今回は、カオナビでプロダクトマネージャーを務める大倉 悠輝(@eternalshining)さんに仕事内容やキャリア、マイルールなどを伺った。
大倉さんは、日テレのIT系子会社と北海道のスタートアップを経験し、カオナビへ入社された。
大きな組織でのプロジェクトマネジメントの実践と、研修やコミュニティでの学習を通じたスクラムの実践によってデリバリーのスキルを磨いた。また、Hulu買収後のローカライズPJTの中で、Huluの元プロダクトマネージャーと出会い、プロダクトマネジメントを知ったことがターニングポイントになっている。
ぜひこの記事から、メンバーの主体性を引き出し、生産性の高いチームを作るヒントを学んでほしい!
この記事は100人100色のプロダクトマネージャーのリアルを知るためのインタビュー記事「PdM Voice」の連載第44回目の記事である。
目次
カオナビでシステム連携プロダクトのPM
── まずはご自身の仕事について教えてください。
大倉:はい、私は株式会社カオナビでプロダクトマネージャーをしています。
カオナビはHRテック企業で、タレントマネジメントの機能を提供しています。カオナビに含まれるさまざまな機能の中でも、私はシステム連携のプロダクトを担当しています。
最近では、社会保険や年末調整に関わる労務に関わるツールと連携する作業に取り組んでいます。オフィスステーションとのシームレスな連携を構築したり、パトスロゴス社との連携を行っています。今後も人事系ツールとの連携を拡大していく予定です。
日テレのIT系子会社と北海道のスタートアップを経験し、カオナビへ
── 続いて、これまでのキャリアについて教えてください。
大倉:
1社目(新卒入社):日本テレビのIT系子会社
大学では理学部物理学科を専攻しており、最初はコンピューター系とは全く無関係でした。卒業後はテレビ局の技術部門に興味を持ち、特に音声や番組制作の仕事に就きたいと考えていました。複数のテレビ局を受けましたが、就職活動中にITの話題に触れ、テレビとインターネットの融合に興味を持ち始めました。
その結果、日本テレビのIT系子会社である株式会社フォアキャスト・コミュニケーションズ(現・株式会社日テレWands)に入社し、ITの基本から学び始めました。
Linuxコマンドが少しだけわかる程度の初心者でしたが、インフラエンジニアとしての基礎を学び、ウェブサーバーやアプリケーションサーバーの保守やCGIのプログラムを書く仕事をしていました。
その後、色んな人と関わって物事を進めることが得意だということが見えてきて、徐々にSEのような仕事が増え、ニュースサイトをはじめとした動画配信サイトに関するプロジェクトマネジメントを行うようになりました。
2社目:北海道のスタートアップ企業
3.11東日本大震災をきっかけにエンターテインメント業界に対する考え方が変わり、より社会貢献に寄与できる仕事を求めて、家族全員で移住して北海道のスタートアップ企業に転職しました。
ここでは、安全なお米や野菜を扱う事業に携わり、ウェブ制作や商品企画など多岐にわたる業務を経験しました。
大きな会社では得られなかったお客様のフィードバックや広告運用・商品企画・運用などを全部やる経験が得られて、全部門が経営や事業の意識を持って働くことの大切さを実感しました。
3社目:日本テレビのIT系子会社
スタートアップでの経験を活かして東京で働くために、次の職場を探し始めた時に、フォアキャスト・コミュニケーションズの上司にお声がけいただいたこともあり、戻ることになりました。
TVerの前身にあたるサービスの立ち上げプロジェクトに関わることになり、長らくその仕事をしていました。
その後、Huluの買収後にローカライズするプロジェクトにも携わることになりました。
体制は、ビジネスオーナーとして日本テレビ社員、開発のプロジェクトマネージャーとして私、売却元企業であり運用部隊としてHuluの社員という形でしたが、どうも物事が上手くいかない状況がありました。
その時に、Huluの方が、プロダクトマネージャーの役割がいないことが問題であるということを教えてくれて、そこでプロダクトマネジメントを知りました。(この時点までプロダクトマネージャーを認識できていなかったのですが、この方はHuluが日本でサービスを開始してからのプロダクトマネージャーでした。)
それからコミュニティに参加したりポッドキャストを聞くなどして学び、自分の考え方をスイッチして、オーナーシップを持ちづらい開発ではあるものの、プロダクトマネージャーとしてのスタンスに変わりました。
具体的には、ビジネスオーナーの意見を調整していい感じの落とし所に落とすのではなく、ユーザーのことを考えて、スタンスを取って推進し、必要なコンフリクトを起こすことを実施するようになりました。
プロジェクトもひと段落したタイミングで、自身のキャリアを考えた時に、プロダクトマネージャーとしての価値を出せるところがないかと転職を考えるようになりました。
4社目:株式会社カオナビ
エンジニア組織のマネージャーをやっていた経験も活かせるのではと考え、HRテック分野に興味を持ち、カオナビに転職しました。
入社後は、SmartHR社とのシステム連携のプロジェクトを担当し、社内へのスクラム開発の導入を推進しました。
その後、アライアンス施策が増えてきた背景もあり、APIのリニューアルを提案してシステム連携のプロダクトマネージャーを担うようになりました。
PMはオーケストラの指揮者であるべき
── 所属組織におけるPMのミッションは何でしょうか?
大倉:プロダクトマネージャーはオーケストラの指揮者のような存在であるべきだと考えています。
つまり、すべてを自分で行うのではなく、チームの調和を保ち、適切な方向へ導く役割が重要です。指揮者は楽器を演奏しませんが、それぞれの専門家を理解し、適切なフィードバックを提供する必要があります。理想的なプロダクトマネージャーは、全体的なスキルを持ち、チーム全体が調和して機能する状態を作り出すことです。
なお、弊社においては、現在、ロール名としてプロダクトマネージャーは存在せず、ディレクターが該当します。
その理由は、過去に既存のディレクター職種の定義と区別する形で、プロダクトマネージャーを定義したのですが、ミニCEO(幅広い領域をこなすスーパーマンを意味する)のような役割期待となっているため、ギャップが生じている状態なためです。
得意な領域は、生産性の高いチーム作り
── PMとして得意な領域について教えてください。
大倉:私の強みは、チーム作りだと思います。
過去の経験から、チームの雰囲気や進捗の透明性を改善し、生産性を向上させることが得意です。
一緒に働いているエンジニアとも良好な関係を築けています。
先日、約4年間一緒に働いているエンジニアとの会話で、私がデータ分析にあまり手が回せておらず課題に思っているという話をすると、ダッシュボードを作成するとか、データエンジニアリングのところに興味があるので、要求だけもらえれば前に進めるので言ってください、と伝えてくれました。
当初は「とにかくGoが書きたい」という志向性だったのですが、プロダクト思考に成長してくれて、非常に頼もしかったです。
── プロダクトマネジメントトライアングルを元に、具体的な業務範囲を教えてください。
大倉:当社のプロダクトマネージャーは、特に技術寄りで右上の領域を担うことが多いのですが、私は現在担当しているシステム連携プロダクトの特性上、右下のビジネスに寄ってきている状況です。
プロダクトの仕様に関する議論は抽象度が上がっており、アライアンスを推進する部門などとの社内調整が増えています。プロジェクトマネジメントの比重は減少し、営業資料の作成やウェブサイトの掲載内容に関わる仕事が増えています。
最近、これらの領域をプロダクトマーケティングマネージャー(PMM)の仕事として定義し始めていて、PMMがマーケティング領域に関与し、ウェブサイトの更新や新製品の情報提供などを行っています。また、パートナーとの連携では、プロダクトの特性を説明し、提案する役割を担っています。
PMMを定義することで、今まで通りプロダクトマネージャーが右上の領域に集中できるようになることを意図しています。
なお、デザインはデザイナーに任せており、データ分析は現在十分に活用されていませんが、今期の目標はデータ分析を活用することや、カスタマーサクセスとの連携を強化することです。
PjMとスクラムマスター経験で培ったデリバリーのスキル
── 続いて、12PMコンピテンシーを用いて、大倉さんのスキルや強みについて掘り下げていきたいと思います。このフレームワークに基づいて大倉さんには事前に自己評価いただいたところ、要件定義やデリバリーが最も高い結果となりましたが、強みはこのあたりでしょうか?
大倉:そうですね。
以前は大きな会社でプロジェクトマネジメントを行っていたので、とにかくリリースするという点では自信があります。
また、スクラムアライアンス認定スクラムマスター研修でスクラムを学び、コミュニティを通じて様々な企業で働く方々との意見交換を行い、実務でチームを引っ張ってきた経験があります。
さらに、技術が好きなので、エンジニアとの会話を行う上で技術に関する話が分かるということは強みだと思います。
新しい技術のキャッチアップやプロダクト開発で使っている言語(過去に、LaravelやRuby on Rails、Vue.jsなど)を実際に自分でも触ってみるなどするようにしています。
Google Apps Scriptもよく触っています。
── 目標管理やリーダーシップのスキルについては、どのように開発されましたか?
大倉:マネージャーの経験があるので、目標管理の制度運用によって、目標を立てて前に進めて振り返るといったことは実践しており、上手く活用できている感覚がありました。
また、スクラムでのサーバントリーダーとしての振る舞いも役立っており、こっち行くぞと先導するアプローチだけでなく、1on1を通したコーチング的に問題に寄り添いながら解決策を一緒に模索したり、内省を促すようなコミュニケーションも行っています。
── 現在もマネジメント職に就いていますか?
大倉:いいえ、最近マネージャーを辞め、専門職に移りました。目的は、部門に閉じたミッションではなく、全社最適なことに取り組むためです。
現在はリードプロダクトマネージャーとして、横断的な支援を行っています。社内ラジオを通じて、プロダクト開発の現場メンバーの本音や課題、普段なかなか伝えられない周囲の部署への感謝などについて発信を行っています。
課題は、独自性の追求と競合追従による同質化のバランス
── 現在、向き合っているプロダクト課題は何ですか?また、どのように解決しようとされていますか?
大倉:カオナビ全体の課題としては、競合が増えてきている中での独自性の確保が難しい点です。
また、競合が新機能を追加していくことで、追従することでの同質化は避けられないため、これらのバランスを取るのが非常に難しいです。
加えて、タレントマネジメント領域において、先陣を切ってきた分、技術負債が大きくなっていることも課題です。
競合サービスなどにおいてはマルチプロダクト戦略で多機能を売りにしているところもありますが、私たちはタレントマネジメントにおける汎用性の高いツールとして提供しており、周辺業務は他の専門家に任せ、シームレスな連携により業務の効率化を図っていきたいと考えています。
マイルールは、内発的動機付けとディズニーフィロソフィーSCSE
── 大切にしているマイルールを教えてください。
大倉:私が最も大切にしているのは、内発的動機付けです。人を動かす際、目標設定や評価制度を用いる以上に、自発的なやる気を引き出すことに重点を置いています。
たまに目標に組み込むだけ人は動くとおっしゃる方がいらっしゃるのですが、私はあんまり頭に浮かばないです。
また、チーム作りにおいては、以前のディズニーフィロソフィのSCSEを取り入れています。これは「Safety(安全)」、「Courtesy(礼儀正しさ)」、「Show(ショー)」、「Efficiency(効率)」の順で、この順序に沿った判断基準で、現場の判断で行動していきましょうというルールです。
まずはキャストとゲストの安心・安全が最優先で、それが確保できたら相手の目線に立って丁寧に振る舞いましょう。それができてから、やっと私達が届けたいもの(ショー)を届けましょう。最後に効率を考えましょう。ということです。
3.11の時に、アルバイトスタッフが、このフィロソフィーによって、本来キャストしか入れないエリアにゲストを連れていき、備蓄していた食料を提供して安全を守る判断をした、というエピソードがあります。
なお、これらはどちらもチームメンバーの主体的な行動を引き出すことに繋がります。
いいチームの秘訣は、自発的なワーキングアグリーメントの作成
── いいチームを作るために工夫されていることはありますか?
大倉:スラムマスター研修で教わったことではあるのですが、私はワーキングアグリーメントの作成を重視しています。
意思決定や変更のルールを明確にし、チームメンバーが自主的に参加しやすい環境を作ることに努めています。
ただし、ワーキングアグリーメントを強制的に作らせるのではなく、スクラムのプロセスの中で自然な形で話題に出るように誘導し、ワーキングアグリーメントが自然と作られるようにします。
定期的にこれを見直し、必要に応じて変更するべきだと思いますが、それも「作りっぱなしになりがちだよね。」と言ったりして、会話を促して、決めたことをルールに書くようにアドバイスするようにしています。
また、チームとしての目指す方向性や行動指針については、キックオフミーティングで詳しく説明し、メンバーに共感してもらえるようにしています。
具体的には、私たちはこういうプロダクトのために集まっているという話をして、どういうチームでやりたいか(ここで前述のSCSEの話をする)、スクラム開発でやっていこうなどと伝えます。
いい企画のコツは、突拍子もないことをやらない
── 質の高い企画や課題に対して筋のいい打ち手を生み出すために、意識して取り組まれていることはありますか?
大倉:突拍子もないことをやらない、ということは以前から心掛けています。
以前、チームラボという会社と一緒に仕事をした際に学んだのは、彼らが表面上はアート的でキャッチーな印象を与えるものの、実際には非常に堅実で丁寧な仕事をするということでした。その経験から、現実的で実用的なアプローチが最終的には良い結果を生むということを学びました。突飛なアイデアよりも、実現可能で現実に根ざしたアプローチを重視しています。
大倉さんからのおすすめの本
── プロダクトマネージャーにおすすめの本がありましたらご紹介お願いします!
大倉:少し前の本ですが、「カイゼン・ジャーニー」はおすすめです。
この本は、組織、そしてプロダクトが成長するために、まず自分自身がどう成長するかを学ぶために、非常に良い本だと思います。
最後に
大倉さんのお話はいかがでしたか?
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