今回は、ディップ株式会社の新規事業部門で社内DX部署の責任者 兼 PdMである亀田 重幸さん(@kamechi72)にお話を伺いました。
亀田さんは、ディップに入社しエンジニアとしてキャリアをスタートされた後に、ディレクター、新規事業を担当してプロダクトマネージャーとしてのスキルを身に付けてこられました。
歴代のCRMの利用が苦戦を続けてきた中、3ヶ月間営業拠点に通い続けてインタビューやプロトタイプでの壁打ちを繰り返しながら、社内のほとんど(約99%)の営業マンが利用するCRMを作り上げられたエピソードは一読の価値ありです。
また、亀田さんが責任者を務める組織でのPdMに求めるミッションやスキルについても語っていただいており、個人のキャリアを考える上で参考になりますので、ぜひご覧ください!
この記事は100人100色のプロダクトマネージャーのリアルを知るためのインタビュー記事「PdM Voice」の連載第12回目の記事です。
目次
社内DX部署の責任者 兼 PdM
Q. まずはご自身の仕事について教えてください。
新規事業とロボティクスの活用を担う部署の責任者をしています。
ロボティクスの部署は社内のバックグラウンドのアプリやシステム開発を行っており、今風に言うと社内DXをやる部署となります。
営業支援のSFAとCRMを自社で作っていて、そのプロダクトマネージャーをしています。「レコリン」と言うCRMは社内のほとんどの営業マンが利用している状態まで浸透させることができました。
この部署の責任者になる前は自分でも新規事業をつくっていましたが、現在はアドバイザーとしてメンバーの新規事業づくりを支援しています。
亀田さんのプロフィールURL
http://kamechi.mystrikingly.com/
【ミッション】UXを意識してプロダクトを作る / ユーザーになりきる / 機能から考えない
Q. 今の会社でのPdMのミッションを教えてください。
僕の部署に所属しているPdMには「UXを意識してプロダクトを作ろう」と言っています。
ユーザーが使いやすいもの、欲しいと思うもの以外は作ってもしょうがないということです。PdMのミッションであり、プロダクトを作る上でのルールです。
また、「ちゃんとユーザーになりきる」ことは強く求めています。
ユーザーになりきれなければ、使いやすいUXには絶対にたどり着けません。
そのためにも、「絶対インタビューをする」「機能から考えない」とずっと口うるさく言っています。
エンジニア出身に多いのですが、こういう機能を作りたいが先行してしまうことがありますが、「本当に必要なんだっけ?本当にそれがなくて困っているんだっけ?」とよく言っています。
Q. KGI/KPIなどの数値面はあまり重視されていないのでしょうか?
ロールによって違いますが、メンバーはUXをいかに最大化できるかにフォーカスしてもらっています。マネージャーにはUXはもちろんですが、利用率などの数字を上げることも求めています。
Q. メンバーが「機能から考えない」ようにするために活用されている手法はありますか?
手法としては、「ジャーニーマップ」はよく活用しています。
その業務なり作業のシーンを捉えて、その裏で動いている感情を探ることを徹底しています。
また、「バリュージャーニー」でユーザーが嬉しいと思う価値の特定や、ユーザーが抱えているペインがあってそれに対する解決策が正しく合っているか、機能先行になってしまわないように正しく照らし合わせるためのフィルターを通して、ちゃんと自分のアイディアがユーザーに使ってもらえるものかどうかをチェックするための判断材料に使うようにしています。
Q. 「ユーザーになりきる」ために、ペルソナを作ってユーザー調査をしたり、ドッグフーディング的にプロダクトを使い込んだりアプローチは様々あるかと思いますが、重視されているポイントはありますか?
実際にその業務をやって理解することを重視しています。
実際にできない場合でも、その業務を自分で調べて知ることなど、やっている人と同じ目線に立つことが大事です。
Q. 先ほど営業管理系のプロダクトのお話がありましたが、どこまで実際に業務を行うことをされているのでしょうか?
今は組織が大きくなってさすがにそこまではできませんが、昔は一緒にテレアポをしたりしました。営業同行をしたり、営業マンのいるオフィスに行って1日一緒に張り付いて業務を見させてもらったりしています。
僕が「レコリン」というCRMを作った時は、3ヶ月間、神田のオフィスにずっと通い続け、インタビューをしながら業務を聞いて、そこでプロトタイプを絵で書いて見せてと壁打ちを繰り返していました。
【業務】複数のプロダクトを管掌し、結果的に全領域が守備範囲
Q. プロダクトマネジメントトライアングルを元に、具体的な業務範囲を教えてください。
基本的に全て担当していますが、僕自身が重点を置いているところは「顧客」と「ビジネス」を繋ぐ領域のBizDevです。
メンバーが担当する新規事業企画のレビューやアドバイスをしながら、一緒に新規事業づくりをしています。
組織として複数のプロダクトを管掌していますが、プロダクトによっては開発上がりではないPdMもいるので開発のサポートをしていたり、プロジェクトの内容や体制次第でサポートの仕方を変えており、結果的に幅広く全ての領域をやっています。
過去にメンバーとして新規事業を担当していた時は全ての領域をほとんど1人でやっていました。
Q. 過去の新規事業を担当されていた時のお話を詳しく聞かせてください。
当時、mixiさんが運営されている「みてね」のような子供の写真を共有するサービスを作っていたのですが、1人でプロダクトオーナーとして外部ベンダーさんに協力してもらいながらやっていました。
事業計画はもちろん僕が作成し、開発領域ではアーキテクチャの設計までは自分でやりながらコーディングはベンダーさんにお任せしたり、デザイン領域ではワイヤーを書いてどういう仕様にするかの決定などUXデザインは自分で行いながら、UIデザインはデザイナーに入ってもらってやっていました。
Q. プロジェクトマネジメント領域はどうですか?
過去10年くらい振り返っても、プロジェクトマネジメントは常にやっています。
企画出身の育成中PdMの中には、開発ロードマップの作成までを行い開発の進行管理などのプロジェクトマネジメントまでは手が回らないメンバーもいますが、まずはUXデザインのスキル向上を優先させています。しかし、理想としてはUXデザインも開発のプロジェクトマネジメントもどちらも求めています。
Q. 亀田さんの組織に所属するPdMに求めるスキルとしては、UXデザインも開発のプロジェクトマネジメント、仕様策定も含めてできることになりますでしょうか?
PMのスキルとUXデザイナーのスキル、ディレクターのスキルを合わせ持った人材を求めています。
無茶を言っているのは分かっていますが、僕の2番目、3番目、4番目・・・をたくさん生み出すということが自分のミッションだと思っています。
出身の歩み方はエンジニアでも営業でもなんでもいいと思うのですが、いきなり全てはできないので、1つの軸足を持ちながら2つ、3つとスキルを増やしていけると良いと思っています。
理想のPdM像としては、次のようなスキルセットです。
- スケジュールを引いて、リソース調達や実施計画書が作成できる
- 使いたいユーザーのペルソナを設定してジャーニーマップを描き、どういう使いたい体験を設計するかUXデザインを行うことができる
- ワイヤーフレームに落として、どういう機能が必要か定義することができる
- 必要に応じて、アーキテクチャまで踏み込んで、こういう機能をこの人に提供したいからこういうシステムを作りたいということまで落とすことができる
【実績】苦戦していたCRMを改善、社内のCRM利用率を99%に
Q. プロダクトマネージャーとしての自慢できる実績はありますか?
「レコリン」の話になりますが、世の中でこんなにもCRMが失敗している中、約1,500人の営業マンが利用してくれていて、利用率が99%くらいまで浸透しています。はじめは1人のユーザーから始まって「使いやすい」と言ってもらい全社に拡大するまでに至ったことは自慢できる実績です。
Q. 現在の利用率に至るまでにどんな苦労や課題などがありましたか?
「レコリン」は社内のCRMの7代目なのですが、歴代のCRMは営業現場からすると上から使わされるが使えないものというイメージが強くありました。
そのため、7代目として今回つくるものは「現場で使いやすいものであること」が絶対条件でした。
しかし、使いやすいものをつくったとしても、古くからいる営業マンの中には歴代のCRMのイメージが根強く残っていて「使いやすい」という声が上がってもなかなか使ってくれない人たちがいました。
そのため、過去のCRMの利用促進ではトップダウンのみで失敗してきていることは分かっていたので、営業組織のトップも押さえに行って上からと下からのサンドイッチ構造にして浸透させる戦略を取りました。
まずは下から特定の営業マン、特定の部署で利用してもらい「この部で利用したらめちゃくちゃ良かったんですよ」という実績として先に作っておき、その後上からトップダウンで落としてもらいました。
Q. ボトムアップではどのようなステップで広げていったのでしょうか?
まずはプロダクトをつくる際に3ヶ月間通っていた神田オフィスで、1人に使いやすいと言ってもらった後に、課(3人)→部署(5人)→営業所全体(15人)に広げていき、「なんかいい感じに使えたね」「楽になったね」という利用者の声をもらい実績を作りました。
それから営業トップの本部長に神田オフィスでの実績を持っていき、立川・新橋の3部署に広げて利用することになり、上手くいったため、首都圏→中日本→西日本へと広げていき全国で利用するまでに至りました。
Q. 歴代のCRMで全国で利用されたものはなかったのでしょうか?
強制的に「ツールあるから使ってね」という落とし方だったので、ごく一部の使わないといけない機能だけ使われて、他はExcelを使い続けているという状態でした。
【キャリア】エンジニア→ディレクター→新規事業担当と自らキャリアを切り開く
Q. どのようなキャリアパスでPdMになったのでしょうか?
元々、新規事業や新しいサービスを作りたくて新卒でディップに入社しました。
まずはITの知識を学びたかったのでエンジニアからキャリアをスタートし、プログラマーやインフラエンジニアなど3年くらい経験して一通りサービスの裏側が分かりました。
今度は企画をやる番だと思い、iPhone3が日本にきたタイミングだったと思いますが、バイトルのアプリを作りたいと言う企画書を作り提案したことがきっかけとなって、バイトルアプリのディレクターになりました。
そこからバイトルアプリのディレクターを約4年間くらい担当し、企画の力が身に付いたので、次は新規事業を自分で作りたいと思い新規事業の部署に異動しました。
この部署に異動して新規事業領域に携わるようになってから8年目になりましたが、その内の4年ほど新規事業をつくることをしていて、残り4年がAIのブームがきたので、「AINOW(日本最大級のAI専門メディア)」の立ち上げや社内のデータサイエンスのチーム形成をして、その後にデータを取るためにプロダクトをつくる必要があるということで営業支援のプロダクトづくりを行い、社内のプロダクト全てやった方が早いということで現在に至ります。
Q. 戦略的なキャリアの歩み方をされているように感じますが、入社時からエンジニア→企画→新規事業というキャリアをイメージされていたのでしょうか?
キャリアをどう歩もうかというところはあまり明確にはなかったですが、新規事業をやりたいという思いは強くありました。
技術を身に付ければどうとでもなるという考えがあったので、まずエンジニアとしてキャリアをスタートしたことはそういう理由があります。
その後、ディレクターとして企画経験を積んだのは、場数を多く経験することが必要だと考えていたからです。
Q. 過去に転職を考えたことはありませんか?
過去には転職を考えたこともありますよ。他のベンチャーに行ってみようかな〜なんて。しかし、外に行っても新規事業領域においてやれることはそんなに変わらないんですよね。
それなら、信頼関係が既にあって新規事業へ投資してもらえる環境の方が話が早いので、転職する必要はないと考えて今に至ります。
【マイルール】①人の困りごとを取り除く②ワクワクできる環境をつくる
Q. 行動指針や大切にしているマイルールはありますか?
まず1つ目は、人が困っていることや課題に思っていることを特定し、取り除いて上げることです。
プロダクトをつくる時は当たり前ですが、新しい人と仕事をする時なども意識しています。
その人が何に困っているとか何に興味があるとかを探って、そこに対して自分の持てる価値を提供することで、相手が嬉しくなるようなドアノックの体験を意識して作るようにしています。これをすることで、一気に距離が縮まるので仕事がやり易くなります。
困っていることを探る際は相手に率直に聞くことが多く、良いこと悪いことなどを聞いていくと話してくれるので、それをちゃんと拾うようにしています。
2つ目は、ワクワクできるような環境をつくることです。
人と一緒に働く上ではお互いに興味を持てるような案件にしたり、僕に対して興味を持ってもらったり、楽しくやるようにすることを意識しています。
僕のイジりやすいネタを用意したり相手のイジりやすいところを見つけたりとか、共通の趣味を見つけたりすることなども近いかもしれないですが、人間関係の部分で相手との相互理解を深めて、一緒にワクワクできるような関係性をつくることをしています。
僕は自己開示はどんどんしていく方なのですが、中にはなかなか心を開いてくれない方もいます。そんな方に対してもまずは相手が嬉しいと思うことをしていくことで心を開いてもらえるように取り組んでいます。
(それでもダメであれば、合わない人種だとさすがに諦めます。笑)
【チームづくり】不満を言い合う&会話の量を増やす
Q. 業務上関わる人たちといいチームをつくるために取り組まれていることはありますか?
お互い不満を言い合うようにしています。
不満を内に抱えたままに言わないよりも、不満を言い合ってぶつかった方が良いと思っています。
また、テレワークの影響もありますが、会話の量を増やすことを意識的に行なっています。
Discordを使って音声だけで雑談できる作業場を作りました。(テキストチャットは意外に楽なようで楽ではなく、残す必要もないのでこういうものでいいんじゃないかと)
朝会など定期的に時間を決めて要所要所で会うようにしています。
【挑戦】営業組織にUXデザインを落とすことを目論む
Q. 今、挑戦していることはありますか?
現在、社内アイディア公募に出しているのですが、デザインを通じた課題解決の手法を広めたいという思いで「営業組織にUXデザインを落とすこと」を進めようと目論んでいます。
UXデザインのフレームワークはプロダクトのUXデザインのみではなくビジネスにも利用できると思うのですが、営業のヒアリングで利用できないかと考えています。
それができると、営業のできるUXデザイナーが大量に増えることになるので、課題ヒアリングがもっとできるようになり、営業提案のチャンスがもっと増えると考えています。
まだなかなかやっている企業は少ないので、うちの営業組織の規模でやったら面白いんじゃないかと思います。
【オススメの本】「リーン顧客開発」「ハマるしかけ」など
Q. かけだしPdMに向けて「まずはこの本を読むべし」というオススメの本はありますか?
新規事業向けにはなりますが、良い本です。
②Hooked ハマるしかけ 使われつづけるサービスを生み出す[心理学]×[デザイン]の新ルール
AARRRなどの概念の理解など役立ちます。
③具体的な本のオススメではないですが、仮説を発見したり仮説設計ができるための本は読んでおくと良いと思います。
自分の思ったアイディアを試そうと思った時に、試しても試しても当たらないということになりかねないので、先に仮説を考えておくことで「ここは上手くいったけど、ここはダメだった」と検証することができるようになります。仮説の無い検証はダメとよく言いますが、仮説の立て方が特に大事だと思います。
【悩み】いかに育てるか?PdMはドラクエで言う上級職である
Q. PdMに関する悩みはありますか?
PdM人材の育成や採用ですかね。
人材がそもそも市場に少なく、プロダクトに貼り付いているのでなかなか離れないこともあり、採用は難しいと感じています。
そのため、社内で軸足を持っている人をいかにPdMとして育てるかに振り切ってやっている状況です。ディレクターから育てるか、システム開発PMから育てるかと言うアプローチを取っています。
しかし、デザイナー出身、情シス出身、事業企画出身、エンジニア出身とこれまでのキャリアやスキルセットによってそれぞれ育成方法が異なるので、工夫は必要だと思っています。
ドラクエで言う上級職のような位置付けになるので、スキルを積んで転職していくしかないと思います。
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最後に
亀田さん(@kamechi72)のお話はいかがでしたか?
歴代のCRMの利用が苦戦を続けてきた中、3ヶ月間営業拠点に通い続けてインタビューやプロトタイプでの壁打ちを繰り返しながら、社内のほとんど(約99%)の営業マンが利用するCRMを作り上げられたエピソードや、亀田さんが責任者を務める組織でのPdMに求めるミッションやスキルについてのお話など参考になることが多かったかと思います。
ぜひオススメいただいた本やこの記事の中で語られていた社内のCRM(レコリン)に関する記事(https://sin.sansan.com/stories/suf38/)も読んでみてください。
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