プロダクトエンジニアの浸透に取り組むアセンドのCTOから学ぶ!アウトカムを最大化させるための組織づくりのヒント

今回は、アセンド株式会社で取締役CTOを務める丹羽健さん(@niwa_takeru)にお話を伺いました。

丹羽さんは、新卒で入社したSIerと、行政系スタートアップ企業にてエンジニア畑を歩み、アセンドでの副業を経て2021年に入社と同時にCTOに就任。物流業界向けのSaaSプロダクトを技術面からプロダクトマネジメントしています。

社会人になる前に経験した原体験を通じて「社会に貢献できる仕事」を追及し、エンジニア時代からプロダクト志向を持つことの重要性を認識し、自律的なプロダクトエンジニアを育てることに尽力されています。

丹羽さんのお話を通じて、プロダクトエンジニアについての理解やアウトカムを最大化させるための組織づくりのヒントを得ることができると思います。

物流業界のデジタル化を支えるSaaSのCTO

── まずはご自身の仕事について教えてください。

丹羽:アセンド株式会社で取締役CTOを務めております。現在、エンジニア組織全体、7名のプロダクトエンジニア組織を構築し、物流業界に向けたオールインワンの運送管理SaaSを開発・提供しています。

私たちが取り組んでいる物流業界は、日本で最もデジタル化が遅れている産業です。総務省の統計データによると、物流業界、特にトラック運送業者のクラウドサービス利用率は60%台で、(Google  WorkspaceやMicrosoft 365といったグループウェアの類などを除いた)基幹業務をクラウドで管理している企業は10%未満とされています。そこで私たちは、トラック運送業者向けのあらゆる業務をデジタル化することを目指し、「ロジックス」というオールインワンサービスを提供しています。これは、トラックの運行管理、車両点検、ドライバーの労務管理、請求書の発行、経営分析など、広範囲の業務をサポートするプロダクトです。デジタル化の遅れが大きな社会的なロスを起こしていると感じており、業務のデジタル化を推進しています。

また、その傍らで、今年5月には”TSKaigi”というTypeScript系のカンファレンスを立ち上げ、さらに、プロダクトエンジニアの技術コミュニティ”Product Engineer Night”の運営も手掛けています。

── アセンドでのCTOとしての業務に加えて、幅広い取り組みをされていますが、そのモチベーションの源泉は何ですか?

丹羽:私はファーストキャリアとしてSIerでの経験があります。新卒で社会人になった時から、社会軸を大切にしていました。SIerとして技術を用いて社会に貢献する仕事を重視しており、その後、行政系スタートアップで電子申請のデジタル化に携わり、現在は物流業界でのデジタル化に取り組んでいます。特に、エンジニア自身が社会に貢献できる仕事を提供することに強いモチベーションを感じており、エンジニアやプロダクトエンジニアに対する情報発信にも力を入れています。

── アセンドでは物流業界におけるデジタル化の遅れが大きな社会的ロスだと捉えてプロダクトの提供をしているとお伺いしましたが、今後どういった価値提供を実現していきたいと考えていますか?

丹羽:物流業界のデジタル化は、業界全体の効率を大幅に改善するだけでなく、社会全体のつながりや広がりにも寄与します。古代エジプトのピラミッド作りにおいても資材を運ぶという営みが存在したように、物流は古くから社会をつなげる機能を果たしてきましたが、現代においてもその重要性は変わりません。私たちは、この物流機能の進化を促進し、将来的には物流のデジタル基盤を作り上げることを目指しており、運送会社だけでなく、荷主企業や他の産業にも波及する影響を期待しています。

「物流の真価を開き、あらゆる産業を支える。」

── 続いて、プロダクトビジョンや企業のミッション・ビジョンなどについて教えていただけますでしょうか?

丹羽:アセンド株式会社では、「物流の真価を開き、あらゆる産業を支える。」というミッションを掲げています。このビジョンのもとで、私たちが提供するSaaSプロダクト「ロジックス」は、最初のステップに過ぎません。物流業界、とりわけデジタル化が最も遅れている領域の一つであるトラック運送業界に焦点を当て、そこで実績を作ることで次なるステップの強力な鍵となると考えています。

物流業界はデジタル化が最も遅れているため、私たちは誰も手を付けていないデータを収集し、これを基に荷主企業と運送会社をつなぐプラットフォームを展開していく計画です。このように、私たちのアプローチは戦略的で、物流業界全体を視野に入れたものであり、最終的には業界全体のデジタル化を牽引する存在を目指しています。

── 企業ミッションとそこに向けてのアプローチが非常に戦略的で興味深いですね。

丹羽:そうですね。弊社の代表・日下はPwCやNRIといったコンサル業界出身で、特にNRIでは物流系のコンサルティングに従事していたため、マクロな視点で物流というドメインについて俯瞰した上で、しっかり物流の現場で実行する必要があるという課題感から弊社の創業に至っているため、そのような戦略的なロードマップが掲げられていると認識しています。

── 非常によく理解できました。そうした企業のミッションと、丹羽さんの価値観やキャリアビジョンなどが繋がっているなと思う点はありますか?

丹羽:私の価値観やキャリアビジョンは、社会軸を大切にして仕事をすることにあります。私自身、母子家庭で育ち、母親の尊敬すべき姿勢を見て育ちましたが、亡くなった父親が社会的に意義のある仕事をしていたことも、私の人生に大きな影響を与えました。父は1990年代後半にNTT系列の企業でインターネット普及を推進する仕事をしておりました。その後、父は他界してしまったのですが、その働きがあって社会がアップデートされた、というふうに思い、私も社会に残る仕事をしたいと強く思うようになりました。

そのため、私のキャリア選択は常に社会に貢献できるかどうかを基準にしてきました。そして、今では”Product Engineer Night”や”TSKaigi”などの技術コミュニティの運営にも取り組んでいますが、これも社会にポジティブな影響を与えたいという思いからです。こうした取り組みを通じて、人々のキャリアや人生が少しでも良い方向に進むように貢献したいと考えています。

業界のデジタル化を推進するためにプロダクト志向を持つエンジニアを育てる

── 現在向き合っている課題と、それをどのように解決されようとしているのかお伺いできますでしょうか?

丹羽:私たちのエンジニア組織は「プロダクトエンジニア組織」と呼んでいます。技術志向ではなく、プロダクト志向で各エンジニアが働くことを重視しているからです。私たちが向き合っている課題は、運送業のあらゆる業務をデジタル化しなければならないという点です。スタートアップという限られたリソースの中で、複雑な物流ドメインを理解し、システムを構築する必要があるため、一人一人のエンジニアがプロダクト志向で機能するプロダクトを作り上げることが最も重要な課題となっています。

この課題に対処するために、エンジニアにプロダクトマネジメントの一部を任せる形で、「プロダクトエンジニア」としての役割を果たしてもらっています。具体的には、複数のプロダクトを同時に展開しながら、また、プロダクトマネージャーの多人数の採用が現状では難しいということもあって、各プロダクトエンジニアがプロダクトマネジメントも担う形で進めています。

── プロダクト志向を持つために、どのような育成や機会提供を行っていますか?

丹羽:プロダクトエンジニアが顧客に対するオーナーシップを持てるようにすることが重要だと考えています。そのために、エンジニアが実際に顧客と接する機会を設けています。例えば、商談や機能要望の場にオンラインやオフラインで参加してもらい、顧客の課題を直接見聞きすることで、その課題を解決するためにどうすれば良いかを具体的にイメージできるようにしています。

オーナーシップを持つことがプロダクト志向の起点になると考えており、エンジニアに裁量を与えることで、そのオーナーシップを維持できる環境を整えています。具体的には、プロダクトの仕様策定やソリューションの提案において、エンジニア自身が意思決定権を持ち、自分で考えたソリューションを実装し、顧客に届けるまでのプロセスを担当しています。

── そのようにエンジニアに権限を与える際、どのような課題や戸惑いが生じることがあるのでしょうか?

丹羽:当然、最初は戸惑いや壁にぶつかることも多いです。特に、仕様策定や顧客の声を聞くことは一定の技術やスキルが必要です。そのため、私たちはプロダクト志向を持てる人を採用し、その後の技術的なスキルやノウハウを教えるようにしています。新しく入ったメンバーには、リードプロダクトエンジニアという師匠的な存在が付き、師弟関係を築きながら育成を進めています。リードプロダクトエンジニアが新メンバーの仕様策定や技術的なアドバイスを行い、共に成長できるようサポートしています。

── プロダクトエンジニアを含むプロダクトマネジメントの推進体制について、具体的に教えていただけますか?

丹羽:体制としては、CPOの森居とCTOである私がツートップで、ビジネスと技術の両面からプロダクトを管理しています。森居はプロダクトマーケティングやカスタマーサクセスの領域も含め、事業全体のマネジメントを担当し、私は技術面からのアプローチを中心にプロダクトマネジメントしています。その下には、リードプロダクトエンジニアが各プロダクト領域(例えば、労務管理、車両管理などの機能)をマネジメントし、その下に各メンバーが配置されています。

── 将来的にはプロダクトマネージャーの採用も視野に入れていますか?

丹羽:そうですね。プロダクトエンジニア組織においてもプロダクトマネージャーは欠かせない存在です。エンジニアが事業領域まで越境してプロダクトマネジメントを担うことには限界があるため、将来的にはプロダクトマネージャーを採用し、より高度なプロダクトマネジメントを行い、プロダクトエンジニアと共存していくことでより価値を高めていけると考えています。

──改めて、プロダクトエンジニアの定義についても改めて教えていただけますか?

丹羽:プロダクトエンジニアは技術志向ではなく、プロダクトの成功や失敗に責任を持つエンジニアです。0→1フェーズで仮説検証を進め、顧客にフィットするプロダクトを作り上げることが求められます。また、エンジニア自身がオーナーシップを持ってプロダクトを改善し続けることも重要です。

私がnoteに書いた「プロダクトエンジニアとは何者か」も合わせてご覧ください。

──技術志向のエンジニアとプロダクトエンジニアの共存についてはどう考えていますか?

丹羽:技術志向のエンジニアも非常に重要です。エンジニア組織全体としては、技術志向のエンジニアが活躍できるプラットフォームチームやイネーブリングチームも必要だと考えています。ただし、現在はプロダクトを磨き上げることが最優先であるため、全員がプロダクトエンジニアとして取り組んでいます。

※インタビュー後に、丹羽さんが公開されたnote「なぜアセンドにプロダクトエンジニアが必要なのか」も合わせてご覧ください。

プロダクトマネージャーには「戦略的、情熱的、そして意欲的になれるロードマップを描くこと」を期待

── CTOやプロダクトエンジニアの視点から、プロダクトマネージャーに期待することを教えていただけますか?

丹羽:そうですね、プロダクトマネージャーに対して求めることとしては、まずロードマップを示すことが挙げられます。プロダクトマネージャーは、お客様の課題に対して最も解像度が高く、それをもとに戦略的かつ意欲的なロードマップを描くべきだと考えています。何ができるかではなく、どの課題をどのように解決するかを考え、その結果として意欲的なロードマップを作り上げてほしいですね。

プロダクトエンジニアはそのロードマップに基づいて全力で貢献しますが、もしロードマップが不十分だと、お客様にとって刺さらないプロダクトになってしまう可能性があります。また、私たちのミッションである「物流の真価を開く」という目標達成が遅れてしまうことにもなりかねません。そのため、プロダクトマネージャーには、戦略性の高い、そして燃えるような情熱を感じさせるロードマップを作ってほしいと期待しています。

── その意欲的なロードマップを作るためには、他にどのような要素が重要だと考えますか?

丹羽:ロードマップは、単に機能を開発して終わりではなく、その機能が次のステップへどのようにつながるかを明確に示すことが大切です。例えば、アセンドのロードマップでは、物流全体をデジタル化するという目標に向けて、最初に最もデータが取りづらい運送会社の部分に焦点を当てています。これは、難しい課題に挑むことで、より大きな価値を生み出す戦略的なアプローチです。このように、理由や背景をしっかりと持った戦略的なロードマップこそが、解像度の高い、意欲的なものだと考えています。

SIer時代に養われたプロダクト志向を組織や社会の成長に活かす

── これまでのキャリアについて、そしてどのような経緯でプロダクト志向を持つようになったのかについて教えていただけますか?

丹羽:私は新卒でSIerに入社し、当初は「良いシステムを作って社会に貢献する」という考えを持っていました。しかし、今では「良いプロダクトを作って社会に貢献する」という風に変わりました。この変化の大きなきっかけは二つあります。

一つ目は、SIer時代に担当したプロジェクトです。技術的に難しいシステム要件を抱えた大炎上プロジェクトに携わり、その中で仕様統括としての役割を担いました。多くの同僚が体調を崩す中、プロジェクトを何とかやり遂げましたが、完成したシステムは結局お客様に使われることがありませんでした。この経験が大きなショックで、どれだけ努力しても、システムが実際に使われなければ意味がないと痛感しました。ここで初めて、システムを作るだけでは不十分であり、プロダクトとしての価値が重要であることに気づいたのです。

二つ目は、その後に携わった別のプロジェクトです。小規模で新規プロダクトを立ち上げるチームに配属され、そこでは全員がプロダクト志向を持っていました。お客様と一緒にプロダクトを作るという強い意識を持ったチームで、プロダクトマネージャーやエンジニアマネージャーが顧客の課題解決に真剣に取り組んでいました。この経験が、私にとってプロダクト志向を持つきっかけとなり、エンジニアとしての役割がただシステムを作ることではなく、顧客に価値を提供するプロダクトを作ることだと確信することができました。

これらの経験を通じて、プロダクト志向が私のキャリアの中心に据えられるようになりました。また、こうした経験を他のエンジニアにも共有し、彼らが同じように成長できる環境を作ることが、私の現在の役割の一つだと感じています。

── 丹羽さんご自身が経験されたことを、他のエンジニアにも提供できるようにするというのは素晴らしいですね。そのマインドの変化やターニングポイントについてもお伺いできますか?

丹羽:そうですね、一番大きなターニングポイントはCTOになったことだと思います。アセンドのCTOになるというのは、ある意味で偶然のようで必然の結果でしたが、それが私のキャリアにおいて大きな変革をもたらしました。

アセンドに入る前、アセンドの創業メンバーの一人である増谷と私がSIer時代の同期という関係で、それを通じて現代表の日下や他の創業メンバーとつながり、社会人勉強会などで情報交換をしていました。アセンドの創業時、彼らが物流業界で起業することになり、私は副業としてプロダクト開発を手伝う形で関わり始めました。しかし、物流業界という社会的に重要でありながらも、エンジニアの注目が集まりにくい領域で彼らが直面していたプロダクト開発の課題を見て、私自身がここで本気で貢献すべきだと感じるようになりました。

その後、CTOとして正式に参加することになり、プロダクト志向や社会貢献という私の信念をもとに、会社を成長させる役割を担うことになりました。こうした偶然のつながりが、結果的に私のキャリアに大きな影響を与えたのだと思います。

── 人とのつながりや偶然がキャリアに影響を与えることがあるというお話、とても興味深いです。まさに、そうしたつながりが現在のCTOとしての役割につながったんですね。

丹羽:はい、そうですね。社会人勉強会を通じたつながりが、結果的にアセンドでの役割に結びついたのは、本当に偶然のようで必然だったのかもしれません。そうした人とのつながりを大切にしながら、これからも社会に貢献できるプロダクトを作り続けていきたいと思います。

新しいスキル獲得の前提として「オーナーシップを持って取り組む」ことが重要

── 丹羽さんはSIerにてキャリアをスタートし、その後、プロダクト志向を持ちながらプロダクトエンジニアとして活躍され、現在はCTOとしてご活躍されています。エンジニアとしてのテクノロジー領域のスキルは当然積まれてきたと思いますが、ドメインやUXデザインのスキルについては、どのように獲得されてきたのか教えていただけますか?

丹羽:まず前提として、スキルを獲得する際には、必要性を感じてオーナーシップを持って学ぶことが大切だと思っています。つまり、何かを学ぶ必要が生じたときに、その学びに取り組むことが最も効果的だということです。特に、ドメイン知識やUXデザインに関しては、具体的な課題解決のために必要が出てきた際に学ぶことが重要です。

ドメイン知識に関しては、主に三つの領域に分類できます。一つ目は、座学で学べる知識です。例えば、トラック運送業に関する「運行管理者」という資格試験や労務管理の「労働基準法」などの法律が該当します。これらは、書籍やインターネットで調べることで習得できる知識です。

二つ目は、現場知識です。これは、お客様の個別事情や実際の業務フローを理解するための知識で、現場訪問や商談などで直接お客様と接することで得られます。こうした知識は、時間をかけて現場での経験を通じて蓄積していくものだと考えています。

三つ目は、プロダクトのロードマップや将来ビジョンに関する知識です。ドメイン知識や現場知識は現状に基づいたAsIsの情報ですが、プロダクトはToBeの状態を描く必要があります。このため、将来的なビジョンやアセンドのミッションに基づいて、どのようなプロダクトを目指すべきかを理解し、学び続けることが求められます。

UXデザインについては、現在私たちのチームには専門のデザイナーがいませんので、エンジニア自身がデザインを担当しています。業務設計が重要なプロダクトでは、綺麗なUIよりも、業務が円滑に進むことが重視されます。これを実現するために、エンジニアがドメイン知識を活かしながら、簡単なデザイン知識を持ってUI/UXを設計しています。

プロダクトエンジニアを育てるためにメンバーとの壁打ちを大切にする

── 丹羽さんが大切にしている行動指針やマイルールはありますか?

丹羽:改めてになりますが、私が大切にしているのは「プロダクトエンジニアを育てる」ことです。プロダクトエンジニアが自律して働けるようになることが、一人前のエンジニアとしての重要なステップだと考えています。プロダクト作りには正解がないことが多く、いかに質の高い仮説を立て、それを実現するためにやり続けるかが重要です。これを実践できる人材を育てることが、私の役割だと思っています。

そのために、メンバーと話すときには「壁打ち」を大切にしています。同じ視点で議論し、私自身も「これは一意見だ」というスタンスで取り組んでいます。プロダクト仕様策定をボクシングに例えるなら、私はメンバーと一緒にリングに立ち、お互いに意見をぶつけ合いながら最適な解を見つけることを目指しています。上下関係や等級に関係なく、フラットな視点で向き合うことを意識しています。

また、事業のタイムラインと人材育成のバランスを取ることも重要です。育成のためには時間が必要ですが、事業の進行速度も考慮しなければなりません。そのため、メンバーが自主的に動き出すためのきっかけを与えつつ、定期的に進捗を確認し、リズムを作ってあげることを心がけています。

── プロダクト仕様策定をボクシングに例えたのがとても印象的ですね。けんけんがくがくと議論される姿が目に浮かびます。

丹羽:そうですね。CTOとしてメンバーが増えるにつれ、こうした機会は少なくなってきましたが、議論を重ねることでメンバーの動き方や考え方が大きく変わるのを感じますので、やはり重要な取り組みだと改めて実感しています。

良いチームづくりのために心がけている3つの要素 – 「採用での同質性の見極め」「ワークとライフの両立」「個性を活かす」

── いいチームを作るために工夫されていることはありますか?

丹羽:そうですね、今まで働いてきた中で、現在のチームが一番良いチームだと感じています。それは組織設計に工夫を凝らしている部分もありますが、メンバー一人ひとりの自主性や個性が大きく影響していると思います。ですので、一概に答えるのは難しいのですが、特に大切にしている三つの要素があります。

一つ目は、採用の段階での議論です。ミッションに共感し、プロダクト志向であることなど、一定の同質性が必要だと考えています。また、人としての基本的な良識や誠実さを持っていることも重要です。そうした基準で選ばれたメンバーが集まることで、自然と良いチームが形成されると感じています。

二つ目は、メンバーが良い状態で活躍できるようにすることです。プロダクトエンジニアとして採用した以上、その人がプロダクトエンジニアとして働きやすい環境を整えることが大切です。ここでは、心理的安全性を超えて、メンバー同士が深い信頼関係を築けるようにしています。アセンドでは「前向きな公私混同」という考え方があり、家庭や個人の事情を理解し、サポートし合う文化を大切にしています。ワークライフバランスではなく、ワークとライフを統合して両立させることを目指しています。

三つ目は、メンバーの個性やタレントを活かすことです。プロダクトエンジニアと一口に言っても、ゼロイチフェーズが得意な人や、運用・改善が得意な人など、さまざまです。プロダクトのロードマップに基づいて、適材適所にメンバーをアサインすることで、メンバーが最も力を発揮できるようにしています。その結果、チーム全体が早く成長し、成果を出しやすい環境が生まれているのだと思います。

アウトカム最大化のためにプロダクトエンジニア組織を育てる

── アウトカムを最大化するために、CTO視点やプロダクトエンジニア視点、または他の視点でも構いませんが、何か工夫されていることはありますでしょうか?

これも難しい質問ですが、プロダクトエンジニアという考え方自体が、アウトカム志向の一環だと思っています。システムをただ開発するだけでなく、それが実際にお客様の課題をどれだけ解決したか、そして事業の成果にどのように反映されたかが重要です。これはまさにアウトカムだと感じています。

エンジニアの働きが企業の数字にどのように表れるかを明確に因果関係として示すのは、非常に難しいことです。営業であれば、売上などの数値で成果がわかりやすいですが、技術的な部分でアウトカムを測るのは容易ではありません。ただ、その難しさがあるからこそ、プロダクトエンジニアとして常に「お客様を満足させられたか」「どのように事業に貢献できたか」という視点を持ち続けることが大切だと考えています。

このようなアウトカム志向は、日常の会話やカルチャーにも反映されます。普段の会話や議論の中で、どれだけアウトカムに焦点を当てて話を進めるかが重要だと思っています。それが組織全体のカルチャー形成にも繋がると感じています。

丹羽さんからのおすすめの本

── CTOやプロダクトエンジニアにおすすめの本がありましたらご紹介お願いします!

「学習する組織――システム思考で未来を創造する」ピーター・M・センゲ

丹羽:この本は、組織マネジメントについて書かれており、ドラッカーが提唱するような組織作りからさらに一歩踏み込み、一人ひとりのパフォーマンスを最大化させるためのマネジメントスタイルを紹介しています。

『学習する組織』では、人間の可能性を大切にしながら、組織が成長していくための考え方が述べられています。その中でも特にシステム思考が重要なポイントです。プロダクトや組織は一つのシステムとして捉えることができ、その中で行った一つの改善が、他の部分にどのような影響を与えるかを俯瞰して考える必要があります。このシステム思考は、CTOとして組織全体を見渡し、最適化を図る上で非常に役立つものです。

システム思考はロジカルな思考法とも関連しますが、それ以上に、ロジックや数字だけでは見えない部分を理解するための視点を提供してくれます。『学習する組織』は、こうした視点を持つことの重要性に気づかせてくれた本であり、私の中で特に大切にしている一冊です。

最後に

丹羽さんのお話はいかがでしたか?
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