数々の有名プロダクトを立ち上げたLoglassのCBDOから学ぶ!数年先のプロダクトビジョンを描くためのヒント

今回は、株式会社ログラスでプロダクトマネージャーを務める斉藤 知明さん(@tomosooon)に仕事内容やキャリア、マイルールなどを伺いました。

斉藤さんは、学生時代はAIの研究をされながら、英単語アプリ「mikan」を共同創業しCTOとして活躍後、Fringe81にてピアボーナスサービス「Unipos」を立ち上げ子会社化して代表に就任されたご経験を持ちます。現在はログラスでVPoPを経て、2024年6月からCBDO(最高事業開発責任者)を担われています。

今回は、数々のプロダクトを生み出し、成長させてきた秘訣について語っていただいています。プロダクトカンパニーにおいて「会社全体の事業戦略はプロダクト戦略とほぼイコールであるべき」という考え方や、「正解にするまでやりきる」という行動指針をもとに挫折と成功を繰り返しながら培った経験値やリーダーシップを武器に、プロダクトチームをリードし続けています。斉藤さんのキャリア感や根底にあるマインドは良いプロダクトを生み出すヒントが数多くあり、必見です。

株式会社ログラスにてLoglassのプロダクトマネジャーを担当

── どこでどのようなプロダクトのプロダクトマネージャーをされているのか教えていただけますでしょうか。

斉藤:私は株式会社ログラスで「Loglass 経営管理」というサービスのプロダクト管掌役員をしております。(※インタビュー時は、CBDO就任発表前)

Loglass 経営管理は、企業内に散在するデータを集約し、経営の意思決定を支援するためのサービスです。

各部門が持っているエクセルファイルや他のデータソースから必要な情報を自動的に集め、統一されたフォーマットで管理します。このプロセスにより、手動でのデータ集計やエクセルの誤りを防ぎ、リアルタイムでの経営分析が可能となります。例えば、どの製品が最も利益を生んでいるか、どのマーケティング施策が効果的かを迅速に把握することができます。

── プロダクトを利用されるユーザーや顧客について教えていただけますか?企業の経営者や経営企画部門の方々になるのでしょうか?

斉藤:一時的に使うのは主に経営企画の皆さんですが、最終的に使うのは事業部長の皆さんや経営者の皆さんです。具体的には、意思決定の場においてパワーポイントなどの資料としてきれいにまとめられて出てくるまでの間をサポートするツールです。データの収集、分析、提案といったプロセスを経て、経営者が的確な意思決定を行うための支援をする役割を担っています。

── Loglassにおけるプロダクト上の課題は何でしょうか?また、それをどのように解決されようとしているのか、お話いただける範囲で教えていただけますか?

斉藤:現状の課題として、私たちは経営をより効率的に行うためのデータ活用を目指しています。見るべきデータは多くの企業で共通しているものの、それを実際に活用するには多大な時間と労力がかかります。例えば、製造業においてコップ一杯の利益がどれくらいかを正確に把握できている企業は少ないです。このような状況が続くと、売れば売るほど赤字になる商品が市場に出回り、日本の製造業全体の利益率が低いといった問題に繋がります。

そのため、まずは当たり前に見るべきデータをちゃんと見て経営できる環境を整えることが重要です。このプロセスを楽にし、経営者が意思決定しやすくすることが私たちのミッションです。具体的には、データのインプットからアウトプットまでのプロセスを簡素化し、多様なデータソースを統合して分析できるようにすることに注力しています。

現在、私たちは管理会計という領域にフォーカスしています。これはP/L(損益計算書)とB/S(貸借対照表)の概念に基づいてデータを管理することで、効率的な処理が可能になるからです。

ただし、汎用性が高すぎると使いづらくなる可能性があるため、特定のニーズに応じたプロダクトを提供することを目指しています。私たちの強みは、多様なインプットデータを収集し、統合し、変換することです。そのため、特定の業種や顧客に対して深い分析を提供することはまだ得意ではありませんが、その領域に特化することで他のツールと組み合わせて使うことを推奨しています。

最終的に、我々のプロダクトが経営者や経営企画部門にとって使いやすいものであることを目指し、現状の課題を解決していきます。

── ターゲットの顧客としては、エンタープライズ企業で複数の事業を営んでいる企業様が中心になるのでしょうか?

斉藤:まさにその通りです。私たちの顧客の中でも、複数の事業を持っている企業が多いです。例えば、某事業と他の事業を統合して管理する場合、それぞれの事業部門が異なるフォーマットでデータを管理していることが多いです。そのため、親会社が統一された形でデータを見たいと思っても、子会社や事業部門がそれを準備するのに大変な労力がかかることがあります。私たちのツールは、柔軟にフォーマットを組み替えたり導入したりできるので、その作業を楽にすることができます。

「人が挑戦することを後押しすることで、皆がイキイキと働ける世界を目指す」

── プロダクトビジョンについて教えていただけますか?

斉藤:私たちのプロダクトビジョンは「MAKE NEW DIRECTION」です。現在のLoglassはデータを収集して分析する機能を提供していますが、将来的にはさらに一歩進んで、企業が新しい方向性を見つけられるよう支援することを目指しています。

具体的には、収集した大量のデータを活用して、「この方向に進めば60%の確率で成功する」といった具体的な方向性を提示したり、「A、B、Cの選択肢だけでなく、実はDという選択肢もあり得る」といった新たな選択肢を提案することができるようになります。これにより、企業の経営意思決定を支援し、良いビジョンやミッションを持つ企業が成長し、良い商品を作り続けられるような世界を作っていきたいと考えています。

このビジョンを実現することで、日本の企業がより良い経営を行い、ひいては日本全体が良くなっていくと信じています。これが「MAKE NEW DIRECTION」というプロダクトビジョンの背景と目指す世界です。

── 先ほどお伺いした「MAKE NEW DIRECTION」というプロダクトビジョンとご自身の価値観やキャリアビジョンとの接続性についてお聞かせいただけますか?

斉藤:私がこれまで関わってきたプロジェクトは、「mikan」という英単語アプリ、「Unipos」というピアボーナスHR SaaS、そして現在の「Loglass」の3つです。それぞれに共通しているのは、誰かが挑戦する際に後押しされる世界、バカにされず成功するような世界を作りたいという思いです。その結果、もっとみんながイキイキし、働ける世界になるんだろうなって。これが一貫して私の中にあります。

「mikan」の時は、日本が島国に閉じこもり、デジタル革命に遅れているのは言語の壁が大きな原因だと感じました。そこで、その壁を乗り越えられるようにと英単語アプリを開発しました。「Unipos」では、誰かの良い行動に対して少額のインセンティブと感謝のメッセージを送るサービスを提供しました。例えば、「松原さん、この記事良かったです。もっとメディアを広げてください」というようなメッセージで、人々が少し後押しされたと感じ、前向きになれる環境を作りました。

現在の「Loglass」では、対象が経営という大きく抽象化されたものになりました。経営には多くの面倒なことがあり、数値を集めて意思決定するのは大変です。そこを解消し、経営者がどの方向に進みたいかを明確にし、新しいアイデアを試すことでリスクを理解し、方向性を示すことができるようにします。その結果、成功の確率が上がり、「起業して良かった」「挑戦して良かった」と思える企業を増やしていきたいと思っています。このような考えから、現在「Loglass」に携わっています。

── 領域やドメインは異なりますが、思いや価値観は一貫されているんですね。

斉藤:そうですね。私たちのプロダクトビジョン「MAKE NEW DIRECTION」に加え、ミッションとして「良い景気を作ろう。」というものがあります。これは経済の景気を良くするという意味です。娘もいますが、失われた30年が続かず、20年後には「次に何をしようか楽しみだ」と言えるような世界を作りたいという思いがあります。

少し高尚に聞こえるかもしれませんが、シンプルに、人が挑戦するのをバカにしたり、批判するだけの傍観者になるのは嫌だと思っています。挑戦する人を応援し、「よく頑張った、次はこうしよう」というポジティブなフィードバックがある世界の方が、どんどん良くなっていくと思っています。これは私の幼い頃からの純粋な思いで、そこに向かっているという認識です。

数年先のプロダクトビジョンを描き、強い意志で推進していく

── プロダクトマネジメントトライアングルに照らし合わせながら、斉藤さんの業務範囲について教えていただけますか?特に重点的に取り組まれている領域についても教えていただければと思います。

出典:The Product Management Triangle

斉藤:一番重点的に取り組んでいるのは、顧客とビジネスの領域です。その中でも特にビジネスディベロップメントが大きな役割を占めています。私の社内での役割をお話しさせていただくと、5月までは執行役員VPoPとして、プロダクト全体の管掌をしていました。現在は少し変わりましたが、基本的な役割は変わりません。

具体的には、6人のプロダクトマネージャーを統括し、Loglassの3年、5年先のプロダクトビジョンを描いています。MAKE NEW DIRECTIONに至るまでの大きなマイルストーンを設定し、各プロダクトマネージャーと議論しながらその目標に向かって進んでいます。例えば、この1年ではレベル10、2年ではレベル20を目指しましょう、といった形でビジョンを共有しています。

各ステークホルダー、競合、顧客などを含めて、どのようなポジショニングで進めば日本の経済に貢献できるのかを考え続ける役割です。そして、具体的なプロダクトの仕様や開発については、優秀なプロダクトマネージャーやエンジニアチームに託しています。

象徴的な例として、昨年の9月から11月は週に2日、お客様の経営企画部門でインターンとして働き、経営会議資料の作成などを行いました。これにより顧客理解を深め、その理解を元にプロダクトの改善に役立てました。

私の考え方として、プロダクトは基本的に「傲慢」だと思っています。人間が創意工夫して頑張ってやるプロセスを汎化するのがプロダクトだと思います。ただ、ターゲットの捉え方が大雑把だったり、誤っていると良い汎化はできず、物足りなかったり、運用回避しないといけなくなるため、本質的な価値が提供できないです。そのため、顧客理解の解像度を上げることは非常に重要だと捉えています。

── 先ほどVPoPとしてのポジションについてお話しいただきましたが、6名のプロダクトマネージャーメンバーの役割分担についてもお伺いできますか?

斉藤:現在、私たちのチームは5月入社の方も含めて、6名のプロダクトマネージャーメンバーで構成されています。

1. 新規事業開発
– 1人が新規事業開発を担当しています。最近発表した「Loglass 人員計画」というプロダクトのプロダクトマネージャーを務めています。

2.Loglass経営管理:
– 3人が「Loglass 経営管理」を担当しています。このプロダクトはデータの入力、分析、出力を行うもので、それぞれの強みを生かしてチームを分担しています。
1人目は、データ入力と変換の領域を担うプロダクトマネージャー
2人目は、データの分析とモデル構築を担うプロダクトマネージャー
3人目は、データのアウトプットを担うプロダクトマネージャー

3.プロセスマネジメント(Product Ops)
– 私はビジネス・顧客側を得意としている反面で、プロセスマネジメントはあまり得意ではありません。そのため、1人のメンバーが各プロダクトマネージャーの間の調整や共通項の取りまとめを行っています。彼はシニアPMとして、プロセスの標準化や、チームの効率化を図り、プロダクト全体を前進させる役割を担っています。

── 5人や6人の体制の中でも、複数のプロダクトがあり、そのプロセスを標準化する役割も任せているわけですね。一方で、斉藤さんは5年後や3年後のビジョンや、4Pをどうすれば勝てるのかを考えている、より経営視点での役割を担っているということで、非常に参考になります。

斉藤:その通りです。私が考えるのは3年や5年先の方向性で、強い意志を持って進むべき道を示します。その上で、1年のロードマップや人員計画、各モジュールの開発計画など、具体的な道筋を考えるのは各プロダクトマネージャーの役割です。プロダクトマネージャーも非常に高いレベルの仕事を求められています。

各プロダクトマネージャーは、具体的なユーザー体験やターゲット顧客の選定を行い、それに基づいて計画を立てています。私の役割はそれを承認し、任せることです。そして、それが最大化するための計画であることを確認し、議論を重ねています。このようにして、各プロダクトマネージャーが自らのプロダクトに責任を持って取り組んでいます。

キャリアの軸は「人が報われて、やってよかったと思える世界を作りたい」

── キャリアパスについてお伺いします。ファーストキャリアから現在に至るまでの経緯を教えていただけますか?

斉藤:

株式会社mikanを創業

大学時代、僕はAIの研究をしておりまして、主にディープラーニング系の研究をしていました。具体的には画像や動画の解析に取り組んでいて、動画に何が映っているかを説明するタスクを研究していました。

その後、英単語アプリを共同で立ち上げることになり、株式会社mikanの共同創業CTOとして携わりました。「mikan」では英単語アプリを開発し、2014年の半ばにリリースしました。このアプリはリリース後2週間で20万ダウンロードを達成し、急成長しました。しかし、その後のマネタイズに苦労し、ピボットを繰り返しました。4つか5つぐらいの事業を立ち上げました。

今では、「mikan」の英単語アプリが800万ダウンロードを達成しており、アプリストアで「英単語」で検索すると一番上に来ると思います。当時、何度も「このままでいいのか?」と悩みながらも、試行錯誤を続けてきました。

最初は英単語アプリとして成功を目指していましたが、他にも4つから5つの事業に挑戦しました。その中の一つが「BENTO+」というアプリです。弁当を予約し、店頭で支払いと受け取りを行う仕組みで、オフィスワーカーのランチ時間を20分節約するものでした。渋谷の一部では非常に人気があり、とある店舗ではランチタイムの売上が50%近く向上する成果もでましたが、楽天が「楽天テイクアウト」という類似サービスを大規模に展開し、競争に敗れました。

Fringe81株式会社を経てUnipos株式会社を設立

Fringe81という広告系の会社にエンジニアとして入社しました。最初はSNSアプリやアドネットワークの開発に携わりましたが、2016年に「Unipos」というピアボーナスHR SaaSを立ち上げました。「Unipos」では事業開発や仮説検証に集中しました。

最初の仮説検証では自分の友人や知り合いのコネを使って集めるなど、コネクションも活用して検証しました。しかし、最初の仮説検証は失敗し、継続しないという結果になって落ち込むこともありました。それでも諦めずに事業開発を続け、なんとかサービスをローンチすることができました。

2017年の末にFringe81の子会社としてUnipos株式会社を設立し、私がその子会社の代表に就任しました。当時のキャリアとしては、事業検証から担当し、セールスも担い、マーケティングやカスタマーサポートも自分でやりました。インターンの子と二人でカスタマーサポートを行い、どちらが早く返信できるか勝負することもありました。そこから徐々に組織化し、セールスを手放して経営にシフトし、ミッションの策定や合宿などを通じて会社のカルチャーを作り上げました。

2019年から2020年にかけて、コロナ禍の影響もあり、親会社の広告事業が厳しくなったため、「Unipos」一本に集中することを決断しました。親会社の代表が「Unipos」の代表を引き継ぐことになりました。このタイミングで、私はプロダクトの管掌役員に就任し、プロダクトに集中することにしました。

2021年の1月から具体的にプロダクトに関わり始め、CSPO(Certified Scrum Product Owner)を取得したり、スクラムの研修を受けたり、RSGT(Regiojnal Scrum Gathering Tokyo)というイベントに参加したりしていました。このようにプロダクト作りのあり方をインプットしながら取り組んでいました。

── Fringe81を選ばれた理由や経緯についても教えていただけますか?

斉藤:当時、「mikan」を抜けたときに、僕は1人CTOだったんですよね。「mikan」はCEOとCTOとCOOしかいない会社で、CTOと名乗りながらも、日本で一番ハッキングしやすいアプリだとツイッターで書かれるほど、開発全般が未熟でした。個人情報など問題になるデータは扱っていませんでしたので、当時は問題なかったのですが、改めてプロダクト開発についてもっと知りたいと思ったんです。

一方で、事業開発も続けたいと考えていたので、事業開発ができる強いプロダクトを持つ会社を探していました。そんな中、Facebookで「我々が優秀なエンジニアを見極めるために聞くたった一つの質問」という記事を見かけました。興味を引かれて記事を読んでいくと、「続きは面接で」と書かれていたんです。これに挑戦しようと思い、面接に進むことにしました。

面接を通じて感じたのは、当時Fringe81には20人ほどのエンジニアがいましたが、彼ら一人一人が非常に優秀で、面白いチームだということでした。さらに、ちょうど新しい事業をどんどん開発していくタイミングでもあったため、Fringe81にジョインすることを決意しました。

── 「Unipos」はどのように生まれたのでしょうか?

斉藤:Fringe81には「発見大賞」という制度があり、良い行動をした人を社員同士で投票して表彰するという文化がありました。この表彰制度は、マネージャーやトップが決めるものとは異なり、社員同士が称賛し合うもので、このカルチャーが会社を強くしていたと思います。

さらに、Googleのピアボーナス制度も当時あり、それを組み合わせる形で、Fringe81の副社長である松島が「これをやると面白いんじゃないか」と提案しました。彼がこのアイデアを起案し、そこから事業化の可能性を探ることになりました。

私の役割は、その事業化のプロセスにおいて、実際にお客様を見つけて検証し、どういう形で事業として成立させるかを考えることでした。事業開発の担当者として任され、様々な役割をこなしながら、組織の立ち上げも行いました。そして、最終的に事業が成長し、1億円以上の売上を達成した時点で子会社化され、私が子会社の代表に選出されました。


株式会社ログラスに参画

その後、2023年5月にログラスにジョインしました。当初は社長室長という形で入社し、その後VPoPとして1年間プロダクトの管掌を行っていました。現在は、事業開発に軸足を移し、活動しています。

── ログラスを選んだ理由は何ですか?

斉藤:キャリアの連続性という観点で言えば、私は一貫して「人が報われて、やってよかったと思える世界を作りたい」という思いを持っています。その中で、ありがたいことに、様々な企業から声をかけていただきましたが、一番共感できたのがログラスでした。

ログラスのミッションである「良い景気を作ろう。」に強く共感しました。さらに、選考過程で行われたワークサンプルテストが非常に印象的でした。私のワークサンプルテストの課題は「どれだけ情報収集しても良いから5カ年戦略を作ってください」というものでした。これに取り組む中で、ログラスの事業が本当に面白いと感じ、これが成長すれば日本の経済が良くなるかもしれないと信じるようになりました。

最終的には、布川さんとレモンサワーを飲みながら話しているうちに、勢いで握手してしまいました。

ワークサンプルテストは選考プロセスとして非常に負荷が高いですが、取り組んだ人たちからは「やってよかった」と言ってもらえることが多いです。お互いにとって非常に良いプロセスだと思います。ログラスのミッションに共感し、選考過程での課題に取り組む中で解像度が上がり、自分自身の中でもこの事業が日本の経済を良くする可能性があると感じました。

──キャリアの中で苦労、折れそうなシーンについて伺ってよろしいですか。

斉藤:参考にしていただけるポイントがあるとしたら、私はこれまでに折れそうなタイミングがたくさんありました。例えば、「mikan」の時は売り上げが全然上がらなかったり、「Unipos」でも最初の仮説検証でうまくいかなかったことがありました。

最近社内でも話しているのは、事業開発をする人で一番大事なのは「折れないこと」だということです。折れそうになるタイミングが何度も来ます。例えば、受注できると思っていたのが全然受注できなかったりすることもあります。しかし、信じ切ったところで絶対に勝つんだという思いを持ち続けることが重要です。

数々の事業を立ち上げ、成長した中で培われたPMコンピテンシー

出典:https://www.ravi-mehta.com/product-manager-skills/

── 事前にご回答いただいたPMコンピテンシーのアンケート結果に基づいてご質問させていただきます。まず、自己評価に基づいて、Product Strategyの領域とInfluencing Peopleの領域に6をつけていただいています。この部分が強みと認識していますが、認識は合っていますか?

斉藤:はい、合っています。Product StrategyとInfluencing Peopleが同じくらい強いと思っています。特にProduct Strategyでは、ビジョンロードマップや戦略理解が強みです。私の考え方では、プロダクト戦略を立てる人が会社の戦略レベルも立てるべきだと思っています。

会社全体の事業戦略は、プロダクトカンパニーにおいてはプロダクト戦略とほぼイコールであるべきだと考えています。プロダクトがどのタイミングで何ができるかによって、勝ち方がすべて変わりますし、どうやって勝つか次第でプロダクト戦略も変わります。

プロダクト戦略だけを語れる人、事業戦略だけを語れる人では、どうしても限界があると思っています。私の役割は、プロダクト戦略を経てどうやって事業で勝つのかを語り、その上で経営戦略を立てることです。経営戦略、事業戦略、プロダクト戦略の三つを整理して進めています。

特に経営戦略については、この2〜3年どう進めていくのかの立案を私が行いました。戦略を理解するだけでなく、理解させる側の立場に立って進めています。

── ビジョンロードマップや経営戦略、事業戦略の策定およびそれを浸透させるところについてお伺いします。これらのスキルをどのように開発されたのか、過去のご経験も踏まえて教えていただけますか?

斉藤:まず、私は高校時代から数学が大好きで、どうやったらロジックが通るのか、美しいのかを考えることが好きでした。また、パズルも大好きで、中学高校時代には数独やカックロという複雑なパズルに夢中になり、1日3~4時間それを解いていました。こうした厳密になることや美しい世界観が好きで、自分の中での志向性になっています。

しかし、現実のビジネスでは、ロジックで戦略が綺麗にいくことは少ないです。「Unipos」や「mikan」での経験を通じて、不確実性や非合理性が多く存在することを学びました。例えば、「mikan」では「高校生に優勝したら100万円あげます」というキャンペーンが成功したことや、「Unipos」でお客様が涙を流しながら感謝してくれたことなど、非合理な要素がたくさんありました。

── もう少し具体的に、「Unipos」のような事業がどのようにして成功したのかについてお聞きしたいです。特に、非合理と合理の狭間にいる時間が長かったとのことですが、その中でどのようにして戦略を立て、成功へと導いたのか、詳しく教えていただけますか?

斉藤:「Unipos」は、いわゆるピアボーナスという仕組みを取り入れたHRサービスで、最初に立ち上げた時、多くの人がこんな事業は成功しないだろうと見ていました。それでも、お客様と真剣に向き合い、彼らのニーズを深く理解することを心掛けました。

例えば、ある50代の女性のお客様が、「Unipos」を使って自身の仕事が報われたと涙を流して感謝してくれた瞬間がありました。その時に、非合理な要素がビジネスにはたくさん存在することを実感しました。人の感情やモチベーションといった非合理な要素が、事業の成功に大きく影響するのだと気づきました。

また、「Unipos」のファイナンスが厳しかった時期にも、ステークホルダーへの説明やデューデリジェンスを行い、合理と非合理の狭間で多くの時間を過ごしました。上場後に赤字経営になった時期もあり、その中で事業をどうやって立て直すかを真剣に考えました。合理的な戦略だけではなく、情熱や信念も必要であると学びました。

まだ確立しているわけではないですが、勝てる戦略を立てるためには、合理性と非合理性の両方を皆に伝え「こうやったら勝てるんだ」と皆に信じてもらい、最後は馬力が出るかが重要だと思っています。戦略の要点は二行三行ですが、それを肉付けするのが何十ページあるかの世界観です。その戦略に対して追求し続け、失敗しても引っ張って進む経験は、他では得られ難い経験が出来たと思います。

問題に挑むことが好きで、自分が選んだ選択肢を正解にするまでこだわる癖があります。その過程で得られた経験が、今の私の強みとなっているかなと。合理的な基盤を持ちながら、現実の不確実性や非合理性にも対応できるようになりました。

── Influencing Peopleについても、「Unipos」での経験が大きかったとのことですが、具体的なエピソードを教えていただけますか?

斉藤:特に印象に残っているのは、「Unipos」が30人規模に成長した時のことです。事業化してから2年ちょっとで30人になったんですが、その間、1人も離職者がいなかったんです。もちろんその後は少しずつ離職もありましたが、当時はほぼゼロでした。

私がその時期に大事にしていたのは、大きく二つあります。一つは「みんなで目的を作る」こと。そして、もう一つは「その目的に対して自分で高頻度に語る」ことです。

具体的には、2018年3月に「すべての働く人にスポットライト」というミッションを掲げました。その時、壁一面がホワイトボードになっている会議室に全員が集まり、自分たちの考えるミッションやバリューを書いて、プレゼンするというイベントを行いました。みんなでお酒を飲みながら約150分かけてプレゼンをして、それぞれの意見を交換しました。

最終的には、みんなの意見をまとめて、私が「これだ!」と思うものを決めました。その後、そのミッションをもとにどのように事業を進めていくのかをプレゼンし、会社全体が一体感を持つようになりました。この時に感じた納得感や自分たちで作った感覚は非常に重要でした。

この成功体験は強く印象に残っています。もちろん、その後には失敗もたくさんありましたが、こうした経験を通じて、リーダーシップや経営の難しさ、面白さを学びました。

繰り返しになりますが、納得感と自分で作った感覚は、本当に重要だと思います。それがあると、チーム全体が一丸となって目標に向かって進むことができるんです。もちろん失敗もありますが、それを乗り越えることでリーダーシップが培われていきます。

── 先ほどの話の中で、合理的だけではなく非合理も重要であるとおっしゃっていましたが、そのあたりについてももう少し深くお聞かせいただけますか?

斉藤:私自身、常に抽象度の高い領域でビジョン型リーダーシップを取ってきました。

UXデザインの部分では自分が足りていないと感じていたり、プロダクト開発の具体的な部分、いわゆる「守破離」の「守」の部分で足りていないと感じることも多々ありました。そのため、ビジョンを掲げてチームを引っ張る役割を担っていましたが、具体的な開発や設計の部分では、チームのプロダクトマネージャーの方がはるかに優秀で、そこで頼りにしていました。私は方向性や大きなビジョンを示し、具体的な実行は優秀なプロダクトマネージャーたちに任せるという形でやっていました。

メンバーを巻き込むためには、合理的な側面だけでなく非合理的な側面も非常に重要だと感じています。例えば、ビジョンやミッションを共有し、共感を得る場面では、単なる理論やデータだけでなく、感情に訴える話やストーリーを交えることが効果的でした。

また、他にも重要なのは、常にチームの声を聞くことです。トップダウンだけでなく、ボトムアップの意見も大切にし、チーム全体で目標を共有することが大事です。これによって、メンバー一人一人が自分の役割を理解し、自発的に動けるようになります。

マイルールは「正解にするまでやりきること」

── プロダクトマネジメントにおいて、または働く上で大切にされている行動指針やマイルールがあれば教えていただけますか?

斉藤:正解にするまでやりきることですね。これまでのキャリアの中で、たくさんの挫折や困難に直面してきましたが、やりきることで何かしらの結果が必ず出るということを強く感じています。

例えば、英単語アプリやピアボーナスサービスも、最初は全くのゼロから始めたものでしたが、最終的にはそれぞれ数億円規模の事業に成長しました。それだけの価値を感じていただけたのは、始める時に信じるだけの理由があったからです。そして、その信じる理由があるということは、必ず求められる相手がいるということでもあります。

会社としてプロジェクトを中止することを決めた場合はそれに従いますが、辞めると決めるまでは迷わずに100%やりきるということを心がけています。

もちろん、困難に直面して弱音を吐くこともありますし、飲みに行って愚痴をこぼすこともあります。でも、それは一時的なことであり、実際に行動に移すときは全力でやりきることが大切だと思っています。

徐々に力を抜いていくことは一番避けるべきことで、やるからには全力でやり、その後は潔くやめるという考え方が、最も効果的で成果を出す働き方だと思っています。

この行動指針を守ることで、プロジェクトやタスクに対して常に全力で取り組み、最終的に成果を上げることができると信じています。

── やりきる姿勢についてお伺いしましたが、途中で「ダメかもな」と感じることはありますか?また、そのような場合、どのように対処されているのでしょうか?

斉藤:途中で「ダメかもな」と感じることはあります。でも、皆の100になっている気持ちを下げているようでは、ただの害悪です。そのようなときでも飲み会の終わりにはポジティブに戻すようにしています。社員やチームのメンバーを巻き込んで弱音で終わるのは良くないと思っています。例えば、飲み会で「これ大変だよな」と弱音を吐いても、最後には「よし、頑張ろう」と言って終わるように心がけています。

また、本当に深刻な悩みや不安は外部に相談します。内部でチームに対しては、基本的には強がりつつ、不安も正直に伝えるようにしています。「これは大変だし、難しいけどやりきるんだ」というスタンスを保ち続けることが大切だと思っています。

私は基本的にポジティブな性格で、「できると思っています」という姿勢で取り組んでいます。失敗しても、「ダメだったね」と笑いながら次に進むことが大事だと感じています。嘘をつかずに正直に、しかし前向きに取り組むことが、最終的には良い結果を生むと信じています。

── もう一点お伺いしたいのですが、プロジェクトをやめると判断する際の基準についてお聞かせください。過去の経験を照らし合わせて、どのようにその判断をされているのでしょうか?

斉藤:やめる判断は非常に難しいですが、基本的には「どれだけ考えても勝ち筋が見つからなかった時」にやめることを決断します。例えば、10回考えても勝ち筋がゼロだった場合はやめると決めますが、11対9くらいで勝ち筋が見える場合はまだ進める可能性があります。

具体的な例で言うと、弁当プラスが楽天に参入された時には、勝ち筋が見えなかったためにやめました。

また、他の領域に集中することで全体的に勝てると思える時も、やめる判断をします。例えば、私は「Unipos」の代表でありながら、Fringe81の役員でもありました。その際、広告事業をやめて「Unipos」に100%集中するという意思決定をしました。これにより、全体的な勝利に繋がると考えたからです。

このように、勝ち筋が見えない場合や他の事業に集中する方が勝ちやすいと判断した時に、やめる決断をしています。

いいチームはいい目標を設定する

── 次のご質問ですが、良いチームを作るために何か工夫されていることはありますでしょうか?

斉藤:良いチームを作るための工夫としては、「いい目標を設定する」ということに尽きます。チームは基本的に良く話し合い、良く考えて、良いものを作り上げてくれる存在ですので、その方向性が大きくずれていなければ成果は出るはずです。そして、方向性がピタッとはまっていれば大きな成果が出るはずです。

そのため、一番上段の大きな方向性に対して無駄な仕事をさせない、仕事が無駄にならないために「いい目的設定」と「いい目標設定」をすることが、僕ができる最大限の工夫だと思っています。

目的や目標が明確であれば、チームはその方向に向かって自然に動いてくれます。逆に、それが曖昧だったり不明確であると、チームはどこに向かっていいのか分からず、結果として無駄な仕事や努力が増えてしまいます。そのため、私は常に「この目標は本当に正しいのか」「この方向性でチームが動くことで最大の成果が得られるのか」を考えるようにしています。

チーム全体が一つの方向に向かって進んでいけるような仕組みを作ることが、良いチームを作るための工夫だと考えています。

質の高いモノを生み出すためにはプロダクトマニアになる

── 質の高い企画や、課題に対して筋の良い打ち手を生み出すために、何か工夫されていることはありますか?

斉藤:質の高い企画を生み出すためには、課題理解を極限まで高めることが重要です。だいたい筋の良くない企画は、「だと思うんですよね」という不確かな表現が多く含まれます。本当にその課題を理解しているのか確認すると、実際には理解が浅いことが多いです。

具体的に、「この人は普段こうやって操作して、こんなに時間を使っていて大変だ」というように、課題を詳細に理解できていれば、筋の良い企画を生み出しやすくなります。ですので、課題解像度を極限まで高めることに一番こだわっています。

最近、Sansanの西場さんと話していて、自社のプロダクトのマニアになることの重要性を再確認しました。自社のプロダクトを徹底的に理解し、顧客の課題を深く理解することで、筋の良い企画を生み出しやすくなります。これが質の高い企画を生み出すための重要なポイントだと考えています。

このようにして、顧客の課題に対して深い理解を持ち、自社のプロダクトに精通することで、質の高い企画を生み出せるよう努めています。

プロダクトのマニアになっていて、顧客の課題マニアにもなることが大事ですね。

斉藤さんからのおすすめ本

── プロダクトマネージャー向けにおすすめの本があればご紹介いただきたいのですが、いかがでしょうか?

斉藤:おすすめの本として「世界一シンプルな問題解決」という本があります。この本は、中尾隆一郎さんが書いたもので、中尾さんは元リクルートのスーモ事業をしている子会社の社長を務めていた方です。私が経営していた時に一時期指導を受けていた先生が書いている本で、非常に優れた内容です。

この本は問題と課題の違いを明確にし、どうやって課題を理解し、捉えていくかを非常によくまとめています。これはプロダクトマネージャーが顧客の中にある問題を把握し、それが課題なのかどうかを見極める際に非常に役立ちます。理想の状態と現実の問題をステップバイステップで考えていく方法が学べるので、共通言語として非常に重要な本だと思います。

また、もう一冊「欲望の見つけ方」という本も良いのですが、特に「世界一シンプルな問題解決」はお勧めです。プロダクトマネジメントに必要な考え方がしっかりと身につく本だと思います。

最後に

斉藤さんのお話はいかがでしたか?

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