10個のプロダクトシナジーを図るestieのVPoPから学ぶ!セールス出身からPMキャリアを描くヒント

今回は、株式会社estieでプロダクトマネージャーを務める久保 拓也さん(@takuya__kubo)に仕事内容やキャリア、マイルールなどを伺った。

久保さんはセールスやビジネス領域からスタートし、リクルートやユアマイスターでの豊富な経験を経て、現在はestieでVPoPを担われています。特に、ビジネス全体を見据えた戦略策定と実行力、そして多岐にわたるプロダクトの立ち上げとグロースの経験が彼の強みである。

プロダクトマネージャーとしての成功の秘訣。セールス出身ならではの視点から、戦略策定と実行力、チーム作りの重要性を解説する。また、10個のプロダクトを推進するVPoPとしてそれぞれの特性を生かしながら、どのようにビジョンを描き推進するのか、また、それらのプロダクトを少数のプロダクトマネージャーで運営する理由についても語っている。さらに、スタートアップでのリスクを取る意思決定や直感の重要性、情報の構造化の方法についても触れ、現役のプロダクトマネージャーやこれから目指す方々に向けた貴重なインサイトを提供してくれるでしょう。

株式会社estieにてVPoPを担当

── まずはご自身の仕事について教えてください。

久保:株式会社estieという会社で、商業用不動産のデータや業務支援ツールを扱うデータプラットフォームを提供しています。弊社プロダクトはお客様に使っていただいているものが約10種類あります。プロダクトの価値は大きく3つに分かれています。

まず、データそのものが価値になっているもの。次に、そのデータモデルを元に作り上げたユーザー体験やUIが良い、いわゆるソフトウェアの業務支援を行うもの。そして、マーケットプレイスといって、データ流通やトランザクションを価値にしているものです。それぞれ「Data as a Service(DaaS)」「Software as a Service(SaaS)」「Marketplace」という形でプロダクトの種類を持っています。

弊社が扱う商業用不動産データは、オフィスだけではなく、物流施設など幅広いアセットをカバーしています。弊社は創業当初からオフィスを中心に扱っていたので、まずはそちらをお話ししますね。

例えば、オフィスのオーナーが意思決定を行う時に直面する「データが不足する」といった課題に対して、弊社のプロダクトが解決策を提供しています。競合ビルに関するオフィスの賃料や条件は他のプレーヤーにはわかりません。通常、競合の情報を得るためには仲介会社を通じて賃料や条件を知ることになりますが、一度に得られる情報量は多くありません。結果として、競合プレイヤーの賃料情報や市場の相場がわからないため、適正な賃料設定やリーシング戦略・オフィスの取得検討を行うことが難しいという課題があります。

弊社のプロダクト「estie マーケット調査」は、この課題を解決するためのものです。具体的には、オフィスの賃料データなどを提供し、企業が市場の相場を把握できるようにします。これにより、企業は適正な賃料設定やリーシング戦略、取得検討が可能になります。

例えば、競合プレイヤーの賃料を知りたい場合、通常は情報が得られないことが多いです。しかし、弊社のプロダクトを利用すれば、競合の賃料情報も含めて市場の動向を把握できるため、より informed decision(詳細な情報を得た上での決断) を行えるようになります。

また、コロナ禍で空室率が高くなった際にも、どのような意思決定をすれば良いのかがわからないという課題に対して、弊社のデータが役立ちます。デジタルな情報提供により、企業は市場の変動に即応し、最適な戦略を立てることができます。

要するに、弊社が提供するオフィス賃料データは、オーナーが適正な賃料設定や取得検討をするための重要な情報源となっています。

プロダクトマネージャーとしてのビジョン、価値観

── 次の質問ですが、プロダクトビジョンについて教えていただけますか?

久保:弊社全体のプロダクトビジョンとしては、複数のプロダクトを統合し、一つの統合体験を作っていくことを目指しています。これを「Whole Product構想」と呼んでおり、コンパウンドスタートアップを標榜しています。

PMチームはこの「Whole Product構想」に対して「不可能を可能にし、商業用不動産業界を未来へ導くプラットフォーム」という大きなビジョンを掲げています。

「estie マーケット調査」をはじめとした、データ領域のプロダクトビジョンとしては、我々のPurposeである「産業の真価を、さらに拓く。」に基づき、「ユーザーの真価を拓く羅針盤」という言葉を使っています。これは、従来の不確実性の中でどちらに進むべきかわからないという悩みを持つ方々に対して、羅針盤のような存在となり、方向性を示すことで意思決定をサポートするという意味です。

ただし、我々のプロダクトは正解を示すものではなく、あくまで意思決定の基盤や参考となる情報を提供するものです。最終的な意思決定はお客様自身が行う必要があります。そのため、我々のプロダクトは、顧客の創造性を解き放つための基盤として位置づけています。

具体的には、商業用不動産実務の負荷を軽減し、データを基点にして顧客がより良い意思決定を行えるようにサポートすることを目指しています。

このような考え方を基に、「estieマーケット調査」のプロダクトビジョンを策定しています。

── 素敵なプロダクトビジョンですね。次に、プロダクトビジョンやパーパスに関して、久保さん個人の価値観やキャリアビジョンとどのように繋がっているのか教えていただけますか?

久保:私は、現時点で言うと特に「これをやりたい」といった具体的なキャリアビジョンを持っているわけではなく、どちらかというと「社会の変化」を追っているような感じです。自分がどうありたいかというよりも、「どういった世界を作っていくか」に重点を置いています。

少し私の経歴をお話ししますと、私は子供の頃、体が弱くて健康的な生活を送れませんでした。頻繁に入院していたのですが、その中で親が支えてくれました。こうした実体験から、世の中の逆境や理不尽を変えていきたいというモチベーションが強くなりました。自分が生を受けたからには、世の中を少しでも良くしたいという思いが根底にあります。

そのため、個人の価値観としては、強者の立場に立つよりも、弱者の立場に立つことを大切にしています。商業用不動産の領域を選んだ理由の一つもここにあります。デベロッパーは非常に大きな企業ですが、日本全国には35万もの不動産事業所があります。その先には住まう人や働く人など数多くの人が関わっています。「場」を通じて生活を支える不動産業界は、人々の生活に密接に関わっています。

私たちが直接接点を持つのはエンタープライズな企業ですが、その裾野は非常に広いです。強いプレイヤーでも正しい意思決定が常にできるわけではありません。情報がなかったり、業務が円滑に進む環境が整っていない場合もあります。そこで、情報の循環を改善することで、業界全体の効率や価値を高めたいと考えています。

データプロダクトのプロダクトマネージャーとしての役割もここに繋がっています。情報の循環を血の巡りに例え、それを円滑にすることで業務の効率を高めることを目指しています。特に、不動産実務経験者だけでなく、未経験者でも使いやすいUIやUXを提供することで、業務の円滑化を図りたいと考えています。こうした想いを持ちながら、プロダクト作りに携わっています。

10個のプロダクトに対して向き合う課題

── 現在向き合っているプロダクトの課題は何でしょうか?また、その課題をどのように解決しようとしているのか教えていただけますか?

久保:プロダクト・ポートフォリオをどう作っていくか、その優先順位が一番の課題だと思っています。

現在、弊社ではお客様に提供しているプロダクトが10個ありますが、これに対して、プロダクトマネージャーは私を含めて7名しかいない状況なので、複数のプロダクトを見ながら何とかしているのが現状です。

また、弊社はプラットフォーム領域の開発にも力を入れており、共通データベースやデータプラットフォームの開発を進めています。さらに、複数のプロダクトが共通して使うミドルウェアの開発などもあり、社内的なプロダクトを含めるとその数はさらに増えます。

このようにマネジメント対象が広がる中で、どのプロダクトに投資するべきか、全体のシナジーをどう生み出すかといった意思決定が日々の課題です。特に、立ち上げ時には横の連携をしない方が早いこともあり、組織バランスや意思決定の権限設計も難しい点です。

私自身はVPoPという立場でこれらに取り組んでいますが、1人でやっているわけではなく、シニアPMたちの力をいかに引き出すかが解決策の一つだと思っています。彼らのセンスや能力を最大限に発揮してもらうことが、全体のスピードを上げ、プロダクト全体を強化する鍵だと考えています。

── プロダクトマネージャーたちの力を最大化するために、具体的にどのような取り組みをされているのか教えていただけますか?

久保:まだ課題が多いですが、少しずつ成功パターンが見えてきたところもあります。

まず、プロダクトの立ち上げ時と成長フェーズにおける権限の渡し方やチームの構築方法について、学びが深まってきました。弊社は創業初期から2つの全く異なるプロダクトを同時に運営してきました。このようなカルチャーが、ゼロからの立ち上げを自然に行う基盤となっています。

具体的には、プロダクト立ち上げ時にプロダクトマネージャー、デザイナー、エンジニアの3人で始めることが多いです。立ち上げ時には他のチームに対する説明責任を果たす必要がなく、レポートラインは取締役や事業責任者1人に限定されています。このようにすることで、立ち上げチームは余計なことを気にせず、集中してプロダクトを立ち上げることができます。

また、立ち上げたプロダクトを成長フェーズに移行する際のマネジメントも重要です。最初は立ち上げチームのメンバーが様々な役割を兼任で行いますが、プロダクトが成長フェーズに入ると、専任のプロダクトマネージャーや営業チームをアサインします。これは直近の変化ですが、estieらしい整理やフェーズ分けを行い、適切なタイミングでリソースを追加することで、プロダクトの成長を支援出来るようになってきています。

このような取り組みを通じて、プロダクトマネージャーの力を引き出し、プロダクト全体のスピードと品質を向上させています。

── 振り返ってみて、こんな失敗があった、ここが大変だったというポイントはありますか?

久保:新規プロダクトを事業計画にちゃんと組み込んだ時でしょうか。スタートアップなので、成長角度をどんどん高めなければならず、せっかくリソースを投入したからという理由で、数字責任を負わせたのです。

これがマネジメント側の失敗だったと感じています。数字責任を追うことによって、本来大事にすべきプロダクト価値やプロダクト指標、つまり「こうなったら成功」という定義がねじ曲がってしまいました。その結果、セールスに焦点を当てすぎてしまい、プロダクトにまだ足りない部分がある中で無理に数字を作ろうとしてしまいました。

これによって、プロダクトが本来の価値を発揮できず、チームに混乱をもたらしました。この経験から学んだのは、新規プロダクトにおいては、数字責任を追わず、まずはプロダクトの価値やユーザーの満足度に集中することが極めて重要だということです。これが去年の後半で得た一番大きな学びでした。

この失敗から、今では新規プロダクトにおいては数字よりも価値を重視し、成長フェーズに達するまで無理に数字を追わないようにしています。これにより、プロダクトが本来の価値を発揮し、ユーザーに真に役立つものを提供できるようにしています。

セールス出身のキャリアで培ったプロダクトマネジメントトライアングル

出典:The Product Management Triangle

── プロダクトマネジメントトライアングルに照らし合わせながら、久保さんがどの領域を業務範囲として担っているのか、特に重点的に取り組まれている領域について教えていただけますか?

久保:私たちは基本的にスクラムで開発を進めています。チームでプロダクトマネジメントトライアングルが成立するように、全体のバランスを考えて進めています。

プロダクトマネージャーの役割としては、ディスカバリーやストラテジーに重点を置いています。具体的には、「Why」や「What」の部分に時間を使い、「How」の部分はエンジニアやデザイナーに任せる形です。詳細設計や要件整理については、社内のデザイナーやエンジニアが主体的に行っています。場合によっては、彼らが自ら顧客の元に行って話を聞きに行くこともあります。

さらに、商業用不動産領域におけるプロダクトマネージャーの役割として、「ドメイン・プロトコル」と「プロダクト・プロトコル」を転換させることが重要だと考えています。開発チームが「システム開発のプロトコル」と「プロダクト・プロトコル」を横断することはできますが、さらにドメインのプロトコルにまで染み出していくことは難しいです。そこで、プロダクトマネージャーが翻訳家として、ドメインの専門知識をプロダクトの言語に置き換え、プロダクトからシステムへと繋げていくことが大切です。

こうした役割を通じて、プロダクトマネージャーがビジネスと技術の橋渡し役として、全体の調和を図りながらプロダクトを成功へ導くことができると考えています。

── 今お伺いした内容について、何か具体的なエピソードはありますか?

久保:弊社にはビジネスチーム内にドメインエキスパートがいます。例えば、営業やカスタマーサクセスのメンバーがそれにあたります。ただし、オフィスの賃貸領域に詳しい人でも、売買領域についてはあまり経験がないことがあるんです。このように、業務領域が変わるとドメインエキスパートであってもわからないことが出てきます。

ここでプロダクトマネージャーの役割が重要になります。弊社のビジネスチームは顧客とのリレーションが強いので、プロダクトマネージャーが特定のドメインについて詳しく話を聞きたいときは、迅速にユーザーインタビューの機会を得ることができます。例えば、特定の顧客グループに話を聞きたい場合、1週間以内に複数のユーザーアポイントを取れるほどの距離感があります。

そこで、プロダクトマネージャーが実際に顧客の元に出向き、業務の詳細をヒアリングします。ただし、得られた情報はN=1のケースが多いので、それを業界全体の業務プロセスや構造に当てはめて分析します。具体的には、集めた情報をもとにペインポイントやゲインを構造化し、ディスカバリーをスタートさせます。

その後、デザイナーやエンジニアと共に、課題の解決策を一般的なフレームワークに置き換えていきます。例えば、KPIやOKRなどの指標に基づいて改善策を考え、具体的な要件定義に落とし込んでいきます。最終的には、業務の理解を元に構造化された情報を基にシステム側に反映させていくプロセスになります。

実際の例として、新しいプロダクトを開発する際に、まず顧客の業務を深く理解し、それを一般的なフレームに落とし込むことが重要です。これにより、プロダクトの開発がスムーズに進み、顧客のニーズに適したソリューションを提供できるようになります。

このように、プロダクトマネージャーは顧客の一次情報を収集し、それを構造化することで、デザイナーやエンジニアと協力してプロダクトを成功に導く役割を担っています。

── 久保さんが特に重点的に取り組まれている領域はどこですか?

久保:僕は現在、ビジネスディベロップメント、事業開発、マネタイゼーション、ストラテジーなどの領域に重点を置いています。実は1年前は横断基盤のPMを兼務していて、ミドルウェアの領域を担当していました。その時は、ソフトウェアアーキテクチャやデータモデリング、DevOpsの勉強をエンジニアの皆と一緒に行いながら取り組んでいました。

その時期は、開発者寄りの領域に重点を置いていましたが、現在はユーザーとビジネスの間の領域に重点を置いています。具体的には、プロダクトのビジネス面での戦略立案や、収益化の施策、事業開発の推進などを行っています。

私の役割は、ビジネスディベロップメントとユーザーエクスペリエンスの橋渡しをすることです。これにより、プロダクトが市場で成功するための戦略を立案し、実行に移すことができます。

セールス出身からestieのVPoPになるまでのキャリアパス

── どのようなキャリアパスでプロダクトマネージャーになり、現在に至っているのか教えていただけますか?

久保:学生時代は早稲田大学で学び、学園祭のスタッフや学生団体の立ち上げをしていました。企画系や新しい取り組みの開発に興味があり、新奇性のある取り組みに関わることが多かったです。また、就職活動の氷河期に、就職活動の構造問題について学生団体を立ち上げてディスカッションイベントを主催するなど、社会問題にも関心を持っていました。学問的には商学部でマーケティングを専攻していました。

株式会社博展

プロモーション系の会社に入り、新規営業、プランナー、ディレクター、新規部署の立ち上げなどを経験しました。

株式会社リクルート

セールスエンタープライズのマネージャー、SMBマーケットのセールスマネージャー、事業開発、事業企画、九州の支社長としてエリア戦略を担当するなど、ビジネス全般にわたる業務を経験しました。

── リクルートに行った時の事業企画、事業開発、九州エリアの拠点長の経験が現在にどのように生かされているか教えていただけますか?

久保:リクルートでの経験は現在のキャリアに非常に大きな影響を与えています。特に、エリアの戦略や事業開発の経験が今でも役立っています。

リクルートのHRプロダクトのチャネル戦略を担っていた時のことです。当時、リクナビNEXTという中途採用のプロダクトは、競合のマイナビさんやenさんなどが投資を増やす中でシェアを落としている状況でした。それを立て直し、成長軌道に乗せるために、役員や営業部長と一緒にチャネル戦略や営業行動の変更について議論し、実行に移して行きました。

この時の経験はプロダクトマネジメントにリフレーミング可能だと思っています。プロダクトマネジメントの観点から言うと、スタートアップではPMF(Product-Market Fit)を達成することが重要ですが、それで終わりではなく、継続的にPMFを維持しなければなりません。当時のリクナビNEXTは、一度PMFを達成し強烈に成長したものの、その後のプロダクト投資が減少したこともあり、PMFを失いかけていました。そこで、再びPMFを達成するためにチャネルとプロダクトの両方で取り組んだという考え方になります。

具体的には、営業の行動やデリバリーの方法を改善し、顧客に価値を提供するための戦略を練り直しました。当時の部長は事業企画に非常に強い方で、彼と一緒に週末も社内で議論を重ねました。この経験から、PMFを維持し続けるためのGTM戦略の考え方やプロトコルが身につきました。

今でも、この経験は非常に役立っており、プロダクトが市場で成功し続けるためにどうすればよいかを考える上での基盤となっています。

また、私はプロダクトマネジメントにおいて、「Who」が非常に重要だと感じています。Why、What、Howも大事ですが、Whoが一番重要です。営業戦略を考える際には、セグメントの見直しを何度も行いました。これにより、プロダクトマネジメントにおいても、セグメントを詳細に理解し、適切なターゲットの課題を解決することができます。

営業やカスタマーサクセスの経験を持つ人がプロダクトマネジメントに入ると、このセグメントの理解が非常に役立ちます。誰が顧客であり、どのような課題を持ち、どういったものに購買意欲を持っているかを深く理解することで、より強力なプロダクトを作り出すことができます。

このようなアプローチにより、プロダクトマネジメントにおいても、営業やカスタマーサクセスの視点を活かすことができると感じています。プロダクトの改善には、さまざまな視点からのアプローチが必要ですが、営業やカスタマーサクセスの経験を活かすことで、より効果的な戦略を立てることができます。

ユアマイスター株式会社

スタートアップのユアマイスターに移り、社長室のリーダーとして資金調達や新規事業開発を担当しました。この会社では、セールス中心のビジネスからプロダクトドリブンのビジネスに転換する戦略を立て、その過程でプロダクトマネージャーのポジションを新設し、責任者としてプロダクトマネージャーのキャリアをスタートさせました。プロダクトマネージャーとしてのキャリアはまだ4年目ですが、ゼロからのプロダクト立ち上げや全体戦略の策定を行っています。

── ユアマイスターで資金調達や新規事業の立ち上げに関わられ、Day1からVPoPになられた時、どのようなプロダクトの立ち上げや体制でやっていたのか教えていただけますか?

久保:確かにDay1からVPoPになりましたね笑。まずどんなプロダクトかについてお話すると、ユアマイスターの主力プロダクトは、ECのように「サービスを売り買いするプラットフォーム」です。例えば、ハウスクリーニングや靴のリペアなどのサービスを購入できるというモデルです。このビジネスモデルにおいて大事なのは、品揃えと品質です。お客様に来ていただくためには、多くの「高品質なサービス」を提供する必要があります。

私が新規事業として取り組んでいたのは、この品揃えを増やすことでした。具体的には、引っ越しや雨漏り修理などのニッチなサービス領域を開拓し、パートナーを集め、ユーザーとのマッチングを行うマーケットプレイスの拡張を行いました。また、集まったパートナーをBtoB領域に転換し、ビルメンテナンス領域の業務支援サービスを作ることにも取り組みました。

あとは、ややEMっぽい動きかもしれませんがエンジニアの数が限られていたため、大規模スクラム(LeSS)を採用し、1つのバックログを起点に複数エピックを遂行する形で開発を進めていました。

スクラム開発をどのように運営するか、複数ラインのロードマップをどう成立させるかなどのプロセスを検討する過程で上記のフレームワークに落とし込んでいった形になります。これにより、効率的にプロダクトの開発を進め、複数のプロダクトラインが同時に進行する体制を整えました。

この経験を通じて、プロダクトの立ち上げや開発体制構築に関する知見を深めることができました。これが現在のプロダクトマネジメントにも大いに役立っています。

── ユアマイスターでDay1からVPoPとしてプロダクトマネージャーが出来た理由について、もう少し詳しく教えていただけますか?

技術顧問の存在が大きいです。ヤフーの元CTOである明石さんが技術顧問を務めており、毎週メンタリングしてもらっていました。

このメンタリングでは、プロダクトの重要なテーマに関するディスカッションや週次の報告を行いながら、プロダクトマネジメントの基本やデータモデリングなどをハンズオンで学びました。まさに「精神と時の部屋」と思うほどの濃密な時間だったと思います。プロダクトマネジメントの基礎から実践までを徹底的に学ぶことができた期間でした。

例えば、PRD(プロダクト要求文書)を用意してレビューのために明石さんに見せると、赤字でフィードバックがたくさん入るという有様でした。「計測できないものは存在しないのと一緒であり、この機能は無価値だ」とフィードバックをもらったこともあります。改めて計測の重要性やデータドリブンなアプローチの大切さを実感しました。

プロダクトマネージャーとしての視座を引き上げられたことも大きな学びでした。様々な観点でフィードバックを受けることで、どのような視点でプロダクトを考えるべきかを理解しました。

このような経験があったおかげで、現在の役割を果たすことができていると感じています。

株式会社estie

株式会社estieにジョインし、入社して約3ヶ月後にVPoPとなり、複数のプロダクトをマネジメントしています。プロダクトマネージャーと事業責任者を行き来しながら業務を進めており、ビジネスディベロップメントとプロダクトマネジメントの両面で取り組んでいます。

このようなキャリアを通じて、ビジネスとプロダクトの両面で経験を積み、現在の役割に至っています。

リクルート時代に鍛えられたProduct StrategyとInfluencing People

出典:https://www.ravi-mehta.com/product-manager-skills/

── キャリアについてお伺いしましたので、続いてスキル周りについてお聞かせいただきたいと思います。事前にご回答いただいたPMコンピテンシーに基づいてお話を進めます。強みとして評価されたProduct StrategyとInfluencing Peopleの領域について、どのようにスキルを開発してきたのかエピソードをお伺いできればと思います。特に強みとして挙げられる部分とそのスキルの培われ方について教えていただけますか?

久保:ありがとうございます。そうですね、Product StrategyとInfluencing Peopleの領域が強みだと思います。

まず、Product Strategyについてですが、特に戦略理解の部分が強みです。このスキルはリクルート時代の経験が大きいです。先ほどお話したプロダクトのPMFをし直すプロセスで体験したことがここに生きていると思います。

次に、Influencing Peopleについてですが、こちらも同様にリクルートでのマネジメント経験が大きいと思います。リクルート時代には最大で30人強のチームを直接マネジメントし、全国では100人単位のビジネスメンバーを間接的にマネジメントしていました。これにより、戦略を作るだけでなく、それを「どのように推進してもらうか」という部分を経験することができました。正直苦手な部分でもあり、なかなかうまくいかないこともあったのですが、戦略を現場に浸透させるためにどのようにチームをリードし、動機付けるかを学べました。

このような経験を通じて、Product StrategyとInfluencing Peopleのスキルが培われ、強みとなっています。その後、プロダクトマネージャーとしての戦略理解やリーダーシップの重要性を理解し、それを実践することで、これらのスキルが磨かれてきたと思います。

── 特にリクルートでのマネジメント経験と、それをプロダクトのプロトコルに置き換える部分について、もう一度詳しく教えていただけますか?

久保:当時は全国に営業メンバーがいて、彼らをどのように動かしてプロダクトをデリバリーするかという戦略を立てていました。特に、戦略を作るだけではなく、それをどのように推進してもらうかというある種リーダーシップの部分が重要でした。

実際にセールスや営業マネージャーとして経験したことを、そのままプロダクトマネジメントに生かすというのは難しい部分もあります。しかし、これをプロダクトマネジメントのプロトコルに変換することは可能です。このリフレーミングは、プロダクトマネージャーを担うようになった後に、いろんな知識を学びながら内省を通じて行っていきました。

このようにリクルートでの経験が基盤となり、そこに明石さんとのディスカッションや現在のestieでの多くのプロダクトをリードする経験が肉付けされていったと感じます。
一方で、要件定義やQAなど、まだまだ改善の余地がある部分も多いです。特に技術基盤領域のプロダクトマネージャーを担当していた時期には、必死に勉強してエンジニアと会話を揃える努力をしました。自分の強みを活かしつつ、足りない部分は後から埋めていったりチームの助けを得ながら、チーム全体でプロダクトマネジメントを行うことが重要だと思います。

マイルールは「どんなに辛い環境でも一歩でも前に進む」と「直感」

── 行動指針や大切にされているマイルールがあれば教えていただけますか?

久保:大事にしている考え方についてお話しします。まず、一つ目は「どんなに辛い環境でも一歩でも前に進む」ということです。どんな状況でも、一歩一歩前に進むことが大切だと思っています。歩みを止めた瞬間に全てが終わってしまうので、どんなに苦しくても辛くても、または楽しい時でも、必ず一歩を前に進めるということを大事にしています。

二つ目は「直感を大事にする」ことです。迷った時には、自分の感覚的な直感に従うようにしています。というのも、「合理」で決められるうちは誰が考えても大抵同じ結論になるものであり、まだ思考の水準が浅いと思っています。意思決定を「好き嫌い」や「美しさ」など感性に従って行動する水準に至っていることが、自分の中での一つの指標になっています。「直感」というのは自分自身の「経験の積み重ね」や、「言葉にはしきれないが得ている情報」から導き出されるものだと捉えています。ある種、より高次で自然体に取り組むことができます。

これらの行動指針を大切にすることで、常に前進し続け、自分らしく仕事に取り組むことができると考えています。

いいチームを作るためには「ストーリーを語ること」「同じものを見てチームで戦うこと」

── いいチームを作るために何か工夫されていることはありますか?

久保:まず一つ目は「ストーリーを語ること」です。物語を語ることで、チームメンバーが共感し、一緒に働きたいと思えるようなビジョンを共有することが重要です。いいチームを作るためには、いい人材を採用することがスタートであり、彼らが共感し、一緒に働きたいと思うような物語やビジョンを伝えることを大切にしています。個人的な意見ですが、これはプロダクトマネージャーが会社の代表以上に語れるようになるべきだと考えています。

二つ目は「同じものを見てチームで戦うこと」です。これはリクルート時代の上司が言っていた言葉ですが、非常に大事な考え方だと思っています。チーム全員が同じ目標を共有し、その目標に向かって一緒に戦うことで、その行動のレベルが変わります。

これら二つの考え方、すなわちストーリーを語ることと、同じ目標を共有して戦うことを大事にすることで、いいチームを作ることができると考えています。物語を通じて共感を生み出し、共通の目標を持つことで、チーム全体の結束力を高めています。

── ストーリーを語る上で、具体的にどのようなシーンで語っているのか、内部のメンバー向けにどのように話しているか、具体例を教えていただけますか?

久保:今年の2月に、プロダクトマネジメントチームでプロダクトビジョンや戦略を発表する機会がありました。各メンバーがそれぞれのプロダクトのビジョンを発表し、その内容を踏まえて私が戦略パッケージとして発表するというものです。

このような場面で一番大事にしているのは、「自分個人がなぜそれをやるのか」という点です。

プロダクトビジョンや戦略を話す際には、自分の過去の経験や背景と結びつけて説明するようにしています。なぜこの不動産の領域で働きたいのか、なぜこのプロダクトを作りたいのかを、自分の経験や思いを交えて話すことで、メンバーに共感してもらえるようにしています。

例えば、私で言えば、「私の地元では祭りが非常に盛んであり、ある1日だけその街の人口が10倍になるという経験がある。その時に感じていた場のエネルギーやコミュニティの重要性が原体験であり自分の原動力。この不動産の領域で働くことで、その「場づくり」に携わり、人々の生活をより良くできる。だから自分がやる」というように話します。

これにより、プロダクトのビジョンや戦略がただの計画ではなく、私自身の思いや背景と結びついたものとして伝わりやすくなります。

このように、ストーリーを語る際には、個人的な経験や背景を交えて話すことで、メンバーとの共感を生み出し、一緒に目指すビジョンを共有しています。

情報を正確に理解し一定の確度を高めたら、リスクを取ってリターンの大きいことに挑戦する

── 質の高い企画や筋の良い打ち手を生み出すために何か工夫されていることがあれば教えてください。

久保:「質の高さ」や「筋の良さ」というのは最終的に結果を見ないと判断できない部分が多いですが、如何に「蓋然性の高いもの」を作るかが大事だと思っています。しかし、スタートアップでは「蓋然性の高いこと」ばかりを追求するのは逆効果です。

誰から見ても蓋然性が高いことをやるのであれば、大企業の方が資本力が高いという意味で有利に進めることができます。スタートアップが勝つためには、「自分たちしか持っていない情報」や「技術」を活かして、資本だけでは勝てない部分を作り出していくことが大事です。ですので、私は情報が20%から30%集まった段階で意思決定をすることを意識しています。リスクを取ってリターンが大きいことに挑戦することが重要です。

もう一つ大事にしているのは「情報に身体感覚を持つ」ということです。全ての顧客に直接会うことはできないため、セールスやカスタマーサクセスから上がってくる議事録などの情報を、自分がその場にいたかのように感じ取ることが重要です。この情報を正確に理解し、自分のバイアスを排除して、プロダクトマネジメントに活かすことが大切です。

具体的には、議事録の情報から顧客が何を言っているのか、どのようなニーズや課題があるのかを正確に読み取り、それを基にプロダクトの方向性を決めていきます。情報の構造や考え方を捉え直し、それをプロダクトに反映させることで、質の高い企画や筋の良い打ち手を生み出すことができます。

このように、リスクを取る意思決定と情報の身体感覚を大切にすることで、質の高い企画や戦略を生み出す工夫をしています。

──その考え方や経験を駆け出しのプロダクトマネージャーやメンバーに伝えるとしたら、どのようなメッセージを送りますか?

久保:難しい質問ですね笑。あえてお伝えするのであれば、「情報の箱を作る」という考え方をおすすめしています。

「この情報はこのジャンルに属する」とラベリングするための「引き出し」を頭の中に作ることが大切です。例えば、不動産業界であれば、業界全体のバリューチェーンをはじめに理解し、それらを引き出しとして持つことで、新しい情報を得るたびに「その情報はその中でどの部分に当たるのか」を整理することが可能になります。「これは不動産の取得担当者の声だな」といった具合にポストイットを貼るようなイメージを持つと良いです。

そういった考え方もあり、私はプロダクトマネージャーとして新しい会社に入った時、すぐに顧客に会いに行くのではなく、まずは業務プロセスやビジネスモデルの構造を理解することをお勧めしています。その上で、顧客の声を聞いた時に、それがどの部分の話なのかを整理していくことで、部分的な声に惑わされることなく、全体感を持って情報を整理することができます。

少し遠回りに見えますが、情報を正しく分類し、整理することで、結果的にキャッチアップがスムーズに進みます。例えば、「この情報は不動産の取得担当者から来ている」「この声は顧客の特定のニーズを反映している」といった具合に情報を整理することができます。

この方法を実践することで、質の高い企画や筋の良い打ち手を生み出すための「基盤」を築くことが出来ると思います。

久保さんからのおすすめ本

── プロダクトマネージャー向けにおすすめの本があれば教えてください。対象は現役のプロダクトマネージャー、駆け出しの方、これから目指される方でも構いません。

久保:たくさんありすぎて悩むところですが、一冊挙げるとしたら『世界はシステムで動く ― いま起きていることの本質をつかむ考え方』です。この本はシステム思考について書かれており、プロダクトマネジメントに非常に役立つ内容です。この本の元となった『成長の限界: ロ-マ・クラブ「人類の危機」レポ-ト』もおすすめです。

システム思考はもともと経営のための考え方ではなく、生物学や生態系から来ています。プロダクトも点で動くものではなく、面やシステムで動くものなので、フィードバックループなどの概念を頭に入れることは重要です。

もう一冊おすすめするとしたら、『[新版]ブルー・オーシャン戦略―――競争のない世界を創造する』です。戦略論の本で、特にスタートアップにいる方々におすすめです。リソースが限られている中で、どうやって一点突破で勝つかという考え方が学べます。弱者の戦略を理解するのに役立つ内容です。

既に読まれている方が多い気もしますが、ぜひ読んでみてください。

最後に

久保さんのお話はいかがでしたか?

今回、さまざまなお話を伺い、久保さんのキャリアや考え方、そしてプロダクトマネジメントの実践について深く知ることができました。特に、セールスやビジネス領域での経験を生かしながら、プロダクトマネージャーとしての戦略や実行力を発揮してきたお話が非常に印象的でした。

ビジネス全体を捉えた上での戦略策定と実行、プロダクトの立ち上げやグロース、そして現在のコンパウンドスタートアップの取り組みまで、一貫して高い視座で取り組まれていることが伝わりました。また、明石さんとの指導を受けながら、プロダクトマネジメントのプロトコルに置き換えていく過程も非常に興味深かったです。

久保さんのキャリアは、セールスやビジネス領域からプロダクトマネージャーに転身し、成功を収めてきた非常に貴重なケースだと思います。その経験や知見をもとに、今後も多くの方々に影響を与え、支援していくことを目指されていることに感銘を受けました。

今回のインタビューを通じて、ビジネス側からプロダクトマネージャーを目指す方々にとって、大きな希望と具体的な指針を示していただけたと思います。

同社のプロダクトマネージャー 中村 優文さんのインタビュー記事も合わせてお読みください!

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