今回は、株式会社IVRy(アイブリー)でプロダクトマネージャー(以下、PM)を務める高柳龍太郎さん(@neveryanagi)に仕事内容やキャリア、マイルールなどを伺った。
高柳さんはリクルートでCRMマーケティングやWebマーケティング、開発ディレクターを経験した後に、副業から始まってIVRyにジョインし、現在はPMを担われている。
シリーズCの資金調達が成功し、今まさにグロースを求められる状態のプロダクトに対して、どのような戦略・戦術を構想されているのかを語っていただいている。一方で、プロダクトに向き合う高柳さんを始めとしたチームにも注目したい。会社のビジョン、バリューを通じた推進力や巻き込み力、そして各々がプロダクトに向き合う姿勢が非常に高い。
また、リクルートからIVRyに参画するにあたっての気持ちや将来への考え方などリアルな転職観にも触れていただいている。
チームとしてプロダクトに向き合う姿勢を高めたいPMや大手からスタートアップへの転職を考えている方にも参考になる情報が満載である。
目次
株式会社IVRyでプロダクトマネジャーを担当
── まずはご自身の仕事について教えてください。
高柳:株式会社IVRyでPMを務めている高柳と申します。IVRyはAIを活用した電話のSaaSサービスを提供している会社です。
月々2,980円から、全ての電話業務を誰でもすぐにAIで効率化できるサービスを運営しています。このサービスにより、中小企業や個人経営の店舗などが手軽にAIを導入し、電話対応業務を大幅に改善することができます。
もう少し詳しくお話しますと、IVRyは、皆さんがコールセンターに電話をかけた際に「なんとかの場合は1を、なんとかの場合は2を押してください」といった音声ガイダンスを行う、AIを活用した電話の自動応対サービスです。
従来、こうした自動応対システムは大手企業がベンダーと一緒に導入するもので、月々数十万円のランニングコストがかかり、初期費用が数百万円かかるようなサービスでした。そのため、町の飲食店やクリニックなど電話対応に逼迫している中小事業者が電話業務を効率化したいと思っても、なかなか手が届かないサービスでした。
そこで、IVRyでは、これをより安価に、そして早く使えるサービスとして提供しています。現在の主なサービスは、電話の自動応対でボタンを押す「プッシュ型サービス」と電話で直接音声で要件を伝え、それをAIが受け取ってそのまま対応する「対話型サービス」を提供しています。
中小企業や個人経営の店舗でも手軽に導入できるため、多くのお客様にご利用いただいています。
プロダクトを通じて、より多くのお客様の体験を改善したい
── プロダクトのビジョンとしてどのようなものを掲げられているのか、またどのような状態を目指しているのか教えていただけますか?
高柳:IVRyの会社としての大きなビジョンとして、「Work is fun」という言葉を掲げています。この「Work is fun」というのは、単に楽しく適当に仕事をするという意味ではなく、働くという自分たちの人生の中で長い時間を占めるものに対して、例えば、お客様に感謝される仕事をしたときなど、本質的に楽しく感じられるシーンを増やすことを目指しています。
私たちは、自分たちの会社としてサービスを届ける事業者様に対してもこのビジョンを大切にしており、このサービスを通じて様々な事業者の皆さんが、より楽しく、やりたいことにフォーカスできるような世界を実現したいと考えています。具体的には、最先端の技術を全てのお客様に提供し、どこにいても誰でもすぐにその技術を活用できるようにすることを目指しています。
例えば、東京の最先端のスタートアップ企業だけでなく、鹿児島の百年続くお茶屋さんや、一人でお店を切り盛りしている飲食店の大将など、どんな場所でもどんな規模の事業者に対しても、最先端の技術を使って自分たちの仕事を楽しく、効率的にすることを支援したいと考えています。
もともとIVRyというサービス自体がフォーカスしていたのは、中小企業も含めた日本国内の労働力人口が減少するという課題でした。人手が不足すると、やりたい業務に十分な時間を割くことができないという問題があります。これに対して、私たちのサービスはそうした課題を解決するために始めました。
一方で小規模事業者に限らず、より広範囲の様々なお客様に対してこのサービスを提供していきたいと考えています。
── 今お伺いしたプロダクトビジョンに関連して、高柳さん個人の価値観やキャリアビジョンと、どのようにつながっているのかについてもお伺いしてもよろしいですか?
高柳:まず、私自身の1社目のキャリアはリクルートという会社だったのですが、To CとTo Bのマッチングビジネスに携わっていました。その中で、どちらか片方のお客様だけを幸せにしても、世の中全体の幸せには繋がらないことを実感しました。
IVRyのサービスもTo B事業者向けですが、その先にはその事業者に電話をかけて何かを解決したいと思っているお客様がいます。つまり、私たちのサービスは、事業者とその先のお客様両方の体験を改善するものであり、解決する課題の範囲が広いことは、私のキャリアにおいて一貫して魅力的に感じている部分です。
また、IVRyのサービスには多くの箇所にAI技術が活用されています。この分野は現在の技術トレンドの最先端にあり、PMとして非常にチャレンジングで面白い環境です。これもまた、私にとっての「Work is fun」を享受できる点だと感じています。
── 世の中の解決する課題の範囲が広いというお話がありましたが、具体的な事例やケースをご紹介いただけますか?
高柳:私たちが提供している対話型音声AI SaaSは、ホリゾンタルなSaaSサービスです。つまり、特定の業種や業界に限らず、世の中のすべての業種に対して提供するサービスです。特定のユースケースや業務フローを考える際にも、例えば飲食店、クリニック、不動産業界では、それぞれ微妙に電話応対の前後のユースケースが異なります。
具体的な事例として、私たちは一次産業でも使われているため、漁業における電話の自動応対や電話対応はどのようなものか、というような視点で広範囲の業界やユースケースに対応できるようにプロダクト開発しています。
このように、今まであまり考えられてこなかった電話という体験の前後の業務フローを詳細に考え、それを実際のプロダクトに反映させることは非常に面白いポイントだと思います。
マルチプロダクト構想でより広範囲の課題解決を図る
── 現在、高柳さんが向き合われているプロダクトの課題は何でしょうか?また、それをどのように解決しようとされているのか教えていただけますでしょうか?
高柳:まず、IVRyという会社にフォーカスしてお話しします。現在、IVRyは対話型音声AI SaaSの「IVRy」というサービスを提供しており、このプロダクトをPMF(プロダクト・マーケット・フィット)させ、そこからどのようにグロースさせていくかというフェーズに来ています。ありがたいことに、先日シリーズCの資金調達を実施しましたが、ここからさらに成長角度をしっかりとつけていくために、どのようにプロダクトの開発を進めていくかが私の大きな課題の一つです。
まず、様々な業種や業界のお客様に対して、どのようにIVRyを使っていただき、その後も使い続けていただくかを考える必要があります。プロダクト利用までのリードタイムを短縮し、迅速に価値を提供するためにはどうすれば良いか、また、現在の機能ラインナップに不足しているものは何かを常に探りながら、どの機能を追加・改善するかを決めています。
例えば、特定の業界には非常に必要な機能があっても、他の業界には全く不要な場合があります。ある業界で広く使われているシステムとの連携が求められることもありますが、今のタイミングでそれに対応するべきか、もう少し後で対応するべきかの見極めが重要です。この見極めは常に考えているテーマの一つです。
また、PMだけでは情報が不足することもあるため、セールスやカスタマーサクセスチームと連携し、実際のお客様の声を聞きながら解像度を上げ続けています。このようにして、適切なタイミングで必要な機能を提供し、プロダクトの成長を促進しています。
── 資金調達されたという話がありましたが、マルチプロダクト構想についてもお聞きしました。この調達された資金を使いながら、どんなプロダクトとしての進化を見せているのか、可能な範囲で教えていただけますか?
高柳:仰るとおり、複数のプロダクトを同時に立ち上げていくマルチプロダクト構想を進めています。IVRyは現在、対話型音声AI SaaSとしてスタートしていますが、私たちのビジョンは、フロントオフィス業務の課題解決です。フロントオフィスとは、お客様と直接コミュニケーションを取る接客やサービスの領域を指します。この領域での問い合わせ負荷などの課題を解決することが目的です。具体的には、電話応対だけにこだわるのではなく、フロントオフィス全体の業務改善を目指しています。コアとなるのは「コンパウンドAI」の考え方です。
IVRyのサービスは、電話をインターフェースとして、AIエージェントが裏で問い合わせを受け、適切なレスポンスを返す仕組みです。現在は、ルールベースやAIを活用して分岐フローの形でレスポンスを返していますが、重要なのは、このAIエージェントをどのように構築し、様々な用途で活用できるようにするかです。
例えば、問い合わせに対してどのような回答を返すかが鍵となるため、それぞれのクライアントに適したAI機能をどれだけ迅速に実装できるかが重要です。この部分をしっかりと作り上げることが、私たちのプロダクトのコアとなり、進化の鍵となると考えています。
調達した資金は、このようなAI機能の開発や、フロントオフィス業務全体の課題解決に向けた新機能の追加に使う予定です。これにより、より広範囲の課題を解決し、プロダクトを進化させていきたいと考えています。
全方向に責任を持つのがIVRyらしさ
出典:The Product Management Triangle
── プロダクトマネジメントトライアングルを見ながらお話を進めます。トライアングルを健全に機能させることがPMやプロダクトチームで必要とされていますが、高柳さんが担当されている業務範囲や役割分担について教えてください。また、特に重点的に取り組まれている領域はどこですか?
高柳:プロダクトマネジメントトライアングルで言うと、私やIVRyのPMの範囲は、この三角形の端から端まで広がっています。これはIVRyの特徴の一つですね。世の中ではPMM(プロダクトマーケティングマネージャー)とPDM(プロダクトマネージャー)に分けることもありますが、IVRyではこれらを一つのロールにまとめ、責任範囲として持つようにしています。
現在の私のポジショニングは、ややビジネス開発寄りかなという印象があります。全体のプロジェクトマネジメントやビジネスディベロップメントに対する向き合いが強いです。例えば直近ですと、新しいビジネスモデルの検討、マーケットフィットの検証など、ビジネス側の業務に重点を置いています。
── 基本的には全体に対して責任範囲を持ちながらやられているという話でしたが、IVRyを取り巻くPMが複数名いらっしゃるとのことでした。どのように役割分担をされているのか教えていただけますか?
高柳:IVRyには現在、PMが7名います。全員が基本的にプロダクトマネジメントトライアングルのすべての領域をカバーしようとしていますが、それぞれの得意分野に応じてメインの守備範囲を決めて役割分担しています。
具体的には、以下のような要素を役割分担しています。
1. 顧客対応とフィードバックループ:一部のPMは顧客対応やプリセールスを担当し、直接顧客からフィードバックを得て、それをプロダクト開発に反映させる役割を担っています。このチームは、顧客のニーズを迅速に反映させることに注力しています。
2. ビジネス開発とマーケティング:他のPMは、事業数値の成長にフォーカスし、ビジネス開発やマーケティング戦略を担当しています。市場分析や競合調査、マーケティングキャンペーンの計画・実行などを行い、事業の成長を推進しています。
3. プロジェクトマネジメント:さらに、複数プロジェクトの進行管理やチーム間の調整を担当するPMもいます。開発スケジュールの管理やリソースの最適配分を行い、プロジェクトのスムーズな進行を支えています。
このように、それぞれのPMが全体を俯瞰しつつ、自分の得意分野にメインのポジショニングを置いて役割を分担しています。
── PMごとの担当するイシューやビジネス寄りか顧客の声に基づくアクションかなど、得意分野を基に役割分担されているという話でしたが、そのフォーメーションを統括している方はいらっしゃるのでしょうか?
高柳:現在の体制ではプロダクトマネジメント組織の統括は代表の奥西が担当しています。奥西はもともとPMのバックグラウンドを持っており、専門性が非常に高いです。さらに、IVRy自体がプロダクトカンパニーであり、プロダクトの成長が会社の成長に直結するため、代表がこの領域にしっかりとレバレッジをかけるべきだという考えです。
一方で、ビジネスグロースに関しては、メルカリでのUS事業の立ち上げを務めたCOOの片岡慎也やHR領域ではChatwork(現Kubell)でもCHROを経験したCHROの西尾知一などが加わっています。これにより、ビジネスグロースやHRの領域を徐々に移管しつつ、プロダクトに対してより深くコミットできる体制を整えています。
このようにして、代表がプロダクトマネジメント全体を統括しながら、他のエリアは専門家に任せる形でバランスを取りつつ進めています。
── プロダクトのディスカバリーとデリバリー、企画して開発するプロセスのところで、PMと他の職種の方との連携のあり方について、特徴的な話やどのようにやっているのか教えていただけますか?
高柳:特に特殊なことはしていないかもしれませんが、双方向に相互にコミュニケーションを取れる機会を常に設けています。例えば、プロダクトとして新しいリリースがある際には、毎週全チームが連携できるような形でリリースの共有会を行っています。
また、それぞれのイシューに対して「今こういう課題を解決しようとしているが、クライアントの現状はどうか?」といった話が常にできる環境にあります。気になったことがあればすぐに聞く、すぐにSlackで質問する、という形で双方向のコミュニケーションを活発に行っています。
こうした環境を常に維持することで、PMが他の職種のメンバーと円滑に連携し、ディスカバリーとデリバリーのプロセスを効率的に進められるようにしています。このような取り組みが、結果として会社の強みになっているのではないかと最近感じています。
自然に、そして積極的に「こういうプロダクトを考えている」といったディスカッションが行われています。また、セールスやカスタマーサクセスチームから「この前話していたお客様がこんなことを気にしていました」といったフィードバックが上がってくることもあります。
こうしたプロダクトを中心とした連携は、各部門がしっかりと向き合ってくれている証拠だと思います。普通ではないかもしれませんが、全員がプロダクトに対して深い関心を持ち、積極的に意見を交換する環境が整っていることは、PMとして非常に嬉しい限りです。
このように、自然発生的にディスカッションが行われ、双方向のフィードバックが活発に行われる環境が、IVRyの強みとなっています。プロダクトを中心に各部門が連携し、共に成長していけるのは素晴らしいことだと感じています。
── そのカルチャーが培われた背景や経緯について教えていただけますか?代表がプロダクトマネジメントの専門性が高いことの他に要因などはありますか?
高柳:代表に限らず、最初にいたメンバーや新しく入ってきたメンバーが、そのカルチャーを受け継ぎ続けていることが大きい要因だと思います。みんながこのプロダクトは世の中を変えることができると実感し、プロダクトのビジョンに魅力を感じ続けていることが、結果的にプロダクトを中心に据えた文化や会社の形を作っていると感じます。
誰か特定の人物や仕組みではなく、全員が常にプロダクトについて考え、前に進めていく姿勢が大きなポイントだと思います。
自分たちから見ると当たり前でも、外から見ると「なぜそんなことをやっているの?」と驚かれることが多いです。その点が源泉にあるのだと思います。自分たちがプロダクトに向き合う姿勢が、実はIVRyらしさの象徴なのかもしれません。
リクルート→IVRyへの転職で得られた経験
── キャリアについてお伺いしたいのですが、どのようにしてPMになり、現在に至るのか、ファーストキャリアから教えていただけますか?
株式会社リクルートコミュニケーションズ(現 株式会社リクルート)
高柳:最初のキャリアはリクルートに入社したところから始まりました。当時のリクルートは、いくつかの会社に分社化しており、私はリクルートコミュニケーションズという機能会社に入社しました。ここでは、リクルートの紙出版物のディレクションや派生したマーケティング支援を行っており、私は主にウェブマーケティングの支援からスタートしました。
具体的には、リクルートが持つ顧客データを活用し、新しい商品を購入してもらうためのCRM(顧客関係管理)を担当していました。同じリクルート同士ではありますが、実際にはクライアントワークに近い形で、事業会社に対して機能を提供し、対価をいただくという業務スタイルでした。ここでの経験が、PMとしての基盤となっています。
その後、2~3年ほどWebマーケティングの業務を続け、新卒採用、美容、旅行、新規事業など、多岐にわたる分野でマーケティング業務を担当しました。そして最後に携わった保険系の新規事業で組織体制の変化の中で開発ディレクションにも関わるようになりました。
保健事業での経験を通じて、プロダクトそのものに対して自分が影響を与え、変革を進めることの面白さを感じました。その後、リクルート内で部署転籍の希望を出し、新規事業領域の開発ディレクターとしてキャリアをシフトしました。ここで、プロダクトの開発や改善に取り組む中で、徐々に今のPMへと変化していきました。
株式会社IVRy
高柳:プロダクトマネジメントを本格的に突き詰めたいと思い、IVRyに転職することを決めました。現在は対話型音声AI「IVRy」のPMとして、プロダクトの成長に全力を尽くしています。
IVRyに入社した経緯は、代表の奥西とリクルートの新規事業で一緒に仕事をしたことがきっかけでした。先輩後輩の関係で接点があったのですが、プロダクトが立ち上がり、コロナの影響で急成長し、手が足りないから手伝ってくれないかということで声をかけてもらいました。
最初は副業で参画して、IVRyでCRMマーケティング系の仕事からスタートしました。IVRyのプロダクトマネジメントの仕事が非常にワクワクするもので、タイミングも良かったため、転職を決意しました。
転職してきてから約2年になります。IVRyでは、最初は自分のマーケティングのスキルを活かしつつ、徐々にPMとしての範囲を広げていきました。最近ではビジネスディベロップメントや事業開発にも関わるようになり、2年前と比べるとやることが大きく広がってきている実感があります。
私のキャリアの中で、プロダクトマネジメントトライアングルの全体に総合的に取り組んでいるのはIVRyに入ってからの2年ですが、トライアングルの部分部分をそれぞれのタイミングで経験し、少しずつ拡張してきたというのが私のキャリアの変遷です。
── 最近やることが変わってきているというお話がありましたが、どう変わってきているのでしょうか?
高柳:一つは、プロダクトアライアンスや他企業とのコラボレーションなど、単純なプロダクト開発だけではない範囲がさらに広がってきたことです。様々なクライアントに対して機能を提供する際、自分たちだけでは解決できない課題を、他のアライアンスパートナーと協力して実現するという観点も重要です。プロダクトマネジメントにおいてこのようなオプションを持つことは、サービスを最速で成長させるための重要な要素だと考えています。
また、IVRyが扱うサービスは、電話という特性も相まって裏側のエンジニアリングが非常に複雑です。この解像度が上がることで、サービスとして提供できる範囲が広がり、PMとして考えられる幅も広がったと感じています。
直近の変化としては、このようにエンジニアリングとビジネスの観点で自分のスキルに広がりを持てるようになりました。これにより、プロダクトマネジメントトライアングルの守備範囲が広がり、より効果的にサービスを成長させることができるようになりました。
── リクルート在籍中に新規事業の保険事業で奥西さんとの接点があり、PMFするかもというタイミングで声をかけていただき、IVRyに関与し始めたとのことでした。実際にリクルート社を辞めてIVRyに転職する意思決定については、悩まなかったですか?
高柳:実際のところ、あまり悩まなかったかもしれません。転職において不可逆な意思決定ではないと考えていました。転職当時、27歳くらいでしたが、キャリアを今後どう考えていくかにおいて、このタイミングでのチャレンジには意味があると思いました。
仮に大失敗してしまったとしても、そこから得られる経験や次のチャレンジに繋げることができると感じましたし、チャレンジしないことによるリスクと、チャレンジすることによるリスクを天秤にかけたとき、圧倒的にチャレンジすべきだと結論づけました。
実際、当時の組織に残り続けることにもメリットや後ろ髪を引かれる思いはありましたが、本質的には自分の人生において非連続的なチャレンジをし続けることが非常に大事だと考えました。
── 今の時点から振り返って、経験できたことやスキルアップ、報酬を含めてその意思決定は良かったですか?
高柳:振り返ってみても、良かったと思います。スキル面や経験面では、非常に得難いものがありました。この1〜2年は特にスピード感があり、その中で強度の高い経験や学びを続けることができました。
給与面については、状況によりけりですが、特にネガティブなことは感じていません。世の中的なスタートアップの報酬レンジも上がっていますし、自分たちが会社を成長させれば、報酬も後からついてくると思います。自分の腕を信じて会社を伸ばし、結果的に年俸も上げてやるという気持ちでいれば良いと考えています。
強みは「人を巻き込んでプロジェクトを推進」
出典:https://www.ravi-mehta.com/product-manager-skills/
── 高柳さんの強みの部分についてどのようにスキル開発されたのかをお伺いしたいと思います。「Influencing People」の領域が強みのようですが、これは正しいでしょうか?
高柳:前置きとして、プロダクトマネジメントに本格的に向き合っているのは、ここ2年ちょいという状況です。なので、ミドルクラスのPMとして回答させていただきました。
その上で、「Influencing People」についてですが、これは自分の中で相対的に見たときに特徴や強みだと思っています。
PMは仕事の特性上、多くの人と関わり合いながら物事を決めて進める役職です。私が得意なのは、単に盛り上げるというより、やりたいことを言語化し、それを各ステークホルダーや経営層に伝え、共感を得て進めていくことです。
IVRyのバリューの一つに「Keep on Groovin’」というものがあります。これは、多様な個性・情報を受け入れ/尊重し合い、協奏/共創しながら、より良い方向へと、独特のテンションやワクワク感を生み出していくことを大事にしようというものです。私は、このグルーヴ感を生み出していく部分は比較的得意かなと思っています。
── おしゃれなバリューですね。もし、今お話しいただいたもの以外で、「Influencing People」に関する過去のご経験や、それによってスキルやコンピテンシーが向上したエピソードがあれば教えていただけますか?
高柳:「Influencing People」の難しいところは、組織が変わるとリセットされやすい点だと思います。私がIVRyでやっていることとして、日々のコミュニケーションの中でグルーヴを生み出し、信頼や感謝の気持ちを相手に届けることがあります。
感覚として身につけるのは一朝一夕では難しいかもしれません。苦手だと思う場合は、常に意識的に実践することが大事です。言い方は悪いですが、最初は不自然でもいいから実践していくと、いつかそれが自分の中に型として定着することがあります。
リクルート時代にプロジェクトを進める際に、様々な部門やステークホルダーとの連携が日常茶飯事でした。相手のニーズや期待を理解するために、こまめなコミュニケーションを取り、1つずつ信頼関係を築くことを意識しました。
この経験を通じて、相手との信頼関係を築き、共通の目標に向かって一緒に進んでいくことが、PMとしての重要なスキルだと実感しました。
──他の項目についても、過去のご経験やスキル開発に関するエピソードがあれば教えていただけますか?
高柳:特に「Production Execution」のデリバリーや要件定義に関しては、とにかく打席に立ち続けることで経験として得られました。リクルートの初期の頃、クライアントワークに近い動き方を続けていたことで、一つ一つのアウトプットが納品物となるため、それにこだわっていかなければいけないという経験を積んでいたことは土台になっている気がします。
他には、クライアントワークで身につけた基盤はプロダクトマネジメントに非常に役立っています。クライアントワークは時に敬遠されがちですが、キャリアの前半でしっかり経験しておくと、営業やカスタマーサクセス、プロダクトマネジメントにおいても大いにレバレッジが効くと思います。お客様との関わり方や要件の引き出し方など、非常に重要なスキルが培われました。
PMとしてのスキル開発において、特に初期段階でのクライアントワークの経験は、さまざまな場面で役立つ基盤となりますし、クライアントとのやり取りを通じて、どのように問題を解決し、最適なソリューションを提供するかを学ぶことができるので、非常に貴重な経験だと思います。
マイルールは「早いは価値」「迷ったら面白い方を選ぶ」
── PMとして働く上で、行動指針や大切にされているマイルールはありますでしょうか?
高柳:二つあります。一つはベタですが「早いは価値」であるということです。90%や100%を求めず、まずは4割でも6割でもいいから早く作って持ってくることが大事です。どれだけ早くゴールにたどり着くかが重要で、最初の一手が早ければその後に大きなレバレッジが効きます。何かを決める際や次に進むために必要なものを最短で集めることにこだわるべきです。
もう一つは、「迷ったら面白い方を選ぶ」ということです。これはIVRyの「Work is fun」というビジョンにも近いですが、最終的に論理で決めきれない場合は、直感を信じて面白い方を選ぶことで、結果的に広がる経験や見えることが多いと思います。仕事でもプライベートでも、この考え方で意思決定をしてきたことが、結果的に後悔のない選択につながっています。
この二つの行動指針を持ちながら、PMとして日々の業務に取り組んでいます。
いいチームを作るためには「ギバーであること」
── いいチームを作るために何か工夫されていることはありますか?
高柳:IVRyの組織は階層構造ではなく、四半期ごとにプロジェクト単位で目的のためにチームを作ります。そのため、それぞれのチームにまとめる係や実行する係などがいます。私が心掛けているのは、チームにおけるテイカーではなくギバーであることです。誰かが困っているときに何かを提供しギバーであり続けると、結果的にはそれが巡り巡って自分に返ってくることが多いです。
特にチームで何かをする時にはこれが大事だと思っています。チーム作りというよりも、チームで何かを一緒にしていく際に常にギバーでありたいと考えています。
返報性という言葉がありますが、しっかりと助け合うことはチーム全体に良いモメンタムをもたらすなと感じています。
── 日々の言動の中で、具体的に気をつけているアクションや意識的にやっていることは何かありますか?
高柳:すごく細かいところですが、Slackのスタンプを見つけたら押すことは、息を吸うように自然にやっています。スタンプは一瞬で押せますし、少なくとも、誰かが何かをしていることを見ているというリアクションが返ってくるのは、自分に置き換えてみても少なからず嬉しいことです。同じチームのメンバーが見てくれているという安心感も生まれます。
このように、ちょっとしたことでできることを面倒くさがらずにやることを意識しています。これがチームの雰囲気を良くし、連携をスムーズにするために重要だと思います。
このような小さなアクションを続けることで、良いチームを作り、維持することができると信じています。ただ、それを強要するというよりも、自然とそういうモメンタムが生まれることが大事だと思います。
── カルチャーやモメンタム作りは意識して作れるものではない気もしますが、参考になるお話はありますか?
高柳:言い続けることが大事だと思います。例えば、うちでは代表の奥西が常にバリューを浸透させるために細かい点も言い続けています。言い続けても言い足りることはなく、耳タコになるぐらい言い続けることで、ようやくカルチャーやモメンタムに変わっていくのだと思います。これを怠らないことが大事だと感じています。
周りを頼ることで質の高い企画を生み出す
── 質の高い企画や課題に対する筋の良い打ち手を生み出すために、何か工夫されていることはありますでしょうか?
高柳:ありきたりかもしれませんが、自分の引き出しに頼らないことは意識しています。新しいプロダクトアイディアを考える際には、似たようなプロダクトがどんなものがあるのか、海外のプロダクトで似たようなものはないかを調べます。とにかく使えそうな引き出しを増やして、その中から何がフィットするかを考えることが大事です。
さらに、自分よりテクノロジーに詳しいエンジニアや、ユーザー体験に詳しいデザイナーなど、他の専門家の意見を早い段階で取り入れるようにしています。コンセプトのたたきは作るものの、早い段階で健全な議論をすることを意識しています。
具体的には、こういった課題を解決するために、世の中にはこういうものがある、こっちの方向が良いと思うがどうかといったたたきをベースにした議論を頻繁に行っています。
異なる専門性や経験を持つ人たちと一緒に話し合うことで、自分では思いつかないような打ち手が見つかることも多いです。
── そのあたりのコンピテンシーの話も含めて、周囲のエンジニアやデザイナーを巻き込む力が高柳さんには高いと感じます。「Keep on Groovin’」というバリューとも合致しているので、巻き込み力が非常に高いのだろうなとインタビューを通じて感じました。
高柳:人へのお願い力が上がったのかもしれませんね。周囲の人を巻き込む力がPMには求められるので、それを意識してきた結果かもしれません。
高柳さんからのおすすめ本
── PM向けのおすすめの本をご紹介いただけますか?
高柳:プロダクトマネジメントに直接関係する本ではないのですが、私が好きな本に「影響力の武器」という本があります。この本は、ギバーとテイカーの関係性や、学術的に見たときに人と人の間にはどのような力学・ユースケースがあるのかといったことを具体的に説明しています。行動経済学に近い内容も含まれており、非常に興味深いです。
PMとして直接役立つかどうかはわかりませんが、普遍的なコンセプトとして持っておくべき重要な考え方を学ぶことができます。総合的なPMとしてのスキルを磨きたいと思う方には、ぜひおすすめしたい本です。
プロダクトマネジメントに限らず、人を巻き込む力や影響力を高めるための知識を得られるので、幅広い場面で役立つと思います。ぜひ一度手に取ってみてください。
最後に
高柳さんのお話はいかがでしたか?
プロダクトを中心とした組織やカルチャー、共感するメンバーが受け継いでいることについて、スタートアップやPMの方々にとって参考になるお話が多かったと思います。
高柳さんのリクルート時代の経験、CRMやマーケティング領域のファーストキャリア、クライアントワークで培ったスキルやマインドセットが現在のご活躍に繋がっていることがよく分かりました。エンジニアやデザイナーをうまく巻き込みながら、プロダクトやサービスを成長させていく姿勢が非常に印象的でした。
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