国内最大級の不動産検索サービスを牽引するLIFULLのCPOから学ぶ!人々の価値観・世界観をプラスに導くプロダクト組織作りのヒント

今回は、株式会社LIFULLでLIFULL HOME’SのCPO(Chief Product officer)を務める大久保 慎さん(LinkedIn)に仕事内容やキャリア、マイルールなどを伺った。

大久保さんは、出版会社の編集者としてファーストキャリアをスタートし、その後、インターネットやマーケティングの可能性に魅了されて、未経験でSIerやコンサルティング会社でエンジニアやコンサルタントの経験を積み、LIFULLに入社後は新規事業開発やグローバル案件を含む様々なプロジェクトやプロダクトのマネジメントに従事し、現在はCPOを務めている。

コンサルティング会社では「師匠」と仰ぐベテランのコンサルタントと出会い、海外では様々な壁にぶつかりながらもミッションを遂行してきたことで、プロダクトマネジメントの幅広い領域で組織をリードする知見を養ってきた大久保さん。出版会社勤務の頃から「他者に情報を提供し、その人の価値観や世界観を変える」という思いを抱き、現在でもそのビジョンに立脚したマネジメントスタイルは、高い視座を養いたいプロダクトマネージャーには非常に読み応えのある内容となっている。

日本最大級の不動産ポータルサイトのCPO

── まずはご自身の仕事について教えてください。

大久保:日本最大級の不動産ポータルサイト、LIFULL HOME’SでCPOとして、約10個あるプロダクトの統括責任者の立場を務めています。当社は、「あらゆるLIFEを、FULLに。」というコーポレートメッセージを掲げており、不動産探しの分野で情報の非対称性やユーザー・クライアントのニーズに応じた解決策の提供をプロダクトを通じて行い、社会課題の解決に貢献していきたいと考えています。

不動産にまつわるユーザー行動全体を捉えてプロダクトビジョンの定義や課題に対応する

── それぞれのプロダクトに共通するビジョンの策定やプロダクトマネジメントの方法論について、どのような考え方を重視して取り組んでいるのでしょうか?

大久保:実は、プロダクトマネジメントを組織的に取り組むようになったのは比較的最近、約3年前からです。以前はプロダクトごとに独立して活動していたのですが、私たちが目指すべき世界観を明確にして、それに沿ったプロダクトの位置づけを行い、それに基づいて価値提供を行う体制へとシフトしました。例えば、不動産検索だけではなく、検索前のユーザーの行動や検索後の問い合わせから住み替えが完了するまでのフェーズを全体として捉え、それに応じたプロダクトの位置づけを明確にしました。

また、プロダクトマネジメントの教科書的な位置付けとして、特に「INSPIRED」や「EMPOWERED」といった書籍を重点的に参考にしています。これらの書籍に記述されているプロダクトビジョンの考え方を、デザイナーや他のチームメンバーと共に具体化し、全員が理解しやすい形で展開しています。

── 現在、どのような課題に向き合っていますか?

大久保:不動産検索の基本的な機能は過去10年から15年間、大きくは変わっていません。しかし、消費者行動とテクノロジーはこの10〜15年で大きく進化し、以前には不可能だったことが今では可能になっており、理論上実現可能なユーザー体験の幅が広がっていると認識しています。したがって、こうした潮流に乗ってテクノロジーでユーザーペインの解決策を提供し続けることが課題と捉えています。

── お話しできる範囲で具体的なエピソードがあれば教えてください。

大久保:例えば、住み替えの際にユーザーが最も心配する事項の一つに、災害情報があります。特に近年、気候変動による災害の規模が大きくなっています。LIFULL HOME’Sは、「あらゆるLIFEを、FULLに。」という使命のもと、ユーザーが知りたいと思っている情報を提供すべく、2019年の台風19号の大きな被害を受けて、社内では「これに私たちがちゃんと対応しなければ」という気運が高まりました。

これに対して、国が整備しているデータや民間企業が提供するデータを活用し、他の不動産ポータルサイトに先駆けて、当社の物件情報のなかで災害情報を提供することを始めました。これにより、ユーザーは環境変動に関連するリスクを事前に把握でき、より安心できる物件選びに寄与できたと考えています。

複数プロダクトに横断して関与し、特に各プロダクトの仕様策定に深く注力する

── プロダクトマネジメントトライアングルを基に、具体的な業務範囲を教えてください。

出典:The Product Management Triangle

大久保:私の立場はCPOとして、単一のプロダクトだけでなく、複数のプロダクトを横断的に見ています。現在、私たちは約10個のプロダクトを有しており、その各プロダクトには専門のプロダクトマネージャーがいます。社内にはプロダクトマネージャーだけでなく、サービス企画と呼ばれる職種の人たちも含めて約60〜70人、エンジニアやデザイナーを合わせると約350〜400人の規模のチームで運営しています。

業務範囲の大部分は、ユーザー体験とデザイン、データ分析に集中しています。具体的には、デザインチームと深く連携し、ユーザーにとって使いやすいプロダクトの設計を行います。データ分析に関しては、PMが深く関与しており、社内のデータアナリストやデータサイエンティストと協力しています。

── 特に注力している業務領域はどこになりますか?

プロダクトマネージャーが最も注力する領域としては、「開発者とビジネス」の領域であり、特にプロダクト仕様の策定には私やシニアPMが力を入れて取り組んでいます。プロダクトのロードマップ策定については、各プロダクトのPMが最終的な意思決定をするという方針のもと、担当シニアPMが決定したことを私が承認するというスタイルで関与しています。

── その他の部署との連携はどのように行っていますか?

大久保:ビジネス開発やマネタイズ戦略に関しては、案件に応じてプロダクトマネージャーやビジネス戦略のチームが主導しています。また、マーケティングやパートナーシップといった活動は、主にマーケティング部が担当し、プロダクトマネージャーは必要に応じてこれらの活動に関与していきます。また、顧客サポートはCS部門がメインで対応しており、エンジニアリングやプロダクトチームはそれぞれの案件に応じて支援をしています。

UXリサーチは、専門のチームがあり、デザイナーやプロダクトチームと連携して進めています。これにより、ユーザーのニーズを深く理解し、それに基づいたプロダクト設計を行っています。

── 先ほどの話で、シニアプロダクトマネージャーや各プロダクトの意思決定者が存在するとお話がありましたが、これらの方々の組織マネジメント上の位置づけについて詳しく教えていただけますか?

大久保:弊社では組織構造が1ユニットに複数の配下グループが存在する形で構成されており、通常は1ユニットで単一プロダクトを運営していて、各ユニットの組織長がプロダクトマネージャーを担うケースが多いです。ただし、複数のプロダクトが一つのユニットに属している場合は、配下グループの組織長がプロダクトマネージャーを担うこともあります。

したがって現状では、原則としてプロダクトマネージャーはユニットまたはグループの組織長が担うものとされているのですが、一部のプロジェクトではグループのメンバーにサービス企画職として権限委譲しリーダーシップをとってもらうケースも存在します。

── プロダクトマネージャーの呼称についても明確にされていますか?

大久保:はい、プロダクトマネージャーという呼称は非常に明確にしています。弊社では、プロダクトマネジメントを導入する際に、それぞれの職務に対する明確な定義と役割分担も定めており、RACIチャートなども活用しています。このようにして、各メンバーの責任範囲と役割が確認されます。

「他者に情報を提供し、その人の価値観や世界観を変える」ことを追及したキャリアパス

── これまでのキャリアについて教えてください。

出版会社の編集者としてファーストキャリアをスタート

大久保:ファーストキャリアは出版業界で編集者としてスタートしました。私は昔から「他者に情報を提供し、その人の価値観や世界観を変えること」が自分のライフワークであると自覚していました。そう思い至る背景として、幼い頃に影響を受けた「美味しんぼ」という漫画が、この考え方の基になっています。私がこの漫画と出会ったのは6才くらいの時ですが、たとえば「豊穣な深海で育った旬のアンキモの方が、フォワグラよりもおいしい」といった様々なエピソードを通じて、一般的な価値観や常識よりも、価値のあるものが世の中にはたくさんある、ということを受け取りました(当然6才の私はアンキモもフォワグラも食べたことはなかったのですが…)。その原体験から、「価値ある情報を世の中に提供していきたい」と、出版の仕事に携わりたいと思うようになりました。

出版社での仕事は、最初はやりがいを感じていましたが、恥ずかしながら当時はビジネスに対する興味がそれほど高くなかったことから、仕事に対する情熱が次第に薄れていきました。しかし、ある時、短期間の海外MBAプログラムに参加する機会があり、そこでビジネスの面白さに目覚めました。マーケティングやファイナンスを学び、ビジネスの創造的でクリエイティブな側面に一気に魅了されたのです。

ITの可能性に目を向けてエンジニアやコンサルに挑戦

その経験を経て、世の中が紙媒体からネットへの転換が進むのを目の当たりにし、IT・インターネットの可能性に目を向け、30歳までにプログラミングとマネジメントのスキルを身につけることを決意しました。そのためにSIerに転職し、プログラミングの基礎から学び始め、さまざまなプロジェクトに携わりながらスキルを磨きました。その後は中小のコンサルティング会社に転職し、技術のみならず経営やマーケティングについても学びました。

特に私の人生を変えたのは、コンサル会社にいたベテランのコンサルタントとの出会いでした。その方のマネジメントスキルや完遂力、人間性全てに私は魅了され、私はその方を師匠として慕い、いろんなことを学ばせて頂きました。

当初のビジョンに立ち返ってLIFULLへジョイン

そして30歳を迎える頃、技術やマネジメントについてある程度学んで自信がついたと感じたので、次のキャリアについて考えるようになりました。その結果、自分のファーストキャリア選択の軸であった「他者に情報を提供し、その人の価値観や世界観を変えること」という思いに立ち返り、ITでそうしたビジョンの実現を追い求めて、現在の株式会社LIFULLに転職しました。現在は、自分が持つ情報提供と価値観変革のビジョンを、日々の業務に生かしながら活動しています。

── 現在のCPOに至るまでのキャリアの変遷を教えていただけますか?

大久保:LIFULLに入社した理由は、私が追求したかった「価値観や世界観を良い方向に変える」ことを重視している企業だったからです。社長(現・会長)自らが全員の面接を行うほど、企業文化に強いこだわりを持っており、そのビジョンに惹かれて入社しました。

入社初期は新規事業開発に約3年ほど関わりましたが、社内でも前例がほとんどなく、多くの挑戦と困難に遭遇した結果、そのプロジェクトは最終的には難しいと判断され、他の事業に統合される形で終了してしまいました。その後は、Webディレクションやサービス企画に関わるチームに配属され、新規事業開発での経験を踏まえて、そこで初めてのマネジメント職に就きました。

その後のキャリアでは、再び新規事業開発部門でマネジメントを担当し、引越し見積もりサービスなど新サービスの成長に取り組んできました。また、LIFULL HOME’S全体の事業管理やKPI管理を行う部署のマネージャーも兼任し、それまで抱いていた数字への苦手意識を克服し、数字の重要性を身をもって実感しました。

また、海外での就業経験もあり、スペインのバルセロナで2年間働いたことがあります。元々、海外経験を積みたいという思いがあったので、新規事業開発と事業管理のマネージャーとしての職務をやり切った後に、海外事業を担う部署に異動しました。当初は、アジア圏で新しいビジネスを立ち上げるプロジェクトに関わりましたが、その後、スペインにあるインターネット企業のM&AのデューデリジェンスとPMI(Post Merger Integration)のフェーズにも関与し、家族とともにスペインへ渡りました。そこでは、言葉の壁や、買収される側の企業の考え方や文化に戸惑いながらも、2年間のミッションを乗り越えてきました。

帰国後は一度LIFULLを離れ、アソビュー株式会社へ転職し、スタートアップ環境の中で様々なことを学ばせて頂きました。その後、また古巣でチャレンジしてみたいという思いが募り、タイミングと縁に恵まれてLIFULLに戻ることができました。その後はLIFULLでさまざまなプロジェクト経験を経て、現在のCPOとしてのポジションに至りました。ここに至るまでの海外経験や異業種スタートアップの経験というのは、新しい視点を持ち込むのに非常に役立ち、現在の業務においてその経験を活かせていると感じます。

── LIFULLを選ばれた際、社長(現・会長)のインタビューに感銘を受けたとお聞きしましたが、具体的にどのような点が印象的でしたか?

大久保: 弊社は「常に革進することで、より多くの人々が心からの『安心』と『喜び』を得られる社会の仕組みを創る」という企業理念を掲げています。そうした創業者が抱く考え方の根底が、私の持つ価値観と非常に合致していたんです。そして、当時の社長がインタビューの中で答えていた内容全てにおいて、この企業理念や「利他主義」という社是、そして私の持つ価値観と繋がっていることが、とても印象深かったです。

コンサルや海外の経験を通じて広範囲で組織をリードできる知見を養う

出典:https://www.ravi-mehta.com/product-manager-skills/

── 続いて、大久保さんに事前にお答えいただいた12PMコンピテンシーに基づいて、これまでにどのようなスキル開発を行ってきたのかお伺いしたいと思います。あえて得意分野を挙げるとしたらどの領域でしょうか?

大久保:過去にコンサルを経験してきた経緯から、Product Strategyが強みだと思います。コンサルとして、会社の経営視点で経営層にどうやって伝えたら良いのかを実体験してきた経験を通して、他のPMよりも高い視座でコミュニケーションやレビューを実施できるようになったと自負しています。

── それ以外の領域についてはどのように培ってきたのでしょうか?

大久保:大部分のことは他社での就業や海外経験を通じて、やらざるを得ない状況に追い込まれて実践したことが多かったと思います。

Product Executionについては難易度の高いプロジェクトにマネージャーとしてアサインされたことが影響していますし、Customer Insightについては海外滞在時にプロダクトマネジメントのカルチャーに大きな影響を受けてきたことと、ここ数年で弊社もデータドリブンなカルチャーが定着して開発体制も大きく変革しようと取り組んだ中で勉強してきました。Product StrategyとInfluencing Peopleはマネージャー経験と、一部はコンサル経験によって培われたと思います。

マイルールは「良いインプットを得る」こと

── 大切にしているマイルールを教えてください。

大久保:私の行動指針の一つに「良いインプットがないと良いアウトプットはできない」というものがあります。過去の失敗経験から学んだ教訓として、アイデアというものは皆がわりと無数に思いつくもの。その多くの選択肢から限られた時間の中で最適な解決策を選ぶためには、良質なインプットを得て、それをエビデンスとして活用して良いアウトプットにつながる選択をするように意識しています。

いいチームを作るために「遊び幅をつくる」こと

── いいチームを作るために工夫されていることはありますか?

大久保:チーム作りにおいては、「チームに遊び幅を持たせる」ことを大切にしています。私はCPOとしてプロダクトの方向付けやプロダクトマネージャーの意思決定を最終的に承認する立場ではありますが、プロジェクトの具体的な遂行方法については、配下のプロダクトマネージャーやチームメンバーの方がよく知っているケースも多いため、なるべく彼らの活発なフィードバックを積極的に耳を傾け、一緒に最適なプロセスを考えることで、メンバー全員が裁量や納得感を持って取り組めるよう努めています。このやり方の方が、かけ算が効くと信じています。やはりこの考え方も過去の経験を通して最適だと思ったマネジメントスタイルだと思います。

また、私はCPOとしてプロダクトマネージャーの育成を行う立場として、書籍「EMPOWERED」に載っているプロダクトマネージャーのコーチング手法を愚直に実践しながら、プロダクト組織全体の能力開発を支援しています。

いい企画を生み出すためにコストを惜しまない

── 質の高い企画や課題に対して筋のいい打ち手を生み出すために、意識して取り組まれていることはありますか?

大久保:質の高いアウトプットを得るためには、良いインプットが必要です。そのため、情報収集にかかるコストを惜しまないという方針を持っています。時間やお金の投資に関しても、必要と判断すれば惜しまず行います。例えば、特定の専門書を読むことで解決可能な課題に直面した場合、その本を購入するコストを厭わず行動に移しますし、最近だと生成AIを社内により浸透させるために、自身でプロダクトエンジニアリングに関する社内勉強会を主催し、200名以上の社員に受講してもらいました

大久保さんからのおすすめの本

── プロダクトマネージャーにおすすめの本がありましたらご紹介お願いします!

大久保:プロダクトマネジメントに関連する本として、以下の2冊を強くお勧めします。

  • INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント
  • EMPOWERED 普通のチームが並外れた製品を生み出すプロダクトリーダーシップ

この2冊は私たちのカルチャーに非常に合っており、プロダクトマネジメントのバイブルとして非常に価値を感じています。

それと、プロダクトマネージャーでなくとも役立つ一冊として、ピーター・ドラッカーの「経営者の条件」もお勧めします。これはビジネスパーソン全般に役立つ内容で、経営者として、またはビジネスリーダーとして成果を出すために必要な思考法や行動パターンについて詳しく説明しています。この本は何年かおきに何度も読み返していて、そのたびに新たな気づきがある本です。
また、本ではないのですが「Lenny’s Podcast」というポッドキャストをよく聴いており、プロダクトマネージャーの方にはぜひ聴いて頂きたいと思っています。これはプロダクトマネジメントに関連する多くの業界リーダーが登場し、彼らの経験や知見を共有しているポッドキャストで、例えば、NetflixやTikTok、OpenAIのプロダクトリーダーなどが登場し、内容が豊富で深い洞察が得られるため、聞く価値は非常に高いです。

最後に

大久保さんのお話はいかがでしたか?

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