門性がないので、低い点数をつけています。どういう機能であるべき、どう使って欲しいといった要望をデザイナーに伝えるくらいの経験です。

Product Strategyの領域について、目標管理については組織の本部長を兼任していたりするので、事業的な目標からプロダクト戦略上の目標、チームの目標、個人の目標までブレイクダウンして管理をするのは常日頃やっていますね。自分でフレーム作ったりもします。ビジョン・ロードマップは、これこそまさにCPO業務のセンターピンの一つだと思うので重視してますし常に考えています。戦略理解については私の場合「戦略理解」ではなく「戦略立案」になると思いますね。事業戦略とのアラインメントや事業戦略へのフィードバックをプロダクト戦略側から行うことについては非常に重要な役割だと思っています。事業戦略をただ理解するだけではなくて、事業戦略に組み込むぐらいの認識で取り組んでいますね。当然ながらビジネス成果を強く意識してプロダクト戦略を組もうとしています。

Influencing Peopleについて、ステークホルダーの領域については社内外のステークホルダーと多く関わっています。リーダーシップについても、CPOなので戦略の方向性をわかりやすく伝えたうえで、個々の戦術レベルでその方向にベクトルが向かっているかを常にチェックしてアドバイスしています。私の上には社長とか取締役陣しかいないですが、シニアステークホルダーとのリレーションも日々やっています。

── 「戦略立案」を生み出すプロセスや、ビジネスに組み込む過程について詳しく教えていただけますか?

山口:まずは事業上の課題を特定することが大事だと思っています。プロダクト戦略を考えるというより事業戦略を考えるつもりで進めていますね。「良い戦略、悪い戦略」という名著にある概念から学んだのですが、今の事業上の課題をしっかり診断できれば基本路線に従ってどうアクションするかという戦略に繋がっていくと思います。上位レイヤーの戦略立案に対する考え方もフレームに落とし込んで事業全体を考え、事業全体の課題に対して、プロダクトはどういう風にフィットさせにいくのか、という順番でプロダクト戦略を考えています。ビジネス上の課題に寄り添った形でプロダクトのイニシアチブを作らなければいけませんし、一方で想定しうるプロダクトビジョンも成し得るための投資もすべきなので、バランスを持ったイニシアチブを組むようにしています。

前職のベルフェイスではプロダクト戦略自体が事業戦略立案のベースになっている形態だったんです。BtoB、SaaSの特性上どのような価値を提供するかによって売れなかった商品が売れるようになることがあり、そこが強みでもあります。まずプロダクト戦略を立て、それに基づいて営業戦略を考えることで、事業を回復・成長させていくことができたのかなと思います。

対してタイミーは顧客が二方向にいるツーサイドプラットフォームなので、両方の顧客に対して価値を提供する必要があり、戦略立案上も複雑だなと思いますね。事業者様から手数料をいただく形でビジネスモデルになっているので顧客の本質は事業者様になるのですが、ワーカーがお仕事してくれて初めてトランザクションが生まれるサービスなので。一連のバリューチェーンを通過して初めてビジネスがビジネスとして成立するため、営業戦略には両方組み込む必要があるんです。

── ご自身で作成される目標管理のフレームはどのようなものなのでしょうか?

山口:私の目標管理のフレームは3階層構造になっています。最上位にはOKR(Objectives and Key Results)を概念として位置づけています。2階層でOKRのObjective(O)を高めるための基本指針とラダーに基づいた期待値を設定し、最下層で個人の目標やアクションを設定する仕組みになっています。このフレームのフォーマットをnotion等で作成し、各自入力できるようにしている感じですね。

とはいえ、設定したアクションはインクリメントしていくものなので、随時アクションを追加できるようにして、期末に一度振り返るのではなく随時アラインメントチェックインを行い、目標の修正や期待値の調整ができるようにしています。期末に初めて振り返るとマネジメントもメンバーも負担になるので、そこを軽減したいのもあります。最終的には振り返りを評価まで一貫して行えるようなツールを作成した形です。目標と実践を考える際の概念や、実際の目標管理プロセスの重たさを軽減しようという考えの元、かなりこだわってやっていますね。このフレームは私が組織長をしているプロダクト本部内で使用されています。

なお、プロダクト組織ではこのようにOKRを採用していますが、全社的にはMBO(Management By Objectives:目標管理制度)を採用しています。営業などのSLG型(Sales-Led Growth)の組織では、ビジネス上の目標との連動性が高いMBOとの相性が良いと感じていますが、プロダクト組織ではビルドトラップを避け、戦略的な目標を持つためにもOKRが良いのではないかなと思っていますね。

マイルールは「自分のやるべきことをしっかり行い、新しく広げていく」

── 大切にしているマイルールを教えてください。

山口:基本的には自分のやるべきことをしっかり行い、同時に自分のやるべきことを広げ、新しいものに取り組むことを心掛けています。逆に言えば、やるべきことではない役割や業務はうまく組織化して委譲していくことを行動原則にしていますね。

例えば、組織運営の大部分はDoP(Director of Product)という立場に移譲しています。コンセプトや意思決定が必要な時以外はほとんど任せていますし、彼らがマネージできていることに対して、極力口を出さないようにしています。

戦略上の意思決定もグループプロダクトマネージャーと呼んでいるポジションに移譲し始めています。

プロダクトセンスや観察力も重視した採用活動が、いいチーム作りのポイント

── いいチームを作るために工夫されていることはありますか?

山口:そうですね。まずはいい採用をすることだと思いますね。チームってリードする人がいないとなかなかうまく進行できないものだと思うので、キーパーソンになれるような人を重視していきたいなというのがありますね。

また、組織デザインについては常にアップデートするように心掛けています。マトリックス組織の在り方を考えたり、チームの領域をどのように設定するかは常に工夫してアップデートしていますね。プロダクトイニシアチブをどのチームが担当するかについても、柔軟に対応することで、効率的かつやりやすい方向に進めるようにしています。

── 山口さんが考えるキーパーソンの要件や、採用において重視するポイントは何ですか?

山口:最近では、プロダクトマネージャーに求める要件として、ハードスキルだけでなくソフトスキルも重要視していますね。言語化が難しいところもあるんですがプロダクトセンス、いわゆる勘所を捉えるのがうまい人を採用できたらなと思っています。ハードスキルは学べば身に付くと思うんですが、観察力や審美眼のようなソフトスキルよりも手前にあるスキルをかなり重視していきたいと思っていますね。ここに関してはプロダクトマネージャーだけでなく、デザイナーやアナリスト、エンジニアにも求めていきたいと思っています。

こういったスキルを面接でキャッチしていくために、DoP(Director of Product)と一緒にかなりの時間をかけてプロダクトマネージャーのコンピテンシーを作成し、それに基づいてジョブディスクリプションをアップデートしたばかりです。今度はラダーと照らし合わせた設計をネクストアクションにしていきたいと思っているんですが、ここができてくるとプロダクトマネージャーのラダーに応じた期待役割が具体的に見えてくると思っています。期待役割が見えてくれば、目標管理につながってくると思いますし、タイミーの給与レンジはラダーに紐づいているので、選考時の具体的な期待値と給与を提示することができると思っています。選考プロセスにまではまだ落とし込めていないのですが、ここまで構想しています。

書類選考では既に選考精度を高める取り組みがあるので、かなり精度の高い書類選考ができていると思います。評価者の観点を統一してダブルでスコアをつけるのを何度か繰り返していくと選考の精度が合ってくるので、そこで評価者の一人立ちにしています。

いい企画を生み出すためには「質の高い課題分析」が重要

── 質の高い企画や課題に対して筋のいい打ち手を生み出すために、意識して取り組まれていることはありますか?

山口:筋の良い施策とは、ビジネスのコンテキストやビジョン、現在の顧客に沿っているものであると思っています。任天堂のゲームプロデューサー・宮本茂さんが「良い解決策は複数の課題を解決するものだ」と仰っていますが、まさにその通りで、多くの問題に対してフィットしているものが筋の良い施策だと思います。そう踏まえると、多方面に目を向けてそれぞれの課題を認識していることが大切だと思いますね。ソリューション構築のフェーズで、とんでもない案が生まれることってあると思うんですが、それは課題の本質や顧客のニーズを読み誤っていることが主な原因なんです。だからこそ、課題の分析がきちんとできているかどうかが質の高いソリューションを作っていくには必要なのではないかと思いますね。

── 課題分析の重要性や施策の重要性はどのようにチームに落とし込んでいるのでしょうか?

山口:イニシアチブや戦略的意図がなぜ立ち上がったのかを丁寧に説明し、ビジネスとの関連を常に意識しています。あとは、イニシアチブの進行を定期的にチェックし、目線合わせ(チェックイン)を行っていますね。チェックインでは、イニシアチブのゴールに近づくためのインクリメントをどのように進めているかを確認し、イニシアチブのゴールや定量的な目標を明確にしたストック情報の共有、その情報に基づいた課題や解決のためのチャレンジについてディスカッションします。重要なイニシアチブについては、個別に話し合ったり相談を受けたりすることもあるので、日々のコミュニケーションを通じて調整している感じです。Slackもいろんなチャンネルを覗いてみて、必要があれば登場して説明することもあります。

山口さんからのおすすめの本

── プロダクトマネージャーにおすすめの本がありましたらご紹介お願いします!

山口:最近では、「プロダクトマネージャーのしごと」が非常に良い本だと思います。プロダクトマネージャーだけでなく、ビジネスマン全般に読んでほしい内容で、できるビジネスマンとはどういうものかを考えさせられる本です。現実とどう向き合うか、ビジネスマンとしてどう生きるか、プロダクトマネージャーとしてどうあるべきかといったことが書かれているので、ソフトスキルの観点から非常におすすめです。

上位概念を扱う本としては、先ほど紹介した「良い戦略、悪い戦略」でしょうか。戦略立案の考え方を学ぶのに非常に役立つ一冊です。また、プロダクト戦略に関してはビルドトラップ本と「ラディカル・プロダクト・シンキング」を非常に参考にしていますね。ぜひ読んでみていただければと思います。

最後に

山口さんのお話はいかがでしたか?

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