Product OpsとProduct Coachを担うPMから学ぶ!エンタープライズ企業を変革するヒント

今回は、Mutureでプロダクトマネージャー(以下、PM)を務める兼原佑汰さん(@yukagil)に仕事内容やキャリア、マイルールなどを伺った。

兼原さんは、ディー・エヌ・エーでエンジニアとしてキャリアをスタートし、Showcase GigでVPoPを務めた後に、現在、Muture(丸井グループとGoodpatchが立ち上げたジョイントベンチャー)でプロダクトマネージャーを務めている。

自社でプロダクトを持たないMutureのプロダクトマネージャーが、Product OpsとProduct Coachを通して、大企業特有の意思決定プロセスや組織構造を変え、プロダクトマネジメントの考え方が浸透した組織へと変革するための具体的なプロセスが語られている。

ぜひこの記事から、組織を変えていくためのヒントを学んでほしい!

この記事は100人100色のプロダクトマネージャーのリアルを知るためのインタビュー記事「PdM Voice」の連載第48回目の記事である。

Mutureで丸井グループのプロダクト支援を務める

── まずはご自身の仕事について教えてください。

兼原:私は現在、Mutureという会社で働いています。Mutureは2022年4月に設立された丸井グループとGoodpatchのジョイントベンチャーです。主に、DXと組織変革をミッションとして、丸井グループへの価値提供を行っています。私はその中でプロダクトマネージャーとして、組織変革に携わっています。一般的に認識されているようなプロダクトマネージャーとは異なり、自社のプロダクトを持っておらず、丸井グループのプロダクトに対する支援を中心に行っています。

私たちの活動は大きく二つの領域に分かれています。一つ目は、プロダクトオペレーション(Product Ops)の役割です。大企業特有の意思決定プロセスや組織構造を、プロダクトマネジメントの考え方を取り入れながら変えていく役割です。

もう一つは、プロダクトコーチ(Product Coach)としての役割で、丸井グループ内のプロダクトチームに対して、継続的な価値探索を行うためのサポートや丸井グループ内におけるプロダクトマネージャーの育成を行っています。

── 丸井グループで持っているプロダクトに対して、プロダクトビジョンの作成やロードマップの策定などの具体的なアクションも一緒に行っていますか?

兼原:はい。一緒に行っています。最初から全てを手放しで作ってねというのは難しい場合もあるため、初期段階ではティーチング(Teaching)から始め、チームがプロセスを理解し始めたらコーチング(Coaching)に移行します。メンバーが自らプロダクトを作り上げる過程を支援し、チームが自主的に動けるようになったら、アドバイジング(Advising)へと役割を変えていきます。最終的な目標は、私たちがいなくても自立して成長できるプロダクトチームを作ることです。

── プロダクト及びプロダクトチームに対してどのようなサポートを提供していますか?

兼原:プロダクトチームにはプロダクトコーチ(Product Coach)としての支援を主に提供していますが、会社全体に対しては、プロダクトオペレーション(Product Ops)の観点から横断的なサポートを行っています。

例えば、大企業で新しい機能の開発を行う際は、スタート時にスコープ、スケジュール、コストを決めて、進行の管理をしていくといった、作るものありきなプロジェクトマネジメントが中心で意思決定が行われていることが多いと思います。

プロダクトの特性にもよりますが、不確実なマーケットに対して、仮説検証のサイクルを回していくのがプロダクトマネジメントにおいて重要だと思っていますが、大企業における従来的な意思決定の方法では、仮説検証のサイクルを回すことは難しいです。そのため、まずは現状の縦割りでの組織構造や、決裁等のルールや社内規定、内部オペレーションを変えていくことからアプローチをしています。

── プロダクトコーチ(Product Coach)として現在、どの程度のプロダクトチームをサポートしていますか?

兼原:現在、具体的なプロジェクトとしてはMuture全体で4、5個ほどサポートしています。基本的には一人で一つのプロダクトチームを見ていることが多いです。

私はFinTech関連のプロダクトを担当していて、一つのプロダクトチームに対してプロダクトコーチ(Product Coach)として伴走しています。また、プロダクトオペレーションの観点からは、エポス社と丸井グループを横断して経営層と対話を重ねていきながら、ありたい姿にむけての変革をサポートしています。

組織が変化する際に生まれるギャップ

── Mutureとして丸井グループに支援を行う前後でのプロダクトチームの運営における違いについて教えてください。

兼原:Mutureとして丸井グループへの支援開始前は、大企業的なアプローチが主流で、事業部門、アプリ部門、情報システム部門、ベンダーという流れで運営されていました。アプリ部門の役割は主に事業部門からの要求にもとづいてワイヤーフレームを作成し、それを情報システム部門やベンダーに渡すことに限られていました。

この段階では、現代的なプロダクトマネジメントのアプローチは一切存在しておらず、情報の取りまとめや調整の役割が中心でした。経営層としても、プロダクトがなかなか育っていかない状態に危機感を持っており、丸井グループが掲げる知識創造企業への転換を加速するための手段として、GoodpatchとのジョイントベンチャーであるMutureを設立し、プロダクトを軸に企業を成長させるといった意志のもとでスタートしています。そのため経営層からも手厚いバックアップをもらっており、現場だけでは解決が難しい組織・制度面も含めて手をいれることが出来ています。

── Mutureとして外部から参画した際に、現場とのコンフリクトはありましたか?

兼原:アプリ部門においては、これまでやりたかったけど、できなかったといった気持ちが強くあり、一定理解はしているもののビジネス側の要求との間でビルドトラップに陥っている状況が続いていました。しかし、あるべき姿に変えるにも仮説検証をチーム主導で実行することができる決裁フローになっておらず、現状の意思決定構造のままでは難しいと考えていました。

そのため、まずはここから手をいれていったのですが、大きな括りで予算を確保した上でチームが主体となって仮説検証を回していけるようになったことで現場からは「嬉しい」といった声がありました。特に、これまでウォーターフォール的な社内資料に多くの時間をかけリリースまでのリード時間がとても長い開発しか経験していなかった環境から、ユーザーの声をたくさん聞いて、頻度高く実験を重ねることができるようになったことに対しては、大きな喜びを感じてもらえています。

一方で、変化に抵抗を感じている部門もありました。ビジネス側の視点として、これまでは要求したものを実直に対応してくれていた人たちが、突然意思を持って「そんな方法ではやれない」と反論が返ってくるようになり、決裁を通すにも時間を要してもどかしい感情もあったと思います。

また、情報システム部門側からすると、良くも悪くも縦割りで、事業を考える人、システムを考える人と別れていた頃は「工数パンパンだからその要件はできない」と言えば済んでいたところを「どうしてできないのか?」とじっくりヒアリングすることも多くなり「忙しいのに何でそんなことを聞いてくるのか?」といった反発もあったように思います。

しかし、私たちがユーザーインタビューをもとに「お客さまがこういった背景から、これが欲しいと言っているから叶えてあげたい!」と根気強くコミュニケーションを取ることで「それならやるべきだよね」「ここ調整さえすればできるよね」「それであれば私たちで企画のプライオリティをビジネス側と調整します」と徐々に理解と支持を得ることができました。

今までであれば、言われたことだけやっていた組織が、企画のプライオリティを調整するだけで、価値のあるものが生み出せる喜びを感じてもらえています。

プロダクトの課題に向き合う前に組織の課題を解く

── 兼原さんとして向き合われているFinTechのプロダクトが向き合われている課題は何でしょうか?また、その課題をどのように解決されようとしているのか教えてください。

兼原:プロダクトの課題に向き合う前段階で、現状のプロジェクト推進方法では、事前に要件、コスト、スケジュールがすべて固められ決裁が承認されてはじめてプロジェクトがスタートします。こういったウォーターフォール的なプロセスしか組めておらず、例えば、プロトタイプの作成やユーザーインタビューを行う予算を通す手間等を含めて進め辛さを感じました。

結果として「とりあえず決裁を取らないことには何もはじまらない」といった理由で盛りに盛られた企画で、ユーザーアンケートも表面的、ROIについても非常に甘い試算で決裁を取りに行っている状況だと考えています。つまり、ユーザーインサイトに基づいた情報よりも、いわゆるKKD(勘、経験、度胸)に頼った根拠のない企画となってしまい、ユーザーに向き合いたいが、決裁が壁となり本質的なユーザー課題に向き合いづらい。その積み重ねの結果として、企画を通し、計画通りにリリースすることが目的化してしまっている状況だと思っています。

この課題を解決するために、これまでの話にもあったように決裁の仕組みを変え、仮説検証のためのまとまった予算を割り当てていただきました。ただし、大企業における全社的な制度を一気に変えることは難しいので、特定のパイロットプロジェクトに限定して適用を許可してもらいました。

その結果、予算やスケジュールはある程度大きく取ることができたので、この中でユーザー理解を進め、それに対する仮説検証を重ねていきながら価値のあるものを作り直して行ける土台ができました。

プロダクトの課題検討としては、ここからやっとスタートだと思っていまして、次に向き合った課題は「ユーザーは誰であり、その人の課題はなにか?」が共通言語化できていないといった課題でした。当時の社内認識としては、「プロダクトとしては問題なく動いていて、十分に使える機能も揃っている。どこに課題があるのか?」といった状況であり、十分に理解が得られていないところからのスタートでした。

はじめに、現状理解のためのユーザーインタビューを行いました。毎週、毎週継続的にユーザーインタビューを行い、トータルで数十名ほどのインタビューを行いました。インタビューを通じて、まずは、「どういったユーザーが利用しているのか?」「ユーザーはプロダクトに対してどう思っているのか?」を定性的に見ていくとともに、並行して定量データを用いた利用者の属性や利用傾向等の分析を行いました。その定性・定量分析を合わせてペルソナを作り、作ったペルソナ毎に、「その人たちはどういう生活をしていて、どういった課題認識がされていて、どういうことを望んでいるのか?」といった顧客解像度を上げていくための分析を半年ほどかけて実施しました。

ここまででやっと現状理解ができ見えてきたユーザー層に対して「今のプロダクトは、提供価値として届けたかったものがちゃんと届いているのか?」「それとも届いてなかったのか?」といった判断ができるようになりました。

その振り分けをした上で、「変えるべきところは何か?」「もっと伸ばせるところは何か?」についてエポスカードの事業戦略と合わせて課題の再整理を行い、優先度の高いものから順番に対応を進めて行きました。

そして、それらの課題に対して「どういったソリューションであればお客さまに満足してもらえるだろうか?」を検討しソリューション仮説を作っていきます。ここについては丸井グループ内にデザイナーはいないため、MutureのUIデザイナーとUXデザイナーが連携してFigmaベースのプロトタイプを作りました。このプロトタイプを頻度高くユーザーに当てて仮説検証を回していき、おおよその絵姿で確認できることによって想定していた提供価値が正しく届けることができるか検証し、実際の開発に移ります。

次に、デリバリーのプロセスについて、今までは情報システムの子会社に丸投げの状態でしたが、そうではなく、きちんと開発パートナーとも顔を合わせて会話しながら一緒に「どう作っていくことができるか?」と、工数との見合いを含めて要件・要求を再整理するステップを踏み、あるべき姿の認識を合わせて作り上げていくプロセスに変えていきました。

こうして、ユーザー課題に向き合える状態を作り、課題を見つけるためのディスカバリーを行い、ユーザー理解のもとにソリューションを検証し続けるためのデリバリーをやっていきました。この一連の流れを一年弱ほどかけて実施しました。

現状のプロダクト課題と、その課題に対する打ち手が明確になり、ロードマップを作成しプロダクトの改善を重ねていくプランニングの目処が立ったのが現在地点といった状況です。

── 兼原さんのミッションはなんですか?FinTechプロダクトのKGIなり売上が上がることまでコミットされていますか?

兼原:現時点では、直接的な売上向上よりも利用率の向上をプロジェクトの主目標として設定しています。プロジェクトの主体者は丸井グループであり、私たちは伴走者として一緒に進めていますが、ジョイントベンチャーといった立場でもあるため、半分は中の人間として一緒に責任を持ってプロジェクトを進めています。

MutureのPMとしての視点で言えば、大企業に対して、まずはプロダクトマネジメントの考え方を理解してもらい、その土壌を作っていくことを目指しています。

これまで決裁周りの仕組みを変えていくことを中心にやってきましたが、今後は丸井グループの中に未来のプロダクトマネージャーやプロダクトチームが活躍できるようなフィールドを広げていくことで、最終的には私たちがいなくても、現在の組織の中で良いものがどんどん生まれて育っていくような環境になっていってほしいと思っています。

組織の中から良いプロダクトマネージャーが育ち、外から来たプロダクトマネージャーも活躍しやすい環境を作って作り上げていくことがMutureとしてのミッションであり、ゴールです。

プロダクトオペレーション(Product Ops)、プロダクトコーチ(Product Coach)としてスキル

── プロダクトマネジメントトライアングルを基に、具体的な業務範囲を教えてください。

出典:The Product Management Triangle

兼原:MutureのPMが持つべき役割は開発者、顧客、ビジネスの橋渡しとしてのアラインメントの仕事だと思っていますので、全てを成立させるといった意味合いで、全ての領域をやっています。

各領域での強弱で言えば、顧客、開発者が強めだと思っています。丸井グループは総合職採用で新卒からずっと社内の環境で育ってきている人たちがほとんどの会社です。そのため、右下のビジネス領域については内部人材で十分にドメイン知識を有していることもあり、私としてはブリッジとしての役割が主になります。ここの領域に対しては企画提案を行うよりは、中の方々の思考整理のお手伝いや、データでの裏付けのサポートをしています。

一方で、顧客、開発者の領域は専門人材がおらず弱い領域になってくるので、そういった意味で右下から左上にかけてグラデーションが濃くなるイメージです。

エンジニアから始まったPMキャリア

── 続いて、これまでのキャリアについて教えてください。

1社目(新卒入社):株式会社ディー・エヌ・エー

兼原:新卒で株式会社ディー・エヌ・エーに入社しました。その時代はMixi、モバゲー、FacebookなどのSNSが全盛期で、ガラケーからスマホへの移行する時代でもありました。このようなプロダクトが日常生活を大きく変えていく時代を学生として過ごしていたので、自分も何か生活を変えるようなものを作りたいという想いがありエンジニアという職種を選びました。

ディー・エヌ・エーでの役割はソフトウェアエンジニアで、日常を変えるプロダクトを作ることに根本的な興味がありました。特に私の入社年でもある2016年は、プロダクトマネージャーカンファレンスの第一回が開催された年でもあります。当時は日本でまだプロダクトマネージャーという役割自体の認知も低く、まずはものづくりの技術を身につけるところからやろうとエンジニアを選択しました。

その中で、最初に携わったプロダクトは、to C 向けの漫画アプリ「マンガボックス」でした。このチームでのものづくりは本当に楽しくて、職種を超えて全員が協力し、ユーザーが喜ぶものを作るためのアイディアを出し合い、一緒に取り組んでいく環境でした。この経験がプロダクトマインドセットの芽生えに大きな影響を与えていると今でも思います。

シニアのリードエンジニアが実際に動くプロトタイプをある日突然持ってきて「どう思う?」とプレゼンするのを見て、エンジニアならではのものづくりだと感心した記憶があります。

こういった環境で、ものづくりの考え方や、取り組み方、スタンスは非常に学べたと思っています。一方で、「技術力不足が足かせになって新しいものを作れない、理解できない」といった状況は避けたいという思いもあり、よりエンジニアリングのスキルを深めるためにグローバルプラットフォーム部門への異動を決意しました。

この部門は、国内有数の規模を誇るプラットフォームを扱っており、技術的な難易度やプレッシャーも高くとにかく大変でしたが、良い経験ができたと思っています。

その間も、プロダクトマネージャーカンファレンスは規模を拡大し続け、加えて2019年には「INSPIRED」も出版され「こういう本を読みたかったんだと!」と熱心に読んでいた記憶があります。

そんなWillを理解してくれた上司の計らいもあり、ソフトウエアエンジニアと兼任して、プロダクトマネージャーの業務を任せてもらえる機会をもらいました。この時が初のプロダクトマネージャーとしての経験でした。

2社目:株式会社Showcase Gig(ショーケースギグ)

2社目は主に小売や、飲食業界向けのB to B to C SaaSプロダクトを提供しているスタートアップの株式会社Showcase Gigに入りました。

1社目でプロダクトマネージャーをやればやるほど、もっとこの領域を深めていきたい気持ちが強まり、エンジニアのタグは捨てることにはなるけれど、プロダクトマネージャーとしてゼロから挑戦してくと決め次の会社を探しはじめました。

この時、もともとあった「日常生活を豊かにし生活変えることができるプロダクトをやりたい。」といった気持ちが非常に強くなっていました。また、当時は中国のIT成長が凄まじい時代で、ニューリテールや、OMOといったトレンドがあり「この分野、面白そうだ。これを日本でもやっていきたい。」と思い、この領域を扱っているスタートアップに1人目のプロダクトマネージャーとして飛び込んでみました。

2020年2月の入社ですが有給消化もあったので、実際に中国の深圳に行ってITが進んだ現場を見に行く予定をしていましたが、2020年2月はコロナが日本に来たタイミングでもあり、当然渡航は叶わないですし、入社直後には緊急事態宣言になり、もともと聞いていたマーケットや成長戦略に関しても、全てを白紙とせざるをえない本当に激動の日々だったと改めて思っています。

その後、プロダクトの戦略にしても、作るプロダクトにしても、コロナの動向を睨みながらデイリーレベルで方向性を変えざるを得ない状況が続き、そのときは開発チームをとても振り回してしまったのですが、それほどいろんな動きがあった年であったと記憶をしています。

そんな環境でしたが、紆余曲折ありながらも事業としては着実に成長していき、プロダクト組織としても60-70人ほどの人数まで成長しました。最終的にはVPoPとしてコロナが明ける2023年3月まで、Beforeコロナから、Afterコロナまでを走り切る形となりました。

3社目:株式会社Muture

3社目が現職であるMutureに入社しました。2社目ではエンタープライズ企業へのSaaS導入も多く行っていましたが、非常に大変だった記憶が鮮明に残っています。過度なカスタマイズ信仰があったり、一向に進まない業務整理から要件・要求定義。挙句の果てに、なぜか下請け扱いされるなど。

その当時スタートアップ界隈はすごく元気で「DXだ!SaaSだ!」と、たくさんスタートアップがあったと思いますが、一方で受け入れ側の大企業の体質はなにも変わっていない。どれだけ良いツールがあっても全然使いこなせていない状況も多く見てきました。このスピード感では日本は一生よくならないなと。それが自分の中のペインとして強く残っています。

もともと日常生活を変えるような良いものを作って、豊かな生活に変えていくことを望んでDX SaaS領域のプロダクトをつくっていたのに、実態としては使うツールこそ増えるが、使う側が全然使いこなせていない。このままだと本当に何にもならないなと思っています。それであれば、このようなプロダクトを生み出せる人材はたくさんいますし、良いプロダクトも生まれてきているので、そこはお任せして、私としては「受け入れる大企業側に入り込み、外部とのブリッジしていくこと」に注力する。そうすることで、どちらからの目線から見ても「ハッピーな状態を作れるんじゃないか?」と思いました。

これができれば「それこそ日本のDXが加速するのでないか?」という仮説が自分の中にあり、大企業の中でデジタルの変革を推進していくようなポジションを探していました。

その中で、丸井グループが強みとする小売やFinTechの領域で変革を推進する、創業から一年も経ってない会社として紹介をもらい入社したのがMutureでした。

幅広いプロダクト経験から生まれた戦略理解が強み

── 続いて、12PMコンピテンシーを用いて、兼原さんのスキルや強みについて掘り下げていきたいと思います。特に強みと感じているコンピテンシーはありますか?

兼原:プロダクトストラテジー領域の「戦略理解」が比較的得意です。

その背景としては、これまで複数社、複数プロダクトに携わりプロダクトの特性、企業規模、プロダクトフェーズなど幅広く経験してきたことが挙げられると思っています。最初に担当した漫画アプリであればフリーミアムでto C。その次がデベロッパー向けプラットフォーム。そしてB to B to C SaaSです。企業の規模で言うと、メガベンチャー、スタートアップを経験してきました。

このように様々な特性のプロダクトを中の人間として見てきたので、事業やプロダクト特性を踏まえ「この時はこういうパターンだな」と、立体的に捉えることができるようになったんだと思っています。

他の項目では、デリバリーのところで言うと、もともとエンジニアをずっとやっていて、そこからプロダクトマネージャーへシフトしていたという流れもあり、開発の肌感を持ってエンジニアと会話ができますし、開発要件を調整、管理もやりやすいと思っています。

ステークホルダーのところで言うと、もともとは得意ではありませんでしたが、1社目ではアライアンスの案件を担当し、2社目ではVPoPという立場で色々なセクションとアライメントしながら進めることを担当していました。3社目のMutureでは丸井グループには、グループ側とここに属する各事業子会社が複数あり、それぞれにお取引のある外部企業様が多数存在しています。常にステークホルダーが多い中で、それぞれが何を考えていて、どうしていきたいのか?目線を合わせるためにコミュニケーションを丁寧に取ることが求められる環境でしたので、自然と培われてきたと思ってます。

── 現在、スキル開発をしている領域はありますか?

兼原:はい。スキル開発に意識的に力を入れているところで言えば、UXデザイン、VoCあたりです。今までは、ずっとUXデザイナーがそばにいる環境でプロダクトマネジメントをしてきたので、この領域を自分一人で担当するシーンがありませんでした。余談ですが、今年からは学校に通ってUXデザインの勉強を一回やり直そうと思っています。そういった意味でも、まだまだ自分としては独り立ちできている感覚は弱いと思っています。

全体視点を持って限定合理性に向き合う

── 大切にしているマイルールを教えてください。

兼原:今の環境だからこそ出てくる言葉だと思いますが、全体視点を持って限定合理性に向き合うということを大切にしています。

この考え方はシステムコーチングが由来ですが、

「誰もが正しい。ただし全体から見ると一部だけ正しい」

といった言葉で、一人一人の個人としては特別意識して他と違う行動をとりたいわけではなく、見えてる範囲における意思決定として、その行動をとってしまっている結果があるだけ。と言った解釈です。

組織が縦割りで職種ごとの溝ができてしまうケースがあると思いますが、それは特定の個人の問題ではなく、仕組み(システム)のエラーでしかない。といった視点を持つ必要があります。

進めていきたい方向に方向修正するために「どのように今のシステムが存在していて、このシステムをどのように働かすことで、あるべき姿に向かうことができるのか?」と考えると、人と課題を分離して理解することができるので「全体視点をもって限定合理性に向き合うこと」を大切にしていています。

客観的な立場にいる私たちだからこそ、この「限定合理性の罠」に気づくことができるので、「全体でやりたい事業としてはこういう方向性があります。その時に皆さんがこの視点で動かれていると思いますが、こうシステムを変えていくことで、より良い全体最適な姿ができますよね。」とファシリテートすることで、チームのビジョンに近づけていけると思っています。

大企業病とか、JTC(伝統的な日本企業)とか言われることもありますが、あくまで今としては最善ではない部分が存在してきたというだけであって、これらの企業は今もなお日本の社会を支えている基盤となっています。

現在のやり方には効率的ではない部分はあるかもしれないですが、あくまでそれは「限定合理性の罠」にはまっているだけであって、新しい全体最適を持って組み替えてあげれば、またちゃんと新しい「あるべき姿」に成長していける。といった認識を持つことが大事だと思い、マイルールにしています。

── 非常に達観された考え方だと感じましたが、どのように学ばれましたか?

兼原:これは、私のマイルールでもありますが、Muture全体でも共通認識として大切にしている言葉でもあります。

もちろん私も人間なので、嫌なことがあったり、イラつくこともありますが、組織の中で、みんなで話していくことによって「それはあくまで限定合理性の話であって全体視点に立った時には、こう変えていった方がいい」と、一歩引いて考えることがセーフティーゾーンとして機能していて、それを会社の中で共通の認識として持っているからこそ、ブレない考えになっていると感じています。

組織変革のヒント

── 第三者の力を借りず、社内の当事者だけで変革を起こすことは可能だと思われますか?

兼原:できると思っています。今までのやり方でいうと「上意下達」で、上司が考えたことを部下が実行するといった関係性が当たり前になっていると思います。このいわゆるコマンド&コントロールの状態を緩めてあげることを支援の中では重点的にやっています。

マネジメントレイヤーに対して「今まで引っ張ってたリードを少し離してみませんか?」とコミュニケーションを取り実際に緩めてみると、徐々にメンバーが主体性を取り戻し創発的な環境が作られていくと感じています。加えて、冒頭でお話したインタビューなどユーザーの声を聞き一次情報に触れてもらうことも重要です。同じ情報であっても実際の声を聞くことによって、メンバーみんなが今までは上司の頭の中を探るような状態だったのが、一次情報としてユーザーの声を聞いているので、メンバーたちも自信を持って「これってこういうことだよね」と手触り感のある議論へと変わっていくことが実際に支援先のチームで起こっていると思います。

こういった変化において「外部の専門人材はいらないのか?」というと、そこまでは言い切れませんが、ただ、従来的な決められた作業をやるだけの組織ではなくて、1次情報を獲得しチームメンバー全員が創発的に考えていけるチームを作り上げていくということは、当事者だけでも間違いなく可能であると思っています。

── 組織や人の考えを変えるために、工夫されている点はありますか?

兼原:人も組織も数ヶ月で変わるものでもないと思っています。半年、一年はかかる前提にはなりますが、先ほどお話した創発的な環境を作ると、変革を生み出してくれるような人が1人、2人現れてきます。

これは、どこのプロジェクトでも共通していまして、必ずそういった意志のある人が生まれるのを見てきています。私たちは、いかにその意思のある人を「あなたの考えていることは正しいですよ」と、応援していけるかだと思っています。

YouTubeで調べると出てきますが、「2人目に踊る人」といった考え方があります。

広場で1人の男性が「よくわからない踊り」をしています。それを周りの人たちは引いた目で見ていましたが、2人目が踊りだすと、周りのみんなが寄ってきて、最後には全体で踊り出す現象です。

私たちは、この現象で言う「2人目に踊る人」を作ることに力を入れています。それは、私たちでもいいですし、中のメンバーでもいいと思っています。ですので、とにかく1人目の変化の起点となる人が生まれるまで待って、変化の兆しを掴むしかないのですが、小さな変化が出てきたら、そこを全力で盛り立てていきます。

例えば、Mutureではメディアを持っていますので、ポッドキャストやnoteなどで、支援先メンバーのインタビューを載せています。また、丸井グループ内の社内メディアもあるので、持ち込み企画として載せてもらうこともあります。とにかく変化の起点となる人ががやっていることは「すごく良いことで、新しい取り組みだ!」と、応援し続けて、「私もやりたい!」、「頑張ってみよう!」と、感化された「2人目」に対しても全力で盛り立てていくと、チーム全体がオセロのように一気に変わっていきます。

支援における適切な距離感

── いいチームを作るために工夫されていることはありますか?

兼原:支援者という立ち位置でいいチームを作るためには、先ほど話をした「ティーチング(Teaching)、コーチング(Coaching)、アドバイジング(Advising)」の適切な使い分けが大切だと思っています。牽引していく時もあれば、伴走していく時もあり、そばで見ているだけの時もある。この距離感を使い分ける必要があると思っています。

有名ですが私の好きな言葉で、

「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、褒めてやらねば人は動かじ」

といった言葉がありますが、本当にその通りだと思っていて、背中を見せる時は見せますし、逆に転びそうになっている時でも大怪我しないのであれば転ばせてしまう時も含めて、きちんと見守っていく。ただ心配だからと言ってコマンド&コントロールのように手綱を強く持つとメンバーの自立性が損なわれるため、手綱は絶対に持たない状態で、あくまで自由な環境を守り、楽しんでもらえるような支援を心がけています。

二つの役割が生み出す成果

── 質の高い企画や課題に対して、筋のいい打ち手を生み出すために、意識して取り組まれていることはありますか?

兼原:プロダクトオペレーション(Product Ops)とプロダクトコーチ(Product Coach)の二つの顔を持っているとお話しましたが、この二つの役割を両方とも持っていることが課題を見つけるポイントになっていると思っています。

プロダクトコーチ(Product Coach)として、現場チームに伴走していくことで現場に対する解像度は高くなりますし、その高い解像度でプロダクトオペレーション(Product Ops)として、会社のオペレーションを改善をしていくことでプロダクトチームがより活躍できる環境を作っていく好循環を生み出していると感じています。

この役割を分けないからこそ説得力のある方針が打ち出せ、あるべきオペレーションの姿に変えていく活動に注力できています。

こういった関わり方は他ではないと思っています。伴走型のコンサルであれば、新規事業の立ち上げメンバーとして内部に入る事例はあるとは思いますが、私たちのように実行の主体はあくまで丸井グループで、私たちはあくまで伴走者としてチーム/プロダクトを支援し、ここから得られた課題を元に組織デザインを行う取り組みをしている会社は恐らくないと思っています。この挑戦はジョイントベンチャーという信頼関係があるからこそできていると思っています。

兼原さんからのおすすめの本

── プロダクトマネージャーにおすすめの本がありましたらご紹介お願いします!

兼原:おすすめの本を3冊紹介します。

1冊目は、「ビルドトラップ」です。

単純に私が何度も読み返してる本です。私がアソシエイトだった時は、正直あまり学びを得られなかった記憶が残っていますが、その後、ミドル、シニア、VPoPとやることが変わる度に読み返すと、なぜか味わいが変わり深みが生まれます。未だに学びが新たに生まれてくると思っているおすすめの本です。

2冊目は、「ユーザー中心組織論」です。

「新しいチームメンバーと一緒に読む」といった視点で選んだ本です。チームで動くにあたって大事なエッセンスがギュッと詰まってる本だと思ってます。少しエモい感じで読みやすいので、チームのみんなで読んで共通認識を形成していくようなシーンにおすすめな本です。

3冊目は、「「枯れた技術の水平思考」とは何か? 」です。

絶版本ではありますが、DXの文脈で選んだ本です。

DXやAIなどのバズワードに目が向きがちな今だからこそ、基本に立ち返り実態に即した問題解決に向き合う重要性を説いている本です。

最後に

兼原さんのお話はいかがでしたか?

感想や得られた気付き、気になったフレーズがありましたら、「#PMノート」を付けてツイートしてみてください!

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