家計簿プリカ「B/43」のPMから学ぶ!使ってもらえるプロダクトを作るヒント

今回は、株式会社スマートバンクでプロダクトマネージャー(以下、PM)を務める森口 貴之さん(@more_t)に仕事内容やキャリア、マイルールなどのお話を伺いました。

森口さんは企画職からキャリアスタートし、その後、自身の成長と新たな挑戦を求め、スタートアップを渡り歩き、フェーズの若いプロダクトの成長にコミットするPMとしての実績を積み重ねてきました。10年以上のPM経験から得られたProduct ExecutionとCustomer insightsスキルが森口さんの強みです。

本記事ではスマートバンクのプロダクトである「B/43」をPM視点でどう捉えているかや今後のビジョン、課題についてお話をしていただきました。また、様々な試行錯誤と失敗を経て、はてなやトクバイ、スマートバンクでのプロダクトグロースや立ち上げ経験をしたことで「ユーザーに使われるプロダクト」の重要性やその方法についてもお話を伺うことができました。プロダクトをマーケットインさせるためのスキルを向上させたいPMにとって貴重なインサイトを提供してくれるでしょう。

株式会社スマートバンクにてPMを担当

── まずはご自身の仕事やプロダクトについて教えてください。

森口:株式会社スマートバンクでB/43(ビー ヨンサン)というチャージ式のVisaカードと、家計管理のツールが一緒になったプロダクトを開発しています。

── B/43について詳しく教えていただけますか?ターゲットや顧客、どのような価値を提供しているのかなどをお聞かせください。

森口:B/43はクレジットカードのようにお店で決済できるプリペイドカードです。お店でカードを使うとアプリで「どこのお店でいくら使いました」という通知が届きます。そして、その決済履歴を家計簿として確認できるプロダクトになっていて、家計管理のために使うことができます。

B/43を最初にリリースした時は個人向けのマイカードだけでしたが、現在は3種類のプロダクトを提供しています。その中でも特にユーザーに人気なのが、B/43のペアカードです。これは夫婦や同棲しているカップル向けに、一つの口座をシェアして使うプロダクトです。カードを使うとその履歴がアプリで確認でき、2人で一つの口座を使うことができます。それぞれに一枚ずつカードを発行し、例えば月初に1万円ずつ入金して、デートや生活費の支払いをシェアすることができ、立て替え精算やレシートの保管が不要になり、とても便利です。

このように、B/43は個人だけでなく、パートナーと共有できる家計管理ツールとしても非常に評価されています。今のユーザーさんには特にこのペアカードが好評で、建て替え精算の煩わしさを解消できる点が一番の魅力と感じています。

── プロダクトのユースケースも詳しく教えていただき、非常によくわかりました。一方、近年は共働きの家庭も増えており、共通口座を利用して家計を運営する方々が増えていると思いますが、夫婦で利用されるケースも増えているのでしょうか?

森口:ユーザーがどれくらい結婚されているかのデータは正確には取れていませんが、苗字が同じかどうかで推測する限りでは、結構増えている印象です。年齢層としては、30歳前後がボリュームゾーンで、熟年の方よりも、若いカップルや新婚夫婦が多く利用していると感じます。

プロダクトマネージャーとしてのビジョン、価値観

── プロダクトビジョンについて教えていただける範囲で構いませんので、お聞かせください。

森口:B/43を通して、お金を「使う」「貯める」「増やす」を 誰もが当たり前にできる未来をつくりたいと考えています。

具体的に言うと、普段の生活の中で「お金のことが気になる」「お金をうまく使えているのか」「同世代と比べて貯金ができているのか」「資産運用がうまくできているのか」など、多くの人が抱える不安や疑問を解消することを目指しています。

これらの問題を解決するには、現状では多くの調査や勉強が必要で、簡単に実行できないと感じています。そのため、誰でも簡単にお金を管理し、効率的に使い、増やしていけるような未来を作りたいと考えています。そうすることで、お金の扱いが難しいと感じる社会全体の課題を解決し、より多くの人が安心してお金を管理できる環境を提供していきたいです。それが、私たちのプロダクトとしてのビジョンです。

── そのビジョンと、森口さんご自身の価値観やキャリアビジョンとがつながっていると思う点はありますか?

森口:私がスマートバンクに入ったきっかけにもつながる話ですが、PMとして成長する過程で、自分が関わることでプロダクトを大きく育て、世の中に届けたいという思いがありました。まだ世の中に知られていない、使われていないようなプロダクトに関わり、それを世の中に広めていく経験をしたいと考えていました。

それがBtoCであれBtoBであれ、自分が関わったプロダクトを使うことでユーザーの生活が変わったり、より良くなる状況を作りたいという思いがあります。B/43というプロダクトは、単なるFintechのツールとしてお金を使うためのものではなく、B/43を通じて生活が豊かになり、お金をうまく管理し、本当に欲しいものを手に入れることで生活が良くなるという価値を提供できると感じました。

したがって、B/43で実現したいビジョンへの共感と、プロダクトのフェーズとしても熱いと感じているので、私自身が関わることでより多くの人に届けられるようにしたいと考えています。ですので、スマートバンクでの仕事は私の価値観やキャリアビジョンと強くつながっています。

── その考えに至ったきっかけや原体験について教えていただけますか?

森口:プロダクトマネージャーとしての経験を振り返ると、自分がやりがいを感じる瞬間がいくつかあります。特に、作ったプロダクトや機能が多くのユーザーに使われ、頻繁に利用されている状況を見たときです。ユーザーからのフィードバックや感謝の声を聞くと、「この機能を作って良かったな」「このプロダクトがユーザーの役に立っている」と実感でき、非常にやりがいを感じます。

一方で、作った機能が全然使われない経験も多々ありました。振り返ってみると、ユーザーの課題や困りごとに対して、それを解決する機能が合致し、ユーザーが喜んで使ってくれる瞬間に、大きな達成感を覚えるのだと気がつきました。こうした原体験が、自分の中で非常に大きなやりがいとなっています。

スマートバンクに関わる中で、B/43というプロダクトを通じてユーザーの生活を豊かにし、お金の管理をサポートし、ユーザーが本当に欲しいものを手に入れる手助けをしたいという思いがあります。このプロダクトが、ただのお金の管理ツールではなく、ユーザーの生活を向上させる手段となることに共感し、自分が関わることでさらに多くの人に届けられればと思っています。

サービスを通じてお金に対する行動変容を促したい

── プロダクトの課題は何でしょうか?

森口:ペアカードの機能については、夫婦やカップルが家計をシェアすることで、わずらわしいやりとりを解消する点でユーザーに価値を届けられていると思います。しかし、B/43を通じてお金をうまく使えるようになっているかというと、まだまだ改善の余地があると感じています。

B/43が目指すところは、ユーザーが自分のお金の使い方をしっかり把握し、意図しない使いすぎや浪費に気づき、それをもとに行動を変えていけるようになることです。現状では、ユーザーがどこにいくら使ったかをデータとして確認できるようにすることはできていますが、それを通じて生活や行動が変わるような体験設計が十分にできていないと感じています。

そのため、ユーザーが自分のお金の使い方にもっと自覚的になり、普段の生活や行動を改善していくためのプロダクト設計が必要です。これには、ユーザーにとって分かりやすく、使いやすいインターフェースや、行動変容を促すための機能追加が求められます。ユーザーのフィードバックをもとに、プロダクトを進化させることが重要です。これらの課題を解決することで、ユーザーの生活をより良くするプロダクトに成長させたいと思っています。

── 現在のプロダクトの課題について、どのように解決しようとしているのか教えていただけますでしょうか?

森口:ペアカードは夫婦やカップルの二人でお金のやり取りやコミュニケーションを便利にすることで、多くのユーザーに使ってもらっています。一方で、現状のB/43の課題はユーザーが自分ひとりで家計管理をする際のきっかけやサポートがまだ十分ではないことだと感じています。

例えば、健康管理や勉強は、自分ひとりで継続しようとすると難しいと思いますが、同様に、お金の管理にもサポートが必要です。そこで、例えばAIを活用して、ユーザーに適切なフィードバックやコーチングを提供できるようにするアイデアも考えています。こうしたサポートにより、ユーザーが自分のお金の使い方をより自覚的に管理しやすくなり、行動の変容を促すことができると考えています。

ユーザーインタビューから得られた実感では、ペアカードを使い始める前は、お金の管理をしていなかったり、クレジットカードでのリボ払いなどで困っていたユーザーが、結婚を機に真剣にお金の管理を考えるようになることがあります。一人でお金の管理をするのは非常に難しいです。そのため、どうすればユーザーがお金に対する態度を真剣に考え、管理できるようになるのかを社内でも多く考えています。

── 先ほど、フィードバックやコーチングについてお話されましたが、ペアカードを使うユーザーが主要ターゲットなのでしょうか?

森口:ペアカードのユーザーに限らず、個人ユーザーも想定しています。現在のプロダクトとしてはペアカードが非常に便利に使われていますが、お金の管理には家族のお金と個人で自由に使えるお金の両方が含まれると考えています。それぞれの財布が別々に管理されることが多いので、両方のニーズに対応できるプロダクトを目指しています。

例えば、ペアカードを使って家族のお金を管理する一方で、個人の自由なお金も管理できるような仕組みが必要だと感じています。そこで、先述した通り、ユーザーがうまくお金を使えるようにするために、フィードバックやコーチングの機能を提供し、個々のニーズに合わせたサポートを実現したいと考えています。

プロダクトの戦略、プロダクトビジョンを描く

出典:The Product Management Triangle

── プロダクトマネジメントトライアングルに照らし合わせながら、森口さんがどの領域を業務範囲として担っているのか、特に重点的に取り組まれている領域について教えていただけますか?

森口:私はPMとして10年以上の経験があり、幅広い領域での経験があります。ただ、どちらかというと開発よりの領域を経験していて、トライアングルの中心より少し上のあたりに重心があると感じています。

具体的には、どういう機能を作り、ユーザーにどういう価値を提供するかに関心があります。これが私の得意なところでもあります。具体的な機能の設計やユーザーへの価値提供に重きを置きながら、プロダクトの戦略やビジョンを描くことが私の主な役割です。

── ビジネスディベロップメント、マネタイズ、パートナーシップなどは別の方が担当されているのでしょうか?

森口:現在、広告出稿やビジネスディベロップメントなどは、専門の職種の方が担当しています。ビジネスディベロップメントを担当する方がパートナーシップやマネタイズの部分を見てくれているので、その領域は分業ができています。

リサーチや分析、プランニング、デザインなど、ユーザーとディベロッパーをつなぐ部分は私が担当しています。具体的には、どの機能を作るか、優先度の判断、ロードマップの作成などを、プロダクトビジョンやビジネスの戦略に基づいて検討しています。

また、リサーチや分析を通じてユーザーのニーズを理解し、それをディベロッパーに伝える役割も果たしています。具体的には、ユーザーからのフィードバックを集め、それを基にプロダクトの方向性を決めることや、ディベロッパーとのコミュニケーションを通じて実現可能な機能を設計することが中心です。

これらの業務を通じて、ユーザーとディベロッパー、そしてビジネスの各側面をつなぐ役割を果たしながら、プロダクトの価値を最大化することを目指しています。

── プロダクトのディスカバリーからデリバリーまでのプロセスや役割分担について、具体的に教えていただけますか?

森口:当社では複数の開発チームがあり、概ね以下のようなプロセスでディスカバリーからデリバリーを推進しています。

1. チームミッションの設定

  • 各チームに大きなミッションを設定する。
    • ミッションの例:「ユーザーが家計管理をうまくできるようにする」
  •  ミッションに基づいた機能のロードマップを作成する。
  • 次に作る機能についてチームと経営層とのコミュニケーションを通じて意思決定する。

2. ユーザーリサーチの実施

  • 「Think N1 シート」という社内フレームワークを用いてユーザーの課題や価値仮説を整理する。
  • シートに記載した仮説の不確かな点をリストアップする。
  • 実際に困りごとを抱えているユーザーにインタビューを行い、リストアップした検証点を確認する。

3. データの整理と分析

  • インタビューから得られたデータを整理し、どのようなユーザーパターンが存在するのか、背景による行動の違いを解釈する。
  • 各ユーザーにとって便利な機能を考え、その機能がどのようにユーザーの困りごとを解消するかを明確にする。

このようにして、ユーザーのニーズに応じたプロダクトを開発し、提供しています。

── テーマやミッションについて、具体的なチーム構成やそれぞれのテーマについて教えていただけますか?
森口:社内の体制は試行錯誤中で、チーム数も流動的です。大きなテーマで2つに分類できますが、その中に複数のサブチームがあると捉えることができるので、全体としては4つほどのチームが存在しています。具体的には、「新しいユーザーをどのように獲得するか、あるいは、家計管理の文脈でより多くのユーザー獲得のために何をするか」というものと「いかに売り上げや利益率を上げていくか」という2つのテーマに大別され、それぞれに向き合う複数のチームが存在する体制となっています。

自身の成長と事業の成長にコミットできる環境を重視したキャリアパス

── これまでのキャリアについて教えてください。

森口:

株式会社はてな

新卒で株式会社はてなに入社し、企画職としてスタートしました。
はてなでは、はてなブログやはてなブックマークなど、多くのプロダクトが存在し、プロダクトごとにチームが編成されていました。私が最初に携わったのは、はてなブログのチームです。当時、サービスがリリースされてから1年か2年ほどで、まだ多くの機能が不足している時期でした。そのため、私はブログのアナリティクス機能、例えば記事の閲覧者数を表示する機能など、基本的な機能の開発に取り組みました。

入社当時は、大学でプロダクト作りや製品開発を専門的に学んだわけではなかったため、まったくの初心者としてスタートしました。また、当時のはてなには、PM職が存在せず、先輩も少ない環境でした。そのため、育成体制が整っておらず、自分自身で学びながら成長していく必要がありました。

初期の段階では、何が正解かもわからないまま、試行錯誤を繰り返しました。最初の1、2年で多くの失敗を経験し、それが成長のきっかけとなりました。ユーザーに使われない機能は意味がないと実感し、ユーザーリサーチやユーザーの課題の把握、競合分析などに力を入れるようになりました。

その後、はてなで新規プロダクトの立ち上げに関わる機会が訪れ、ニュースアプリの開発を担当しました。このプロダクトはスマートフォン向けで、当時はまだスマートフォンが普及し始めたばかりでした。リリース後、多くのユーザーに使ってもらうことができ、成功体験を得ることができました。

はてなには約6年間在籍し、様々なプロダクトやフェーズを経験しました。例えば、他社との協業でのプロダクト作りや、ゼロからのプロダクト立ち上げなど、多岐にわたる経験を積むことができました。


株式会社トクバイ(現:株式会社ロコガイド)

その後、30歳を前にして新たな挑戦を求め、クックパッドから分社化したトクバイに転職しました。当時は設立されて3年目くらいの時で、ユーザーを増やしていこうというフェーズでした。

トクバイではPMとして、チラシアプリの運営を担当しました。結果的にはアプリのDLが数百万まで届き、実際に多くのユーザーに利用いただけたんだなと思っています。

このプロダクトは実店舗との連携が重要で、実生活に密接に関わるプロダクト作りを経験しました。オンラインで完結するプロダクトが多い中でオフラインとの連携もあるプロダクトだったので、実際にIT業界とは程遠い小学生の時の同級生などに「このサービス使っているよ」って言われたりして「めちゃくちゃいいな」って思いましたし、そういった人たちに届けられるプロダクトに携わった経験は非常に貴重な経験でした。


株式会社スマートバンク

そして現在の会社に至るのですが、「自分が0から作ったプロダクトが世の中に広がっていくみたいなものがやりたい」と思いました。トクバイへもそういった気持ちで入って、自分の成果もあったと思うのですが、気持ち的には「波に乗せてもらったな」って感覚が強かったです。なのでより事業課題に向き合い、その成長に寄与できる経験が必要だと思っていました。そのため、さらに若いフェーズのプロダクトに関わり、事業の成長に貢献したいと考えています。

── 森口さんがスマートバンクに入られた思いが非常に熱いものだと感じました。実際に入られたタイミングからのユーザー数やプロダクトの成長についてお伺いしたいのですが、どのように変化してきたか教えていただけますか?

森口:スマートバンクに入ったのはプロダクトローンチして数ヶ月後のタイミングでした。本当にゼロから入ったわけではないですが、非常に早いタイミングで参加しました。当初はユーザー数も少なく、事業規模も小さかったですが、直近ではB/43カードの発行枚数も増え、月々の支払い額が数十億円規模に成長しました。

具体的なユーザー数については公開されている情報が手元にないためお伝えできませんが、支払い額の観点から見ると、プロダクトが確実に成長していると感じています。初期の頃は一人のユーザーの影響が大きく、例えば一人のユーザーが多額を使うとグラフが大きく跳ね上がる状況でした。しかし、現在は月々数十億円の支払いが行われるプロダクトに成長し、一人のユーザーが占める割合は非常に小さくなりました。

また、プロダクトマネージャーのイベントなどで同業の方々から「B/43使っているよ」という声を多くいただくようになりました。これは特に嬉しいですね。仕事で直接関係のない人が自然に使ってくれていることを知ると、プロダクトが広がり、多くの人に使われている実感が湧きます。

── それは非常に熱いエピソードですね。プロダクトローンチから数ヶ月後のタイミングで参画され、そこからのグロースを牽引されてきたことがよく分かります。さらに、ユーザーからのフィードバックやエピソードも多く聞かれるようになったとのことですが、具体的にはどのようなエピソードがありますか?

森口:例えば、駅でB/43のカードを持っている人を見かけたり、レジでカードを出すと「最近このカードを使ってくれるお客さんが増えています」とレジ係の方に言われたりすることが増えてきました。こうしたエピソードが事業の成長とともに増え、社内でも「広がっているな」という実感を持てるようになりました。

このように、ユーザーからのフィードバックやエピソードが増えることで、世の中に価値を提供できていると感じ、自信にもつながります。働いていて楽しいと感じる瞬間が増え、社内でもその喜びを共有できるシーンが増えてきていると感じます。

Product ExecutionやCustomer insightsのスキルを高めるための価値観

出典:https://www.ravi-mehta.com/product-manager-skills/

── 事前にご回答いただいたPMのコンピテンシーに関する自己評価を基に、Product ExecutionとCustomer insights領域が特に強みの部分であると拝見していますが、どのようにして開発されてきたのでしょうか?

森口:先ほどのキャリアの話ともリンクする部分が多いのですが、私がPMとしてのキャリアをスタートした時に感じた課題意識が大きく影響していると思います。特に重要だと感じたのは、ユーザーに使ってもらえるプロダクトを作ることです。これは私がPMを務める上で最も大切な価値観となっています。

ユーザーがどのような課題を抱えているのかをしっかりと理解するために、VOC(Voice of Customer)を取り入れ、ユーザーの生活背景や具体的なニーズをキャッチするスキルが重要だと考えています。このようなスキルは、ユーザーリサーチを通じて磨かれてきました。また、新卒の頃から様々なプロダクトを持つ会社で経験を積むことができたことも大きな要因です。いろんな種類のプロダクトやフェーズに触れることで、プロダクトマネジメントに求められる多様な観点をインストールできました。

例えば、はてなでの経験がその一例です。入社当初、ブログのアナリティクス機能を開発する際、ユーザーの閲覧数や行動データを分析し、具体的なニーズに応えることの重要性を学びました。また、新規プロダクトの立ち上げ時には、ユーザーリサーチや競合分析を徹底的に行い、ユーザーに使われるプロダクトを作るための要件定義やコミュニケーションの仕方を身に付けました。

このように、実際の経験を通じて得た知見が、Product ExecutionやCustomer insightsのスキル向上に繋がっています。要件定義に関しても、多くのプロダクトを手掛ける中で、どのポイントを重視し、どのように進めていくべきかを学びました。こうした経験が、現在の私の強みとなっていると感じています。

── 他のコンピテンシーに関するスキル開発のエピソードはありますか?

森口:長くこの仕事をしていると、様々な項目において一通り経験できたかなとは思います。ただ、プロダクトマネジメントの仕事は、その時々のプロジェクトやフェーズによって求められるコンピテンシーが変わってくるので、どのスキルを発揮すべきかが常に異なるんですね。

例えば、あるプロジェクトでは要件定義が非常に重要で、そのスキルを磨かなければならない一方で、別のプロジェクトでは市場調査やユーザーインタビューが求められることがあります。その都度、自分に求められているスキルが何かを理解し、そのギャップをどう埋めるかを考えることが大事です。

守備範囲が広い仕事だからこそ、常に新しいことに挑戦し、学び続ける姿勢が大事だと思います。求められるスキルに対して「できません」と言っていられないので、どうすればそのスキルを身に付けられるかを常に考え、実践することが重要です。

大事にしていることは「使われるものを作る」

── 行動指針や大切にされているマイルールがあれば教えていただけますか?

森口:最初から一貫してお話しているかもしれませんが、やはり「使われるものを作る」ことが一番大事だと思っています。もっと具体的に言うと、自分が過去に作ったプロダクトの中には全然使われていない機能が多くあると感じています。実際に調査によれば、世の中の機能の8割は使われていないというデータもあります。この数字が正確かどうかは別として、自分の経験からも、頑張って作ったのに全然使われていない機能やプロダクトが多いと実感しています。

だからこそ、使われること、そしてそれがユーザーの生活にインパクトを与えることが重要だと思います。プロダクトが存在することでユーザーの生活がどれだけ良くなったか、その変化の深さが大切です。多くの人に使ってもらう「広さ」と、一人一人のユーザーの生活がどれだけ変わったかという「深さ」の両方が重要です。

── 最後におっしゃった「広さ」と「深さ」についてですが、スマートバンクに入社されてからの経験も含め、どのようなバランスでプロダクトマネジメントをされてきたのか教えていただけますか?

森口:私の感覚では、狭くても良いから深いことが大事だと思っています。しっかりとユーザーの課題を掴み、それを解決するからこそプロダクトが広がるのだと思います。この順番は、スマートバンクに入ってから得た経験というよりも、以前から持っている感覚です。

ユーザーの生活が変わり、価値を実感してもらえる深さが無ければ、良いプロダクトとは言えないと思います。ユーザーが「このプロダクトを使って生活が良くなった」と感じれば、自然と誰かに伝えたくなるものです。浅く広くではなく、深く刺さるからこそ広がるという順番があるのだと思います。

したがって、まずはユーザーにとって深く価値が伝わることが重要だと考えています。その結果として広がるのが理想です。

いいチームを作るためには「理想の状態を共有すること」と「率直であること」

── いいチームを作るために何か工夫されていることはありますか?

森口:良いチームを作るためには、2つのことが大事だと思います。

1つ目は、どういう状態を目指すのか、理想の状態をしっかり共有することです。これはチームのミッションや定量的な数字目標を含むもので、「何を目指すのか」を明確にすることが重要です。また、その目標に対する疑念や懸念もチーム内でしっかりと話し合うことが必要です。例えば、「このプロダクトは会社のビジョンと矛盾しているのではないか」などの疑念がある場合、それを議論し、納得することが大切です。しっかりと目指す方向性を共有することが、チームの一体感を生み出します。

それを実現するためにも、2つ目である「率直であること」を大事にしています。これは、自分の意見をしっかりと表明すること、そして他人が意見を言いやすかったり、話しやすかったりする雰囲気を作ることを指します。それがないと、目指す方向性の共有がしきれないと思っています。お互いが安心して自由に意見を言える空気づくりができていることで、チームの目標に対する理解が深まり、全員が納得して進むことができます。

質の高い企画を生み出すために日頃から引き出しを増やす理由

── 質の高い企画や筋の良い打ち手を生み出すために何か工夫されていることがあれば教えてください。

森口:これは非常に難しい質問ですが、いくつかのポイントがあると思います。まず、ユーザーにちゃんと使ってもらえることがマストの条件です。使ってもらうためには、ユーザーがどのようなシーンで困っているか、その背景をしっかり理解することが大切です。ユーザーの生活背景や具体的な課題を理解することで、彼らのニーズに共感し、的確なソリューションを提供できます。

例えば、収入が少ないけれどお子さんが多くて働きに出られない方が普段の生活でどのような課題に直面しているかを把握することが重要です。その背景と課題をリンクさせることで、具体的な解決策を見つけやすくなります。

次に、クリエイティビティが求められる瞬間があります。課題解決には発想の飛躍が必要であり、それは突然自分の中から湧き出てくるものではありません。そのため、普段から多くの引き出しを持っておくことが大事です。その引き出しと過去の事例を上手くリンクさせていくと課題解決への筋道が考えやすくなることがあります。そのため、手札の数・コレクションを普段の生活からでも増やしていく意識が必要だと思っています。

── 引き出しを増やすための具体的な方法について、普段の生活で意識していることや工夫されていることがあれば教えてください。

森口:普段から意識しているのは、知らなかったことに対して「なぜそうなっているのか?」と考えることです。その背後にある意図や背景を想像することで、理解が深まります。例えば、新しいニュースを見た時に、そのニュースの背景や背後にある理由を考え、自分なりに解釈します。このように、普段の生活の中で接する情報に対して、常に好奇心を持ち、裏側を考えることで、多くの引き出しを持つことができるようになります。

森口さんからのおすすめ本

── プロダクトマネージャー向けにおすすめの本があれば教えてください。

森口:今日の話とリンクする部分が多いと思いますが、私のおすすめの本は、イタリアのデザイナーであるブルーノ・ムナーリが書いた『モノからモノが生まれる』という本です。この本は、デザインのプロセスや事例を通して、企画や製品開発における問題解決の方法を解説しています。

この本では、デザインとは単にアイデアがポンと出てくるものではなく、問題を解決するためのプロセスであることが強調されています。例えば、課題が何かを見極め、その課題の背景や構造を理解することが最初のステップです。次に、データを集めて分析し、課題解決のためのアイデアを出すプロセスがあります。この一連のプロセスが、製品開発やプロダクトマネジメントと非常に似ていると感じています。

本書の中で特に印象的なのは、具体的な事例を通して、デザインのプロセスがどのように進むかを詳しく説明している点です。例えば、良いおもちゃをデザインするためには、子供にとっての楽しさや安全性、親にとっての価値など、複数の観点から考える必要があります。このように、様々な観点から問題を分析し、解決策を見つけ出す方法が具体的に示されています。

また、デザインにはクリエイティビティが求められる瞬間がありますが、そのクリエイティビティも突発的に生まれるものではなく、豊富な引き出しから引き出されるものであることが強調されています。普段から多くの事例や情報に触れ、それをコレクションすることで、クリエイティブなアイデアが生まれやすくなるという点も非常に共感できます。

この本は、デザインのプロセスを通して問題解決の方法を学べるだけでなく、PMとしての視点を広げ、質の高いプロダクトを作るためのヒントがたくさん詰まっています。読みやすい形式で書かれているので、PMに限らず、多くの人におすすめできる本です。

最後に

森口さんのお話はいかがでしたか?

お話しいただきありがとうございました。最初に株式会社はてなで様々なプロダクトやフェーズを経験され、特に新規プロダクトの立ち上げにおいて多くの失敗を経験されたとのことですが、その経験が現在の成功に繋がっていることがよく分かりました。はてなでの失敗から学び、次のプロダクトでの成功体験を通じてやりがいを感じられたこと、そしてその後トクバイへの転職、現在のスマートバンクでのアーリーフェーズでのプロダクト成長に携わることで、自身の貢献がプロダクトのグロースに繋がっていることを実感されていますね。

今回のインタビューを通して一貫して強調されていたのは、「ユーザーに使われるものを作る」という信念です。そのために、ユーザーの理解を深め、彼らの背景や課題を適切に捉えることが重要だとおっしゃっていました。そして、その課題を解決するためのプロセスとして、多くの引き出しを持つことの重要性についても詳しくお話しいただきました。普段から多角的な観点で物事を捉え、引き出しを増やすためのインプットを続けることが、質の高い企画や打ち手を生み出す基盤になると感じました。

また、おすすめの本としてブルーノ・ムナーリの『モノからモノが生まれる』をご紹介いただきました。この本が、プロダクトマネジメントにおいて問題解決のプロセスを学ぶのに非常に役立つというお話も大変興味深かったです。

様々な観点でお話を伺いましたが、一貫した信念と具体的な取り組みが印象的でした。個人的にも非常に勉強になりましたし、これを読んでいただく方々にとっても大変ためになるお話が多かったと思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。

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