今回は、株式会社カンリーで執行役員CPOを務める友近 玲也さんにお話を伺いました。
「店舗経営のすべてに関わる必要がある」。 友近さんは、そう力強く語ります。
多摩美術大学卒業後、大学院修了などを経て、Sansan株式会社にて名刺アプリ「Eight」のデザインチーム立ち上げなどに従事。その後、独立してプロダクトデザインとマネジメントの支援を行い、ボストンコンサルティンググループのデザイン・プロダクトマネージャー(以下、PdM)組織の立ち上げにも携わるなど、多彩なキャリアを歩んできました。現在は「カンリー店舗集客」を中心に、店舗事業者の課題解決に取り組んでいます。
本記事では、
- 店舗事業者が抱える「顧客接点の複雑化」という課題
- AIエージェントを活用した店舗マーケティングの最適化
- 「PdMとデザイナーを分けない」独自の組織づくり
など、プロダクトのビジョンからチーム運営の実践知まで深掘りしました。
「店舗×マーケティング×AIエージェント」という壮大なテーマに挑む友近さんの言葉は、多くのPdMにとって共感や気づきのきっかけになるはずです。ぜひ最後までご覧ください。
目次
① 自己紹介とプロダクト紹介

── まずはじめに、自己紹介と担当プロダクトを紹介お願いします!
友近と申します。株式会社カンリーで執行役員CPOを務めています。
私の担当範囲としては、プロダクト全体を責任を持って監修しているのですが、当社の部署の中では、PdMとデザイナーとディレクターという3職種が混在していて、一気通貫でプロダクトの実装以外の部分——設計や戦略といったところを担う組織を率いています。
当社のメインプロダクトは「カンリー店舗集客」という、店舗事業者様向けーいわゆるBtoBのSaaSツールです。現在、複数店舗事業者を中心に、日本で11万店舗ほどの導入実績があります。
たとえば、20店舗、30店舗以上の複数店舗を展開している事業者様の場合、店舗ごとにGoogleマップのアカウント、Yahoo!マップのアカウント、Appleマップのアカウント、さらにはSNSアカウントなど、さまざまなツールが必要になります。
これが2〜3店舗ならまだしも、超大手チェーンで100店舗、500店舗、1,000店舗以上あると、Googleマップのアカウントを管理するだけでも1,000店舗分のログイン・ログアウトが必要になってしまいます。しかもGoogleだけでなく、Yahoo!、Appleと媒体数をかけていくわけです。
たいていの事業者様は、本部のIT担当者やマーケティング担当者が、日々、媒体管理をしています。となると、たとえば営業時間の変更や口コミへの返信、キャンペーン情報の投稿を1店舗ずつやっていくと、その業務だけで担当者が1週間使い切ってしまうという課題がありました。
これを「カンリー店舗集客」で一元的に管理することで、1回の動作だけですべての店舗で情報更新できたり、(コメントなどへの)返信ができます。他にも「カンリー店舗検索ページ」という、各事業者様の自社ホームページ内に店舗情報を地図と一緒に掲載できるCMSサービスや、「カンリー福利厚生」というBtoBtoCのアプリも展開しています。
「カンリー福利厚生」は、社員だけでなくアルバイトやパートの方も使える福利厚生アプリで、タリーズさんにも導入いただいています。地図ベースのUXで、近くで使えるクーポンが表示される仕組みになっており、自社割引も全国のタリーズで使えるようになるなど、利用率が非常に高いアプリです。
② プロダクトのビジョンや対峙する課題、3年後の未来について

── 業界で「おかしいと思う当たり前」や「もっと良くなる余白」があるとすれば?
店舗事業は、飲食・小売問わず、顧客接点が非常に多いという課題があります。しかも、作業は属人化していたり、人力でやっているのが当たり前になっていて、多すぎてどれをチョイスしていいか分からないという状況。
これを最適化して、さらに集客に繋げることが、私たちのビジョンの中に入っています。店舗事業に携わる方々が、マーケティングに力をかけすぎず、任せるものは任せて、その空いた時間でもっと良い商品をお客様に提供することを考えたり、本質的なことに向き合える、そういう状態を作りたいと思っています。
── カンリーが破壊したい「不公平」とは?
良いものを作っても、人が来なかったら全然意味がない。でも、人を集めるためのマーケティングだけに時間を費やしてしまうのも本末転倒です。
とはいっても、増えすぎたマップやSNS、ペイドメディアなどに対して、必要なものは残し、不必要なところには注力しないとか、間引いてしまうといった意思決定が、店舗事業者の方々はしにくいし、分からないケースも多いと思うんですね。
さらに現在では、AI検索など新しい顧客接点も次々と出てきているので、そういった接点の最適化からの集客最大化をサポートしてあげられる。こうした観点で、不公平を減らせると思っています。
── この課題に初めて胸が高鳴った瞬間は?
最初の課題は私というよりも、弊社の代表が最初に発見した課題です。カンリーは代表2人が銀行と商社出身ということもあり、宴会の店舗を探すのが難しいという自身の課題から、宴会代行サービスを始めました。
店舗に関していろいろなヒアリングをしていく中で、先ほどお話ししたような課題があったんです。その後、コロナ禍が到来し、カンリー自身も少し危ない状況になったときに、店舗事業者の方々に自分たちも相当きつい中で助けていただきました。こうした経緯もあり、店舗の課題をしっかり解消してあげられるサービスで恩返ししたい、という代表の想いがカタチになったというわけです。
私自身としては、最初は店長が各店舗ごとにいろいろやっているのかなと思っていました。ですが、実際はそうではなく、何千店舗あったとしても数人でGoogleマップの更新などをやっていると知ったときは、正直びっくりしました。
しかも同時に、Googleマップで検索している人が格段に多くなってきている中で、Googleマップの情報をしっかり整えれば、検索上位に上がって集客が見込めることを知ったんです。ただ単に、情報を管理するためだけにやるのではなく、それをやる過程の中で間接的に収益も上がっていくというところに、これは解決する価値があるなと思いました。
── 3年後、ユーザーの日常はどう変わっていますか?
「店舗×マーケティング×AIエージェント」というテーマを掲げて、3年後、5年後の社会実装を目指しています。しっかりと店舗における集客にコミットしていくということです。
今は、工数の削減や自動化など間接的な収益を上げていくことがベースになっていますが、もっと直接的な収益にもコミットしていきたい。
そのために、媒体や店舗に関わるすべてのタッチポイントの情報やデータを分析して、本質的にどういうところにどういうお金をかければいいか、どういう情報を流せばいいかというところを整理した上で、しっかりと収益にコミットしていくプロダクトに進化させようとしています。
さらに、AIやAIエージェントが出てきたことによって、店舗のお客様の流れがしっかりと追えるようになった上に、最適化をAIで自動的にできるようにもなりました。これに、今まで私たちがカスタマーサクセスしてきた知見を組み合わせて、人とAIの力で集客を成功させる・最大化させるということを、この3〜5年でやっていきたいと思っています。
一例を挙げると、Googleマップを見て、ホームページに来て予約して来店する、というルートや、SNSからホームページにとんで予約するなど、いろんなルートがあると思うんです。
どのルートで入ってきて、最終的に来店にたどり着いたか、もしくは来店につながらなかったのかというところを、店舗事業者の方々はまだしっかりと可視化したり把握したりできていません。この部分を、私たちがAIエージェントやAIを用いてわかりやすいカタチで提供するイメージです。
最終的には、ダッシュボードを見て、「ここが足りないから、こういったところに力を入れましょう」というところを把握した上で、あとはAIエージェントに任せるだけで終えられるような世界観を作りたいですね。
カンリーに任せれば、無駄なく収益につながる動きが最適化・最大化される——そういうふうに思ってもらえるように、ヒトとAIを活用していくということです。
── 他社ではなく自社でなければ解決できない理由は?
地道に積み上げてきた11万店舗の店舗情報や、CSがしっかりと伴走してきた運営支援のノウハウなど、カンリーにしかない知見やデータをしっかりとAIに学習させる、分析させる、解析させることができます。それによって、より説得力のあるサービスを作れると思っています。
また、すべてをAIエージェント任せにするサービスを作っていこうとは考えていません。引き続き、店舗から温度感のあるヒアリングをした上で、人の支援も付帯しながらプロダクトを開発できることが、強みになってくると思います。
── 解決に向けた現状のイシューは?
店舗業界そのものが、まだまだレガシーな部分があって、DX化できる部分や効率化できる部分がたくさんあります。
マーケティング分野一つとっても、これからのAI検索という新しい導入口が増えていったり、まだまだ分析も足りていません。実はマーケティング以外にも、店舗にはいろんな課題があって、人材不足も話題になっていますし、金融的な部分やサプライチェーンの部分にもまだまだ課題があります。
こうした状況を解決するには、最終的には店舗経営すべてに関わる必要があると思っています。今のビジョンでは、まずはマーケティング分野、主に集客の課題を解決することに注力しています。ですが、ここから先は、マーケティングだけに閉じずに人材や金融など、店舗の課題を解決できる分野ならどこでも進出していきたいと考えています。
組織としての広がりもまだまだ期待できますし、新規事業にもどんどん挑戦していきたいです。
③ 個人のキャリアや考え方について

── これまでのキャリアを教えてください。
まず大学は多摩美術大学を卒業して、その後、慶應義塾大学のシステムデザインマネジメントという大学院を修了しています。
その後はデザイン会社を経て、初めてIT企業に入りました。当時150名にも満たないようなスタートアップベンチャーだった「Sansan」という企業です。
その中でも、20名にも満たない部署に入り、ベンチャー内スタートアップのような形で、名刺アプリ「Eight」の最初の立ち上げフェーズに参画しました。
ブランディングやUI/UX、マーケティングなど、すべてのデザインを担当するデザイナーとして入社したのですが、まだ全然人がいなかったので、デザインチームの立ち上げも行いました。その後、Sansanが上場するまでずっと、Eightのグロースに携わっていました。
Sansanを退社した後は、自身でプロダクトデザインとマネジメントの会社を立ち上げ、スタートアップを中心にデザインやPdMの支援を行いました。
同時に、ボストンコンサルティンググループのデザイン・PdM組織の立ち上げチームにも参加したことにより、大手クライアントの案件も受けるようになりました。
こうした流れの中でカンリーと出会い、2018年頃から業務委託という形でお手伝いをさせていただくことになり、2021年には執行役員CPOとして入社することになりました。
── 強みとして挙げられた「ユーザー体験設計」はどのように磨かれましたか?
とにかく現場で、いろいろな案件をやってみるのが一番の近道です。もっと言うと、再現性のある、自分なりのUXの組み方の理論を持っているといいと思っています。
毎回、現場でしっかりと考えてやっていくのが大事ではあるのですが、一つ自分の中で再現性のある方法論を持っていくと、より理解力が深まると思っています。少なくとも私は、こうした方法を最初に見つけようとしていました。
これがあるだけで、少しイレギュラーな案件が来たとしても対応できる気がしています。
── 具体的にはどういう方法論ですか?
プロダクトやデザインを設計していく時のプロセスを型化することですね。最初に何を整理するべきか、どういうふうに整理するべきか。
たとえばUXのデザインにおいて、いきなり画面を作り始めるのは得策ではありません。関わるすべての単語や動詞などを集めて、どういう概念が関係していて、どういった概念が上の方に来ているかといった整理をまず始めるところからスタートしています。
それができてから、どういう体験を作ればいいかというところで、しっかりと画面の方に落としていく作業が始まるという感じです。ここが自分にとって一つの指針みたいなところになっているので、うちのチームではここを丁寧にやってもらうようにしています。
── その方法論はどのように獲得されたんですか?
基本的には経験です。いろんなパターンの経験をした方がやっぱりいいと思っています。個人的には、本を読むよりも大事なのではという気がしています。
さまざまな領域に関わるというのも必要ですが、一つのプロダクトに携わっている中でも、成長フェーズに合わせていろいろな経験ができるので、そういったことでも大丈夫です。
私自身は、いろんなケースを経験する中で、共通的に本質的に重要だよねというのを、共通項として体系化していったという感じです。こうした経験はもちろん、チームのメンバーにも伝えています。
── 大切にしている行動指針やマイルールは?
先ほどもお伝えした内容と被ってしまいますが、体系だったものを持ち、しっかりとそれを守ってプロダクト設計をするというのが一つです。ちなみに、自分なりのプロダクト理論はテキスト化してあって、表現できるような形にしています。
あとは、プロダクトマネジメントだと、特にヒューマンスキルというか、人間の関わり合いが会社の中でも重要な部署だと思っていまして。エンジニア、ビジネスサイド、経営層と関わるときにも、一つ一つ丁寧にコミュニケーションしていくというのが、めちゃめちゃ基本的でシンプルで当たり前のように聞こえるんですけど、一番大事にしています。
ふだんの行動としては、小さいコミュニケーションを積み重ねて、信頼を築いていくことを意識しています。
なお、最近、弊社では出社頻度が増えていて、週3〜4日ぐらいでみんな出社しているんですが、そこでちょっとした雑談などのコミュニケーションを取っていくことも重要だと思っています。それが後から仕事上での信頼につながっていくというイメージです。
── PdMにおすすめの本はありますか?
メンバーには、本はあまり読まないように言っています。
ハウツー本みたいなものは、個人的にはあんまり意味ないなと思っていまして。基本的なことを学ぶにはいいんですが、実務の中で役に立つかというと、そこまで役に立たないかなと思っています。
というのも、シチュエーションが毎回違いますし、関わる人や人数も全然違うので、本を読んでそれを生かすというよりは、困った時に何か本でちょっと知識を得るみたいな、そういう使い方で読むならいい、という感じですね。
現場の方が確実に学べることが多いので、そこでどんどん自分の頭で考えていった方がいいと思っています。なので、本をめちゃくちゃ読んで勉強していくというのはおすすめしないです。
ただ、あえて挙げるとしたら、UXのベースとなる観察やリサーチ、文脈やストーリーをリサーチしていくときに役に立ちそうな本として、『センスメイキング』という本は面白かったです。
④ 読者へのメッセージ

── 最後に、記事を読んでいる方へメッセージをお願いします!
前半でもお話ししたとおり、まだまだカンリーでは、店舗の経営に対する課題に向き合っていくために、これからもプロダクトをたくさん作っていきます。
そのためには、PdMやデザイナー、ディレクター、さらにこれから新しく生まれる職種もどんどん必要になってくると思っていますし、いろいろな経験を積めると思います。
興味があったら、ぜひご応募ください。ご連絡をお待ちしております!
カンリーで一緒に働きませんか?
友近さんが語ってくださった「店舗経営のすべてに関わりたい」というビジョンに共感した方へ。
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まとめと皆さんへのお願い
友近さんのお話からは、プロダクトを通じて「店舗経営の民主化」を実現しようとする強い意志と、プロダクトマネージャー・デザイナーとしての具体的な実践知を感じることができました。
特に印象的だったのは「PdMとデザイナーを分けない組織づくり」という独自のアプローチと、「本を読むより現場で経験して、自分なりの方法論を体系化する」という学び方です。
体系化された理論を持ちながらも、丁寧なコミュニケーションで信頼を積み重ねていく——このバランス感覚は、多くのPMにとって示唆に富むものではないでしょうか。この記事を読んで「気づきがあった」「共感した」「このフレーズをチームで共有したい」と思った方は、ぜひ 「#GrantyPM」 をつけてSNSで感想をシェアしていただけると嬉しいです。あなたの一言が、他のPMにとっての学びや励みにつながります。






